大正蔵検索


punctuation    Hangul    Eng   

Citation style A:
Citation style B:
()
Citation style C:
()
Citation style D:
()
TextNo.
Vol.
Page

  INBUDS
INBUDS(Bibliographic Database)
  Digital Dictionary of Buddhism
電子佛教辭典
パスワードがない場合は「guest」でログインしてください。
Users who do not have a password can log in with the userID "guest".

本文をドラッグして選択するとDDBの見出し語検索結果が表示されます。

Select a portion of the text by dragging your mouse to view all terms in the text contained in the DDB. ・

Password Access Policies

西山復古篇 (No. 2645_ 俊鳳妙瑞記 ) in Vol. 00

[First] [Prev] 580 581 582 583 584 585 586 587 588 [Next] [Last] [行番号:/]   [返り点:/] [CITE]

T2645_.83.0576a10:
T2645_.83.0576a11:   No.2645
T2645_.83.0576a12: 西山復古篇
T2645_.83.0576a13:   天明四年二月望日俊鳳瑞記之
T2645_.83.0576a14:   西山流義學文事
T2645_.83.0576a15: 先哲云ク。西山流義學文セント思ハン人ハ。
T2645_.83.0576a16: 山師ノ眞撰ノ抄物ニ依ルヘシ。眞撰ノ抄
T2645_.83.0576a17: 物トハ御疏ノ自筆抄・他筆抄・定散料簡義・
T2645_.83.0576a18: 五段抄・女院御書并二大師ノ御傳ニ出タル
T2645_.83.0576a19: 白木念佛ノ御法語等也。自筆抄ト云ハ觀門
T2645_.83.0576a20: 義抄ノコト也。觀門義抄ノ外ニ自筆抄アリ
T2645_.83.0576a21: ト云ハ誤也。觀門義抄ハ行門・觀門・弘願門
T2645_.83.0576a22: ノ名目ニテ。大師ヨリ傳授シ給ヘル聞書
T2645_.83.0576a23: 也。他筆抄トハ顯行・示觀・正因・正行ノ名目
T2645_.83.0576a24: ニテ。自筆抄ノ上ヲ切磋琢磨シテ解釋シ
T2645_.83.0576a25: 給ヘル也。其事圓慈和尚ノ希問抄ニモ見
T2645_.83.0576a26: ヘタリ。此抄ハ光明峯寺道家公ノ請ニ應
T2645_.83.0576a27: シテ是ヲ撰述シ給ヒテ。觀鏡房ニ命シテ
T2645_.83.0576a28: コレヲ脱槁セシメ給フカ故ニ。門人コレ
T2645_.83.0576b01: ヲ他筆ノ御抄ト唱シケルト也。此等ノ抄
T2645_.83.0576b02: 物ハ山師ノ眞抄アリト雖。久ク歳霜ヲ經
T2645_.83.0576b03: テ寫誤脱文少カラス。其義分明ナラサル
T2645_.83.0576b04: 所アリ。然ニ疇昔善ク此等ノ抄物ヲ熟覽
T2645_.83.0576b05: シテ。能ク會得シタル人ハ揩定記主・道教
T2645_.83.0576b06: 顯意上人也。是故ニ西山義ノ學文ハ先ハ
T2645_.83.0576b07: 揩定記等ニ依リ。鵜木抄康永抄ヲ對照シテ
T2645_.83.0576b08: 其正義ヲ思擇スヘシ。所謂正義トハ光明
T2645_.83.0576b09: 吉水ノ本意ニ相應スルヲ云也。若光明吉
T2645_.83.0576b10: 水ノ本意ニ違ハハ。タトヒ山師ノ義也ト
T2645_.83.0576b11: 雖トモ是ニ依用シ難シ。何況ヤ中古ノ人師
T2645_.83.0576b12: ニ於ヲヤ。道教上人ノ撰述唯揩定記ノミ
T2645_.83.0576b13: ニ非ス。又一乘海義・難易二道血脈圖・四品
T2645_.83.0576b14: 知識義・三重六義・淨土疑端・拙疑巧答硏覈
T2645_.83.0576b15: 抄・仙洞三心問答・賢問愚答抄・四十八問答・
T2645_.83.0576b16: 五方便門註等アリ。學者須ク知ヘシ
T2645_.83.0576b17:   西山流義安心事
T2645_.83.0576b18: 西山流義ノ安心起行トテ別ノ子細アルヘ
T2645_.83.0576b19: カラス。山師ノ白木念佛御法語ニ示シ給
T2645_.83.0576b20: ヘルカ如ク。中ニ二心ヲソヘス。唯申セ
T2645_.83.0576b21: ハ生ルルト信シテホレホレト南無阿彌陀
T2645_.83.0576b22: 佛ト申ハカリ也。本願念佛ハ都テ自力ノ
T2645_.83.0576b23: 執情ヲ捨テ。定散ノ彩色ヲ著サレハ。コ
T2645_.83.0576b24: レヲ白木ニ譬ヘ給ヘリ。其趣全ク大師ノ
T2645_.83.0576b25: 御遺誓ニ同シ。山師ハ多念ノ行者ニテ。日
T2645_.83.0576b26: 課ノ念佛六萬遍ナリ。其事ハ吉水ノ勅修
T2645_.83.0576b27: 傳ニモ。山師ノ別傳ニモ出テ明ナルコト
T2645_.83.0576b28: ナリ。然ルニ同門ノ中ニ。山師ノ安心ヲ
T2645_.83.0576b29: 一念義ノ樣ニ云ナス人アリ。誠ニ是ハ往
T2645_.83.0576c01: 生極樂ノ怨敵也ト謂ツヘシ。山師ノ鎭勸
T2645_.83.0576c02: 用心ニ睡テ一夜ヲ明スモ。報佛酬因ノ床
T2645_.83.0576c03: ニ明スト云ヒ。又懈リ倦モ快シ。正因圓
T2645_.83.0576c04: 滿ノ故ニトノ給ヒシヲ。一念義ノ安心ノ
T2645_.83.0576c05: ヤウニ意得ルハ大ナル僻カコト也。マツ
T2645_.83.0576c06: 鎭勸用心ハ蓮華壽院ノ不斷念佛ノ結衆ノ
T2645_.83.0576c07: 爲ニ示シ給ヘル御法語ナレハ。勇猛ニ念
T2645_.83.0576c08: 佛スル人ニ就テ安心ヲ示シ給ヘルコトヲ
T2645_.83.0576c09: 知ヘシ。南山ノ行事鈔ニ依ルニ。一夜ヲ
T2645_.83.0576c10: 分別スルニ五時アリ。謂ク戌ヨリ寅ニ至
T2645_.83.0576c11: ル是也。此五時ヲ分テ三分トシ。初分後
T2645_.83.0576c12: 分ニハ念誦思惟シ。中ノ一時ニ即睡ルト
T2645_.83.0576c13: 云ヘリ。サレハ念佛行者ノ平生ノ行儀モ
T2645_.83.0576c14: 是修行スヘキコトナレトモ。不斷念佛
T2645_.83.0576c15: ノ結衆ナレハ。勇猛ナル時ハ勤テ一夜ヲ
T2645_.83.0576c16: 明スコトモアリ。又疲勞スル時ハ睡テ一
T2645_.83.0576c17: 夜ヲ明スコトモアルヘシ。於是他力ノ安
T2645_.83.0576c18: 心ニ疎キ人ハ。勇猛ナルニ就テハ決定往
T2645_.83.0576c19: 生ノ思ヒヲナシ。懈怠ナルニ就テハ往生
T2645_.83.0576c20: 不定ノ思ヒヲナスヘシ。此局情テ遣ンカ
T2645_.83.0576c21: 爲ニ如是示シ給ヘル也。他力ノ安心ト云
T2645_.83.0576c22: ハ。十方衆生善惡ノ凡夫。上根ハ上根ナカ
T2645_.83.0576c23: ラ。下根ハ下根ナカラ。極樂ニ往生セント
T2645_.83.0576c24: 願ヒテ。多クモ小クモ念佛スル者ハ。阿彌
T2645_.83.0576c25: 陀佛ノ若不生者不取正覺ノ因願ニ酬ヒタ
T2645_.83.0576c26: ル。攝取不捨ノ光明ノ裡ニ納メ給ヒテ。決
T2645_.83.0576c27: 定シテ往生ヲ得セシメ給フ也。サレハ勇
T2645_.83.0576c28: 猛ト懈怠トニ目ヲカケス。唯口ニ南無阿
T2645_.83.0576c29: 彌陀佛ト唱ヘテ。其聲ニツキテ決定往生
T2645_.83.0577a01: ノ思ヒヲナスヘシ。是故ニ善導ノ御釋ニ
T2645_.83.0577a02: ハ。人人有分不可疑トノ給ヘリ。然ニ懈怠
T2645_.83.0577a03: ナルニ就テ。是デハ往生モ如何アラント
T2645_.83.0577a04: 訝ルハ。是自力根性ノ迷ヒニテ。用心ノ好
T2645_.83.0577a05: キヤウナル安心未決定ノ人也。山師此自
T2645_.83.0577a06: 力根性ヲ遣ンカ爲ニ睡テ一夜ヲ明スモ。
T2645_.83.0577a07: 報佛酬因ノ床ニ明スト示シ給ヘル也。全
T2645_.83.0577a08: ク放逸懈怠ヲ許シ給フニハアラス。又懈
T2645_.83.0577a09: リ倦ムモ快シト云ハ。是モ又放逸懈怠ヲ
T2645_.83.0577a10: 許シ給ニハアラス。マツ懈倦ト云ハ三萬
T2645_.83.0577a11: 六萬モ勤修スル人ノ上ニテコソ云コトナ
T2645_.83.0577a12: レ。一念義ノ樣ニ日課ノ念佛モ申サヌ人ノ
T2645_.83.0577a13: 上ニハ。懈リ倦ムト云コトハ有ヘカラス。
T2645_.83.0577a14: 隨分ニ念佛ヲ策勵スル人ノ上ニモ。或ハ
T2645_.83.0577a15: 病縁ニヨリ。或ハ障縁有テ。念佛モ勤メ難
T2645_.83.0577a16: ク。懈怠ニナルコトモアルヘシ。サレト
T2645_.83.0577a17: モ此度ノ往生ヲイカカト思フヘカラス。
T2645_.83.0577a18: 唯口ニ南無阿彌陀佛ト唱ヘテ。往生ノ正
T2645_.83.0577a19: 因ハ聲聲ニ圓滿スルソト決定往生ノ思ヒ
T2645_.83.0577a20: ヲナセハ。快ク嬉シク思フヘキコト也。山
T2645_.83.0577a21: 師此他力ノ安心ヲ顯サンカ爲ニ懈リ倦ム
T2645_.83.0577a22: モ快シトノ給ヘル也。山師ノ家風ハ都テ
T2645_.83.0577a23: 自力根性ヲ捨テ他力ノ安心ヲ會得シ。白
T2645_.83.0577a24: 木ノ念佛ニ歸シ。一切ノ之乎者也ヲ放下
T2645_.83.0577a25: シテ。一向ニ念佛スルニ在ノミ。努努一
T2645_.83.0577a26: 念義安心ニ混同スヘカラス
T2645_.83.0577a27:   西山兩脈相承事
T2645_.83.0577a28: 兩脈相承トハ淨土宗ノ法脈ヲ宗脈ト云
T2645_.83.0577a29: ヒ。圓頓戒ノ法脈ヲ戒脈ト云。此宗戒兩
T2645_.83.0577b01: 脈ヲ傳受シテ自行化他スヘキ也。先ツ山
T2645_.83.0577b02: 師ノ宗脈ヲ傳ヘ玉フコトヲ明サハ。山師
T2645_.83.0577b03: 十有四歳ニシテ大師ノ許ニ於テ稺髮出家
T2645_.83.0577b04: シ。二十三年日夜ニ隨事シ。其間ニ淨土
T2645_.83.0577b05: ノ教義指授ヲ蒙ラスト云コトナシ。況ヤ
T2645_.83.0577b06: 復タ建久九年ノ春。大師選擇編集ノ際タ
T2645_.83.0577b07: 山師ニ命シテ勘文ノ役ヲ勉シム。山師即
T2645_.83.0577b08: チ其命ヲ承テ。大師ト倶ニ又義ヲ考定シ
T2645_.83.0577b09: 給ヘリ。書成テ大師山師ヲシテコレヲ月
T2645_.83.0577b10: 輪ノ禪閤ニ呈進セシムルニ。禪閤大師ニ
T2645_.83.0577b11: 問テ云ク。上人滅後若於此書未審
T2645_.83.0577b12: 誰人ト。大師答テ云。如我所存悉付
T2645_.83.0577b13: 善惠。宜善惠。聊無愚意矣ト。此事選
T2645_.83.0577b14: 釋傳ニモ見ヱタリ。是ニ由テ翌年ノ春禪
T2645_.83.0577b15: 閤山師ヲ請シテ選釋集ヲ講セシム。又禪
T2645_.83.0577b16: 閤書状ヲ以テ當時ノ安心ノ邪義ヲ擧テ。
T2645_.83.0577b17: 大師ノ決擇ヲ求メ給フトキ。因ニ大師ニ啓
T2645_.83.0577b18: シテ山師ニ謁センコトヲ請シ給フコトア
T2645_.83.0577b19: リ。大師返狀ニ逐一ニコレヲ答ヘ給ヒテ。
T2645_.83.0577b20: 且ツ弟子善惠ヲシテ今明ノ間タ閣下ニ拜
T2645_.83.0577b21: 侍セシムヘシトノ給ヘリ。此事漢語燈ニ
T2645_.83.0577b22: モ見ヘタリ。然ニ有人西山義ニハ選釋ノ
T2645_.83.0577b23: 相傳ナシト云ハ。卒爾ノ甚タシキ也。大
T2645_.83.0577b24: 師已ニ山師ニ勘文ノ役ヲ命シ。其文義ヲ
T2645_.83.0577b25: 考定セシメ給ヘリ。如何ソコト更ニコレ
T2645_.83.0577b26: ヲ付屬スルコトヲ用ヒ給ハンヤ。聖光隆
T2645_.83.0577b27: 寛ノ如キハ其選述ノ室ニ在ラザレハ。他
T2645_.83.0577b28: 日來至ノ時コト更ニコレヲ付屬シ給フ
T2645_.83.0577b29: 也。又室中ノ宗脈相承ヲ明サハ。大師曾
T2645_.83.0577c01: テ夢定ノ中ニ於テ。善導大師ニ相見シ給
T2645_.83.0577c02: ヒテ。淨土三部經及ヒ御疏等ノ口訣ヲ面
T2645_.83.0577c03: 授相承シ給ヘリ。建久九年正月上旬。此夢
T2645_.83.0577c04: 定相傳ノ口訣ヲ以テ山師ニ面授シ給ヘリ。
T2645_.83.0577c05: 承久元年三月上旬。山師又此ノ口訣ヲ以
T2645_.83.0577c06: テ西谷ノ淨音ニ面授シ給ヘリ。淨音上人
T2645_.83.0577c07: 法孫ノ爲ニコレヲ筆記シテ十通トス。淨
T2645_.83.0577c08: 土眞宗口傳ト號ス。山師宗脈ノ相承是ノ
T2645_.83.0577c09: 如シ。次ニ戒脈ヲ傳ヘ給フコトヲ明セバ。
T2645_.83.0577c10: 建久九年三月。大師ニ隨ヒテ圓頓菩薩大
T2645_.83.0577c11: 戒ヲ受テ比丘トナリ給ヒタルニ。大師山
T2645_.83.0577c12: 師ノ爲ニ三遍迄菩薩戒疏ヲ講シテ。相傳
T2645_.83.0577c13: ノ奧義ヲ口授シ給ヘリ。山師既ニ圓戒ノ
T2645_.83.0577c14: 正統ヲ得給ヒケレハ。後嵯峨帝勅シテ山師
T2645_.83.0577c15: ヲ請シテ圓頓戒ヲ受給ヒ。又月月ニ重受
T2645_.83.0577c16: シ給ヘリ。コノコト山師ノ別傳等ニ分明
T2645_.83.0577c17: 也。又嘉禎元年五月二十七日。光明峯寺殿
T2645_.83.0577c18: 下道家公山師ヲ屈請シテ圓頓戒ヲ受給ヘ
T2645_.83.0577c19: リ。此事定家卿ノ明月記ニ見ヘタリ。山
T2645_.83.0577c20: 師戒脈相承ノ事是ノ如シ。然ルニ有人ノ
T2645_.83.0577c21: 西山ノ受戒ハ天台宗ノ戒脈ニシテ。吉水
T2645_.83.0577c22: 大師ノ正統ニアラスト云ハ。實ニ鹵莽ノ
T2645_.83.0577c23: 甚キナリ
T2645_.83.0577c24:   西山流義祕抄事
T2645_.83.0577c25: 洛西林寺空覺和尚ノ上足惠行和尚曾テ余
T2645_.83.0577c26: ニ語テ云ク。我門ニ三十八卷ノ祕抄アリ。
T2645_.83.0577c27: コレヲ山師己證ノ法門ト名ク。謂ク祕決
T2645_.83.0577c28: 集二十卷・密要決五卷・曼陀羅註記十卷・四
T2645_.83.0577c29: 十八願要釋抄二卷・修業要訣一卷是也。此
T2645_.83.0578a01: ノ三十八卷ノ祕抄ハ上州吾妻善導寺開基
T2645_.83.0578a02: 道覺淨辨上人ノ時ヨリ始テ傳授セラレシ
T2645_.83.0578a03: コト。傳法兩部ノ卷ニモ見エタリ。サレ
T2645_.83.0578a04: トモ其實ハ山師眞撰ノ抄物ニハ非ス。其
T2645_.83.0578a05: 濫觴ヲ尋ルニ。相州鎌倉ノ名越ト云處ニ。
T2645_.83.0578a06: 寛法ト云生賢コキ好事ノ僧アリ。善導ノ
T2645_.83.0578a07: 御疏選擇及ヒ曼陀羅等ニ事相ノ釋ヲ作
T2645_.83.0578a08: リ。自己ノ製作トイヘハ。他人コレヲ用
T2645_.83.0578a09: ヒサレハ。西山上人ノ撰述ト號シテ祕藏
T2645_.83.0578a10: シタル僞書也。若シ人アリテ其傳來ヲ尋
T2645_.83.0578a11: ヌレハ。西山上人ノ御一代ノ間ハコレハ
T2645_.83.0578a12: 祕藏シテ流布シ給ハス。御臨終ノ時西谷
T2645_.83.0578a13: ノ淨音上人ニコレヲ附屬シ給ヘリ。淨音
T2645_.83.0578a14: 上人モ又コレヲ祕藏シテ流布シ給ハス。
T2645_.83.0578a15: 宇治ノ寶藏ニ奉納シ給ヒケルニ。淨音上
T2645_.83.0578a16: 人ノ弟子律音房ト云僧ヒソカニコレヲ盜
T2645_.83.0578a17: ミ取テ。當地ヘ持參シテ。我ニ傳授セリ
T2645_.83.0578a18: ト申シケルト也。然ルニ善導寺道覺淨辨
T2645_.83.0578a19: 上人相州鎌倉ノ鶴岡ノ八幡宮ヘ參詣アリ
T2645_.83.0578a20: シ時。名越ノ寛法ト云僧。山師眞撰ノ曼
T2645_.83.0578a21: 陀羅ノ註記等ニ傳授セル由ヲ聞テ。若干
T2645_.83.0578a22: ノ淨財ヲ贈施シテ。元弘二年ノ春ヨリ三
T2645_.83.0578a23: 箇年ノ間ニ。彼三十八卷ノ祕抄ヲ傳受シ
T2645_.83.0578a24: 書寫セラレ畢ヌ。爾ヨリ以來。究竟・明觀・
T2645_.83.0578a25: 名融・融舜・宏善ト相承シ來テ。西谷派ノ人
T2645_.83.0578a26: バカリ師資相承スルコトニナリヌ。是故
T2645_.83.0578a27: ニ深草派ニハ三十八卷ノ祕抄ノ沙汰ハナ
T2645_.83.0578a28: カリケルニ。西谷派ノ僧三別法藏寺ニ住
T2645_.83.0578a29: 持セラレシヨリ。深草派ニモ曼陀羅ノ註
T2645_.83.0578b01: 記ハカリハ傳受相承シ侍リヌ。今其僞書
T2645_.83.0578b02: タル所以ヲ論セハ。先ツ三十八卷ノ祕抄
T2645_.83.0578b03: ハ山師御在世ノ間ハコレヲ流布シ給ハ
T2645_.83.0578b04: ス。御臨終ノ時西谷ノ淨音上人一人ニ附
T2645_.83.0578b05: 屬シ給フト云ハ。是第一ノ妄談ナルヘシ。
T2645_.83.0578b06: 其所以ハ。山師既ニ面授附法ノ弟子アリ。
T2645_.83.0578b07: 觀鏡・道觀・淨音・立信等是也。然ニ餘人ニハ
T2645_.83.0578b08: コレヲ傳受シ給ハス。唯淨音上人ノミニ
T2645_.83.0578b09: 御臨終ノ時コレヲ附屬シ給フコトハ有
T2645_.83.0578b10: ヘカラサル事也。若又山師己證ノ大事ナ
T2645_.83.0578b11: レハトテ。其法器ヲ撰ヒテ唯淨音上人ノ
T2645_.83.0578b12: ミニ之ヲ附屬シ給フト云ハハ。淨音上人
T2645_.83.0578b13: モ又其法器ヲ撰ミテコレヲ附屬シ給フヘ
T2645_.83.0578b14: キコト也。然ルニ觀智ニモ了音ニモコレ
T2645_.83.0578b15: ヲ傳ヘス。其外ノ弟子ニモコレヲ傳ヘス。
T2645_.83.0578b16: 誰人ノ披見センコトモ憚ラス。宇治ノ寶
T2645_.83.0578b17: 藏ニ奉納シ給フコトハアルヘカラサルコ
T2645_.83.0578b18: ト也。又律音密ニコレヲ盜ミ取テ。鎌倉
T2645_.83.0578b19: ノ名越ニ至テコレヲ寛法ニ傳受スト云ハ
T2645_.83.0578b20: ハ。即チ知ヌ。山師ノ的的相承ノ傳受口
T2645_.83.0578b21: 決トハ云ヘカラス。又曼陀羅ノ的的相承
T2645_.83.0578b22: ノ口決ト云テ。白色八體金色十體ノ大事。
T2645_.83.0578b23: 如觀掌中ノ大事ナント云テ。數多ノ切紙
T2645_.83.0578b24: ニ寶治二年霜月二十五日證空在判ト書タ
T2645_.83.0578b25: ルハ。愈以烏論ナル切紙也。山師ノ御遷
T2645_.83.0578b26: 化ハ寶治元年ナレハ寶治二年ノ相傳ハア
T2645_.83.0578b27: ルヘカラス。如之祕決集等ヲ見ルニ。其
T2645_.83.0578b28: 文章ト云ヒ。釋義ト云ヒ。全ク山師ノ眞
T2645_.83.0578b29: 撰ノ書ニ違ヘリ。タタ山師ノ本傳ニ載セ
T2645_.83.0578c01: サルノミニ非ス。西谷ノ愚要抄・了音ノ六
T2645_.83.0578c02: 角抄・行觀ノ鵜木抄・立信ノ深草抄・道教ノ
T2645_.83.0578c03: 揩定記等ニモ都テ事相ノ釋義アルコトナ
T2645_.83.0578c04: シ。決シテ知ヌ。此祕抄ハコレ寛法カ僞造
T2645_.83.0578c05: ニシテ。西山眞撰ノ書ニ非ス。是故ニ南楚
T2645_.83.0578c06: 積峯純固貞準等ノ諸大徳モコレニ依用セ
T2645_.83.0578c07: ラルルコトナシ。然レトモ傳法兩部ノ卷
T2645_.83.0578c08: ニハ。古來ノママニ三十八卷ノ祕抄ヲ傳
T2645_.83.0578c09: 授スル趣ヲ書載セラレタルハ。實是ヤム
T2645_.83.0578c10: コトヲ得サレハ也。然ニ曼陀羅ノ註記ハ
T2645_.83.0578c11: カリハ。是山師ノ眞撰ノ註記ニ本ツキテ
T2645_.83.0578c12: 書タルモノナレハ。必スシモコレヲ僞書
T2645_.83.0578c13: ト定ムヘカラス。繪相ノ註ハ大方ハ眞撰
T2645_.83.0578c14: ノ註記ニ同ク。其釋義モ處處眞撰ノ註記
T2645_.83.0578c15: ニ同スル所アリ。寫誤少カラス。脱文甚
T2645_.83.0578c16: 多ク。菽麥相交リ。玉石辨ジカタシ。故ヲ
T2645_.83.0578c17: 以テ古來ノ講者或ハ一字二字ヲ削リ。或
T2645_.83.0578c18: ハ一行二行ヲ刪リ。甚クハ一紙二紙ヲ除
T2645_.83.0578c19: ケリ。所謂ル山師眞撰ノ註記トハ。是世
T2645_.83.0578c20: 流布ノ本ニアラス。是空上人ノ祕藏スル
T2645_.83.0578c21: 所也。元和ノ初公方ヨリ賜フ所ノ御條目
T2645_.83.0578c22: ニ載タル曼陀羅註記ト云ハ。此本ノ事也
T2645_.83.0578c23: ト申傳ヘ待ル。余若カリシ時親クコレヲ
T2645_.83.0578c24: 見ルニ。曼陀羅ノ中央ヲ法事讃ノ供養三
T2645_.83.0578c25: 尊會・百寶池渠會・寶樓宮殿會・寶樹寶林會・
T2645_.83.0578c26: 虚空莊嚴會・大衆無生法食會ニ合シテ。或
T2645_.83.0578c27: ハ三經并ニ御疏ニ依リ。或ハ密教及餘經
T2645_.83.0578c28: ニ依リ。甚深ノ奧義ヲ釋出シ給ヘリ。然
T2645_.83.0578c29: ルニ序分ノ中ノ鼎ノ中ノ蓮花ヲ三莖ト註
T2645_.83.0579a01: シ。散善義ノ下品中生ノ女人ヲ妻妾ト註
T2645_.83.0579a02: シ。中央ノ本尊ニ肉髮ヲ缺ト云説ナシ。其
T2645_.83.0579a03: 釋義ノ趣大方ハ深草抄ニ同シ。是ニ知ヌ。
T2645_.83.0579a04: 道意上人此眞撰ノ註記ニ依テ。曼陀羅ノ
T2645_.83.0579a05: 講談セラレシヲ。堯惠上人コレヲ聞書シ。
T2645_.83.0579a06: 後人コレヲ深草抄ト名ツケタルナルヘ
T2645_.83.0579a07: シ。然ニ深草流ノ僧徒堯惠上人ノ聞書ヲ
T2645_.83.0579a08: 知リナカラ。流布ノ註記ニ尊重セラルル
T2645_.83.0579a09: コトハ未タ其意ヲ得ス。上來ノ傳説ハ世
T2645_.83.0579a10: 間ニ憚リアルコトアレハ。容易ニコレヲ
T2645_.83.0579a11: 披露スヘカラス。汝チ當ニ憶持シテ。正
T2645_.83.0579a12: 見ノ人ノ爲ニコレヲ傳説スヘシト云云
T2645_.83.0579a13: 今年古稀ニ遇テ。命旦暮ニ逼レリ。因テ
T2645_.83.0579a14: 是ヲ筆記シテ以テ後昆ニ貽スノミ。願ハ
T2645_.83.0579a15: 可畏ノ君子正見ノ覺者應ニ是非ヲ決釋ス
T2645_.83.0579a16: ヘシ
T2645_.83.0579a17:   西山流義十通事
T2645_.83.0579a18: 西山流義室中ニ所傳ノ十通ノ口傳ハ。源
T2645_.83.0579a19: ト吉水大師ヨリ出タリ。承安五年三月五
T2645_.83.0579a20: 日。吉水大師夢定ノ中ニ於テ乎。金色ノ
T2645_.83.0579a21: 善導大師ヲ拜瞻シ給ヒテ。淨土三部經及
T2645_.83.0579a22: ヒ御疏等ノ口訣總相別相ノ十念ノ口訣ヲ
T2645_.83.0579a23: 面授相承シ給ヒテ。建久九年ノ正月上旬。
T2645_.83.0579a24: 此夢定相傳ノ口訣ヲ以テ。山師ニ面授シ
T2645_.83.0579a25: 給ヘリ。承久三年三月上旬。山師又此口訣
T2645_.83.0579a26: ヲ以テ。西谷淨音上人ニ面授シ給ヘリ。淨
T2645_.83.0579a27: 音上人六十八歳ノ時。法孫ノ爲ニトテコ
T2645_.83.0579a28: レヲ筆記シテ十通トシ。淨土眞宗口傳ト名
T2645_.83.0579a29: ク。所謂ル十通トハ。一ニ安心決定ノ口傳。
T2645_.83.0579b01: 二ニ起行正助口傳。三ニ作業行用口傳。四
T2645_.83.0579b02: ニ三種行義口傳。五ニ弘願十念口傳。六要
T2645_.83.0579b03: 門十念口傳。七ニ願行具足口傳。八ニ四十
T2645_.83.0579b04: 八字口傳。九論註十念口傳。十ニ疑心往
T2645_.83.0579b05: 生口傳也。亨徳三年六月。洛常樂寺開
T2645_.83.0579b06: 山顯海相嚴上人男山八幡宮ニ於テ。淨音
T2645_.83.0579b07: 上人自筆ノ御本ヲ感得シテ。コレヲ書寫
T2645_.83.0579b08: シテ法孫ニ貽シ給ヘリ。熟コレヲ拜見ス
T2645_.83.0579b09: ルニ。實是往生極樂ノ目足也。然ニ其十
T2645_.83.0579b10: 通ノ義趣ハ常ノ所談ニ異ナラス。唯心起
T2645_.83.0579b11: 行ノ要義ヲ述タル物ナレハ。慶長元和ノ
T2645_.83.0579b12: 比ニヤ。好事ノ學者此十通ヲ淺略ノ事ニ
T2645_.83.0579b13: 思ヒナシテ。コレヲ尊重セス。其口傳ハ
T2645_.83.0579b14: 十通ニ足サレトモ。十通ノ名目ヲ改メス。
T2645_.83.0579b15: 弘願教ノ十念・要門教ノ十念等ニ甚深ノ口
T2645_.83.0579b16: 傳ヲ設テ。コレヲ傳受シ侍ル。然ルニ此
T2645_.83.0579b17: ノ口傳ノ趣能化ノ人サヘ領解シ難キコト
T2645_.83.0579b18: ナレハ。所化ノ者ハ猶更領解スルコト能
T2645_.83.0579b19: ハサレトモ。既ニ師資相承ノ口傳トナリ
T2645_.83.0579b20: テ。正見ナル能化達モ。コレヲ改易スル
T2645_.83.0579b21: ニ由ナシ。如何トモシ難キコトニナリヌ。
T2645_.83.0579b22: 若シ淨音上人ノ記スル所ノ根本ノ十通ノ
T2645_.83.0579b23: 口傳。及ヒ相嚴上人ノ雜要ノ十通等ノ口
T2645_.83.0579b24: 傳ヲ見給ハハ。從來ノ疑惑ヲ除キテ。眞
T2645_.83.0579b25: 正ノ口傳ヲ知リ。歡喜踊躍シテコレヲ珍
T2645_.83.0579b26: 敬シ給ハン事必セリ。庶幾クハ我法孫ノ
T2645_.83.0579b27: 人。此眞正ノ口傳ヲ尊重シテ。安心僻越
T2645_.83.0579b28: スルコトナリ。念佛愈勇猛ニシテ。順次
T2645_.83.0579b29: ニ極樂往生ノ素懷ヲ遂ラレヨカシ。
T2645_.83.0579c01:   西山四宗兼學事
T2645_.83.0579c02: 或人問テ云ク。西山上人ハ恐ハ是雜修雜
T2645_.83.0579c03: 行人也。專修正行ノ念佛ノ行者ニハ非ス。
T2645_.83.0579c04: 其故ハ願蓮上人ニ隨テ天台ノ止觀ヲ學
T2645_.83.0579c05: シ。政春阿闍梨ニ從テ兩流ノ眞言ヲ學
T2645_.83.0579c06: シ。又慈鎭和尚ノ中陰ノ佛事ニ。毎日ノ
T2645_.83.0579c07: 法華ノ講釋七七ノ諸尊ノ讃歎ヲ勤メ。又
T2645_.83.0579c08: 往生院ニ於テ供養ヲ定メテ。佛眼釋迦彌
T2645_.83.0579c09: 陀ノ長日ノ供養法ヲ修セシメ。又毎月十
T2645_.83.0579c10: 日都會ノ檀場ヲ立テ。祕密ノ行法ヲ修シ。
T2645_.83.0579c11: 又廣ク梵刹ヲ營ミ。大ニ塔婆ヲ建テ。又
T2645_.83.0579c12: 五部ノ大乘經・天台三部・淨名流涅槃疏・菩薩
T2645_.83.0579c13: 戒義記・顯戒論・顯揚大義論等ヲ印板シ。
T2645_.83.0579c14: 又法華三昧ヲ修セラレシコト。別傳并ニ年
T2645_.83.0579c15: 譜等ニ出タリ。サレハ西山上人ハ實ニ是
T2645_.83.0579c16: 雜修雜行ノ人ニシテ。專修正行ノ人ニ非
T2645_.83.0579c17: ス。如何ソ吉水大師瀉瓶ノ弟子ト名ケン
T2645_.83.0579c18: ヤ。答テ云ク。山師自行化他ノ是非ヲ沙
T2645_.83.0579c19: 汰セント思ハハ。先ツ須ク山師ノ自行ノ
T2645_.83.0579c20: 嚴密ナルコトヲ知ヘシ。而シテ後ニ學解
T2645_.83.0579c21: 門ト學行門トノ差別ヲ知テ。次ニ菩薩ノ
T2645_.83.0579c22: 化益ニ。時ト方便トヲ觀スル事ヲ知ヘシ。
T2645_.83.0579c23: 先ツ其自行ノ嚴密ナルコトヲ明サハ。山
T2645_.83.0579c24: 師曾テ西山ノ往生院ニ於テ淨土宗ヲ啓建
T2645_.83.0579c25: シ給フニ。三箇ノ行事ヲ立給ヘリ。一ニ
T2645_.83.0579c26: ハ不斷念佛。二ニハ六時禮讃。三ニハ問
T2645_.83.0579c27: 答論議也。日課ノ淨業ハ毎日淨土ノ三部
T2645_.83.0579c28: 經・六萬遍ノ念佛也。又阿彌陀經十萬卷ノ
T2645_.83.0579c29: 讀誦ノ願ヲ立テテ。十萬九千七百餘卷ヲ
T2645_.83.0580a01: 讀誦シ。又佛門ノ通軌ナレハトテ。梵網經
T2645_.83.0580a02: ヲモ讀誦シ給ヘリ。如是既ニ往生ノ正因
T2645_.83.0580a03: ヲ專修正行ニ決定シ給ヘル上ニハ。縁ニ
T2645_.83.0580a04: 隨テ暫ク餘善ヲ修シ給フトモ。雜修雜行
T2645_.83.0580a05: ノ人トハ云ベカラズ。然ルニ雜ヲ捨テ正
T2645_.83.0580a06: ニ歸セヨト勸ムルコトハ。唯往生ノ記行
T2645_.83.0580a07: 門ニ約シテ其安心ヲ論スルノミ。若念佛
T2645_.83.0580a08: ノ一行往生ノ因トスルニ足ラズト謂テ。
T2645_.83.0580a09: コト更ニ餘行ヲ加フル者ハ。復念佛スト
T2645_.83.0580a10: 雖トモ雜行ノ人ト名ク。若安心ヲ佛願ニ決
T2645_.83.0580a11: シテ去行ヲ持名ニ定ムル人ハ。縱ヒ縁ニ
T2645_.83.0580a12: 隨テ暫ク雜善ヲ修ストモ。隨テ修スレト
T2645_.83.0580a13: モ。隨テ回シ。生因ノ本期タタ念佛ニ在
T2645_.83.0580a14: テ。雜善ニアラス。故ニ名テ雜行ノ人ト
T2645_.83.0580a15: 爲ルコトヲ得ス。應ニ知ヘシ。能修ノ人
T2645_.83.0580a16: ヲシテ正雜ノ名ヲ被ラシムルコトハ。モ
T2645_.83.0580a17: ト安心ノ因等起ニ分レテ。而モ刹那ノ行
T2645_.83.0580a18: 法ニ于ルニ非ス。所謂ル但除其病不除其
T2645_.83.0580a19: 法ナル者也。次ニ學解門ト學行門トノ差
T2645_.83.0580a20: 別ヲ明サハ。善導大師ノ云ク。若
T2645_.83.0580a21: 則從凡至聖乃至佛果一切無礙皆得
T2645_.83.0580a22: 也。若欲行者必籍有縁之法。少用
T2645_.83.0580a23: 多得益也。是ニ知ヌ。學解門ノ日ハ廣
T2645_.83.0580a24: ク諸宗ヲ學スルコトヲ詳シ。學行門ノ日
T2645_.83.0580a25: ハ必ス有縁ノ法ニ籍ベキ也。山師ノ願蓮
T2645_.83.0580a26: 上人ニ從テ天台止觀ヲ學シ。政春闍梨ニ
T2645_.83.0580a27: 隨テ兩流ノ眞言ヲ學シ給フガ如キハ。皆
T2645_.83.0580a28: 是學解門ノ事也。又法華三昧ヲ修シ給フ
T2645_.83.0580a29: ト云ハ。山師學解ノ爲ニ法華披覽ノ時。夢
T2645_.83.0580b01: 中ニ普賢ノ摩頂ヲ蒙リ給ヒシヲ。年譜ニ
T2645_.83.0580b02: 法華三昧ヲ修シ給フト書タル也。例セハ
T2645_.83.0580b03: 大師ノ華嚴披讀ノ時。龍神ノ守護セシカ
T2645_.83.0580b04: 如シ。又山師ノ日課ノ淨業ニ毎日淨土ノ
T2645_.83.0580b05: 三部經ヲ讀誦シ。六萬遍ノ念佛ヲ修行シ。
T2645_.83.0580b06: 十萬九千七百餘卷ノ阿彌陀經ヲ讀誦シ給
T2645_.83.0580b07: フ如キハ。即是學行門ノ邊也。サレハ天
T2645_.83.0580b08: 台眞言ヲ學シ給ヘハトテ。雜修雜行ノ人
T2645_.83.0580b09: トハ云ヘカラス。次ニ菩薩ノ化益ニ時ト
T2645_.83.0580b10: 方便トヲ觀スルコトヲ明サハ。其事原ト
T2645_.83.0580b11: 座禪三昧經ニ出タリ。按スルニ吉水大師
T2645_.83.0580b12: 御在世ノ時ヨリ御滅後ニ至マテ。念佛ノ
T2645_.83.0580b13: 弘通ニ數數他宗ノ障難アルコトハ。偏ニ
T2645_.83.0580b14: 專修ノ人ノ邪見ヲ起スニ由テ也。所謂ル
T2645_.83.0580b15: 專修ノ人ノ邪見トハ。或ハ念佛門ニ於テ
T2645_.83.0580b16: 戒行アルコトナシト謂テ。偶持戒ノ人ヲ
T2645_.83.0580b17: 見テハ雜行ノ人ト名ケ。或ハ眞言止觀ヲ
T2645_.83.0580b18: 破斥シ。或ハ餘佛菩薩ヲ誹謗スルガ如キ
T2645_.83.0580b19: 是也。他宗ノ人ノ障難トハ。大師ノ御在
T2645_.83.0580b20: 世ヨリ滅後ノ安貞年中ニ至マテ。南都北
T2645_.83.0580b21: 嶺ノ僧徒。數數念佛ノ興行ヲ障礙セラレ
T2645_.83.0580b22: シカ如キ是也。山師此時ニ當テ京都ニ在
T2645_.83.0580b23: テ淨土宗ヲ立。念佛ヲ弘通シ給ハンコト
T2645_.83.0580b24: ハ。誠ニ大人作略ナクンハアルヘカラス。
T2645_.83.0580b25: 是故ニ能時ト方便トヲ觀シ給フニ。先ツ
T2645_.83.0580b26: 隨他ノ前ニ暫ク定散ノ門ヲ開テ。專修者
T2645_.83.0580b27: ノ邪見ヲ匡救シ。他宗ノ人ノ障難ヲ遠離
T2645_.83.0580b28: シ。而シテ後ニ隨自意ノ門ニ歸入セシメ
T2645_.83.0580b29: ンニハシカシト思召ケルニ。幸ニ慈鎭和尚
T2645_.83.0580c01: ノ附屬ヲ受テ。天台眞言ノ三鈷寺ニ住シ。
T2645_.83.0580c02: 大乘律宗ト淨土眞宗トヲ加ヘテ。四宗兼
T2645_.83.0580c03: 學ノ寺ト號シ。盛ニ圓頓戒ヲ弘傳シ。專
T2645_.83.0580c04: 修者ノ無戒ノ弊風ヲ匡救シ。又供僧ヲ定
T2645_.83.0580c05: テ佛眼釋迦彌陀ノ供養法ヲ修セシメ。又
T2645_.83.0580c06: 毎月十日都會ノ壇場ヲ立テ。祕密行法ヲ
T2645_.83.0580c07: 修セシメ。廣ク梵刹ヲ營ミ。多ク塔婆ヲ
T2645_.83.0580c08: 立。五部大乘經天台三大部等ヲ印板シ流
T2645_.83.0580c09: 行シ給ヘルコトハ。彼邪見ノ人ニ眞言止
T2645_.83.0580c10: 觀ヲ破斥スヘカラサルコトヲ示シ。餘佛
T2645_.83.0580c11: 菩薩ヲ誹謗スヘカラサルコトヲ教ヘ給ヘ
T2645_.83.0580c12: ル也。慈鎭和尚ノ中陰ニ。日日法花ノ講談
T2645_.83.0580c13: 七七ノ諸尊讃歎ヲ勤メ給ヘルコトモ前ニ
T2645_.83.0580c14: 例シテ知ヘシ。是故ニ南都北嶺ニモ西山
T2645_.83.0580c15: ノ念佛弘通ハカリワ。他宗ノ障礙ニナラ
T2645_.83.0580c16: サルヤウニ沙汰シ侍テ。何ノ障礙モアラ
T2645_.83.0580c17: サリケル。サレトモ問ニ明スカ如ク。山
T2645_.83.0580c18: 師自行日課ハ一日モ懈ルコト無ク。毎日
T2645_.83.0580c19: 淨土三部經六萬遍ノ念佛。漸漸讀誦ノ十
T2645_.83.0580c20: 萬卷ノ阿彌陀經。又佛法通儀ヲ闕ジトテ。
T2645_.83.0580c21: 梵網經ヲモ讀誦シ給ヘハ。其外ニ何ノ餘
T2645_.83.0580c22: 暇アリテ。何ノ餘法ヲカ修シ給ハンヤ。但
T2645_.83.0580c23: シ山師始ノ比ハ眞言ノ供養法ヲ修シ給フ
T2645_.83.0580c24: ト云ハ。彌陀供養法ノ事也。彌陀ノ供養法
T2645_.83.0580c25: ハ讀誦正行ニ攝在スルカ故也。吉水淨土
T2645_.83.0580c26: 初學抄ノ眞言宗ノ下ニ云ク。若準善導意
T2645_.83.0580c27: 唯彌陀供養法可讀誦正行也。是故ニ
T2645_.83.0580c28: 彌陀供養法ハカリハ暫時自ラコレヲ修シ
T2645_.83.0580c29: 給ヘトモ。後ニハ其供養法ヲモ閣キテ。專
T2645_.83.0581a01: 修正行ニナリ給ヘル也。是故ニ別傳ニモ
T2645_.83.0581a02: 眞言供養法ハ暫ハ相讀シ給ヒケレトモ。
T2645_.83.0581a03: 老後ニハ閣レケルト書レタリ。サテ山師
T2645_.83.0581a04: 而授附法ノ門人ニ。西谷ノ淨音東山觀教・
T2645_.83.0581a05: 嵯峨ノ道觀・深草立信等アレトモ。唯圓戒
T2645_.83.0581a06: ト淨土宗トヲ相傳シテ。天台眞言ヲ傳授
T2645_.83.0581a07: シ給ハス。是ニ知ヌ。山師ノ本意一向專念
T2645_.83.0581a08: ニ在テ四宗兼學ニアラサルコトヲ。然ニ
T2645_.83.0581a09: 針ノ袋ヲ脱スルカ如ク。山師ノ專修弘通
T2645_.83.0581a10: ノ意樂世間ニ陰レナキニヤ。安貞元年
T2645_.83.0581a11: 并鑒者定照カ惡計ニテ。山師ヲ奧州ヘ配
T2645_.83.0581a12: 流スヘキ勅命ヲ得給ヒケルニ。慈鎭和尚ノ
T2645_.83.0581a13: 御弟子無動寺ノ大僧正。山師ノ御舍弟東塔
T2645_.83.0581a14: 西谷寺ノ住持ノ持教房ノ僧都ヨリ。專修邪
T2645_.83.0581a15: 見ノ人ニハアラザル由。山門ニ披露セラ
T2645_.83.0581a16: レケレハ。思モヨラス配流ノ難ヲ免レ給
T2645_.83.0581a17: ヒヌ。其後何ノ障礙モナク念佛ヲ弘通シ
T2645_.83.0581a18: 給ヒケルニ。嘉禎元年ノ夏五月二十七日。
T2645_.83.0581a19: 光明峯寺殿下道家公ノ請ニ應シテ圓頓戒
T2645_.83.0581a20: ヲ授ケ給ヒヌ。仁治三年後嵯峨帝ノ勅請
T2645_.83.0581a21: ニ應シテ。月月ニ圓頓戒ヲ授ケ給ヘリ。爾
T2645_.83.0581a22: 來念佛ノ弘通更ニ忌憚ヌル所ナク。山師
T2645_.83.0581a23: ノ法孫ニ至マテ。禁中ニ於テ淨教ヲ講談
T2645_.83.0581a24: シ。問答論義セラレシコトアリ。證圓菩
T2645_.83.0581a25: 薩ノ十勝論ニモ見ヘタリ。應ニ知ヘシ。山
T2645_.83.0581a26: 師ノ隨他ノ前ニ暫ク定散ノ門ヲ開キ給フ
T2645_.83.0581a27: コトハ。唯是時ト方便トヲ觀察シ。專修
T2645_.83.0581a28: 者ノ邪見ヲ救ヒ。他宗ノ人ノ障難ヲ除キ。
T2645_.83.0581a29: 公然トシテ專修念佛ヲ弘通スヘキ御作略
T2645_.83.0581b01: ナリ。然ニ山師ヲ誹謗シテ雜修雜行ノ人
T2645_.83.0581b02: ト云ハ。是レ菩薩ノ化益ニ時ト方便トヲ
T2645_.83.0581b03: 觀察シ給フコトヲ知サレハナリ
T2645_.83.0581b04:   西山流刑免許事
T2645_.83.0581b05: 或人山師ヲ謗シテ云ク。善惠房ハ是負恩
T2645_.83.0581b06: 違義ノ人也。其故ハ大師ノ十卷傳ニ依ル
T2645_.83.0581b07: ニ。吉水大師流刑ニナリ給ヒシトキ。善
T2645_.83.0581b08: 惠房モ同ク奧州ヘ流刑ノ勅命アリケル
T2645_.83.0581b09: ニ。叡山ノ無動寺ノ大僧正東塔西谷寺ノ
T2645_.83.0581b10: 持教房ノ僧都ヲ以テ。善惠房ハ專修ニ非
T2645_.83.0581b11: サル由ヲ山門ニ披露シテ。流刑之免許ヲ
T2645_.83.0581b12: 得ラレタルト也。吉水大師既ニ流刑ニ臨
T2645_.83.0581b13: ミ給ヒシトキ。一人ノ弟子ニ對シテ一向
T2645_.83.0581b14: 專念ノ義ヲ述シ給フコトアリケルニ。西
T2645_.83.0581b15: 阿彌陀佛コレヲ留諫シテ奉リケルニ。我縱
T2645_.83.0581b16: ヒ死刑ニ行ハルルトモ。此ノ事言スニハ
T2645_.83.0581b17: アルヘカラストノ給ヘリ。然ルニ師範ノ
T2645_.83.0581b18: 一向專修ノ爲ニ流刑ニナリ給ヘルコトヲ
T2645_.83.0581b19: 思ハス。其身ノ流刑ヲ免ンカ爲ニ。我ハ
T2645_.83.0581b20: 專修ノ行者ニ非スト云ハレシハ。實是負
T2645_.83.0581b21: 恩違義ノ人ニ非スヤト難ズ。余答テ云ク。
T2645_.83.0581b22: 山師ノ流刑ノ沙汰ハ吉水ノ滅後十六年。
T2645_.83.0581b23: 安貞元亥年ノ事也。十卷傳ニモ山師ノ流
T2645_.83.0581b24: 刑ヲ吉水同時ノコトトモイハス。然ニ吉
T2645_.83.0581b25: 水流刑ノ時ト云ハルルハ先ツ無稽ノ談也。
T2645_.83.0581b26: 又山師流刑ヲ免ンカ爲ニ專修ニアラサル
T2645_.83.0581b27: 由ヲ。山門ニ披露シ給フト云ハルルモ僻
T2645_.83.0581b28: カ事也。無動寺ノ大僧正ハ慈鎭和尚ノ御
T2645_.83.0581b29: 弟子也。持教房ノ僧都ハ山師ノ御舍弟ナ
T2645_.83.0581c01: レハ。本ヨリ山師邪見ノ專修者ニアラサ
T2645_.83.0581c02: ルコトヲ知テ。僧正ト僧都トノ御方ヨリ
T2645_.83.0581c03: 山門ニ披露シテ。其厄難ヲ救護セラレシ
T2645_.83.0581c04: 也。山師ノ方ヨリ少シモ分疎シ給フコト
T2645_.83.0581c05: ハナキ也。又僧正僧都ノ山門ニ披露セラ
T2645_.83.0581c06: レシ語ニ。專修ニアラサル由ト云ハレシ
T2645_.83.0581c07: ハ。其比ハ專修ノ念佛者ヲ邪見者ノヤウ
T2645_.83.0581c08: ニ云タテラレハ。邪見者ノコトヲ專修ト
T2645_.83.0581c09: 名ケタル故也。サテ山師不慮ニ流刑ノ厄
T2645_.83.0581c10: 難ヲ免レ給ヘトモ。猶思惟シ給フニハ。我
T2645_.83.0581c11: ハ實ニ專修念佛ノ行者也。幸ニ流刑ノ難
T2645_.83.0581c12: ヲ免ルト難トモ。而モ官所ヲアサムクコ
T2645_.83.0581c13: ト道理ナキニニタリ。應ニ流刑ノ罪ヲ償
T2645_.83.0581c14: フヘシトテ。安貞二年宇津宮入道實信房
T2645_.83.0581c15: 蓮生ト共ニ奧州ヘ下向シ給ヒシニ。信州
T2645_.83.0581c16: ノ善光寺ニ至マテ十一筒ノ大伽藍ヲ建立
T2645_.83.0581c17: シテ。或ハ曼陀羅ヲ置キ。或ハ不斷念佛
T2645_.83.0581c18: ヲ始メ。終ニ奧州ニ至リテ又一寺ヲ建立
T2645_.83.0581c19: シテ念佛ヲ弘傳シ給ヘリ。其跡今ニ在ト
T2645_.83.0581c20: ナン。此奧州下向ノトキ。途中ニテ山師
T2645_.83.0581c21: 實信房ニ傳聞。白川ノ關ハイツクソト問
T2645_.83.0581c22: ヒ給ヒケレハ。過ニシ方ニテ候ト申サレ
T2645_.83.0581c23: ケレハ。山師スナハチ觀經ノ光臺現國ノ
T2645_.83.0581c24: 法門ニ寄テ
T2645_.83.0581c25:   光臺ニ見シハ見シカハミサリシヲ聞テ
T2645_.83.0581c26: ソミツル白川ノ關 ト詠シ給ヘルコト
T2645_.83.0581c27: 新千載集ニ出タリ
T2645_.83.0581c28: 然ルニ山師ヲ誹謗シテ。負恩違義ノ人ト
T2645_.83.0581c29: 云ヘルハ。只是僻謗スル也。此人必ス拔舌
T2645_.83.0582a01: ノ罪報ヲ受ヘシ。悲哉
T2645_.83.0582a02:   淨土現世祈祷事
T2645_.83.0582a03: 或人問テ云ク。東山ノ禪林寺ハ淨土宗西
T2645_.83.0582a04: 山一流ノ總本寺也。然ルニ毎年正五九月
T2645_.83.0582a05: ニ大般若ヲ轉讀シテ現世ノ祈祷ヲ修セラ
T2645_.83.0582a06: ルル事ハ。未タ其意ヲ得難シ。所以何ト
T2645_.83.0582a07: ナレハ。念佛ノ行者ハ三心具足シテ現世
T2645_.83.0582a08: ノ事ヲ祈ラス。唯往生極樂ノ爲ニ一向ニ
T2645_.83.0582a09: 念佛スルコソ眞ノ淨土宗ナレ。善導ノ御
T2645_.83.0582a10: 意ニ依ルニ。回向發願心トハ。過去現在
T2645_.83.0582a11: 世出世間ノ一切ノ善根ヲ皆悉ク往生極樂
T2645_.83.0582a12: ノ爲ニ回向スルヲ謂フ也。然ルニ三心具
T2645_.83.0582a13: 足ノ上ニコト更ニ餘行ヲ修シテ現世ノ事
T2645_.83.0582a14: ニ回向セハ。恐クハ回向發願心ノ趣ニ背
T2645_.83.0582a15: クヘカラン歟。答テ云ク。我宗ニ隨自意
T2645_.83.0582a16: 門アリ。隨他意門アリ。隨自意門ヲ又ハ
T2645_.83.0582a17: 自行門トモ安心門トモ名ク。隨他意門ヲ
T2645_.83.0582a18: 又ハ化他門トモ建立門トモ名ク。若隨自
T2645_.83.0582a19: 意門ニ依ラハ。穢土厭離シ。淨土ヲ欣求
T2645_.83.0582a20: シ。唯往生極樂ノ爲ニ一向ニ念佛スヘシ。
T2645_.83.0582a21: 若隨他意門ニ依ラハ。國家ヲ鎭護シ。寶
T2645_.83.0582a22: 祚ヲ呪祝シテ。天下太平ノ爲ニ現世ノ事
T2645_.83.0582a23: ヲ祈ルコトアリ。而シテ其隨他意門ニ就
T2645_.83.0582a24: テ現世ノ事ヲ祈ルニ二途アル也。一ニハ
T2645_.83.0582a25: 唯念佛ニ依テ阿彌陀ヲ祈ル也。二ニハ通
T2645_.83.0582a26: シテ餘法ニ依テ餘佛菩薩ニ祈ルナリ。先ツ
T2645_.83.0582a27: 念佛ニ依テ阿彌陀佛ニ祈ルトハ。善導法
T2645_.83.0582a28: 事賛ニ念佛誦經ノ功徳ヲ修シテ呪願シ給
T2645_.83.0582a29: フニモ。天神影衞萬善扶持。福命休強離
T2645_.83.0582b01: 諸憂惱。觀音聖衆駱驛往來。念念無遺遙
T2645_.83.0582b02: 加普備。春秋冬夏四大常安。大唐皇帝福
T2645_.83.0582b03: 基永固。聖化無窮等トノ給ヘリ。又念佛鏡
T2645_.83.0582b04: ニ云ク。善導闍梨大行和上ノ在日。數箇
T2645_.83.0582b05: ノ疾病ノ人有テ念佛シテ總シテ差タリ。
T2645_.83.0582b06: 自餘諸病念佛シテ差タル者。無量無邊ニシ
T2645_.83.0582b07: テ具ニ説ヘカラスト。又唐ノ僧傳ニ惠仙
T2645_.83.0582b08: 法師念佛ノ一法ニテ他ノ病ヲ差サレシコ
T2645_.83.0582b09: トアリ。又龍舒ノ淨土文ニ。廣ク念佛ニ
T2645_.83.0582b10: 現世ノ感應アルコトヲ明セリ。又雲棲ノ
T2645_.83.0582b11: 竹窓隨筆ニ壽命ヲ祈リ。罪愆ヲ解キ。厄
T2645_.83.0582b12: 難等ヲ濟フニ。餘經呪ヲ用ユル事ヲ呵責
T2645_.83.0582b13: シ給ヘリ。又吉水ノ九條殿下ノ北政所ヘ
T2645_.83.0582b14: 進セラルル御返事ニ云ク。君達ナントノ
T2645_.83.0582b15: 御祈ノ料ナントニモ。念佛カ目出度事ニ
T2645_.83.0582b16: テ候ヘハ。往生要集ニ諸行ノ中ニモ念佛
T2645_.83.0582b17: 勝レタルヨシ見ヘテ候。又傳教大師ノ七
T2645_.83.0582b18: 難消滅ノ法ニモ念佛ヲ勤メヨト見ヘテ
T2645_.83.0582b19: 候。凡ソ十方ノ諸佛三界ノ天衆ノ擁護シ給
T2645_.83.0582b20: フ行ニテ候ヘハ。現世後生ノ御ツトメ何
T2645_.83.0582b21: 事カ是ニ過キ候ハン。今ハ只一向專修ノ
T2645_.83.0582b22: 但念佛ニ成ラセ給フヘク候ト。同ク鎌倉
T2645_.83.0582b23: ノ二位ノ禪尼ヘ進セラルル御返事云ク。
T2645_.83.0582b24: 末法萬年ノ後三寶皆ウセテ。後ノ衆生迄
T2645_.83.0582b25: 只念佛ハカリコソ。現當ノ祈祷トハ成リ
T2645_.83.0582b26: 候ハメト。同有人ノ許ヘ遣ハサルル御消
T2645_.83.0582b27: 息ニ云ク。何樣ニモ候ヘ。末代ノ衆生ハ
T2645_.83.0582b28: 今生ノ祈リニモ成リマシテ。後生ノ往生
T2645_.83.0582b29: ハ念佛ノ外ニハ叶フマシク候ト。又隆堯
T2645_.83.0582c01: ノ念佛寄持集ニモ。一向專修ノ人ハ設ヒ
T2645_.83.0582c02: 現世ノ事ヲ祈ルトモ。唯念佛ヲ用ユヘシ
T2645_.83.0582c03: ト見ヘタリ。二ニ通シテ餘法ニ依テ餘佛
T2645_.83.0582c04: 菩薩ニ祈ルトハ。禪林寺ニ於テ正五九月
T2645_.83.0582c05: ニ大般若ヲ轉讀スルカ如キハ。是大臣ノ
T2645_.83.0582c06: 嚴命ナルニ由テ也。按ニ昔年右大將頼朝
T2645_.83.0582c07: 卿禪林ノ靜遍僧都ニ命シテ。正五九月ニ
T2645_.83.0582c08: 大般若ヲ轉讀シ。天下太平ノ祈願セシメ。
T2645_.83.0582c09: 禪林永代ノ恒式トナサシム。爾來凡六百
T2645_.83.0582c10: 餘年ニ已ニ一寺ノ恒式トナリテ。公儀ヨ
T2645_.83.0582c11: リ警固ノ武士ヲ賜リ。法會ヲ守護セシメ
T2645_.83.0582c12: 給ヘリ。何ノ所以モナク。祈祷ニコレヲ
T2645_.83.0582c13: 修スルニハ非ス。若シ專雜ノ義ヲ論シ。回
T2645_.83.0582c14: 向發願心ノ義ヲ論セハ。常ニ談スルカ如
T2645_.83.0582c15: ク。安心ヲ佛願ニ決シ。起行ヲ持名ニ定
T2645_.83.0582c16: ムル人ハ。縁ニ隨テ暫ク雜善ヲ修ストモ。
T2645_.83.0582c17: 修スルニ隨テ隨テ回シ。常ニ專心ナラシ
T2645_.83.0582c18: ム。サレハ正因ノ本期唯念佛ニ在テ雜善
T2645_.83.0582c19: ニ非ス。故ニ名テ雜行ノ人ト爲ルコトヲ
T2645_.83.0582c20: 得ス。又何ソ回向發願心ノ趣ニ背カンヤ。
T2645_.83.0582c21: 又山師ノ後嵯峨帝ノ勅願ニ依テ。梵網經
T2645_.83.0582c22: ヲ長講シテ國家ヲ鎭護シ給フカ如キハ。
T2645_.83.0582c23: 是國王ノ勅命ナルニ由テ也。薩婆多ノ中
T2645_.83.0582c24: ニ違王制故吉羅也トアレハ。佛法ヲ學ス
T2645_.83.0582c25: ル人ハ必ス國王大臣ノ嚴命ニ背クヘカラ
T2645_.83.0582c26: ス。吉水大師ノ後白川院ノ勅請ニ依テ。如
T2645_.83.0582c27: 法經ノ先達トナリ給ヘルカ如シ。又用意
T2645_.83.0582c28: 問答等ニ依テ。念佛ヲ以テ餘願回向スル
T2645_.83.0582c29: コトヲ嫌テ。現世ノコトハ餘メ佛菩薩ニ
T2645_.83.0583a01: 祈ル者アリ。此又一義也。是非スヘカラ
T2645_.83.0583a02: ス。然ニ有人用意問答等ニ依テ。堅ク念
T2645_.83.0583a03: 佛ヲ以テ餘願回向スルコトヲ制テ云ク。
T2645_.83.0583a04: 往生極樂ノコトハ念佛ノ司ル所也。現世
T2645_.83.0583a05: 祷ハ餘行ノ司ル所也。サレハ往生極樂ノ
T2645_.83.0583a06: 爲ニハ一向ニ念佛スヘシ。現世ノ祈祷ハ
T2645_.83.0583a07: 餘ノ佛神ニ申スヘシ。念佛ヲ以テ現世ノ
T2645_.83.0583a08: 事ヲ祈ルハ還入三惡道ノ業也ト云ニ。今
T2645_.83.0583a09: 謂ク。此解恐ハ光明吉水ノ素意ニ契クヘ
T2645_.83.0583a10: カラス。今應ニ有人ノ所依ノ用意問答等
T2645_.83.0583a11: ヲ引テ。逐一ニコレヲ辨明スヘシ。用意
T2645_.83.0583a12: 問答ニ云ク。後世者ノ今生ヲ祈ルヤウ候
T2645_.83.0583a13: ハス。但シ下根ノ行者ハ厭離ノ心淺クシ
T2645_.83.0583a14: テ。今生ヲモ祈ルコトアラハ。餘ノ佛神
T2645_.83.0583a15: ニ祈リ申スヘキ歟。故上人瘧病ノ時。念
T2645_.83.0583a16: 佛ヲ以テ落シ給ヘト有人申ケレハ。是ハ
T2645_.83.0583a17: 小事也。往生ノ大事ヲ申サン上ハトテ用
T2645_.83.0583a18: ヒサセ給ハサリケリ。是ヲ龜鑑トスヘキ
T2645_.83.0583a19: 歟。今解ス。忠公ノ二ノ字ヲ置キテ疑テ
T2645_.83.0583a20: 決シ給ハサルハ。吉水ノ御意ヲ恐慮シテ。
T2645_.83.0583a21: 偏ニ餘願回向ヲ遮シ給ヘル也。按スルニ
T2645_.83.0583a22: 忠公ノ在世未タ向ニ所引吉水ノ御消息ヲ
T2645_.83.0583a23: ミ給ハス。若シコレヲ見給ハハ如何ソ恐
T2645_.83.0583a24: 盧ノ語ヲ設ケ給ハンヤ。又繪詞傳ニ所
T2645_.83.0583a25: ノ吉水ノ鎌倉ノ二位ノ禪尼ヘ進セラルル
T2645_.83.0583a26: 御返書ニ云ク。此世ノ祈リニ念佛ノ外ニ
T2645_.83.0583a27: 佛ニモ神ニモ申經ヲモ讀書キ佛ヲ造ラン
T2645_.83.0583a28: ハ。專修ヲ礙ル行ニテハ候ハスト。今解
T2645_.83.0583a29: ス。此ノ御返書ノ文言ハ抄略ニシテ。其意
T2645_.83.0583b01: 辨シ難シ。語證録ノ具ナル文ニ云ク。一
T2645_.83.0583b02: 此世ノ祈リニ念佛ノ意ヲ知ラスシテ。佛
T2645_.83.0583b03: 神ニモ申シ。經ヲモ誦書キ。堂ヲモ造ラ
T2645_.83.0583b04: ハ。其レモ先キノ如クニ候ヘシ。セメテ
T2645_.83.0583b05: 又後世ノ爲ニセハコソ候ハメ。其要ナシ
T2645_.83.0583b06: ト仰セ候ヘカラス。專修ヲサフル行ニモ
T2645_.83.0583b07: アラザリケリト思召候ヘシト。此連續ノ
T2645_.83.0583b08: 文ヲミルニ。此世ノ祈リニ念佛ノ意ヲ知
T2645_.83.0583b09: ラスシテトアレハ。是レ一向專修ノ人ノ上
T2645_.83.0583b10: ヲ宣ヘル御詞ニアラス。未タ念佛ノ旨ヲ
T2645_.83.0583b11: 意得オル者。此ノ世ノ爲ニ佛神ヲ祈リナ
T2645_.83.0583b12: トスルヲハ強チニ制スヘカラス。我カ專
T2645_.83.0583b13: 修ノ妨ニモ成ヘカラサレハト下知シ給ヘ
T2645_.83.0583b14: ル文言也。又吉水大師大胡ノ妻室ヘ遣サ
T2645_.83.0583b15: ルル御返書ニ云ク。往生ニアラサル道ニ
T2645_.83.0583b16: ハ餘行マタ各ツカサトル方アリト。今解
T2645_.83.0583b17: ス。此文ノ意ハ現世ノ祈リニハ。其ノツ
T2645_.83.0583b18: カサトル所ノ餘法ヲ用ユヘシト云義ニハ
T2645_.83.0583b19: 非ス。コレ娑婆悟道ノ爲ナントニハ。其
T2645_.83.0583b20: ツカサトル所ノ顯密ノ止ンコトナキ行業
T2645_.83.0583b21: モ。數多アルヘケレトモ。往生極樂爲ニハ。
T2645_.83.0583b22: 本願念佛ニ過タルコトナシト示シ給ヘル
T2645_.83.0583b23: 也。應ニ知ヘシ。吉水ノ御意ニ依ルニ。專
T2645_.83.0583b24: 修ノ行者ハ本ヨリ此世ノ事ヲ祈ルヘキ樣
T2645_.83.0583b25: 候ハス。若下根ノ人ノ現世ノ事ヲ祈ル事
T2645_.83.0583b26: アリトモ。唯阿彌陀佛ニ申シ奉ルヘシ。餘
T2645_.83.0583b27: 佛神ニ申シ。餘經呪ヲ誦スルコトハアル
T2645_.83.0583b28: ヘカラス。但シ國王ノ嚴命ニ由リ。一寺
T2645_.83.0583b29: ノ恒式ニ用テ餘法ヲ修メ。天下太平ヲ呪
T2645_.83.0583c01: 祝スルカ如キハ。是同日ノ談ニアラス。然
T2645_.83.0583c02: ニ有人念佛ヲ以テ現世ノ事ヲ祈ルヲ。還
T2645_.83.0583c03: 入三惡道ノ業ト謂テ。而モ餘佛菩薩ニ現
T2645_.83.0583c04: 世ノ事ヲ祈ル事ヲ許スハ。是謬ノ甚キ也。
T2645_.83.0583c05: 又今時ノ人光明吉水ノ御意ヲ會得セス。
T2645_.83.0583c06: 公然トシテ餘ノ佛神等ヲ造立シ。愚夫愚
T2645_.83.0583c07: 婦ヲ勸テ現世ノ事ヲ祈ラシムル事ハ。誠是
T2645_.83.0583c08: 淨土宗ノ罪人也。問。若爾ラハ下根ノ行者
T2645_.83.0583c09: 厭離ノ心淺クシテ。現世ノ事ヲ餘佛神ニ
T2645_.83.0583c10: 祈ル事アラハ。往生ノ障トナルヘキヤ否
T2645_.83.0583c11: ヤ。答。タトヒ阿彌陀佛ニ祈ルトモ。深ク
T2645_.83.0583c12: 現世ノ事ニ著シテ往生極樂ノ志薄キ者
T2645_.83.0583c13: ハ。必ス往生ノ障トナルヘシ。タトヒ餘佛
T2645_.83.0583c14: 神ニ祈ルトモ。往生極樂ノ障礙ナク。念
T2645_.83.0583c15: 佛ヲ相續センカ爲ナラハ。爭テカ往生ノ
T2645_.83.0583c16: 障トナルヘキソ。其本期ノ志往生極樂ノ
T2645_.83.0583c17: 念佛相續ノ爲ナルカ故也。但シ現世ノ事
T2645_.83.0583c18: ヲ餘佛神ニ祈ルヘカラスト云ハ。是光明
T2645_.83.0583c19: 吉水ノ御意テ顯示スルノミ
T2645_.83.0583c20:   西山流義盛衰事
T2645_.83.0583c21: 山師ノ自行化他ノ超絶スルコトハ。具ニ
T2645_.83.0583c22: 本傳等ニ載スルカ如シ。十一箇所ノ伽籃
T2645_.83.0583c23: ヲ建立シ。處處ニ塔婆ヲ立。或ハ曼陀羅
T2645_.83.0583c24: ヲヲキ。或ハ不斷念佛ヲ始メ給ヒケル。在
T2645_.83.0583c25: 家ニハ上ハ寛元帝ヲ始奉リ。深ク其道化
T2645_.83.0583c26: ニ歸シ。月月ニ圓頓戒ヲ重受シ給ヒ。光
T2645_.83.0583c27: 明峯寺殿下モ圓戒ヲ受得シ給ヒ。久我・徳
T2645_.83.0583c28: 大寺。西圓寺等ノ三公丞相。乃至家家ノ月
T2645_.83.0583c29: 卿雲客歸敬セラレスト云コトナシ。出家
T2645_.83.0584a01: ニハ叡山三千ノ貫主ヲ始トシテ。僧正已
T2645_.83.0584a02: 下ノ高僧達悉ク師長ノ禮ヲ敦クセラル。
T2645_.83.0584a03: サレハ吉水滅後京都ニ於テ淨土宗ヲ弘通
T2645_.83.0584a04: シ給フ事。山師ノ右ニ出ル人ナシ。又山
T2645_.83.0584a05: 師ノ高弟西谷淨音上人ハ。始ハ粟生光明
T2645_.83.0584a06: 寺ニ住シ。後ニ仁和寺ノ西谷ト云處ニ新
T2645_.83.0584a07: 光明寺ヲ建立シ。淨教ヲ弘通セラレケル
T2645_.83.0584a08: ニ。寛元帝文應帝同ク其勸化ニ歸依シ給
T2645_.83.0584a09: ヘリ。又山師ノ弟子東山觀鏡上人ハ。東
T2645_.83.0584a10: 山宮ノ辻ニ阿彌陀院ヲ建立シ。盛ニ淨教
T2645_.83.0584a11: ヲ弘通シ。又禪林寺ニ數數講席ヲ開カル。
T2645_.83.0584a12: 又山師ノ弟子嵯峨道觀上人ハ。學才ノ名
T2645_.83.0584a13: アリ。寛元帝小倉山ニ淨金剛院ヲ建立シ。
T2645_.83.0584a14: 觀公ヲ延テ開山トシ。盛ニ淨教ヲ弘通セ
T2645_.83.0584a15: シム。又山師ノ弟子深草ノ立信上人ハ。西
T2645_.83.0584a16: 山遣仰ノ兩刹ヲ管シ。又龍護殿ヲ修補シ。
T2645_.83.0584a17: 盛ニ淨教ヲ弘通セラル。又深草ニ眞宗院
T2645_.83.0584a18: ヲ建立セラレシモ。寶治帝勅シテ祈祷ノ
T2645_.83.0584a19: 道場トナシ給ヒヌ。又山師ノ弟子遊觀上
T2645_.83.0584a20: 人ハ。西山ノ三鈷寺ヲ補處シ。圓戒念佛
T2645_.83.0584a21: ヲ弘通セラル。玄觀・示道・實導等師資相承
T2645_.83.0584a22: シテ。四宗ヲ兼學シ。二尊院遣迎院・盧山寺・
T2645_.83.0584a23: 般舟院モ相共ニ西山三鈷寺ノ風儀ヲ傳習
T2645_.83.0584a24: シ。舊例ニ依テ御戒師トナル人多シ。又
T2645_.83.0584a25: 山師弟子道覺親王ハ。後鳥羽院ノ皇子也。
T2645_.83.0584a26: 寛元年中跡ヲ西山ニ遁レ給ヒ。水無瀬ノ
T2645_.83.0584a27: 蓮花壽院ヲ西山ニ移シ。不斷念佛ヲ修シ
T2645_.83.0584a28: 給ヒケレハ。世ニ擧テ西山ノ宮ト稱シ奉
T2645_.83.0584a29: ル是也。又山師弟子如一上人ハ。白川ノ
T2645_.83.0584b01: 高橋ニ住シテ盛ニ淨教ヲ弘通セラル。正
T2645_.83.0584b02: 應帝勅シチ御師範トナシテ。多年淨家ノ
T2645_.83.0584b03: 經釋ヲ禀承シ給ヘリ。又山師三世弟子道
T2645_.83.0584b04: 教顯意上人ハ。嵯峨釋迦院及ヒ竹林寺ニ
T2645_.83.0584b05: 住シテ盛ニ淨教ヲ弘通シ。山師四世弟子
T2645_.83.0584b06: 了觀漸空上人ハ。三福寺ヲ建テ盛ニ淨教
T2645_.83.0584b07: ヲ弘通セラレケレハ。文應帝數數道教了
T2645_.83.0584b08: 觀ノ二哲ヲ召シテ。宗義ヲ論談セシメ給
T2645_.83.0584b09: ヘリ。如之山師ノ弟子聖達上人ハ。肥前ノ
T2645_.83.0584b10: 原山ニ在テ盛ニ淨教ヲ弘通シ。又山師ノ
T2645_.83.0584b11: 弟子顯性上人ハ。長門人備後ノ道臺院ニ
T2645_.83.0584b12: 在テ盛ニ淨教ヲ弘通セラル。又西谷上人
T2645_.83.0584b13: 三世弟子行觀上人ハ。武州鵜木ニ光明寺
T2645_.83.0584b14: ヲ建立シ。後ニ東山禪林寺ニ住シ。盛ニ
T2645_.83.0584b15: 淨教ヲ弘通シ。行觀上人三世ノ弟子道覺
T2645_.83.0584b16: 上人ハ。上州吾妻ニ善導寺ヲ建立シ。行
T2645_.83.0584b17: 觀上人六世弟子ニ明秀上人相嚴上人ト云
T2645_.83.0584b18: アリ。明秀上人ハ紀州ニ總持寺ヲ建立シ。
T2645_.83.0584b19: 盛ニ淨教ヲ弘通シ。相嚴上人洛陽ニ常樂
T2645_.83.0584b20: 寺ヲ建立シ。盛ニ淨教ヲ弘通シ。後花園
T2645_.83.0584b21: 院御歸依マシマシテ。圓頓戒ヲ受給ヘリ。
T2645_.83.0584b22: 相嚴上人ノ弟子顯巡上人ハ。洛陽ニ聖徳
T2645_.83.0584b23: 寺ヲ建立シ。法弟教神上人ハ。播州ニ常
T2645_.83.0584b24: 樂寺ヲ建立シ。越前ニ安樂寺ヲ建立シ。同
T2645_.83.0584b25: ク法弟ノ相忍上人ハ。洛陽ト紀州トニ善
T2645_.83.0584b26: 長寺ヲ建立シ。各各戮力相共ニ淨教ヲ弘
T2645_.83.0584b27: 通セラル。又行觀上人七世乘運上人ハ。尾
T2645_.83.0584b28: 州曼陀羅寺ヲ建立シ。盛ニ淨教ヲ弘通シ。
T2645_.83.0584b29: 徳ハ朝野ニ聞ヘ。永亨帝勅紫衣ヲ賜フト
T2645_.83.0584c01: 云。又西谷上人五世弟子智通上人ハ。濃
T2645_.83.0584c02: 州ニ立政寺ヲ建立シ。盛ニ淨教ヲ弘通シ。
T2645_.83.0584c03: 永徳帝其徳ニ歸依シ給ヒ。紫衣并ニ菩薩
T2645_.83.0584c04: 號ヲ賜ヘリ。智通上人弟子達智上人ハ。尾
T2645_.83.0584c05: 州ニ祐福寺ヲ建立シ。盛ニ淨教ヲ弘通シ。
T2645_.83.0584c06: 達智上人弟子融傳上人モ。又尾州ニ正覺
T2645_.83.0584c07: 寺ヲ建立シテ。淨教ヲ弘通セラル。又深
T2645_.83.0584c08: 草ノ道教上人ノ弟子道意上人ハ。洛陽ニ
T2645_.83.0584c09: 圓福寺ヲ建立シ。盛ニ淨教ヲ弘通シ。道
T2645_.83.0584c10: 意上人三世弟子龍藝上人ハ。三州ニ法藏
T2645_.83.0584c11: 寺ヲ建立シ。同三世ノ人天祐上人ハ。三
T2645_.83.0584c12: 州ニ崇福寺ヲ建立シ。同シ五世ノ弟子教
T2645_.83.0584c13: 然上人ハ。三州ニ妙心寺ヲ建立シ。相共
T2645_.83.0584c14: ニ淨教ヲ弘通セラル。又道教上人ノ四世
T2645_.83.0584c15: ニ道宗上人ト云アリ。深草龍護殿ニ住シ
T2645_.83.0584c16: テ。盛ニ淨教ヲ弘通シ。征夷大將軍尊氏
T2645_.83.0584c17: 公崇信太ダ渥シ。又山師四世弟子了觀上
T2645_.83.0584c18: 人ノ法孫相續シテ。洛陽ノ三福寺ニ住シ
T2645_.83.0584c19: テ淨教ヲ弘通セラレケルニ。文龜帝ノ御
T2645_.83.0584c20: 宇。永正十四年九月。三福寺主ニ勅シテ。
T2645_.83.0584c21: 禁中北御所ニ於テ選擇集ヲ講談セシメ給
T2645_.83.0584c22: ヘリ。又常樂寺相嚴上人ノ法孫等順上人
T2645_.83.0584c23: ハ。始ハ常樂寺ニ住シ。後ニ粟生光明寺
T2645_.83.0584c24: ニ住シテ。盛ニ淨教ヲ弘通セラレケルニ。
T2645_.83.0584c25: 大永帝御歸依マシマシテ。勅シテ紫衣ヲ
T2645_.83.0584c26: 賜ヒ。又淨土根元ノ地ノ綸旨ヲ賜ヒテ中
T2645_.83.0584c27: 興トナレリ。相嚴上人ノ法孫ニ宏善上人
T2645_.83.0584c28: ト云アリ。初メハ洛ノ常樂寺ニ住シ。後
T2645_.83.0584c29: ニ東山禪林寺ニ住シテ。盛ニ淨教ヲ弘通
T2645_.83.0585a01: セラレケルニ。文龜帝勅請シテ淨土法要
T2645_.83.0585a02: ヲ説シメ。即嚫儀トシテ紫色ノ袈裟ヲ賜
T2645_.83.0585a03: ヘリ。予曾テコレヲ傳聞シ。コレヲ暗記
T2645_.83.0585a04: スル事如是。具ハコレヲ繼述シ難シ。山師
T2645_.83.0585a05: ノ滅後凡ソ二百七八十年ノ間。西山義ノ
T2645_.83.0585a06: 僧徒都鄙ニ於テ。伽藍ヲ建立スル事幾百
T2645_.83.0585a07: 所ト云事ヲシラス。又淨教ヲ弘通スル事
T2645_.83.0585a08: 幾百人ト云事ヲ知ラス。然ニ應仁ノ比ヨ
T2645_.83.0585a09: リイツトナク西山義ノ伽藍漸漸ニ廢亡
T2645_.83.0585a10: シ。僧徒モ又漸漸ニ衰微スルヲ見ルニ。荷
T2645_.83.0585a11: 法ノ人誰カ痛心疾首セサランヤ。先ツ山
T2645_.83.0585a12: 師ノ所居ノ西山三鈷寺ハ。草莽ノ場。狐兎
T2645_.83.0585a13: ノ穴トナリ。山師ノ廟塔モ平日供養スル
T2645_.83.0585a14: 人ナシ。遣迎院ハ天台眞言ノ寺トナリテ。
T2645_.83.0585a15: 圓戒念佛ノ沙汰モナク。淨橋寺ハ今ニア
T2645_.83.0585a16: レトモ。自利利他ノ沙汰モナシ。龍護殿
T2645_.83.0585a17: ノ歡喜心院ハ其跡田畑トナレリ。西谷上
T2645_.83.0585a18: 人ノ所建ノ新光明寺ハ。觀鏡上人ノ所建
T2645_.83.0585a19: ノ阿彌陀院共ニソノアトヲ知ル人ナシ。
T2645_.83.0585a20: 道觀上人ノ所建ノ淨金剛院モ。ソノアト
T2645_.83.0585a21: カタノ如ク二尊院ノ裡ニアレトモ。實ニ
T2645_.83.0585a22: 狐兎ノ棲トナル。立信上人ノ所建ノ眞宗
T2645_.83.0585a23: 院ハ。近代龍空慈空ノ兩大徳廢タルヲ興
T2645_.83.0585a24: シ。絶タルヲ繼レケレトモ。此屬立信上
T2645_.83.0585a25: 人ノ五百年忌ノ追善ノ法事ニ導師スル人
T2645_.83.0585a26: モナク。眞言ノ比丘ヲ招請シケルト傳ヘ
T2645_.83.0585a27: 聞ユ。又二尊院盧山寺般舟院ハ。西山三
T2645_.83.0585a28: 鈷寺ノ四宗兼學ノ風儀ヲ修學セラレシ
T2645_.83.0585a29: ニ。イツシカ台密ノ寺トナリテ。圓戒念
T2645_.83.0585b01: 佛ノ弘通ハ廢亡シ侍ル。又道教上人ノ所
T2645_.83.0585b02: 住ノ釋迦院モ。西山ノ法孫ヲ住セシメス。
T2645_.83.0585b03: 竹林寺モ廢亡シテ其跡定カナラス。了觀
T2645_.83.0585b04: 上人ノ所建ノ三福寺ハ僅ニ其跡ハアレト
T2645_.83.0585b05: モ。イマタ淨教弘通ノ沙汰ヲ聞カス。聖
T2645_.83.0585b06: 達上人顯性上人ノ舊跡ハ。イマタ存亡ヲ
T2645_.83.0585b07: 知ラサレトモ。大方ハ他宗他流ノ寺トナ
T2645_.83.0585b08: リケン。行觀上人ノ所建ノ光明寺モ。道
T2645_.83.0585b09: 覺上人ノ所建ノ善導寺モ。近代西山義ヲ
T2645_.83.0585b10: 離レテ鎭西義ノ寺トナリヌ。其外ノ子院
T2645_.83.0585b11: 末寺數百ケ寺。或ハ衰微シ。廢亡シ。或ハ
T2645_.83.0585b12: 他宗他流ノ寺トナレリ。如是西山義ノ衰
T2645_.83.0585b13: 微シ廢亡シ侍ル事ハ。全ク是山師ノ遺法
T2645_.83.0585b14: ニ過失アルニハアラス。唯是末學ノ吉水
T2645_.83.0585b15: ト山師トノ祖意ヲ知サルニ由ルノミ。或
T2645_.83.0585b16: 人西山義ノ如是衰微シ廢亡スルヲ評シ
T2645_.83.0585b17: テ予ニ問テ云ク。西山義ノ所立ハ多ハ是
T2645_.83.0585b18: 邪義ナリ。是故ニ佛菩薩モ諸天モコレヲ
T2645_.83.0585b19: 護念シ給ハス。漸漸衰微シ廢亡スル事ト
T2645_.83.0585b20: 見ヘタリ。サモナクハ如何ソ如是漸漸ニ
T2645_.83.0585b21: 衰微シ廢亡スル事ノアランヤト。予答テ
T2645_.83.0585b22: 云ク。伽藍ノ興廢ハ時運ノ致ス所也。偏
T2645_.83.0585b23: ニ宗義ノ邪正ヲ以テコレヲ論スヘカラ
T2645_.83.0585b24: ス。或ハ日蓮宗或ハ一念義ノ如キハ現ニ
T2645_.83.0585b25: 是邪義ナレトモ。古ヨリ今ニ至テ徒黨ノ
T2645_.83.0585b26: 者多ク。堂塔ノ煥麗ナルハ是豈ニ正法ノ
T2645_.83.0585b27: 驗シナランヤ。又法顯傳慈恩傳等ヲ見ル
T2645_.83.0585b28: ニ。如來ノ靈跡モ斷絶スル者一ニ非ス。是
T2645_.83.0585b29: 豈ニ邪義ノ驗シトセンヤ。何ソ伽藍ノ興
T2645_.83.0585c01: 廢ヲ以テ宗義ノ邪正ヲ評スヘケンヤ。今
T2645_.83.0585c02: 西山義ノ漸漸ニ衰微シ。漸漸ニ廢亡スル
T2645_.83.0585c03: ヲ按スルニ。其故タタ一二ニアラス。一
T2645_.83.0585c04: ニハ末學ノ徒吉水ノ本意ヲ知サルニ由テ
T2645_.83.0585c05: 也。謂ク吉水大師ノ本意ハ唯一向專修ノ
T2645_.83.0585c06: 念佛ニアルノミ。然ニ末學專ラ念佛ヲ修
T2645_.83.0585c07: セサルノミニ非ス。還テ名利ノ爲ニ雜行
T2645_.83.0585c08: ヲ雜修スルハ。是吉水ノ本意ヲシラサル
T2645_.83.0585c09: 也。二ニハ末學ノ徒山師ノ本意ヲ知サル
T2645_.83.0585c10: ニ由テ也。謂ク山師ハ實ニコレ一向專修
T2645_.83.0585c11: ノ人也。自行ノ日課ハ淨土三部經六萬遍
T2645_.83.0585c12: ノ念佛等也。其事向ニ已ニ明スカ如シ。然
T2645_.83.0585c13: ニ吉水大師ノ御存生ノ時ヨリ御滅後ニ至
T2645_.83.0585c14: マテ。數數念佛ノ弘通ニ他宗ノ障難アル
T2645_.83.0585c15: 事ハ。偏ニ專修者ノ邪見ヲ起スニ由テ也。
T2645_.83.0585c16: 所謂邪見トハ或ハ念佛門ニ戒行アル事ナ
T2645_.83.0585c17: シト謂テ。偶持戒ノ人ヲ見テハ雜行ノ人
T2645_.83.0585c18: ト名ケ。或ハ眞言止觀ヲ破シ。或ハ餘佛菩
T2645_.83.0585c19: 薩ヲ謗スルカ如キ是也。是故ニ山師能ク
T2645_.83.0585c20: 時ト方便トヲ觀シテ。先ツ隨他ノ前ニ定
T2645_.83.0585c21: 散ノ門ヲ開キテ。專修者ノ邪見ヲ匡救シ。
T2645_.83.0585c22: 他宗ノ障難ヲ遠離シ。而シテ後ニ隨自意
T2645_.83.0585c23: ノ專修ノ門ニ歸入セシメンコソヨケレト
T2645_.83.0585c24: 思召ママニ。幸ニ慈鎭和尚ノ附屬ヲ受テ。
T2645_.83.0585c25: 天台眞言ノ三鈷寺ニ住シ。大乘律宗ト淨
T2645_.83.0585c26: 土眞宗トヲ加ヘテ。四宗兼學ノ寺ト號シ。
T2645_.83.0585c27: 盛ニ圓頓戒ヲ弘メテ專修者ノ無戒ノ弊風
T2645_.83.0585c28: ヲ匡救シ。又供僧ヲ定テ顯密ノ行法ヲ修
T2645_.83.0585c29: セシメ給フカ如キハ。彼眞言止觀ヲ破ス
T2645_.83.0586a01: ル者ヲ抑止シ。餘佛菩薩ヲ謗スル者ヲ抑
T2645_.83.0586a02: 止センカ爲也。是善巧方便ヲ以テ遂ニ他
T2645_.83.0586a03: 宗ノ障難ヲ除キ。專修ヲ弘通忌憚スル所
T2645_.83.0586a04: ナク。上ハ天子ヨリ下ハ凡鄙ノ者ニ至マ
T2645_.83.0586a05: テ。其化益ヲ蒙ムラスト云事ナシ。其事
T2645_.83.0586a06: 向ニ既ニ辨スルカ如シ 吉水ノ門人數多
T2645_.83.0586a07: アリト雖モ。吉水ノ滅後京都ニ於テ念佛
T2645_.83.0586a08: ヲ弘通スル事ハ。全是山師ノミ。其時ヲ
T2645_.83.0586a09: 知リ方便ヲ設ケテ。暫ク隨他ノ門ヲ開キ
T2645_.83.0586a10: 給フニ由テ也。然ニ末學ノ者山師ハ四宗
T2645_.83.0586a11: 兼學ノ人也ト云テ。公然トシテ雜行ヲ雜
T2645_.83.0586a12: 修スルハ。是末學ノ山師ノ本意ヲ知サル
T2645_.83.0586a13: 也。三ニハ祖承ノ正義ヲ謬解スルニ由テ
T2645_.83.0586a14: 也。謂ク末學ノ人玄義分ノ言阿彌陀佛者
T2645_.83.0586a15: 即是其行ノ釋義ト。散善義ノ三心既具無
T2645_.83.0586a16: 行不成トノ釋義ニ就テ。祖承ノ正義ヲ謬
T2645_.83.0586a17: 解スル事アル也。先ツ言阿彌陀佛者即是
T2645_.83.0586a18: 其行ノ釋義ヲ謬解ストハ。山師一處ノ釋
T2645_.83.0586a19: ニ。即今南無阿彌陀佛ト稱スル南無ノ二
T2645_.83.0586a20: 字ハ。是歸命也。阿彌陀佛ノ四字ハ他力
T2645_.83.0586a21: ノ一行也ト述給ヒテ。口ニ稱スル南無阿
T2645_.83.0586a22: 彌陀佛名號ニ願行具足シテ。必ス往生ヲ
T2645_.83.0586a23: 得ル謂レヲ。阿彌陀佛即是其行ト釋シ
T2645_.83.0586a24: 給ヘル也。此ニ深意アリ。謂阿彌陀佛ノ
T2645_.83.0586a25: 名號カ衆生往生ノ行體トナルハ。即是阿
T2645_.83.0586a26: 彌陀佛ノ佛體カ衆生ノ行體トナル義ヲ成
T2645_.83.0586a27: スル也。所以何ントナレハ。吉水大師ノ
T2645_.83.0586a28: 云ク。至極大乘之意ハ名ノ外ニ無體。體外無
T2645_.83.0586a29: 名。萬善妙體即於名號六字。恒沙功徳備
T2645_.83.0586b01: 於口稱一行。サレハ至極大乘ノ意ハ阿彌
T2645_.83.0586b02: 陀佛ノ名號ノ外ニ佛體ナク。佛體ノ外ニ
T2645_.83.0586b03: 名號ナシ。名體終日相離レサレハ。口ニ
T2645_.83.0586b04: 稱スル阿彌陀佛ノ名號カ衆生往生ノ行體
T2645_.83.0586b05: トナルハ。即是レ阿彌陀佛ノ佛體カ衆生
T2645_.83.0586b06: 往生ノ行體トナル道理アル也。是即吉水
T2645_.83.0586b07: 西山師資相承ノ正義也。若此深義ヲ知サ
T2645_.83.0586b08: ル者ハ。我等凡夫ノ口稱ノ十聲一聲ニ十
T2645_.83.0586b09: 惡五逆ノ罪ヲ滅シテ。直ニ極樂ノ報土ニ
T2645_.83.0586b10: 生スル事ヲ疑惑スヘキ也。若口稱ノ十聲
T2645_.83.0586b11: 一聲ノ名號ハ即是所歸ノ阿彌陀佛ナレ
T2645_.83.0586b12: ハ。彼佛ノ具足シ圓滿シ給ヘル萬善萬行
T2645_.83.0586b13: カ。衆生往生ノ行體トナル事ヲシラハ。如
T2645_.83.0586b14: 何ソ口稱ノ十聲一聲ニ諸ノ重罪ヲ滅シ
T2645_.83.0586b15: テ。極樂ノ報土ニ生スル事ヲ疑惑センヤ。
T2645_.83.0586b16: 然ニ無道心ノ人此深意ヲ謬解シテ云ク。
T2645_.83.0586b17: 南無トハ衆生ノ歸命也。阿彌陀佛者即是
T2645_.83.0586b18: 其行トハ。所歸ノ佛體即是其行ト釋スル
T2645_.83.0586b19: 意ナレハ。我等ハ唯南無ト歸命スルハカ
T2645_.83.0586b20: リニテ。所歸ノ阿彌陀佛カ即チ我等カ往
T2645_.83.0586b21: 生ノ行體トナリテ。願行具足シテ必ス往
T2645_.83.0586b22: 生ヲ得ル也。コレヲ他力ノ行體ト云也。三
T2645_.83.0586b23: 萬六萬ノ多念ヲ勵ミテ往生ノ行體トセン
T2645_.83.0586b24: ト思フハ。是自力根性ノ誤リ也。所歸ノ
T2645_.83.0586b25: 阿彌陀佛カ即是能歸ノ衆生ノ行體トナリ
T2645_.83.0586b26: 給ヘハ。稱ト不稱トヲ論セス。タタ歸命
T2645_.83.0586b27: スレハ。願行具足シテ必ス往生ヲ得ル也
T2645_.83.0586b28: ト云云。如是謬解シテ。生涯多念ヲ勵ム事
T2645_.83.0586b29: ナシ。自損損他ヲナス事甚シ。是吉水西
T2645_.83.0586c01: 山ノ本意ヲ知ラス。祖承ノ正義ヲ謬解ス
T2645_.83.0586c02: ル也。又三心既具無行不成ノ釋義謬解ス
T2645_.83.0586c03: トハ。三心既ニ具足シテ諸ノ雜行ヲ捨テ。
T2645_.83.0586c04: 專ラ念佛ニ歸スル者ハ。無始ヨリ以來ノ
T2645_.83.0586c05: 所作ノ諸ノ善根ヲ悉ク往生極樂ノ爲ニ回
T2645_.83.0586c06: 向シ。又縁ニ隨テ暫ク修スル一切ノ餘善
T2645_.83.0586c07: マテモ。皆往生極樂ノ爲ト回向スルトキ。
T2645_.83.0586c08: 一切ノ餘善從上ノ雜善ノ名ヲ改テ三輩九
T2645_.83.0586c09: 品ノ正因正行トナル。コレヲ一明三福以
T2645_.83.0586c10: 爲正因二明九品以爲正行ト釋シ給ヘリ。
T2645_.83.0586c11: 一切ノ餘善既ニ念佛同位ノ正行トナレ
T2645_.83.0586c12: ハ。皆悉ク往生ノ行トナラスト云事ナシ。
T2645_.83.0586c13: 是故ニ三心既具無行不成ト釋シ給ヘル
T2645_.83.0586c14: 也。コレヲ廢立行成ノ法門ト云也。揩定
T2645_.83.0586c15: 記主廢立行成ノ義ヲ釋シテ。若不廢立
T2645_.83.0586c16: 成不立ト云ヘリ。是ニ知ヌ。行成ノ義ハ
T2645_.83.0586c17: 既ニ三心ヲ具シテ機ヲ信シ。法ヲ信シ。諸
T2645_.83.0586c18: ノ雜行ヲ廢シテ專ラ念佛ニ歸スルトキ。
T2645_.83.0586c19: 無始以來ノ所作ノ諸ノ善根ヲ。皆悉ク往
T2645_.83.0586c20: 生極樂ノ爲ニ回向スルニ。其三心ノ功能
T2645_.83.0586c21: ニ由テ非本願ノ諸ノ善根ガ。三輩九品ノ
T2645_.83.0586c22: 正因正行ト成タルヲ。行成ノ法門ト云也。
T2645_.83.0586c23: 故ニ若廢立セサレハ行成立セスト釋スル
T2645_.83.0586c24: ナリ。然ニ餘行ヲ雜修シテ念佛ヲ專ニセ
T2645_.83.0586c25: ス。是ヲ傍正開會ト號シ。又ハ安心開會
T2645_.83.0586c26: ト名ケ。是ヲ行成ノ法門ト謂ヘルハ。是
T2645_.83.0586c27: 吉水西山ノ本意ヲ知ラス。祖承ノ正義ヲ
T2645_.83.0586c28: 謬解スル也。四ニハ末學ノ僞書ヲ傳習ス
T2645_.83.0586c29: ルニ由テ也。謂ク三十八卷ノ祕抄ハ鎌倉
T2645_.83.0587a01: ノ名越ノ寛法ガ僞作ニシテ。山師眞撰ノ
T2645_.83.0587a02: 書ニハ非ス。是故ニ其義勢吉水山師ノ相
T2645_.83.0587a03: 傳ノ趣ニ齟齬セリ。是故ニ正見ノ學者ハ
T2645_.83.0587a04: コレヲ信用スルコトナシ。然レトモ中古
T2645_.83.0587a05: ヨリ師資相承ノ祕抄ナレハトテ。コレヲ
T2645_.83.0587a06: 尊信シ。傳習スル人尠カラス。是吉水西
T2645_.83.0587a07: 山ノ本意ヲ知サル也。五ニハ末學ノ唯學
T2645_.83.0587a08: 解ヲ好テ。眞正ノ道心ナキニ由テ也。謂
T2645_.83.0587a09: ク中古以來我宗ノ僧徒。多クハ學解ヲ專
T2645_.83.0587a10: ラニシテ。道心ノ有無ヲ論セス。大方ハ
T2645_.83.0587a11: 倶舍唯識等ヲ學ヒ。楞嚴法花等ヲ學ヒ。博
T2645_.83.0587a12: 學多才ヲ願ヒ。名聞利養ヲ求テ。生死事
T2645_.83.0587a13: 大無常迅速ヲ觀スル事ナシ。厭離穢土ノ
T2645_.83.0587a14: 志モナク。欣求淨土ノ思ヒモナク。生涯
T2645_.83.0587a15: 栖遑トシテ三萬六萬ノ念佛ヲ修行スル事
T2645_.83.0587a16: ナシ。是既無道心ノ人也。豈ニ心ウキ片
T2645_.83.0587a17: 輪ニアラスヤ。止觀云ク。或ハ出家人智
T2645_.83.0587a18: 解溢胸。或ハ精進滅火。而不無常。諺曰。
T2645_.83.0587a19: 可恰五媚。精進無道心此之謂也。伏乞
T2645_.83.0587a20: 眞正ノ學者能ク思量シ給ヘ。道心ハ即是
T2645_.83.0587a21: 淨菩提心也。大日經云。淨菩提心如意寶滿
T2645_.83.0587a22: 世出世勝希有。反シテ知ヌ。菩提心ノ寶珠
T2645_.83.0587a23: ナキ者ハ世出世ノ勝願ヲ滿足スヘカラ
T2645_.83.0587a24: ス。然ニ我門ノ僧徒多クハ道心ナク。無
T2645_.83.0587a25: 常ヲシラス。厭穢欣淨ノ思モナク。專修念
T2645_.83.0587a26: 佛ヲ事トセス。是吉水西山ノ本意ヲ知サ
T2645_.83.0587a27: ル也。六ニハ末學ノ徒自行化他唯念佛ヲ
T2645_.83.0587a28: 事トセサルニ由テ也。謂ク吉水大師ノ云
T2645_.83.0587a29: ク。淨土宗ノ學者ハ先ツ此旨ヲ知ヘシ。有
T2645_.83.0587b01: 縁ノ人ノ爲ニハ身命財ヲ捨テモ偏ニ淨土
T2645_.83.0587b02: ノ法ヲ説ヘシ。自ノ往生ノ爲ニハ諸ノ囂
T2645_.83.0587b03: 塵ヲ離レテ。專ラ念佛ノ行ヲ修スヘシ。此
T2645_.83.0587b04: ノ二事ノ外全ク他ノ營ナシト云云。然ニ
T2645_.83.0587b05: 末學ノ人多クハ吉水ノ雅訓ニ違背シ。偶
T2645_.83.0587b06: 説法スル事アレトモ。我身命ヲ資ンカ爲
T2645_.83.0587b07: ニシ。財利ヲ得ンカ爲ニシテ。眞實ニ人
T2645_.83.0587b08: ヲシテ順次ニ極樂往生セシメン事ヲ思ハ
T2645_.83.0587b09: ス。又我往生極樂ノ爲トテ三萬六萬ノ念
T2645_.83.0587b10: 佛ヲ修スルコトモ無キハ。是吉水西山ノ
T2645_.83.0587b11: 本意ヲ知サル也。今西山義ノ衰微シ。廢
T2645_.83.0587b12: 亡スルヲ按スルニ。恐ハ是西山ノ末學多
T2645_.83.0587b13: クハ吉水西山ノ祖意ニ背キ。無道心ニシ
T2645_.83.0587b14: テ厭欣ノ志ナク。諸ノ雜行ヲ廢亡シ。專
T2645_.83.0587b15: ラ念佛ヲ修セサル故ナラン歟。敬テ有縁
T2645_.83.0587b16: 同行ノ人ニ白ス。若シ西山ノ宗義ヲ復興
T2645_.83.0587b17: セント思ハハ。先ツ須ク眞正ノ菩提心ヲ
T2645_.83.0587b18: 起シ。至誠ニ厭欣ノ志ヲ發シ。諸ノ雜行
T2645_.83.0587b19: ヲ捨テ專ラ念佛ヲ修シ。在家ニハ一萬已
T2645_.83.0587b20: 上ノ念佛ヲ勵シ。出家ニハ三萬以上ノ念
T2645_.83.0587b21: 佛ヲ勵シ。身命ヲ惜ス。自行化他シ。諸ノ
T2645_.83.0587b22: 衆生ト共ニ順次ニ極樂ニ往生セント願求
T2645_.83.0587b23: シ。諸ノ衆生ト共ニ吉水西山ノ本意ニ相
T2645_.83.0587b24: 應シ。宗門處處ニ復興シ。祖承日日ニ繁昌
T2645_.83.0587b25: セン事必然ノ道理也。若不爾者諸佛哀愍
T2645_.83.0587b26: 護念モナク。諸天善神ノ隨遂擁護モナク。
T2645_.83.0587b27: 外護ノ檀越モ漸漸ニ減少シ。結構ノ伽藍
T2645_.83.0587b28: モ漸漸ニ廢亡シ侍ラン歟。伏願クハ有縁
T2645_.83.0587b29: 同行ノ人能能思量シ給ヘ。南無阿彌陀佛
T2645_.83.0587c01:   覺性院看住中 玄翁諦眞寫之
T2645_.83.0587c02:
T2645_.83.0587c03:
T2645_.83.0587c04:
T2645_.83.0587c05:
T2645_.83.0587c06:
T2645_.83.0587c07:
T2645_.83.0587c08:
T2645_.83.0587c09:
T2645_.83.0587c10:
T2645_.83.0587c11:
T2645_.83.0587c12:
T2645_.83.0587c13:
T2645_.83.0587c14:
T2645_.83.0587c15:
T2645_.83.0587c16:
T2645_.83.0587c17:
T2645_.83.0587c18:
T2645_.83.0587c19:
T2645_.83.0587c20:
T2645_.83.0587c21:
T2645_.83.0587c22:
T2645_.83.0587c23:
T2645_.83.0587c24:
T2645_.83.0587c25:
T2645_.83.0587c26:
T2645_.83.0587c27:
T2645_.83.0587c28:
T2645_.83.0587c29:
T2645_.83.0588a01:
T2645_.83.0588a02:
T2645_.83.0588b01:
T2645_.83.0588b02:
T2645_.83.0588c01:
T2645_.83.0588c02:
Footnote:
 
Footnote:
 
Footnote:
 
Footnote:
 
Footnote:
 
Footnote:
 
Footnote:
 
Footnote:
 
Footnote:
 
Footnote:
 

[First] [Prev] 580 581 582 583 584 585 586 587 588 [Next] [Last] [行番号:/]   [返り点:/] [CITE]