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如説修行抄 (No. 2697_ 日蓮撰 ) in Vol. 84
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No.2697
如説修行抄
夫以末法流布之時。受生於此土。信此經
人ハ。如來ノ在世ヨリ猶多怨嫉之難可甚
見エテ候ナリ。其故ハ在世ハ能化ノ主ハ
佛ナリ。弟子又大菩薩阿羅漢ナリ。人天四
衆八部人非人等ナリトイヘトモ。調機調
養シテ法華經ヲ聞シメ給フ猶怨嫉多シ。
何況末法今時ハ教機時刻到來ストイヘト
モ。尋其師凡師ナリ。弟子又鬪諍堅固白法
隱沒三毒強盛ノ惡人等ナリ。故ニ善師ヲ
ハ遠離シ惡師ニハ親近ス。其上眞實ノ法
華經ノ如説修行ノ行者ノ師弟檀那トナラ
ンニハ三類ノ敵人定レリ。サレハ此經ヲ
聽聞シ始メン日ヨリ思定ヘシ。況滅度後
ノ大難ノ三類甚シカルヘシト。然ニ我弟
子等ノ中ニモ兼テ聽聞セシカトモ。大小
ノ難來ル時ハ今始テ驚キキモヲケシテ信
心ヲ破リヌ。兼テ申ササリケルカ。經文ヲ
サキトシテ猶多怨嫉況滅度後況滅度後ト
朝夕ヲシヘシ事ハ是也。予カ或ハ所ヲヲ
ワレ或疵ヲ蒙リ。或兩度ノ御勘氣ヲ蒙テ
遠國ニ流罪セラルルヲ見聞トモ。今始テ
驚ヘキニアラサルモノヲヤ。問云。如説修
行ノ行者ハ現世安穩ナルヘシ。何カ故ソ
三類ノ強敵盛ンナランヤ。答云。釋尊ハ法
華經ノ御爲ニ今度九横ノ大難ニ値ヒ給
フ。過去ノ不輕菩薩ハ法華經ノ故ニ杖木
瓦石ヲ蒙リ。竺ノ道生ハ蘇山ニ流サレ。法
道ハ面ニ火印ヲアテラレ。師子尊者ハ頭
ヲハネラレ。天台大師ハ南三北七ニアタ
マレ。傳教大師ハ六宗ニニクマレ給ヘリ。
此等ノ佛菩薩大聖等ハ法華經ノ行者ト
シテ而モ大難ニ値ヒ給ヘリ。此等ノ人人
ヲ如説修行ノ人ト不云イツクニカ如説
修行ノ人ヲ尋ン。然ニ今ノ世ハ鬪諍言訟
白法隱沒ナル上。惡國惡王惡臣惡民ノミ
有テ正法ヲ背テ邪法邪師ヲ崇重スレハ。
國土ニ惡鬼亂入テ三災七難盛ニ起レリ。
カカル時剋ニ日蓮蒙佛勅此土ニ生ケル
コソ時ノ不祥ナレ。法王ノ宣旨背カタケ
レハ任經文權實二教ノ軍ヲ起シ。忍辱ノ
鎧ヲ著テ妙教ノ劍ヲ提ケ。一部八卷ノ肝
心妙法五字ノ旗ヲ指上テ。未顯眞實ノ弓
ヲハリ正直捨權ノ箭ヲハケテ。大白牛車
ニ打乘テ權門ヲカツハト破リ。カシコヘ
オツカケココヘオシヨセ。念佛眞言禪律
等ノ八宗十宗ノ敵人ヲセムルニ。或ハニ
ケ或ハヒキシリソキ。或ハ生取レシ者ハ
我弟子トナル。或ハセメ返シセメヲトシ
スレトモ。敵ハ多勢也。法王ノ一人ハ無勢
也。至今軍ヤム事ナシ。法華折伏破權門理
ノ金言ナレハ。終ニ權教權門ノ輩ヲ一人
モナクセメヲトシテ法王ノ家人トナシ。
天下萬民諸乘一佛乘トナリテ妙法獨リ繁
昌セン時。萬民一同ニ南無妙法蓮華經ト
唱奉ラハ。吹風枝ヲナラサス。雨壤ヲクタ
カス。代ハ羲農ノ世トナリテ今生ニハ不
祥ノ災難ヲ拂ヒ長生ノ術ヲ得。人法共ニ
不老不死ノ理顯レン時ヲ各各御覽セヨ。
現世安穩ノ證文不可有疑者也。問云。如
説修行ノ行者ト申サンハ何樣ニ信スル
ヲ申候ヘキヤ。答云。當世日本國中ノ諸人
一同ニ如説修行ノ人ト申候ハ。諸乘一佛
乘ト開會シヌレハ何レノ法モ皆法華經ニ
シテ勝劣淺深アル事ナシ。念佛ヲ申モ眞
言ヲ持モ禪ヲ修行スルモ。總シテ一切ノ
諸經竝ニ佛菩薩ノ御名ヲ持テ唱ルモ皆法
華經也ト信スルカ。如説修行ノ人トハ被
センニハ人ノ語ヲ不可用。只仰テ佛ノ金
言ヲマホルヘキ也。我等カ本師釋迦如來
ハ初成道ノ始ヨリ一乘ヲ説ント思食シ
カトモ。衆生ノ機根未熟ナリシカハ。先權
教タル方便ヲ四十餘年カ間説テ。後ニ眞
實タル法華經ヲ説セ給也。此經ノ序分無
量義經ニシテ權實ノハウシヲ指テ方便眞
實ヲ分給ヘリ。所謂以方便力四十餘年未
顯眞實是也。大莊嚴等ノ八萬ノ大士施權
開權廢權ノイハレヲ得意分給テ。領解シ
テ云。法華已前ノ歴劫修行等ノ諸經ハ終不
得成無上菩提ト申キリ給ヒヌ。然後正宗
法華ニ至テ世尊法久後要當説眞實ト説給
シヲ始トシテ無二亦無三除佛方便説。正
直捨方便乃至不受餘經一偈トイマシメ給
ヘリ。是ヨリ已後ハ唯有一佛乘ノ妙法ノ
ミ一切衆生ヲ佛ニナス大法ニテ。法華經
ヨリ外ノ諸經ハ一分ノ得益モアルマシキ
ヲ。末代今ノ學者何レモ如來ノ説教ナ
レハ皆得道アルヘシト思テ。或眞言或念佛
或禪宗三論法相倶舍成實律等ノ諸宗諸經
ヲ取取ニ信スル也。如是人ヲハ若人不信
毀謗此經即斷一切世間佛種乃至其人命終
入阿鼻獄ト定給ヘリ。此等ノヲキテノ明鏡
ヲ本トシテ一分モタカエス。唯有一乘ノ
法ヲ信スルヲ如説修行ノ人トハ佛定サセ
給ヘリ。難云。左樣ニ方便權教タル諸經諸
佛ヲ信スルヲ法華經ト云ハハコソ。只一
經ニ限テ經文ノ如ク五種ノ修行ヲコラ
シ。安樂行品ノ如ク修行センハ如説修行
ノ者トハ被云候マシキ歟如何。答云。凡佛
法ヲ修行セン者ハ攝折二門ヲ可知也。一
切ノ經論不出此二也。サレハ國中ノ諸宗
ノ學者等佛法ヲアラアラ學ストイヘト
モ。時刻相應ノ道ヲシラス。四節四季取取
ニ替レリ。夏ハ熱ク冬ハツメタク春ハ花
サキ秋ハ菓ナル。春種子ヲ下シテ秋菓ヲ
取ヘシ。秋種子ヲ下シテ春菓ヲ取ンニ豈
可被取耶。極寒ノ時ハ厚キ衣ハ用也。極
熱ノ夏ハナニカセン。涼風ハ夏ノ用也冬
ハナニカセン。佛法モ亦復如是。小乘流布
シテ得益アルヘキ時モアリ。權大乘流布
シテ得益アルヘキ時モアリ。實教流布シ
テ佛果ヲ可得時モアリ。然ニ正像二千年
ハ小乘權大乘流布ノ時也。末法ノ始ノ五
百年ニハ純圓一實ノ法華經ノミ廣宣流布
ノ時也。此時ハ鬪諍堅固白法隱沒ノ時ト定
メテ權實雜亂ノ砌也。有敵時ハ刀杖弓箭
ヲ可持。無敵時ハ弓箭兵杖ナニカセン。今
ノ時ハ權教即實教ノ敵トナル也。一乘流
布ノ時ハ權教有テ敵トナリテマキラハシ
クハ實教ヨリ可責之。是ヲ攝折修行ノ
中ニハ法華經ノ折伏ト申也。天台云。法華
折伏破權門理良ニ故アル哉。然ニ攝受タ
ル四安樂ノ修行ヲ今ノ時行スルナラハ。
冬種子ヲ下シテ春菓ヲ求ル者ニアラス
ヤ。鷄ノ曉ニ鳴ハ用也宵ニ鳴ハ物怪也。權
實雜亂ノ時法華經ノ敵ヲ不責山林ニ閉
篭リ。攝受ヲ修行センハ豈法華經修行ノ
時ヲ失ウ物怪ニアラスヤ。サレハ末法今
ノ時法華經ノ折伏ノ修行ヲハ誰カ如經
文行シ給ヘシソ。誰人ニテモオハセ諸經
ハ無得道墮地獄ノ根源。法華經獨リ成佛
ノ法也ト音モ不惜ヨハハリ給テ。諸宗ノ
人法共ニ折伏シテ御覽セヨ。三類ノ強敵
來ラン事無疑。我等カ本師釋迦如來ハ在
世八年之間折伏シ給ヒ。天台大師ハ三十
餘年。傳教大師ハ二十餘年。今日蓮モ三十
餘年ノ間破權理。其間ノ大難不知數。佛
ノ九横ノ難ニ及カ不及不知。恐ハ天台傳
教モ法華經ノ故ニ如日蓮値大難給事ナ
シ。彼ハ只惡口怨嫉計也。是ハ兩度ノ御勘
氣遠國ニ流罪セラレ。龍口ノ頚ノ座頭ノ
疵等。其外惡口セラレ弟子等ヲ流罪セラ
レ篭ニ入ラレ。檀那ノ所領ヲ取ラレ御内
ヲ出サレシ。是等ノ大難ニハ龍樹天台傳
教モ爭カ及給ヘキ。サレハ如説修行ノ法
華經ノ行者ニハ三類ノ強敵打定テ可有
知給ヘ。サレハ釋尊御入滅之後二千餘年カ
間ニ。如説修行ノ行者ハ釋尊天台傳教ノ
三人ハサテヲキ候ヌ。入末法日蓮竝弟子
檀那等是也。我等ヲ如説修行ノ者トイハ
スハ。釋尊天台傳教等ノ三人モ如説修行
ノ人ナルヘカラス。提婆瞿伽利善星弘法
慈覺智證善導法然良觀房等ハ即法華經ノ
行者トイハレ。釋尊天台傳教日蓮竝弟子
檀那ハ念佛眞言禪律等ノ行者ナルヘシ。
法華經ハ方便權教トイハレ。念佛等ノ諸
經ハ還テ法華經トナルヘキ歟。東ハ西ト
ナリ西ハ東トナルトモ。大地ハ所持草木
共ニ飛上テ天トナリ。天ノ日月星宿ハ共
ニ落下テ地トナルタメシハアリトモ。イ
カテカ此理アルヘキ。哀哉今日本國ノ萬
人。日蓮竝弟子檀那等カ三類ノ強敵ニ責
ラレ。大苦ニ値ヲ見テ悦テ笑フトモ。昨日
ハ人ノ上今日ハ身ノ上ナレハ。日蓮竝弟
子檀那共ニ霜露ノ命ノ日影ヲ待計ソカ
シ。只今佛果ニ叶テ寂光ノ本土ニ居住シ
テ自受法樂セン時。汝等カ阿鼻大城ノ底
ニ沈テ大苦ニ値ン時。我等何計無慚ト思
ンスラン。汝等何計ウラヤマシク思ハン
スラン。過一期事無程イカニ強敵重ナル
トモ。ユメユメ退スル心ナカレ。恐ルル心
ナカレ。縱ヒ頚ヲハ鋸ニテ引切。トウヲハ
ヒシホコヲ以テツツキ。足ニハホタシヲ
打テキリヲ以テモムトモ。命ノカヨハン
ホトハ南無妙法蓮華經南無妙法蓮華經ト
唱テ。唱ヘ死ニ死ルナラハ。釋迦多寶十方
ノ諸佛。靈山會上ニシテ御契約ナレハ。須
臾ノ程ニ飛來テ手ヲトリ肩ニ引懸テ靈山
ヘハシリ給ハハ。二聖二天十羅刹女ハ受
持ノ者ヲ擁護シ。諸天善神ハ天蓋ヲ指旛
ヲ上テ。我等ヲ守護シテ慥ニ寂光ノ寶刹
ヘ送リ給ヘキ也。アラウレシヤアラウレ
シヤ
人人御中ヘ
此書不離御身常可有御覽候
如説修行抄
夫以末法流布之時。受生於此土。信此經
人ハ。如來ノ在世ヨリ猶多怨嫉之難可甚
見エテ候ナリ。其故ハ在世ハ能化ノ主ハ
佛ナリ。弟子又大菩薩阿羅漢ナリ。人天四
衆八部人非人等ナリトイヘトモ。調機調
養シテ法華經ヲ聞シメ給フ猶怨嫉多シ。
何況末法今時ハ教機時刻到來ストイヘト
モ。尋其師凡師ナリ。弟子又鬪諍堅固白法
隱沒三毒強盛ノ惡人等ナリ。故ニ善師ヲ
ハ遠離シ惡師ニハ親近ス。其上眞實ノ法
華經ノ如説修行ノ行者ノ師弟檀那トナラ
ンニハ三類ノ敵人定レリ。サレハ此經ヲ
聽聞シ始メン日ヨリ思定ヘシ。況滅度後
ノ大難ノ三類甚シカルヘシト。然ニ我弟
子等ノ中ニモ兼テ聽聞セシカトモ。大小
ノ難來ル時ハ今始テ驚キキモヲケシテ信
心ヲ破リヌ。兼テ申ササリケルカ。經文ヲ
サキトシテ猶多怨嫉況滅度後況滅度後ト
朝夕ヲシヘシ事ハ是也。予カ或ハ所ヲヲ
ワレ或疵ヲ蒙リ。或兩度ノ御勘氣ヲ蒙テ
遠國ニ流罪セラルルヲ見聞トモ。今始テ
驚ヘキニアラサルモノヲヤ。問云。如説修
行ノ行者ハ現世安穩ナルヘシ。何カ故ソ
三類ノ強敵盛ンナランヤ。答云。釋尊ハ法
華經ノ御爲ニ今度九横ノ大難ニ値ヒ給
フ。過去ノ不輕菩薩ハ法華經ノ故ニ杖木
瓦石ヲ蒙リ。竺ノ道生ハ蘇山ニ流サレ。法
道ハ面ニ火印ヲアテラレ。師子尊者ハ頭
ヲハネラレ。天台大師ハ南三北七ニアタ
マレ。傳教大師ハ六宗ニニクマレ給ヘリ。
此等ノ佛菩薩大聖等ハ法華經ノ行者ト
シテ而モ大難ニ値ヒ給ヘリ。此等ノ人人
ヲ如説修行ノ人ト不云イツクニカ如説
修行ノ人ヲ尋ン。然ニ今ノ世ハ鬪諍言訟
白法隱沒ナル上。惡國惡王惡臣惡民ノミ
有テ正法ヲ背テ邪法邪師ヲ崇重スレハ。
國土ニ惡鬼亂入テ三災七難盛ニ起レリ。
カカル時剋ニ日蓮蒙佛勅此土ニ生ケル
コソ時ノ不祥ナレ。法王ノ宣旨背カタケ
レハ任經文權實二教ノ軍ヲ起シ。忍辱ノ
鎧ヲ著テ妙教ノ劍ヲ提ケ。一部八卷ノ肝
心妙法五字ノ旗ヲ指上テ。未顯眞實ノ弓
ヲハリ正直捨權ノ箭ヲハケテ。大白牛車
ニ打乘テ權門ヲカツハト破リ。カシコヘ
オツカケココヘオシヨセ。念佛眞言禪律
等ノ八宗十宗ノ敵人ヲセムルニ。或ハニ
ケ或ハヒキシリソキ。或ハ生取レシ者ハ
我弟子トナル。或ハセメ返シセメヲトシ
スレトモ。敵ハ多勢也。法王ノ一人ハ無勢
也。至今軍ヤム事ナシ。法華折伏破權門理
ノ金言ナレハ。終ニ權教權門ノ輩ヲ一人
モナクセメヲトシテ法王ノ家人トナシ。
天下萬民諸乘一佛乘トナリテ妙法獨リ繁
昌セン時。萬民一同ニ南無妙法蓮華經ト
唱奉ラハ。吹風枝ヲナラサス。雨壤ヲクタ
カス。代ハ羲農ノ世トナリテ今生ニハ不
祥ノ災難ヲ拂ヒ長生ノ術ヲ得。人法共ニ
不老不死ノ理顯レン時ヲ各各御覽セヨ。
現世安穩ノ證文不可有疑者也。問云。如
説修行ノ行者ト申サンハ何樣ニ信スル
ヲ申候ヘキヤ。答云。當世日本國中ノ諸人
一同ニ如説修行ノ人ト申候ハ。諸乘一佛
乘ト開會シヌレハ何レノ法モ皆法華經ニ
シテ勝劣淺深アル事ナシ。念佛ヲ申モ眞
言ヲ持モ禪ヲ修行スルモ。總シテ一切ノ
諸經竝ニ佛菩薩ノ御名ヲ持テ唱ルモ皆法
華經也ト信スルカ。如説修行ノ人トハ被
| 云候也等 | 云云 |
言ヲマホルヘキ也。我等カ本師釋迦如來
ハ初成道ノ始ヨリ一乘ヲ説ント思食シ
カトモ。衆生ノ機根未熟ナリシカハ。先權
教タル方便ヲ四十餘年カ間説テ。後ニ眞
實タル法華經ヲ説セ給也。此經ノ序分無
量義經ニシテ權實ノハウシヲ指テ方便眞
實ヲ分給ヘリ。所謂以方便力四十餘年未
顯眞實是也。大莊嚴等ノ八萬ノ大士施權
開權廢權ノイハレヲ得意分給テ。領解シ
テ云。法華已前ノ歴劫修行等ノ諸經ハ終不
得成無上菩提ト申キリ給ヒヌ。然後正宗
法華ニ至テ世尊法久後要當説眞實ト説給
シヲ始トシテ無二亦無三除佛方便説。正
直捨方便乃至不受餘經一偈トイマシメ給
ヘリ。是ヨリ已後ハ唯有一佛乘ノ妙法ノ
ミ一切衆生ヲ佛ニナス大法ニテ。法華經
ヨリ外ノ諸經ハ一分ノ得益モアルマシキ
ヲ。末代今ノ學者何レモ如來ノ説教ナ
レハ皆得道アルヘシト思テ。或眞言或念佛
或禪宗三論法相倶舍成實律等ノ諸宗諸經
ヲ取取ニ信スル也。如是人ヲハ若人不信
毀謗此經即斷一切世間佛種乃至其人命終
入阿鼻獄ト定給ヘリ。此等ノヲキテノ明鏡
ヲ本トシテ一分モタカエス。唯有一乘ノ
法ヲ信スルヲ如説修行ノ人トハ佛定サセ
給ヘリ。難云。左樣ニ方便權教タル諸經諸
佛ヲ信スルヲ法華經ト云ハハコソ。只一
經ニ限テ經文ノ如ク五種ノ修行ヲコラ
シ。安樂行品ノ如ク修行センハ如説修行
ノ者トハ被云候マシキ歟如何。答云。凡佛
法ヲ修行セン者ハ攝折二門ヲ可知也。一
切ノ經論不出此二也。サレハ國中ノ諸宗
ノ學者等佛法ヲアラアラ學ストイヘト
モ。時刻相應ノ道ヲシラス。四節四季取取
ニ替レリ。夏ハ熱ク冬ハツメタク春ハ花
サキ秋ハ菓ナル。春種子ヲ下シテ秋菓ヲ
取ヘシ。秋種子ヲ下シテ春菓ヲ取ンニ豈
可被取耶。極寒ノ時ハ厚キ衣ハ用也。極
熱ノ夏ハナニカセン。涼風ハ夏ノ用也冬
ハナニカセン。佛法モ亦復如是。小乘流布
シテ得益アルヘキ時モアリ。權大乘流布
シテ得益アルヘキ時モアリ。實教流布シ
テ佛果ヲ可得時モアリ。然ニ正像二千年
ハ小乘權大乘流布ノ時也。末法ノ始ノ五
百年ニハ純圓一實ノ法華經ノミ廣宣流布
ノ時也。此時ハ鬪諍堅固白法隱沒ノ時ト定
メテ權實雜亂ノ砌也。有敵時ハ刀杖弓箭
ヲ可持。無敵時ハ弓箭兵杖ナニカセン。今
ノ時ハ權教即實教ノ敵トナル也。一乘流
布ノ時ハ權教有テ敵トナリテマキラハシ
クハ實教ヨリ可責之。是ヲ攝折修行ノ
中ニハ法華經ノ折伏ト申也。天台云。法華
折伏破權門理良ニ故アル哉。然ニ攝受タ
ル四安樂ノ修行ヲ今ノ時行スルナラハ。
冬種子ヲ下シテ春菓ヲ求ル者ニアラス
ヤ。鷄ノ曉ニ鳴ハ用也宵ニ鳴ハ物怪也。權
實雜亂ノ時法華經ノ敵ヲ不責山林ニ閉
篭リ。攝受ヲ修行センハ豈法華經修行ノ
時ヲ失ウ物怪ニアラスヤ。サレハ末法今
ノ時法華經ノ折伏ノ修行ヲハ誰カ如經
文行シ給ヘシソ。誰人ニテモオハセ諸經
ハ無得道墮地獄ノ根源。法華經獨リ成佛
ノ法也ト音モ不惜ヨハハリ給テ。諸宗ノ
人法共ニ折伏シテ御覽セヨ。三類ノ強敵
來ラン事無疑。我等カ本師釋迦如來ハ在
世八年之間折伏シ給ヒ。天台大師ハ三十
餘年。傳教大師ハ二十餘年。今日蓮モ三十
餘年ノ間破權理。其間ノ大難不知數。佛
ノ九横ノ難ニ及カ不及不知。恐ハ天台傳
教モ法華經ノ故ニ如日蓮値大難給事ナ
シ。彼ハ只惡口怨嫉計也。是ハ兩度ノ御勘
氣遠國ニ流罪セラレ。龍口ノ頚ノ座頭ノ
疵等。其外惡口セラレ弟子等ヲ流罪セラ
レ篭ニ入ラレ。檀那ノ所領ヲ取ラレ御内
ヲ出サレシ。是等ノ大難ニハ龍樹天台傳
教モ爭カ及給ヘキ。サレハ如説修行ノ法
華經ノ行者ニハ三類ノ強敵打定テ可有
知給ヘ。サレハ釋尊御入滅之後二千餘年カ
間ニ。如説修行ノ行者ハ釋尊天台傳教ノ
三人ハサテヲキ候ヌ。入末法日蓮竝弟子
檀那等是也。我等ヲ如説修行ノ者トイハ
スハ。釋尊天台傳教等ノ三人モ如説修行
ノ人ナルヘカラス。提婆瞿伽利善星弘法
慈覺智證善導法然良觀房等ハ即法華經ノ
行者トイハレ。釋尊天台傳教日蓮竝弟子
檀那ハ念佛眞言禪律等ノ行者ナルヘシ。
法華經ハ方便權教トイハレ。念佛等ノ諸
經ハ還テ法華經トナルヘキ歟。東ハ西ト
ナリ西ハ東トナルトモ。大地ハ所持草木
共ニ飛上テ天トナリ。天ノ日月星宿ハ共
ニ落下テ地トナルタメシハアリトモ。イ
カテカ此理アルヘキ。哀哉今日本國ノ萬
人。日蓮竝弟子檀那等カ三類ノ強敵ニ責
ラレ。大苦ニ値ヲ見テ悦テ笑フトモ。昨日
ハ人ノ上今日ハ身ノ上ナレハ。日蓮竝弟
子檀那共ニ霜露ノ命ノ日影ヲ待計ソカ
シ。只今佛果ニ叶テ寂光ノ本土ニ居住シ
テ自受法樂セン時。汝等カ阿鼻大城ノ底
ニ沈テ大苦ニ値ン時。我等何計無慚ト思
ンスラン。汝等何計ウラヤマシク思ハン
スラン。過一期事無程イカニ強敵重ナル
トモ。ユメユメ退スル心ナカレ。恐ルル心
ナカレ。縱ヒ頚ヲハ鋸ニテ引切。トウヲハ
ヒシホコヲ以テツツキ。足ニハホタシヲ
打テキリヲ以テモムトモ。命ノカヨハン
ホトハ南無妙法蓮華經南無妙法蓮華經ト
唱テ。唱ヘ死ニ死ルナラハ。釋迦多寶十方
ノ諸佛。靈山會上ニシテ御契約ナレハ。須
臾ノ程ニ飛來テ手ヲトリ肩ニ引懸テ靈山
ヘハシリ給ハハ。二聖二天十羅刹女ハ受
持ノ者ヲ擁護シ。諸天善神ハ天蓋ヲ指旛
ヲ上テ。我等ヲ守護シテ慥ニ寂光ノ寶刹
ヘ送リ給ヘキ也。アラウレシヤアラウレ
シヤ
| 文永十年癸酉五月日 | 花押 |
此書不離御身常可有御覽候
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