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欧州におけるデジタル学術編集サマースクールへの参加

2018年6月、フランス国立科学研究センター(CNRS)が Soutien aux coopérations universitaires et scientifiques internationales の助成によりオーストリアのクロスターノイブルクにおいて実施した、デジタル学術編集のサマースクールにおいて、当拠点で人文情報学を学んだ大学院生4名が招待されました。このサマースクールの模様について、参加した2名の大学院生によるそれぞれの視点からの報告を以下に掲載します。

纓田 宗紀(おだ そうき/東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)

サマースクール:Digital Scholarly Editions: Manuscripts, Texts, and TEI Encoding

2018年6月25から29日まで、オーストリア・ウィーン近郊のクロスターノイブルク修道院で開催されたサマースクールDigital Scholarly Editions: Manuscripts, Texts, and TEI Encodingに参加した。参加者24名の国籍はアイルランド、アメリカ、イギリス、イタリア、スロヴァキア、チェコ、ハンガリーなどさまざまで、日本からは当拠点で学んだ学生4名(伊集院栞、王一凡、纓田宗紀、小風尚樹)が参加した。

サマースクールのテーマは、TEIを中心として、デジタル校訂テクストを作成するための基礎を学ぶことだった。このテーマに関しては、主催者のビュルガール氏もその運営に加わるDARIAH(欧州人文学デジタル研究基盤)が、MOOC(オンライン講座:https://teach.dariah.eu/course/view.php?id=32)を公開している。参加者は事前にこの動画で予習し、クロスターノイブルクでは各々の研究に関わるテクストのTEI/XMLによる記述の仕方、およびマークアップされたテクストの活用法を模索した。なお、現在このMOOCに日本語字幕をつける作業が進行中であり、サマースクールに参加した4名も字幕翻訳チームに加わっている。

毎日9時半から17時までのおもなアクティビティは、各自の作業を進めることに加え、修道院内の見学、スタッフによるレクチャー、そしてTEIによるcritical apparatusを西洋中世史料に付記するなどのエクササイズであった。スタッフ陣は、参加者が取り組んでいる史料の個別事例をいかにマークアップするか親身になってともに考え、TEI Critical Apparatus ToolboxやEVT(Edition Visualization Technology)といった表示ツールの操作を手解きしてくれた。

連日行われたレクチャーも非常に充実していた。オンドジェイ・ティヒー氏(カレル大学)が中世後期スコットランドにおける政治的アクターのネットワーク図について、ビュルガール氏が説教史料のcritical apparatusについて、ドット・ポーター氏(ペンシルベニア大学図書館)がTEI/XMLにおけるmsDesc(manuscript description)の記述法について、ファルカス・キス氏(エトヴェシュ・ロラーンド大学)が中世史料の同定方法について講じ、その過程で参加者は数多くのDHプロジェクトを知ることができた。しかし同時に、そこで紹介されたプロジェクトが、今存在するものの中のごく一部にすぎないことが容易に想像できるほどに、DHの世界の広さを感じることもできた。

最終日の午後には、数名の参加者に一週間の成果を発表する機会が与えられ、小風と纓田が、それぞれが扱っている史料のデジタル校訂テクストをEVTで表示させる取り組みを英語で紹介した。

伊集院 栞(いじゅういん しおり/東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)

2018年6月25日〜29日、オーストリアのクロスターノイブルクで開かれたサマースクールに参加した。Digital Scholarly Editions: Manuscripts, Texts, and TEI Encodingと題されたこのプログラムは、人文学的な資料を共有するためのフォーマットであるTEIに基づき、写本や校訂本のデジタル校訂テクストを作成するための基礎を学習することを主な目標とする。参加者は事前にオンライン講座でTEIによるテクストのマークアップの仕方を学んでから、講習に臨むこととなっている。

サマースクール当日のプログラムは、(1)個人の課題を進める時間、(2)スタッフによるレクチャー、(3)会場であるクロスターノイブルク修道院の見学、から構成される。(1)では、オンライン講座で学んだことを用いて、実際に文献資料をマークアップする課題を行ったほか、個々人が研究で取り組んでいる資料について、スタッフの先生方や、ときには他の学生たちと相談しながら、そのマークアップの仕方や活用方法を検討した。

参加者の専門分野は様々であり、持ち寄った資料(ラテン語文献が多かったが)や、どのように扱いたいか(資料の画像とテクストをリンクしたい、など)も多様である。個人的には、自身の扱うサンスクリット語文献をマークアップするために、TEIに準拠したdiplomatic edition、及びcritical editionの記述方法について、もう少し詳しく学習したいと考えていた。たまたま同様の関心を持つ、中世ラテン語文献を専門とする学生と席が隣になり、5日間あれこれ話し合いながら作業を進めることができた。またスタッフの先生から、参照できるウェブサイトとしてDigital Editing of Medieval Manuscripts(https://www.digitalmanuscripts.eu)を教えていただいた。 (もう一つの関心事に、TEI Critical Apparatus Toolbox(http://teicat.huma-num.fr)を用いて、TEIエンコーディングした校訂テキストをlaTeX文書として表示することもあったのだが、思うような文書を表示するには、XSLTの知識が必要であることが分かったため、今回は断念した。)

全体で行う活動も非常に有意義であった。特に修道院の付属図書館を見学した際は、現在進行中の、中世ラテン語写本の電子化プロジェクトの現場を見せてもらったほか、プロジェクトの対象となっている写本を、実際に見て、触れる機会を与えられた。レクチャーでも多様なプロジェクトを紹介してもらい、ラテン語文献学の分野で、こうした取り組みがいかに進展しているかを実感した。

最後に余談ではあるが、サマースクールの雰囲気について書いておきたい。サマースクールには学部生から博士課程生までが参加しており、毎日活動や食事を共にする、ある種の合宿のような打ち解けた雰囲気があった。中日にはウィーン市内の見学ができる機会もある。私は見学には参加しなかったが、別の日にルームメイトとクロスターノイブルクの町を散策した。彼女の専攻はラテン語で、町のあちこちにある彫像や碑文の意味を読み解き、教えてくれたことが印象に残っている。