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西方指南鈔 (No. 2674_ ) in Vol. 83
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[行番号:無/有] [返り点:無/有] [CITE]
| 末 |
ノ經ヲ根本トスルナリ。其故ハ。一切ノ諸
善ハ願ヲ根本トス。而ニ此經ニハ彌陀如來
ノ因位ノ願ヲトキテイハク。乃往過去久
遠無量無央數劫ニ佛マシマシキ。世自在
王佛トマフシキ。ソノトキ一人ノ國王ア
リキ。佛ノ説法ヲキキテ。無上道心ヲオコ
シテ。國ヲステ王ヲステテ。家ヲイテテ沙
門トナレリ。ナツケテ法藏比丘トイフ。ス
ナハチ世自在王佛ノ所ニ詣テ。右ニメク
ルコト三匝シテ。頂跪合掌シテ佛ヲホメ
タテマツリテマウシテマウサク。ワレ淨
土ヲマウケテ。衆生ヲ度セムトオモフ。ネ
カワクハワカタメニ。經法ヲトキタマヘ
ト。ソノトキ世自在王佛。法藏比丘ノタ
メニ。二百一十億ノ諸佛ノ淨土ノ。人天ノ
善惡･國土ノ麁妙ヲトキ。マタ現シテコレ
ヲアタヘタマフ。法藏比丘。佛ノ所説ヲキ
キ。マタ嚴淨ノ國土ヲコトコトクミオハ
リテノチ。五劫ノアヒタ思惟シ取捨シテ。
二百一十億ノ淨土ノ中ヨリ。エラヒトリ
テ。四十八ノ誓願ヲマウケタリ。コノ二百
一十億ノ諸佛ノクニノ中ヨリ。善惡ノ中
ニハ。惡ヲステテ善ヲトリ。麁妙ノ中ニハ。
麁ヲステテ妙ヲトル。カクノコトク取捨シ
選擇シテ。コノ四十八願ヲオコセルカユヘ
ニ。コノ經ノ同本異譯ノ大阿彌陀經ニハ。コ
ノ願ヲ選擇ノ願トトカレタリ。ソノ選擇
ノヤウ。オロオロマフシヒラキ候ハム。マ
ツハシメノ無三惡趣ノ願ハ。カノ諸佛ノ國
土ノ中ニ。三惡道アルオハヱラヒステテ。
三惡道ナキオハヱラヒトリテ。ワカ願ト
セリ。次ニ不更惡趣ノ願ハ。カノ諸佛ノク
ニノ中ニ。タトヒ三惡道ナシトイヘトモ。
カノ國ノ衆生マタ他方ノ三惡道ニオツル
コトアルクニオハヱラヒステ。スヘテ三
惡道ニカヘラサルクニヲヱラヒトリテ。
ワカ願トセルナリ。次ニ悉皆金色ノ願。次ニ
無有好醜ノ願。一一ノ願ミナカクノコト
シトシルヘシ。第十八ノ念佛往生ノ願ハ。
カノ二百一十億ノ諸佛ノ國土ノ中ニ。ア
ルイハ布施ヲモテ往生ノ行トスルクニア
リ。アルイハ持戒オヨヒ禪定･智惠等。乃至
發菩提心持經･持呪等。孝養父母･奉事師長
等。カクノコトキノ種種ノ行ヲモテ。オ
ノオノ往生ノ行トスルクニアリ。アルイ
ハマタ。モハラソノクニノ教主ノ名號ヲ
稱念スルヲモテ。往生ノ行トスルクニモ
アリ。シカルニカノ法藏比丘。餘行ヲモテ
往生ノ行トスル國オハエラヒステテ。タ
タ名號ヲ稱念シテ往生ノ行トスル國ヲエ
ラヒトリテ。ワカ國土ノ往生ノ行ヒ。カク
ノコトクナラムト。タテタマヘルナリ。次
ニ來迎引接ノ願。次ニ係念定生ノ願。ミナ
カクノコトクエラヒトリテ。願シタマヘ
リ。凡ソハシメ無三惡趣ノ願ヨリ。オハリ得
三法忍ノ願ニイタルマテ。思惟シ選擇ス
ルアヒタ。五劫オハオクリタルナリ。カク
ノコトク選擇シ攝取シテノチニ。佛ノミ
モトニ詣シテ。一一ニコレヲトク。ソノ四十
八願トキオハリテノチ。マタ偈ヲモテマ
フサク。我建超世願。必至無上道。斯願不
| 滿足。誓不成正覺 | 乃至 | 斯願若剋果。大千 |
比丘コノ偈ヲトキオハルニ。トキニ應シ
テ。アマネク地六種ニ震動シ。天ヨリ妙
華ソノウエニ散シテ。自然ノ音樂空ノ中
ニキコヘ。マタ空ノ中ニホメテイハク。決
定シテカナラス無上正覺ナルヘシト。シ
カレハカノ法藏比丘ノ四十八願ハ。一一
ニ成就シテ決定シテ佛ニナルヘシトイフ
コトハ。ソノハシメ發願ノトキ。世自在王
佛ノ御マヘニシテ。諸魔･龍神八部･一切大
衆ノ中ニシテ。カネテアラワレタルコト
ナリ。シカレハカノ世自在王佛ノ法ノ中
ニハ。法藏菩薩ノ四十八願經トテ。受持讀
誦シキ。イマ釋迦ノ法ノ中ナリトイフト
モ。カノ佛ノ願力ヲアオキテ。カノクニニ
ムマレムトネカフハ。コノ法藏菩薩四十
八願ノ法門ニイルナリ。スナハチ道綽禪
師・善導和尚等モ。コノ法藏菩薩ノ四十八
願法門ニイリタマヘルナリ。カノ華嚴宗
ノ人ハ華嚴經ヲタモチ。アルイハ三論宗
ノ人ハ般若經等ヲタモチ。アルヒハ法相
宗ノ人ハ瑜伽唯識ヲタモチ。アルヒハ天
台宗ノ人ハ法華ヲタモチ。アルヒハ善無
畏ハ大日經ヲタモチ。金剛智ハ金剛頂經
ヲタモツ。カクノコトク。オノオノ宗ニシ
クカフテ。依經依經ヲタモツナリ。イマ淨
土宗ヲ宗トセム人ハ。コノ經ニヨテ四十
八願法門ヲタモツヘキナリ。コノ經ヲタ
モツトフハ。スナハチ彌陀ノ本願ヲタ
モツナリ。彌陀ノ本願トイフハ。法藏菩薩
ノ四十八願法門ナリ。ソノ四十八願ノ中
ニ。第十八ノ念佛往生ノ願ヲ本體トスル
ナリ。カルカユヘニ善導ノタマハク。弘
誓多門四十八。偏標念佛最爲親トイヘ
リ。念佛往生トイフコトハ。ミナモトコノ
本願ヨリオコレリ。シカレハ觀經･彌陀經
ニトクトコロノ念佛往生ノムネモ。乃至
餘ノ經ノ中ニトクトコロモ。ミナコノ經
ニトケルトコロノ本願ヲ根本トスルナ
リ。ナニヲモテカコレヲシルトナラハ。觀
經ニトケルトコロノ光明攝取ヲ。善導釋
シタマフニ。唯有念佛蒙光攝當知本願最
爲強トイヘリ。コノ釋ノココロ。本願ナ
ルカユヘニ光明モ攝取ストキコエタリ。
マタオナシ經ニ。下品上生ニ聞經ト稱佛
トヲナラヘテトクトイエトモ。化佛キタ
リテホメタマフニハ。タタ稱佛ノ功ヲノ
ミホメテ。聞經オハホメタマハストイヘ
リ。善導釋シテイハク。望佛本願意者唯
勸正念稱名往生義疾不同雜散之業トイヘ
リ。コレマタ本願ナルカユヘニ。稱佛オハ
ホメタマフトキコヘタリ。マタオナシ經
ノ付屬ノ文ヲ釋シタマフニモ。望佛本願
意在衆生一向專稱彌陀佛名トイヘリ。コレ
マタ彌陀ノ本願ナルカユヘニ。釋尊モ付
屬シ流通セシメタマフトキコヘタリ。マ
タ阿彌陀經ニトケルトコロノ一日七日ノ
念佛ヲ。善導ホメタマフニ。直爲彌陀弘
誓重致使凡夫念即生トイヘリ。コレマタ
一日七日ノ念佛モ。彌陀ノ本願ナルカユヘ
ニ往生ストキコエタリ。乃至雙卷經ノ中
ニモ。三輩已下ノ諸文ハミナカミノ本願
ニヨルナリ。凡コノ三部經ニカキラス。
一切諸經ノ中ニアカストコロノ念佛往生
ハ。ミナコノ經ノ本願ヲノソマムトテ。ト
ケルナリトシルヘシ。抑法藏菩薩。イカナ
レハ餘行ヲステテ。タタ稱名念佛ノ一行ヲ
モテ。本願ニタテタマヘルソトイフニ。コ
レニ二ノ義アリ。一ニハ念佛ハ殊勝ノ功徳ナ
ルカユヘニ。二ハ念佛ハ行シヤスキニヨ
テ。諸機ニアマネキカユヘニ。ハシメニ殊
勝ノ功徳ナルカユヘニトイフハ。カノ佛
ノ因果總別ノ一切ノ萬徳。ミナコトコト
ク名號ニアラワルルカユヘニ。一タヒモ
南無阿彌陀佛トトナフルニ。大善根ヲウ
ルナリ。ココヲモテ。西方要決ニイハク。諸
佛願行成此果名。但能念號具包衆徳。故
成大善不廢往生トイヘリ。マタコノ經
ニ。スナハチ一念ヲサシテ無上功徳トホ
メタリ。シカレハ殊勝ノ大善根ナルカユ
ヘニ。エラヒテ本願トシタマヘルナリ。二
ニハ修シヤスキカユヘニトイフハ。南無
阿彌陀佛トマフスコトハ。イカナル愚癡
ノモノモ。オサナキモ。老タルモ。ヤスクマ
フサルルカユエニ。平等ノ慈悲ノ御ココ
ロヲモテ。ソノ行ヲタテタマヘリ。モシ布
施ヲモテ本願トセハ。貧窮困乏ノトモカ
ラ。サタメテ往生ノノソミヲタタム。モ
シ持戒ヲモテ本願トセハ。破戒無戒ノタ
クヒ。マタ往生ノノソミヲタツヘシ。モシ
禪定ヲモテ本願トセハ。散亂麁動ノトモ
カラ。往生スヘカラス。モシ智惠ヲモテ本
願トセハ。愚鈍下智ノモノ。往生スヘカラ
ス。自餘ノ諸行モ。コレニナスラヘテシル
ヘシ。シカルニ布施持戒等ノ諸行ニタエ
タルモノハ。キワメテスクナク。貧窮破
戒散亂愚癡ノトモカラハ。ハナハタオホ
シ。シカレハ。カミノ諸行ヲモテ本願トシ
タマヒタラマシカハ。往生ヲウルモノハ
スクナク。往生セヌモノハオホカラマシ。
コレニヨテ法藏菩薩。平等ノ慈悲ニモヨ
オサレテ。アマネク一切ヲ攝セムカタメ
ニ。カノ諸行ヲモテハ往生ノ本願トセス。
タタ稱名念佛ノ一行ヲモテ。ソノ本願ト
シタマヘルナリ。カルカユヘニ法照禪師
ノイハク。於未來世惡衆生。稱念西方彌陀
號。依佛本願出生死。以直心故生極樂
云。又云
彼佛因中立弘誓 聞名念我總迎來
不簡貧窮將富貴 不簡下智與高才
不簡多聞持淨戒 不簡破戒罪根深
但使回心多念佛 能令瓦礫變成金ト
カクノコトク誓願ヲタテタリトモ。ソノ
願成就セスハ。マサニタノムヘキニアラ
ス。シカルニ。カノ法藏菩薩ノ願ハ。一一ニ
成就シテ。ステニ佛ニナリタマヘリ。ソノ
中ニ。コノ念佛往生ノ願成就ノ文ニイハ
ク。諸有衆生。聞其名號信心歡喜。乃至一
念。至心迴向願生彼國。即得往生住不退
轉ト云。次ニ三輩ノ往生ハ。ミナ一向專念
無量壽佛トイヘリ。コノ中ニ菩提心等ノ
諸善アリトイヱトモ。カミノ本願ヲノソ
ムニハ。一向ニモハラ。カノ佛ノ名號ヲ
念スルナリ。例セハ。カノ觀經ノ疏ニ釋セ
ルカコトシ。カミヨリコノカタ。定散兩門
ノ益ヲトクトイヱトモ。佛ノ本願ヲノソ
ムニハ。ココロ。衆生ヲシテ一向ニモハラ。
彌陀佛ノミナヲ稱スルニアリトイヘリ。望
佛本願トイフハ。コノ三輩ノ中ノ一向專
念ヲサスナリ。次ニ流通ニイタテ。其有得聞
彼佛名號。歡喜踊躍。乃至一念。當知此人爲
得大利。即是具足無上功徳トイヘリ。善導
ノ御ココロハ。上盡一形下至一念無上功
徳ナリト。餘師ノココロニヨラハ。タタ少
ヲアケテ。多ヲアラハスナリトイヘリ。次ニ
當來之世經道滅盡。我以慈悲哀愍特留此
經止住百歳。其有衆生値此經者。隨意所
願皆可得度トイヘリ。コノ末法萬年ノノ
チ。三寶滅盡ノトキノ往生ヲオモフニ。一
向專念ノ往生ノ義ヲアカスナリ。ソノユ
ヘハ。菩提心ヲトキタル諸經ミナ滅シナ
ハ。ナニニヨテカ菩提心ノ行相オモシラ
ム。大小ノ戒經ミナウセナハ。ナニニヨ
テカ二百五十戒オモ。五十八戒オモタモ
タム。佛像アルマシケレハ。造像起塔ノ善
根モアルヘカラス。乃至持經持呪等モ。マ
タカクノコトシ。ソノトキニ。ナホ一念
スルニ往生ストイヘリ。スナハチ善導イ
ハク。爾時聞一念皆當得生彼トイヘリ。カ
レヲモテイマヲオモフニ。念佛ノ行者ハ。
サラニ餘ノ善根ニオヒテ一塵モ具セスト
モ。決定シテ往生スヘキナリ。シカレハ。菩
提心ヲオコサスハ。イカテカ往生スヘキ。
戒ヲタモタスシテハ。イカカ往生スヘ
キ。智慧ナクテハ。イカカ往生スヘキ。妄念
ヲシツメスシテハ。イカカ往生スヘキナ
ムト。カクノコトクマフス人人候ハ。コノ
經ヲココロエヌニテ候ナリ。懷感禪師コ
ノ文ヲ釋セルニ。説戒受戒モミナ成スヘ
カラス。甚深ノ大乘モシルヘカラス。サ
キタチテ隱沒シヌレハ。タタ念佛ノミサ
トリヤスクシテ。淺識ノ凡愚。ナホヨク修
習シテ。利益ヲウヘシトイヘリ。マコトニ
戒法滅シナハ。持戒アルヘカラス。大乘ミ
ナ滅シナハ。發菩提心讀誦大乘モアルヘ
カラストイフコト。アキラカナリ。淺識凡
愚トイヘリ。シルヘシ。智慧ニアラストイ
フコトヲ。カクノコトキノトモカラノ。タ
タ稱名念佛ノ一行ヲ修シテ。一聲マテ往
生スヘシトイヘルナリ。コレスナハチ彌
陀ノ本願ナルカユヘナリ。スナハチカノ
大悲本願ノ。トオク一切ヲ攝スル義ナリ。
次ニ阿彌陀經ハ。不可以少善根福徳因縁
得生彼國。舍利弗。若有善男子善女人。聞
説阿彌陀佛。執持名號若一日。乃至七日
トイヘリ。善導和尚釋ニイハク。隨縁雜
善恐難生。故使如來選要法トイヘリ。コ
コニシリヌ。雜善ヲモテハ少善根トナツ
ケ。念佛ヲモテ多善根トイフコトヲ。コノ
經ハスナハチ。少善根ナル雜善ヲステテ。
モハラ多善根ノ念佛ヲトケルナリ。チカ
コロ唐ヨリワタリタル龍舒淨土文トマフ
ス文候。ソレニ阿彌陀經ノ脱文トマフシ
テ。二十一字アル文ヲイタセリ。一心不亂
ノ下ニ。專持名號。以稱名故。諸罪消滅。即
是多善根福徳因縁トイヘリ。スナハチカ
ノ文ニコノ文ヲイタシテイハク。イマノ
ヨニツタワルトコロノ本ニ。コノ二十一
字ヲ脱セリトイヘリ。コノ脱文ナシトイ
フトモ。タタ義ヲモテオモフニ。多少ノ
義アリトイヘトモ。マサシク念佛ヲサシ
テ多善根トイヘル文。マコトニ大切ナリ。
次ニ六方如來ノ證誠ヲトケリ。カノ六方諸
佛ノ證誠。タタコノ經ニノミカキリテ證
誠シタマフニニタレトモ。實ヲモテ論ス
レハ。コノ經ノミニカキラス。スヘテ念佛
往生ヲ證誠スルナリ。シカレトモ。モシ雙
卷經ニツイテ證誠セハ。カノ經ニ念佛往
生ノ本願ヲトクトイヘトモ。三輩ノ中ニ
菩提心等ノ行アルカユヘニ。念佛ノ一行
證誠スルムネアラワルヘカラス。又觀經
ニツイテ證誠セハ。カノ經ニエラムテ念
佛ヲ付屬ストイヱトモ。マツハ定散ノ諸
門ヲトクカユヘニ。マタ念佛ノ一行ニカ
キルトミユヘカラス。ココヲモテ。タタ一
向ニモハラ念佛ヲトキタル。コノ經ヲ證
誠シタマフナリ。タタ證誠ノミコトハ。コ
ノ經ニアリトイヘトモ。證誠ノ義ハ。カノ
雙卷觀經ニモ通スヘシ。雙卷觀經ノミニ
アラス。モシ念佛往生ノムネヲトカム經
オハ。コトコトク六方如來ノ證誠アルヘ
シト。ココロウヘキナリ。カルカユヘニ。天
台ノ十疑論ニイハク。阿彌陀經･大無量壽
經･鼓音聲陀羅尼經等ニイハク。釋迦佛經ヲ
トキタマフトキニ。有十方世界各恒河沙
諸佛。舒其舌相遍覆三千世界。證誠一切
衆生念阿彌陀佛。本願大悲願力故。決定得
| 生極樂世界トイヘリ | 乃至 | 次ニ往生淨土 |
クココロアリ。マツ恩徳ヲ報セムカタメ。
次ニハ賢ヲミテハ。ヒトシカラムコトヲ
オモフユヘナリ。天台宗ヲ學セン人ハ。南
岳･天台ヲ見タテマツリテ。ヒトシカラハ
ヤトオモヒ。眞言ヲナラハム人ハ。不空･善
無畏ヲミテハ。ヒトシカラムトオモヒ。華
嚴宗ノ人ハ。香象･惠遠ノコトクナラムト
オモヒ。法相宗ノ人ハ。玄奘･慈恩ノコトク
ナラムトオモヒ。三論ノ學者ハ。淨影大師
ヲモウラヤミ。持律ノ行者ハ。道宣律師
オモトオカラスオモフヘキナリ。シカレ
ハ。イマ淨土ヲネカハム人。ソノ宗ノ祖師
ヲマナフヘキナリ。シカルニ。淨土宗ノ師
資相承ニ二ノ説アリ。安樂集ノコトキハ。
菩提流支･惠寵法師･道場法師･曇鸞法師･齊
朝ノ法上法師等ノ六祖ヲイタセリ。今マタ
五祖トイフハ。曇鸞法師･道綽禪師･善導禪
師･懷感禪師･小康法師等ナリ
曇鸞法師ハ。梁･魏兩國ノ無雙ノ學生也。ハ
シメ壽長シテ佛道ヲ行セムカタメニ。陶隱
居ニアフテ仙經ヲナラフテ。ソノ仙方ニ
ヨテ修行セントシキ。ノチニ菩提流支三
藏ニアヒタテマツリテ。佛法ノ中ニ。長生
不死ノ法ノ。コノ土ノ仙經ニスクレタル
ヤ候ト。トヒタテマツリタマヒケレハ。三
藏唾ヲ吐テコタエタマフヤウ。トエルコ
トハヲモテ。イヒナラフヘキニアラス。コ
ノ土イツレノトコロニカ。長生ノ方アラ
ム。命ナカクシテ。シハラクシナヌヤウナ
レトモ。ツイニカヘリテ三有ニ輪迴ス。タ
タコノ經ニヨテ修行スヘシ。スナハチ長
生不死ノ所ニイタルヘシトイフテ。觀經
ヲ授ケタマヘリ。ソノトキ。タチマチニ改
悔ノココロヲオコシテ。仙經ヲ燒テ。自行
化他。一向ニ往生淨土ノ法ヲモハラニシ
キ。往生論ノ注。マタ略論安樂土義等ノ文
造レル也。并州ノ玄忠寺ニ三百餘人門徒アリ。
臨終ノトキ。ソノ門徒三百餘人アツマリ
テ。自ハ香呂ヲトリテ。西ニ向テ。弟子トモ
ニ聲ヲ等シテ。高聲念佛シテ命終シヌ。ソ
ノトキ道俗。オホク空中ニ音樂ヲ聞トイ
ヘリ
道綽禪師ハ。本ハ涅槃ノ學生ナリ。并州ノ
玄忠寺ニシテ。曇鸞ノ碑文ヲミテ。發心シ
テ云。カノ曇鸞法師。智徳高遠ナリ。ナホ講
説ヲステテ。淨土ノ業ヲ修シテ。ステニ往
生セリ。イハムヤワカ所解所知。オホシト
スルニタラムヤト云テ。スナハチ涅槃ノ
講説ヲステテ。一向ニモハラ念佛ヲ修シ
テ。相續シテヒマナシ。ツネニ觀經ヲ講シ
テ人ヲ勸タリ。并州ノ晋陽･大原･汶水ノ三
縣ノ道俗。七歳已上ハ。悉ク念佛ヲサトリ。往
生ヲトケタリ。又人ヲ勸テ。㖒唾便利西方
ニ向ハス。行住坐臥西方ヲ背カス。又安樂集
二卷。コレヲ造レリ。凡ソ往生淨土ノ教法弘通。道
綽ノ御力ナリ。往生傳等ヲ見ルニモ。多ク道綽
ノ勸ヲ受テ往生ヲトケタリ。善導モ。コノ道
綽ノ弟子也。シカレハ終南山ノ道宣ノ傳ニ
云。西方ノ道教ノ弘ルコトハ。コレヨリ起ルト
云。又曇鸞法師。七寶ノ船ニ乘テ。空中ニ
來レルヲミル。又化佛菩薩空ニ住スル事七日。
ソノトキ天華雨テ。來リ集ル人人。袖ニコレヲ
ウク。カクノコトク。不可思議ノ靈瑞多シ。
終ノトキ。白雲西方ヨリ來テ。三道ノ白光
ト成テ房中ヲ照ス。五色ノ光空中ニ現ス。
又墓ノ上ニ紫雲三度現スル事アリ
善導和尚イマタ觀經ヲエサルサキニ。三
昧ヲエタマヒタリケルト覺候。ソノユヘ
ハ。導綽禪師ニアフテ觀經ヲヱテノチ。コ
ノ經ノ所説。ワカ所見ニオナシトノタマ
ヘリ。導和尚ノ念佛シタマフニハ。口ヨリ
佛出タマフ。曇省ノ讃ニ云。善導念佛佛從口出
トイヘリ。同念佛ヲマフストモ。カマエテ
善導ノコトク。口ヨリ佛出タマフハカリ。
マフスヘキナリ。欲如善導妙在純熟トマ
フシテ。誰ナリトモ。念佛ヲタニモマコト
ニ申テ。ソノ功熟シナハ。口ヨリ佛ハ出タ
マフヘキ也。道綽禪師ハ師ナレトモ。イマ
タ三昧ヲ發得セス。善導ハ弟子ナレトモ。
三昧ヲエタマヒタリシカハ。道綽。ワカ往
生ハ一定カ不定カト。佛ニトヒタテマツ
リタマヘト。ノタマヒケレハ。善導禪師。命
ヲウケテ。スナハチ定ニ入テ。阿彌陀佛ニ
トヒタテマツリシニ。佛言。道綽ニ三ノ罪ア
リ。スミヤカニ懺悔スヘシ。ソノ罪懺悔
シテ。定テ往生スヘシ。一ニハ佛像經卷オ
ハ。ヒサシニ安テ。ワカ身ハ房中ニ居ス。二
ニハ出家ノ人ヲツカフ。三ニハ造作ノア
ヒタ蟲ノ命ヲ殺ス。十方ノ佛前ニシテ第一
ノ罪ヲ懺悔スヘシ。諸僧ノ前ニシテ第二
ノ罪ヲ懺悔スヘシ。一切衆生ノ前ニシテ
第三ノ罪ヲ懺悔スヘシト。善導スナハチ
定ヨリ出テ。コノムネヲ道綽ニツケタマ
フニ。道綽云。シツカニムカシノトカヲオ
モフニ。コレミナ空カラスト云テ。ココ
ロヲ至テ懺悔スト云。シカレハ師ニ勝
タル也。善導ハ。コトニ火急ノ小聲念佛ヲ
勸テ。數ヲサタメタマヘリ。一萬二萬三萬
五萬乃至十萬ト云
懷感禪師ハ。法相宗ノ學生也。廣ク經典ヲサ
トリテ。念佛オハ信セス。善導ニ問云。念佛
シテ佛ヲ見タテマツリテムヤト。導和尚
答云。佛ノ誠言ナンソウタカハムヤ。懷感
コノ事ニツイテ。忽ニ解ヲヒラキ信ヲ起
テ。道場ニ入テ高聲ニ念佛シテ。見タテ
マツラムト願スルニ。三七日マテニ。ソノ
靈瑞ヲミス。ソノトキ感禪師。自罪障ノ深
シテ。佛ヲミタテマツラサルコトヲ恨テ。
食ヲ斷シテ死セントス。善導制シテユル
サス。ノチニ群疑論七卷ヲ造ルト云。感師ハ
コトニ高聲念佛ヲ勸タマヘリ
小康法師ハ。本ハ持經者也。十五歳ニシテ。
法華･華嚴等ノ經五部ヲ讀ミ覺ヘタリ。コレニ
ヨテ。高僧傳ニハ。讀誦篇ニ入レタレトモ。タ
タ持經者ノミニアラス。瑜伽唯識ノ學生
也。ノチニ白馬寺ニ詣テ。堂内ヲミレハ。
光リハナチタル物アリ。コレヲ探取テ見レ
ハ。善導ノ西方化導ノ文也。小康コレヲミ
テ。ココロ忽ニ歡喜シテ。願ヲ發テ云。ワレ
モシ淨土ニ縁アラハ。コノ文再タ光ヲ放テ
ト。カクノコトク誓了リテ見レハ。重テ光ヲ放
ツ。ソノ光ノ中ニ化佛菩薩マシマス。歡喜
ヤメカタクシテ。ツヰニ又長安ノ善導和
尚ノ影堂ニ詣シテ。善導ノ眞像ヲ見レハ。
化シテ佛身トナリテ。小康ニノタマハク。
汝ワカ教ニヨテ。衆生ヲ利益シ。同ク淨土ニ
生スヘシト。コレヲ聞テ。小康所證アルカ
コトシ。後ニ人ヲ勸メムトスルニ。人ソノ
教化ニシタカハス。シカルアヒタ。錢ヲマ
ウケテ。マツ小童等ヲ勸テ。念佛一返ニ錢
一文ヲアタフ。ノチニ十遍ニ一文。カクノ
コトクスルアヒタ。小康ノ行ニ。小童等ツ
イテヲノヲノ念佛ス。又小童ノミニアラ
ス。老少男女ヲキラハス。ミナコトコトク
念佛ス。カクノコトクシテノチ。淨土堂
ヲ造テ。晝夜ニ行道シテ念佛ス。所化ニシ
タカフテ道場ニ來リ集ル輩。三千餘人也。又小
康高聲ニ念佛スルヲ見レハ。口ヨリ佛出
タマフコト。善導ノコトシ。コノユヘニ時
人。後善導トナツケタリ。淨土堂トハ。唐ノ
ナラヒ。阿彌陀佛ヲスエタテマツリタル
堂ヲハ。ミナ淨土堂トナツケタル也。五祖
ノ御徳。要ヲトルニカクノコトシ
又無量壽經ハ。如來ノ教ヲマウケタマフ
コト。ミナ濟度衆生ノタメナリ。カルカユ
ヘニ。衆生ノ機根マチマチナルカユヘニ。
佛ノ經教モ又無量ナリ。シカルニ今ノ經
ハ。往生淨土ノタメニ。衆生往生ノ法ヲ説
タマフ也。阿彌陀佛修因感果ノ次第。極樂
淨土ノ二報莊嚴ノアリヤウヲ。クハシク
説タマヘルモ。衆生ノ信心ヲ勸テ。欣求ノ
ココロヲオコサセムカタメ也。シカルニ
コノ經ノ詮ニハ。ワレラ衆生ノ往生スヘ
キムネヲ説タマヘル也。タタシコノ經ヲ
釋スルニ。諸師ノココロ不同也。今シハラ
ク善導和尚ノ御ココロヲモテココロエ候
ニ。コノ經ハ。ヒトヘニ專修念佛ノムネヲ。
説ヲ。衆生往生ノ業トシタマヱルナリ。ナ
ニヲモテコレヲシルトイフニ。マツカノ
佛ノ因位ノ本願ヲ説ク中ニ。設我得佛十方
衆生至心信樂欲生我國乃至十念若不生者
不取正覺ト云。カノ佛ノ因位。法藏比丘ノ
ムカシ。世自在王佛ノミモトニシテ。二百
一十億ノ諸佛妙土ノ中ヨリエラヒテ。四十
八ノ誓願ヲ起テ。淨土ヲマフケテ佛ニナ
リテ。衆生ヲシテワカクニニ生レサスヘキ
行業ヲエラヒテ。願シタマヒシニ。マタク
行オハタテスシテ。タタ念佛ノ一行ヲタ
テタマヘル也。カルカユヘニ大阿彌陀經
ニハ。スヘテカノ佛ノ願オハ選擇シテ。タ
テタマフユヘナリ。大阿彌陀經。コノ經
ハ同本異譯ノ經也。シカルニ往生ノ行ハ。
ワレラカサカシク。イマハシメテハカラ
フヘキコトニアラス。ミナサタメオケルコ
トナリ。法藏比丘モシ惡ヲエラヒテタテ
タマハハ。世自在王佛ナホサテオハシマ
スヘキカハ。カノ願トモトカセテノチ。決
定無上正覺ナルヘシト授記シタマハム。
法藏菩薩カノ願タテタマヒテ。兆載永劫
ノアヒタ。難行苦行積功累徳シテ。ステニ
佛ニナリタマヒタレハ。ムカシノ誓願一一
ニウタカフヘカラス。シカルニ。善導和尚
コノ本願文ヲ引テノタマハク。若我成佛
十方衆生。稱我名號下至十聲。若不生者不
取正覺。彼佛今現在成佛。當知本誓重願
不虚。衆生稱念必得往生ト云。マコトニワ
レラ衆生。自力ハカリニテ往生ヲモトム
ルニトリテコソ。コノ行業ハ。佛ノ御ココ
ロニカナヒヤスラム。マタナニトモ不審
ニモオホヘ。往生モ不定ニハ候ヘキ。念佛
ヲ申テ往生ヲ願ハム人ハ。自力ニテ往生スヘ
キニハアラス。タタ他力ノ往生也。本ヨリ
佛ノサタメオキテ。ワカ名號ヲトナフル
モノハ。乃至十聲一聲マテモ。ムマレシメ
タマヒタレハ。十聲一聲念佛ニテ。一定往
生スヘケレハコソ。ソノ願成就シテ。成佛
シタマフト云フ道理ノ候ヘハ。唯一向ニ佛
ノ願力ヲアヲキテ。往生オハ決定スヘキナ
リ。ワカ自力ノ強弱ヲサタメテ。不定ニオ
モフヘカラス。カノ願成就ノ文。コノ經ノ
下卷ニアリ。ソノ文ニ云。諸有衆生聞其名號
信心歡喜乃至一念。至心迴向願生彼國。即
得往生住不退轉ト云。凡四十八願淨土ヲ
莊嚴セリ。華池寶閣願力ニアラスト云コ
トナシ。ソノ中ニ。ヒトリ念佛往生ノ願ノ
ミ。ウタカフヘカラス。極樂淨土モシ淨土
ナラハ。念佛往生モ決定往生也。次ニ往生
ノ業因ハ念佛ノ一行定ト云トモ。行者ノ根
性ニシタカツテ上中下アリ。カルカユヘニ
三輩ノ往生ヲ説。スナワチ上輩ノ文云。其
上輩者捨家棄欲而作沙門。發菩提心一向
專念無量壽佛ト云。中輩ノ文云。雖不能行
作沙門大修功徳。當發無上菩提心。一向專
意乃至十念。念無量壽佛ト云リ。當座ノ道
師。私ニ一ノ釋ヲツクリ候。コノ三輩ノ文
ノ中ニ。菩提心等ノ餘行アリトイヘトモ。
上ノ佛ノ本願ヲ望ニハ。ココロ。衆生ヲシ
テモハラ無量壽佛ヲ念セシムルニアリ。
カルカユヘニ一向ト云。又觀念法門ニ善
導釋シテ云。又此經下卷初云。佛説一切
衆生根性不同有上中下。隨其根性皆勸專
念無量壽佛名。其人命欲終時。佛與聖衆自
來迎接盡得往生ト云。コノ釋ノココロ。三
輩トモニ念佛往生也。マコトニ一向ノ言ハ。
餘ヲスツル言ナリ。例セハ。カノ五天竺ノ
三寺ノコトシ。一ニハ一向大乘寺。二ニハ一
向小乘寺。三ニハ大小兼行寺。カノ一向大
乘寺中ニハ。小乘ノ學スルコトナシ。一向
小乘寺ニハ。大乘ヲ學スルモノナシ。大小
兼行寺ノ中ニハ。大乘小乘トモニ兼學ス
ルナリ。大小ノ兩寺ハ。トモニ一向ノ言ヲオ
ク。二ヲ兼タル寺ニハ。一向ノ言ヲオカス。
コレヲモテココロエ候ニ。今ノ經ノ中ニ一
向ノ言モマタシカナリ。モシ念佛ノ外ニ餘
行ヲナラフレハ。スナワチ一向ニアラス。
カノ寺ニナスラヘハ。兼行ト云ヘシ。ステ
ニ一向ト云。シルヘシ。餘行ヲスツトイフ
事ヲ。タタコノ三輩ノ文ノ中ニ。餘行ヲ
説ニツイテ。三ノ意アリ。一ニハ諸行ヲス
テテ念佛ニ歸セシメムカタメニ。ナラヘ
テ。餘行ヲ説テ。念佛ニオヒテ一向ノ言ヲ
オク。二ニハ念佛ノ人ヲタスケムカタメ
ニ。諸善ヲ説。三ニハ念佛ト諸行トヲナラ
ヘテ。トモニ三品ノ差別ヲシメサムカタメ
ニ。諸行ヲ説。コノ三ノ義ノ中ニハ。タタハ
シメノ義ヲ正トス。ノチノ二ハ傍義也。次
ニコノ經ノ流通分ノ中ニ説テ云。佛語彌
勒。其有得聞彼佛名號。歡喜誦躍乃至一念。
當知此人爲得大利。則是具足無上功徳ト
云。上ノ三輩ノ文ノ中ニ。念佛ノホカニモ
ロモロノ功徳ヲ説トイヘトモ。餘善オハ
ホメス。タタ念佛ノ一善ヲアケテ。無上ノ
功徳ト讃嘆シテ。未來ニ流通セリ。念佛
ノ功徳ハ。餘ノ功徳ニ勝タルコト。アキラ
カナリ。大利ト云ハ。小利ニ對スル言ナリ。
無上ト云ハ。コノ功徳ノ上スル功徳ナシ
ト云義也。ステニ一念ヲ指テ大利ト云。又
| 無上ト云。イハムヤ二念三念 | 乃至 | 十念オヤ。 |
| イカニイハムヤ百念千念 | 乃至 | 萬念オヤ。コ |
テ。餘行ト念佛ト相對シテココロウルニ。
念佛スナワチ大利也。餘善ハスナワチ小
利也。念佛ハ無上也。餘行ハ又有上也。スヘ
テハ往生ヲ願セム人。ナンソ無上大利ノ念
佛ヲステテ。有上小利ノ餘善ヲ執セムヤ。
次ニコノ經下卷ノ奧ニ云。當來之世經道
滅盡。我以慈悲哀愍。特留此經止住百歳。其
有衆生値此經者。隨意所願皆可得度ト云。
善導此文ヲ釋シテ云。萬年三寶滅。此經住
百年。爾時聞一念。皆當得生彼トイヘリ。
釋尊ノ遺法ニ三時ノ差別アリ。正法･像法･
末法也。ソノ正法一千年ノアヒタ。教行證
ノ三トモニ具足セリ。教ノコトク行スル
ニ。シタカフテ證エタリ。像法一千年ノア
ヒタハ。教行ハアレトモ證ナシ。教ニシタ
カフテ行ストイヱトモ。悉地ヲウルコト
ナシ。末法萬年ノアヒタハ。教ノミアテ行
證ナシ。ワツカニ教門ハノコリタレトモ。
教ノコトク行スルモノナシ。行スレトモ
マタ證ヲウルモノナシ。ソノ末法萬年ノ
ミチナムノチハ。如來ノ遺教ミナウセテ。
住持ノ三寶コトコトク滅シテ。オホヨソ
佛像經典モナク。頭ヲ剃リ衣ヲ染ル僧モナシ。
佛法ト云コト。名字ヲタニモキクヘカラ
ス。シカルニソノトキマテ。タタコノ雙卷
無量壽經一部二卷ハカリ。ノコリトトマ
リテ。百年マテ住シテ。衆生ヲ濟度シタマ
フコト。マコトニアハレニオホエ候。華
嚴經モ般若經モ。法華經モ涅槃經モ。オホ
ヨソ大小權實ノ一切諸經。乃至大日･金剛
頂等ノ眞言祕密ノ諸經モ。ミナコトコトク
滅シタラムトキ。タタコノ經ハカリトト
マリタマフコトハ。ナニ事ニカトオホエ
候。釋尊ノ慈悲ヲモテトトメタマフコト。
サタメテフカキココロ候ラム。佛智マコ
トニハカリカタシ。タタシ阿彌陀佛ノ機
縁。コノ界ノ衆生ニフカクマシマスユヘ
ニ。釋迦大師モ。カノ佛ノ本願ヲトトメタ
マフナルヘシ。コノ文ニツイテ按シ候ニ。
四ノココロアリ。一ニハ聖道門ノ得脱ハ
機縁アサク。淨土門ノ往生ノミ機縁フカ
シ。カルカユヘニ。三乘一乘ノ得脱ヲトケ
ル諸經ハ。サキタチテ滅シテ。タタ一念十
念ノ往生ヲトケルコノ經ハカリ。ヒトリト
トマルヘシ。二ニハ往生ニツキテ。十方淨
土ハ機縁アサク。西方淨土ハ機縁フカシ。
カルカユヘニ。十方淨土ヲ勸タル諸經ハ。
コトコトク。滅シテ。タタ西方ノ往生勸タ
ルコノ經。ヒトリトトマルヘシ。三ニハ
兜卛ノ上生ハ機縁アサク。極樂ノ往生ハ
機縁フカシ。ユヘニ上生心地等ノ兜卛ヲ
勸タル諸經ハ。ミナ滅シテ。極樂ヲ勸タル
コノ經。ヒトリトトマルヘシ。四ニハ諸行
ノ往生ハ機縁アサク。念佛ノ往生ハ機縁
フカキユヘニ。諸行ヲ説ク諸經ハ。ミナ滅シ
テ。念佛ヲ説ケルコノ經ノミ。ヒトリトトマリ
タマフヘシ。コノ四ノ義ノ中ニ。眞實ニハ。
第四ノ念佛往生ノミトトマルヘシト云
義。正義ニテ候也。特留此經止住百歳トト
カレタレハ。コノ二軸ノ經典。ヒトリノコ
ルヘキカト。キコヘ候ヘトモ。マコトニハ。
經卷ハウセタマヒタレトモ。タタ念佛ノ
一門ハカリトトマリテ。百年アルヘキニ
ヤト。オホエ候。カノ秦ノ始皇カ。書ヲ燒キ儒ヲ
埋ミシトキ。毛詩ト申ス文ハカリハ。ノコリ
タリト申スコト候。ソレモ文ハヤカレタ
レトモ。詩ハトトマリテ口ニアリト申シ
テ。詩オハ人ソラニオホヘタリケルユヘ
ニ。毛詩ハカリハノコリタリト。申スコト
候ヲモテ。ココロエ候ニ。コノ經トトマリ
テ百年アルヘシト云モ。經卷ハミナ隱滅
シタリトモ。南無阿彌陀佛トマフスコト
ハ。人ノ口ニトトマリテ。百年マテモ。キキ
ツタヘムスル事ト。オホヘ候。經トイフハ。
マタ説トコロノ法ヲ申スコトナレハ。コ
ノ經ハ。ヒトヘニ念佛ノ一法ヲ説ケリ。サ
レハ爾時聞一念皆當得生彼トハ。善導モ
釋シタマヘル也。コレ祕藏ノ義也。タヤス
ク申スヘカラス。スヘテコノ雙卷無量壽
經ニ。念佛往生ノ文七所アリ。一ニハ本願
ノ文。二ニハ願成就ノ文。三ニハ上輩ノ中ニ
一向專念ノ文。四ニハ中輩ノ中ノ一向專
念ノ文。五ニハ下輩ノ中ノ一向專意ノ文。
六ニハ無上功徳ノ文。七ニハ特留此經ノ
文也。コノ七所ノ文ヲ。マタ合シテ三トス。
一ニハ本願。コレヲ二ツヲ攝ス。ハシメノ發
願成就也。二ニハ三輩。コレニ三ヲ攝ス。上
輩･中輩･下輩ナリ。コノ下輩ニツイテ二類
アリ。三ニハ流通。コレニ二ヲ攝ス。無上功
徳･特留此經ナリ。本願ハ彌陀ニアリ。三輩
已下ハ釋迦ノ自説也。ソレモ彌陀ノ本願
ニシタカフテ説タマヘル也。三輩ノ文ノ
中ニ。オノオノ一向專念ト勸タマヘルモ。
流通ノ中ニ。無上功徳ト讃嘆シタマヘル
モ。特留此經トトトメタマヘルモ。ミナ
モト彌陀ノ本願ニ隨順シタマヘルユヘナ
リ。シカレハ念佛往生トマフスコトハ。本
願ヲ根本トスル也。詮スルトコロコノ經
ハ。ハシメヨリオハリマテ。彌陀ノ本願ヲ
説トココロウヘキ也。雙卷經ノ大意。略シ
テカクノコトシ。次ニ觀無量壽經ハ。コ
ノ大意ヲココロエムトオモハハ。カナラ
ス教相ヲ知ヘキ事也。教相ヲ沙汰セネハ。
法門ノ淺深差別アキラカナラサル也。シ
カルニ諸宗ニミナ立教開示アリ。法相宗
ニハ。三時教ヲタテテ一代ノ諸教ヲ攝ス。
三論宗ニハ。二藏教ヲタテテ大小ノ諸教ヲ
攝ス。華嚴宗ニハ五教ヲタテ。天台宗ニハ
四教ヲタツ。イマワカ淨土宗ニハ。道綽禪
師安樂集ニ。聖道･淨土ノ二教ヲタテタリ。
一代聖教五千餘軸。コノ二門オハイテス。
ハシメニ聖道門ハ。三乘一乘ノ得道也。ス
ナワチコノ娑婆世界ニシテ。斷惑開悟スル
道ナリ。スヘテ分テ二アリ。謂ク大乘ノ聖道
小乘ノ聖道也。別シテ論スレハ。四乘ノ聖
道アリ。謂ク聲聞乘･縁覺乘･菩薩乘･佛乘也。淨
土者。マツコノ娑婆穢惡ノサカヒヲイテ。
カノ安樂不退ノクニニムマレテ。自然ニ増
進シテ。佛道ヲ證得セムト。モトムル道也。
コノ二門ヲタツル事ハ。道綽一師ノミニア
ラス。曇鸞法師モ。龍樹菩薩ノ十住毘婆沙
論ヲ引テ。難行･易行ノ二道ヲタテタマヘ
リ。難行道ハ。陸路ヨリ歩行スルカコトシ。
易行道ハ。水路ヲ船ニ乘スルカコトシト
タトヘタリ。コノ二道ヲ立ル事。曇鸞一師
ニカキラス。天台ノ十疑論ニモ。オナシク
引テ釋シタマヘリ。マタ迦才ノ淨土論ニ
モ。オナシク引リ。カノ難行道者スナワ
チ聖道門也。易行道者スナハチ淨土門ナ
リ。シカノミナラス。マタ慈恩大師云。親逢
聖化道悟三乘福薄因疎勸歸淨土ト云。コノ
中ニ三乘者スナハチ聖道門也。淨土者スナ
ハチ淨土門也。難行･易行。三乘･淨土。聖
道･淨土。ソノ言コトナリトイヱトモ。ソ
ノココロミナオナシ。凡ソ一代ノ諸教。コノ
二門ヲイテス。經論ノミコノ二門ニ攝ス
ルニアラス。乃至諸宗ノ章疏。ミナコノ
二門オハイテサル也。天台宗ニハ。正ハ佛
乘ノ聖道ヲアカス。傍ニハ往生淨土ヲア
カス。即往生安樂トイヘリ。華嚴宗ニモ。マ
タ天台宗ノコトシ。聖道ヲ修シテエカタ
クハ。淨土ニ生スヘシト云。願我臨欲命終
時。盡除一切諸障礙。面見彼佛阿彌陀。即得
往生安樂國ト云。シカルニ今コノ經ハ。
往生淨土ノ教也。即身頓悟ノムネヲモア
カサス。歴劫迂回ノ行オモトカス。娑婆ノ
ホカニ極樂アリ。ワカ身ノホカニ阿彌陀
佛マシマスト説テ。コノ界ヲイトヒテ。カ
ノクニニ生シテ。無生忍オモエムト。願ス
ヘキムネヲ明ス也。善導ノ釋云。定散等回向
速證無生身トイヘリ。凡ソコノ經ニハ。アマ
ネク往生ノ行業ヲ説リ。スナハチ。ハシメ
ニハ定散ノ二善ヲ説テ。總シテ一切ノ諸
機ニアタヘ。次ニハ念佛ノ一行ヲ選テ。別
シテ未來ノ群生ニ流通セリ。カルカユヘ
ニ經云。佛告阿難汝好持是語等云。善導コ
レヲ釋云。從佛告阿難汝好持是語已下。正
明付屬彌陀名號流通於遐代等ト云。シカレ
ハ。コノ經ノココロニヨリテ。今聖道ヲ
ステテ。淨土ノ一門ニ入也。ソノ往生淨
土ニツキテ。又ソノ行コレオホシ。コレニ
ヨテ善導和尚。專･雜二修ヲ立テ。諸行ノ勝
劣得失ヲ判シタマヘリ。スナハチコノ經
疏ニ云ク。行ニツキテ立信者就行有二種。一
正行二雜行ト云。モハラカノ正行ヲ修スル
ヲ。專修ノ行者ト云。正行オハ修セスシテ
雜行ヲ修スルヲ。雜修ノ者ト申也。ソノ專
雜二種ノ得失ニツイテ。今私ニ料簡スル
ニ。五ノ義アリ。一ニハ親疎對。二ニハ近遠
對。三ニハ有間無間對。四ニハ回向不回向對。
五ニハ純雜對也。ハシメニ親疎對者。正行
ヲ修スルハ。阿彌陀佛ニ親。雜行ヲ修スレ
ハ。カノ佛ニ疎ナリ。スナハチ疏ニ云ク。衆
生起行。口常稱佛。佛即聞之。身常禮敬佛。佛
即見之。心常念佛。佛即知之。衆生憶念佛者。
佛亦憶念衆生。彼此三業不相捨離。故名親
縁ト云。ソノ雜行ノ者。口ニ佛ヲ稱セサレ
ハ。佛スナハチ聞タマハス。身ニ佛ヲ禮セ
サレハ。佛スナハチ見タマハス。心ニ佛ヲ
念セサレハ。佛シロシメサス。佛ヲ憶念セ
サレハ。佛又憶念シタマハス。彼此三業
常捨離ス。カルカユヘニ疎トナツクル也。
次ニ近遠對者。正行ハカノ佛ニ近。雜行ハ
カノ佛ニ遠ナリ。疏又云。衆生欲見佛。佛即
應念現在目前。故名近縁ト云。雜行者。佛ヲ
見タテマツラムトネカハサレハ。佛スナ
ハチ念ニ應シタマハス。目ノ前ニモ現シ
タマハス。カルカユヘニ遠トナツクル也。
タタ常ノ義ニハ。親近ト申シツレハ。一事ノ
ヤウニコソハ聞トモ。善導和尚ハ。親ト近
トノコトシト。別シテハ釋シタマヘリ。コ
レニヨテ。今又親近ヲ分テ二トスルナリ。
次ニ有間無間對者。無間者。正行ヲ修スル
ニ。カノ佛ニオイテ憶念無間ナルカユヘ
ニ。文ニ憶念不斷名爲無間ト云コレ也。有
間者。雜行ノモノハ。阿彌陀佛ニココロヲ
カクル事。間オホシ。カルカユヘニ。文ニ心
常間斷ト云コレ也。次ニ回向不回向對者。
正行ハ。回向ヲモチヰサレトモ。自然ニ
往生ノ業トナル。スナハチ疏ノ第一ニ云ク。
今觀經ノ中ニ。十聲稱佛。即有十願十行具
足。云何具足。言南無者即是歸命。亦是發
願回向之義也。言阿彌陀佛者即是其行。以
斯義故必得往生。不回向トイフ。雜行ハ。カ
ナラス回向ヲモチヰルトキ。往生ノ業ト
ナル。モシ回向セサレハ。往生ノ業トナラ
ス。カルカユヘニ文ニ。雖可回向得生ト云
コレ也。次ニ純雜對者。正行ハ純ニ極樂ノ
行也。餘ノ人天オヨヒ三乘等ノ業ニ通セ
ス。又十方淨土ノ業因トモナラス。カル
カユヘニ純トナツク。雜行ハ純極樂ノ行ニ
ハアラス。人天ノ業因ニモ通シ。三乘ノ得
果ニモ通シ。又十方淨土ノ往生ノ業因ト
モナルカユヘニ。雜ト云也。シカレハ。コノ
五ノ相對ヲモテ二行ヲ判スルニ。西方ノ
往生ヲネカハム人ハ。雜行ヲステテ正行
ヲ修スヘキ也。又善導和尚往生禮讃ノ序
ニ。コノ專雜ノ得失ヲ判シタマヘリ。專修ノ
者ハ。十即十生。百即百生。雜修ノ者ハ。百ニ
一二。千ニ五三ト云。ナニヲモテノユヘニ。專
修ノ者ハ雜縁ナシ。正念ヲエタルカユヘ
ニ。又彌陀ノ本願ニ相應スルカユヘニ。又
釋迦ノ教ニタカハサルカユヘニ。佛語ニ隨
順セルカユヘニト云リ。雜修ノ者ハ雜縁
亂動ス。正念ヲ失スルカユヘニ。又佛ノ本
願ト相應セサルカユヘニ。マタ佛語ニシ
タカハサルカユヘニ。釋迦ノ教ニ違スル
カユヘニ。又係念相續セサルカユヘニ。回
願慇重眞實ナラサルカユヘニ。乃至名利
ト相應スルカユヘニ。又自ノ往生ヲ障ル
ノミニアラス。他ノ往生ノ正行ヲ障ルカ
ユヘニト云。シカノミナラス。ヤカテソノ
文ノツツキニ。余コノコロ諸方ノ風俗ヲ
見聞スルニ。解行不同ニシテ。專雜異アリ。
シカルニ。專修ノ者ハ。十ハ十ナカラ生シ。雜
修ノ者ハ。千中一モナシトノタマヘリ。サ
キノ義ヲモテ判シ候ニ。千中五三トユル
シタマヘリトイヱトモ。今正見ニハ一モ
ナシトノタマヘル也。ソノトキノ行者タ
ニモ。雜行ニテ往生スル者。ナカリケルニ
コソ候ナレ。マシテイヨイヨ時モ機モク
タリタル當世ノ行者。雜行往生ト云事ハ。
オモヒスツヘキ事也。タトヒマタ往生ス
ヘキニテモ。百中一二。千中五三ノ内ニテ
コソ候ハムスレ。キワメテ不定ノ事也。百
人ニ九十九人ハ往生シテ。今一人スマシト
キカムタニモ。モシソノ一人ニアタル身
ニテモヤアルラムト。不審ニ不定ニオホ
エヌヘシ。イカニイハムヤ百カ一二ノ内ニ一
定入ヘシトオモハム事。カタクソ候ハム
スル。シカレハ百即百生ノ專修ヲステテ。
千中無一ノ雜行ヲ執スヘカラス。唯一向
ニ念佛ヲ修シテ。雜行ヲスツヘキナリ。コ
レスナハチ。コノ經ノ大意也。望佛本願。意
在衆生一向專稱彌陀佛名ト云。返返モ本
願ヲアヲキテ。念佛ヲ修スヘキ也ト
建保四年四月二十六日。薗城寺長吏。公胤
僧正之夢ニ空中ニ告云。源空本地身。大勢至菩
薩。衆生教化故。來此界度度ト
カノ僧正ノ弟子大進ノ公實名ヲシラス
記之
| 康元元年 | 丙辰 | 十月十三日書之 |
| 愚禿親鸞 | 八十 四歳 | 書之 |
| 聖人御在生之時記註之 | 外見ニオヨハサ レ祕藏スヘシ |
建久九年正月一日記
一日櫻梅ノ法橋教慶ノモトヨリ。カヘリ
タマヒテノチ。未申ノ時ハカリ。恒例正月
七日念佛始行セシメタマフ。一日明相少
シコレヲ現シタマフ。自然ニアキラカナ
| リト | 云云 | 二日水想觀自然ニコレヲ成就シ |
| タマフ | 云云 | 總シテ念佛七箇日ノ内ニ。地 |
フト。二月四日ノ朝。瑠璃地分明ニ現シ
タマフト云。六日後夜ニ。瑠璃宮殿ノ相。コ
レヲ現スト云。七日朝ニ。マタカサネテコ
レヲ現ス。スナハチコレ宮殿ヲモテ。ソノ
相影現シタマフ。總シテ水想･地想･寶樹･寶
池･寶殿ノ五ノ觀。始正月一日ヨリ。二月七
日ニイタルマテ。三十七箇日ノアヒタ。毎
日七萬念佛。不退ニコレヲツトメタマフ。
コレニヨリテ。コレラノ相ヲ現ストノタ
マヘリ
始二月二十五日ヨリ。アカキトコロニシ
テ目ヲヒラク。眼根ヨリ赤袋瑠璃ノ壺出
生ス。コレヲミル。ソノマヘニシテ。目ヲ閉
テコレヲミル。目ヲ開ケハスナハチ失スト云
リ
二月二十八日。病ニヨテ念佛コレヲ退ス。
一萬返アルイハ二萬。右眼ニソノノチ光
明アリ。ハナタナリ。マタ光アリ。ハシアカ
シ。マタ眼ニ琉璃アリ。ソノ形瑠璃ノ壺ノ
コトシ。琉璃ニ赤花アリ。寶形ノコトシ。マ
タ日入テノチ。イテテミレハ。四方ミナ方
コトニ。赤ク青キ寶樹アリ。ソノ高サタマ
リナシ。高下ココロニシタカフテ。アルイ
ハ四五丈。アルイハ二三十丈ト云
八月一日。本ノコトク六萬返コレヲハシ
ム。九月二十二日朝。地想分明ニ現ス。周圍
七八段ハカリ。ソノノチ。二十三日ノ後夜。
| ナラヒニ朝ニ。マタ分明ニコレヲ現スト | 云 |
| 云 |
住座臥ココロニシタカフテ。任運ニコレ
| ヲ現スト | 云云 |
キク。マタコトノオトヲキク。フヱノオト
ヲキク。ソノノチ。日ニシタカフテ。自在ニ
コレヲキク。シヤウノオトラ。コレヲキ
ク。サマサマノオト。正月五日三度。勢至菩
薩ノ御ウシロニ。丈六ハカリノ勢至ノ御
面像現セリ。コレヲモテコレヲ推スル。西
ノ持佛堂ニテ。勢至菩薩ノ形像ヨリ。丈
六ノ面ヲ出現セリ。コレスナワチコレヲ
推スルニ。コノ菩薩ステニモテ念佛法門
ノ所證ノタメノユヘニ。イマ念佛者ノタ
メニ。ソノカタチヲ示現シタマヘリ。コレ
ヲウタカフヘカラス。同六日。ハシメテ座
處ヨリ四方一段ハカリ。青瑠璃ノ地ナリ
| ト | 云云 | 今ニオイテハ。經釋ニヨテ往生ウ |
ウタカヒナシトイヘルカユヘニトイヘリ。
コレヲオモフヘシ
建仁二年十二月二十八日。高畠ノ少將キ
タレリ。持佛堂ニシテコレニ謁ス。ソノア
シタ。例ノコトク念佛ヲ修シタマフ。阿彌
陀佛ヲミマイラセテノチ。障子ヨリスキ
トホリテ。佛ノ面像ヲ現シタマフ。大サ丈六
ノコトシ。佛面スナワチマタ隱レタマヒ了
ヌ。二十八日午時ノ事也
元久三年正月四日。念佛ノアヒタ。三尊大
身ヲ現シタマフ。マタ五日。三尊大身ヲ現
シタマフ
聖人ノミツカラノ御記文ナリ
| 法然聖人御夢想記 | 善導 御事 |
メテ高シ。南北ナカクトオシ。西方ニムカ
ヘリ。山ノ根ニ大河アリ。傍ノ山ヨリ出タ
リ。北ニ流タリ。南ノ河原眇眇トシテ。ソノ
邊際ヲシラス。林樹滋滋トシテ。ソノカキ
リヲシラス。ココニ源空タチマチニ山腹
ニ登テ。ハルカニ西方ヲミレハ。地ヨリ已
上五十尺ハカリ上ニ昇テ。空中ニヒトム
ラノ紫雲アリ。以爲。何所ニ往生人ノアル
ソ哉。ココニ紫雲トヒキタリテ。ワカトコ
ロニイタル。希有ノオモヒヲナストコロ
ニ。スナハチ紫雲ノ中ヨリ。孔雀･鸚鵡等ノ
衆鳥トヒイテテ。河原ニ遊戲ス。沙ヲホリ濱ニ
戲ル。コレラノ鳥ヲミレハ。凡鳥ニアラス。身
ヨリ光ヲハナチテ。照曜キハマリナシ。ソ
ノノチトヒ昇テ。本ノコトク紫雲ノ中ニ
入畢ス。ココニコノ紫雲。コノトコロニ
住セス。コノトコロヲスキテ。北ニムカフ
テ。山河ニカクレ了ス。マタ以爲。山ノ東ニ
往生人ノアルニ哉。カクノコトク思惟ス
ルアヒタ。須臾ニカヘリキタリテ。ワカマ
ヘニ住ス。コノ紫雲ノ中ヨリ。クロクソメ
タル衣著タル僧一人。トヒクタリテ。ワカタチ
タルトコロノ下ニ住立ス。ワレスナハチ。
恭敬ノタメニアユミオリテ。僧ノ足ノシ
モニタチタリ。コノ僧ヲ瞻仰スレハ。身上
半ハ肉身。スナハチ僧形也。身ヨリシモ半
ハ金色ナリ。佛身ノコトク也。ココニ源空
合掌低頭シテ。問テマフサク。コレ誰人
ノ來リタマフソ哉ト。答テ曰。ワレハコレ
善導也ト。マタ問テマフサク。ナニノユ
ヘニ來タマフソ哉。マタ答曰。余不肖ナリ
トイヱトモ。ヨク專修念佛ノコトヲ言。ハ
ナハタモテ貴トス。タメノユヘニモテ來
也。マタ問テ言ク。專修念佛ノ人。ミナモテ
爲往生哉ト。イマタソノ答ヲウケタマハ
ラサルアヒタニ。忽然トシテ夢覺了。或人
念佛之不審ヲ。故聖人ニ奉問曰。第二十ノ
願ハ。大綱ノ願ナリ。係念トイフハ。三生ノ
内ニカナラス果遂スヘシ。假令通計スル
| ニ。百年ノ内ニ往生スヘキ也 | 云云 | コレ九品 |
ニ出サルココロ。カクノコトク釋セリ
又阿彌陀經ノ已發願等ハ。コレ三生之證
也ト。又云。阿彌陀經等ハ。淨土門ノ出世ノ
本懷ナリ。法華經者。聖道門ノ出世ノ本懷
| ナリ | 云云 | 望トコロハコトナリ。疑ニ足サ |
又云。我安置スルトコロノ一切經律論ハ。
コレ觀經所攝ノ法也。又云。地藏等ノ諸菩
薩ヲ蔑如スヘカラス。往生以後伴侶タル
ヘキカユヘナリト
又云。近代ノ行人。觀法ヲモチヰルニ。アタ
ハス。モシ佛像等ヲ觀セムハ。運慶･康慶カ
所造ニスキシ。モシ寶樹等ヲ觀セハ。櫻梅
桃李之花菓等ニスキシ。シカルニ彼佛今
現在成佛等ノ釋ヲ信シテ。一向ニ名號ヲ稱
スヘキ也ト云。タタ名號ヲトナフルニ。三
心オノツカラ具足スル也ト云リ
又云。念佛ハヤウナキヲモテナリ。名號ヲ
トナフルホカ。一切ヤウナキ事也ト云リ
又云。諸經ノ中ニトクトコロノ極樂ノ莊
嚴等ハ。ミナコレ四十八願成就ノ文也。念
佛ヲ勸進スルトコロハ。第十八ノ願成就ノ
文ナリ。觀經ノ三心。小經ノ一心不亂。大經
ノ願成就ノ文ノ信心歡喜ト。同流通ノ歡
喜踊躍ト。ミナコレ至心信樂之心也ト云
リ。コレラノ心ヲモテ。念佛ノ三心ヲ釋シ
| タマヘル也ト | 云云 |
定者息慮凝心ナリ。散者廢惡修善ナリ。弘
願者。如大經説。一切善惡凡夫得生トイヘ
リ。予コトキハ。サキノ要門ニタエス。ヨテ
ヒトヘニ弘願ヲ憑也ト云リ
又云。導和尚。深心ヲ釋セムカタメニ。餘ノ
二心ヲ釋シタマフ也。經ノ文ノ三心ヲミ
ルニ。一切行ナシ。深心ノ釋ニイタリテ。ハ
シメテ念佛行ヲアカストコロ也
又云。往生ノ業成就。臨終平生ニワタルヘ
シ。本願ノ文ニ別ニヱラハサルカユヘニ
ト云リ。惠心ノココロ平生ノ見ニワタル
也ト云リ
又云。往生ノ業成ハ。念ヲモテ本トス。名號
ヲ稱スルハ。念ヲ成セムカタメ也。モシ聲
ヲハナルルトキ。念スナワチ懈怠スルカ
ユヘニ。常恒ニ稱唱スレハ。スナハチ念相
續ス。心念ノ業生ヲヒクカユヘ也
又云。稱名ノ行者。常途念佛ノトキ。不淨ヲ
ハハカルヘカラス。相續ヲ要トスルカユ
ヘニ。如意輪ノ法ハ。不淨ヲハハカラス。彌
陀･觀音一體不二也。コレヲオモフニ。善導
ノ別時ノ行ニハ。清淨潔齋ヲモチヰル尋
常ノ行。コレニコトナルヘキ歟。惠心ノ不
論時處諸縁之釋。永觀ノ不論身淨不淨之
釋。サタメテ存スルトコロアル歟ト云
又云。善導ハ。第十八ノ願。一向ニ佛號ヲ稱
念シテ往生スト云リ。惠心ノココロ。觀念
稱念等。ミナコレヲ攝スト云リ。モシ要集
ノココロニヨラハ。行者ニオイテハ。コノ
名ヲアヤマチテム歟ト
又云。第十九ノ願ハ。諸行之人ヲ引入シテ。
念佛之願ニ歸セシメムト也
又云。眞實心トイフハ。行者願往生ノ心ナ
リ。矯飾ナク表裏ナキ相應ノ心也。雜毒虚
假等ハ。名聞利養ノ心也。大品經云。捨ヨト利
| 養名聞 | 文 | 大論ニ述此文之下ニ云。當業捨 |
也。翻内矯外者。假令外相不法。内心眞實
| 願往生者。可遂往生也 | 云云 | 深心トイフ |
他門之相也。ヨテクハシク釋セスト。觀無
量壽經ニ。若有衆生願生彼國者。發三種
心即便往生。何等爲三。一者至誠心。二者
深心。三者迴向發願心。具三心者必生彼
國トイヘリ。往生禮讃ニ。釋三心畢云。具
此三心必得往生也。若少一心即不得
生。然則尤可具三心也。一至誠心者。眞實
心也。身行禮拜。口唱名號。意想相好。皆用
實心。總而言之。厭離穢土。忻求淨土。修諸
行業。皆以眞實心可勤修之。外現賢善精
進之相。内懷カハ愚惡懈怠之心。所修行業日
夜十二時無間行ストモ之不得往生。外顯愚
惡懈怠之形。内住賢善精進之念修行之
者。雖一時一念其行不虚必得往生。是名
至誠心。二深心者。深信之心也。付之有二。一
者信我是罪惡不善之身。無始已來輪回六
道無往生縁。二信雖罪人以佛願力爲レハ
強縁得往生。無疑無慮。付此亦有二。一
就人立信。二就行立信。就人立信者。出
離生死道雖多。大分有二。一聖道門。二淨
土門。聖道門者。於此娑婆世界。斷煩惱證
菩提道也。淨土門者。厭此娑婆世界。忻極
樂修善根門也。雖有二門。閣聖道門歸
淨土門。然若有人。多引經論。罪惡凡夫不ト
得往生。雖聞此語。不生退心彌増信心。
所以者何。罪障凡夫往生スルハ淨土。釋尊誠言。
非凡夫妄説。我已信佛言深忻求淨土。設
諸佛菩薩來。罪障凡夫言不生淨土。不可
信之。何以故。菩薩佛弟子。若實是菩薩者。
不可乖佛説。然已違佛説言不得往生。
知非眞菩薩。是故不可信。マタ佛是同體
大悲。實是佛者。不可違釋迦説。然則阿彌
陀經説。一日七日念阿彌陀佛名號必得往
生者。六方恒沙諸佛同釋迦佛。不ト虚證誠
之。然今背釋迦説云不得往生。故知非眞
佛。是天魔變化。以是義故不可依信。佛菩
薩説尚以不可信。何況餘説哉。汝等所執
雖大小異。同期佛果。穢土修行ハ聖道意。我
等所修正雜不トモ同。共忻極樂。往生行業ハ淨
土門意。聖道者是汝有縁行。淨土門者我有
縁行。不可以此難彼。不可以彼難此。如
是信。是名就人立信。次就行立信者。往
生極樂行雖區。不出二種。一者正行。二者
雜行。正行者於阿彌陀佛之親行也。雜行者
於阿彌陀佛之疎行也。先正行者。付之有
五。一謂讀誦。謂讀三部經也。二謂觀極樂
依正也。三禮拜。謂禮彌陀佛也。四稱名。謂
稱彌陀名號也。五讃嘆供養。謂讃嘆供養
阿彌陀佛也。以此五合爲二。一者一心專
念彌陀名號。行住座臥不問時節久近。念念
不捨者。是名正定之業。順彼佛願故。二者
先五中除稱名已外禮拜讀誦等。皆名助
業。次雜行者。除先五種正助二行已外諸讀
誦大乘･發菩提心･持戒･勸進行等一切行也。
付此正雜二行有五種得失。一親疎對。謂
正行親阿彌陀佛。雜行疎阿彌陀佛。二近遠
對。謂正行近阿彌陀佛。雜行遠阿彌陀佛。
三有間無間對。謂正行係念無間。雜行係念
間斷。四廻向不廻向對。謂正行不ルニ用廻向
自爲往生業。雜行不廻向時不爲往生業。
五純雜對。謂正行純往生極樂業也。雜行不
爾。通十方淨土乃至人天業也。如此信者。
名就行立信。是名深心三廻向發願心者。
過去及今生身口意業所修一切善根。以眞
實心廻向極樂忻求往生也
又云。善導與惠心相違義事
善導ハ色相等ノ觀法オハ觀佛三昧ト云ヘ
リ。稱名念佛オハ念佛三昧ト云ヘリ。惠心
ハ稱名･觀法合シテ念佛三昧ト云ヘリ
又云。餘宗ノ人。淨土門ニソノ志アラムニ
ハ。先ツ往生要集ヲモテ。コレヲオシフヘシ。
ソノユヘハ。コノ書ハ。モノニココロエテ。
難ナキヤウニ。ソノ面ヲミエテ。初心ノ人ノ
タメニヨキ也。雖然眞實ノ底ノ本意ハ。稱
名念佛ヲモテ。專修專念ヲ勸進シタマヘ
リ。善導ト一同也
又云。餘宗ノ人。淨土宗ニソノココロサシ
アラムモノハ。カナラス本宗ノ意ヲ棄ヘ
キ也。ソノユヘハ。聖道淨土ノ宗義各別ナ
ルユヘ也トノタマヘリ
法然聖人臨終行儀
建暦元年十一月十七日。藤中納言光親卿
ノ奉ニテ。院宣ニヨリテ。十一月二十日
戌ノ時ニ。聖人宮ヘカヘリ入タマヒテ。東
山大谷トイフトコロニスミ侍ニ。同二
年正月二日ヨリ。老病ノ上ニ。ヒコロノ不
食。オホカタコノ二三年ノホトオイホレ
テ。ヨロツモノワスレナトセラレケルホ
トニ。コトシヨリハ。耳モキキ。ココロモア
キラカニシテ。トシコロナラヒオキタマ
ヒケルトコロノ法文ヲ。時時オモヒイタ
シテ。弟子トモニムカヒテ談義シタマヒ
ケリ。マタコノ十餘年ハ。耳オホロニシテ。
ササヤキ事オハ。キキタマハス侍リケル
モ。コトシヨリハ。昔ノヤウニキキタマヒ
テ。例ノ人ノコトシ。世間ノ事ハワスレタマ
ヒケレトモ。ツネハ往生ノ事ヲカタリテ。
念佛ヲシタマフ。マタアルイハ高聲ニトナ
フルコト一時。アルイハマタ夜ノホト。オ
ノツカラネフリタマヒケルモ。舌口ハウ
コキテ。佛ノ御名ヲトナエタマフコト。小
聲聞ヘ侍リケリ。アル時ハ舌口ハカリウコキ
テ。ソノ聲ハキコエヌコトモ。ツネニ侍リケ
リ。サレハ口ハカリウコキタマヒケルコ
トオハ。ヨノ人ミナシリテ。念佛ヲ耳ニキ
キケル人。コトコトク。キトクノオモヒヲ
ナシ侍リケリ。マタ同正月三日戌ノ時ハカ
リニ。聖人看病ノ弟子トモニツケテノタ
マハク。ワレハモト天竺ニアリテ。聲聞僧
ニマシワリテ。頭陀ヲ行セシミノ。コノ日
本ニキタリテ。天台宗ニ入テ。マタコノ念
佛ノ法門ニアエリト。ノタマヒケリ。ソノ
時看病ノ人ノ中ニ。ヒトリノ僧アリテ。ト
ヒタテマツリテ申スヤウ。極樂ヘハ往生
シタマフヘシヤト申ケレハ。答テノタマ
ハク。ワレハモト極樂ニアリシミナレハ。
サコソハアラムスラメト。ノタマヒケリ。
又同正月十一日辰時ハカリニ。聖人オキ
ヰテ。合掌シテ高聲念佛シタマヒケルヲ。
聞人ミナナミタヲナカシテ。コレハ臨終
ノ時カト。アヤシミケルニ。聖人看病ノ人
ニツケテノタマハク。高聲ニ念佛スヘシ
ト侍ケレハ。人人同音ニ高聲念佛シケル
ニ。ソノアヒタ。聖人ヒトリ唱テノタマハ
ク。阿彌陀佛ヲ恭敬供養シタテマツリ。名
號ヲトナエムモノ。ヒトリモムナシキ事
ナシト。ノタマヒテ。サマサマニ阿彌陀佛
ノ功徳ヲ。ホメタテマツリタマヒケルヲ。
人人高聲ヲトトメテキキ侍リケルニ。ナホ
ソノ中ニ。一人タカクトナヘケレハ。聖人
イマシメテノタマフヤウ。シハラク高聲
ヲトトムヘシ。カヤウノコトハ。時オリニ
シタカフヘキナリト。ノタマヒテ。ウルワ
シクヰテ合掌シテ。阿彌陀佛ノオハシマ
スソ。コノ佛ヲ供養シタテマツレ。タタイ
マハオホエス。供養ノ文ヤアル。エサセヨ
ト。タヒタヒノタマヒケリ。マタアル時。弟
子トモニカタリテノタマハク。觀音勢至
菩薩聖衆マヘニ現シタマフオハ。ナムタ
チオカミタテマツルヤト。ノタマフニ。弟
子等エミタテマツラスト申ケリ。マタソ
ノノチ。臨終ノレウニテ。三尺ノ彌陀ノ像
ヲスエタテマツリテ。弟子等申ヤウ。コ
ノ御佛ヲオカミマイラセタマフヘシト申
侍リケレハ。聖人ノタマハク。コノ佛ノホカ
ニ。マタ佛オハシマスカトテ。ユヒヲモテ。
ムナシキトコロヲサシタマヒケリ。按内
ヲシラヌ人ハ。コノ事ヲココロエス侍リ。シ
カルアヒタ。イササカ由緒ヲシルシ侍ルナ
リ。凡ソコノ十餘年ヨリ。念佛ノ功ツモ
リテ。極樂ノアリサマヲミタテマツリ。佛
菩薩ノ御スカタヲ。ツネニミマイラセタ
マヒケリ。シカリトイエトモ。御意ハカリ
ニシリテ。人ニカタリタマハス侍ルアヒタ。
イキタマヘルホトハ。ヨノ人ユメユメシ
リ侍ラス。オホカタ眞身ノ佛ヲミタテマツ
リタマヒケルコト。ツネニソ侍リケル。マタ
御弟子トモ。臨終ノレウノ佛ノ御手ニ。五
色ノイトヲカケテ。コノヨシヲ申侍リケレ
ハ。聖人コレハオホヤウノコトノイハレ
ソ。カナラスシモサルヘカラストソ。ノタ
マヒケル
又同二十日巳時ニ。大谷房ノ上ニアタリ
テ。アヤシキ雲。西東ヘナオクタナヒキテ
侍ル中ニ。ナカサ五六丈ハカリシテ。ソノ中
ニマロナルカタチアリケリ。ソノイロ五
色ニシテ。マコトニイロアサヤカニシテ。
光アリケリ。タトヘハ。繪像ノ佛ノ圓光ノ
コトクニ侍リケリ。ミチヲスキユク人人。ア
マタトコロニテミ。アヤシミテオカミ侍リ
ケリ
又同日午時ハカリニ。アル御弟子申テイ
フヤウ。コノ上ニ紫雲タナヒケリ。聖人ノ
往生ノ時チカツカセタマヒテ侍ルカト申シ
ケレハ。聖人ノタマハク。アハレナル事カ
ナト。タヒタヒノタマヒテ。コレハ一切衆
生ノタメニナトシメシテ。スナワチ誦シ
テノタマハク。光明遍照十方世界念佛衆
生攝取不捨ト。三返トナヘタマヒケリ。マ
タソノヒツシノ時ハカリニ。聖人コトニ
眼ヲヒラキテ。シハラクソラヲミアケテ。
スコシモメヲマシロカス。西方ヘミオク
リタマフコト。五六度シタマヒケリ。モノ
ヲミオクルニソニタリケル。人ミナアヤ
シミテ。タタ事ニハアラス。コレ證相ノ現
シテ。聖衆ノキタリタマフカト。アヤシミ
ケレトモ。ヨノ人ハ。ナニトモココロエス
侍リケリ。オホヨソ聖人ハ。老病日カサナリ
テ。モノヲクハスシテ。ヒサシウナリタマ
ヒケルアヒタ。イロカタチモオトロエテ。
ヨハクナリタマフカユヘニ。メヲホソメ
テ。ヒロクミタマハヌニ。タタイマ。ヤヤヒ
サシクアオキテ。アナカチニヒラキミタ
マフコトコソ。アヤシキコトナリトイヒ
テノチ。ホトナクカホノイロモ。ニワカ
ニ變シテ。死相タチマチニ現シタマフ時。
御弟子トモ。コレハ臨終カトウタカヒテ。
オトロキサワクホトニ。レイノコトクナ
リタマヒヌ。アヤシクモ。ケフ紫雲ノ瑞相
アリツル上ニ。カタカタカヤウノコトト
モアルヨト。御弟子タチ申侍リケリ
又同二十三日ニモ。紫雲タナヒテ侍ルヨシ。
ホノカニキコエケルニ。同二十五日ムマ
ノ時ニ。マタ紫雲オホキニタナヒキテ。西
ノ山ノ水ノ尾ノミネニ。ミエワタリケル
ヲ。樵夫トモ十餘人ハカリミタリケルカ。
ソノ中ニ一人マイリテ。コノヨシクワシク
申ケレハ。カノマサシキ臨終ノ午ノ時ニ
ソアタリケル。マタウツマサニマイリテ。
下向シケルアマモ。コノ紫雲オハオカミ
テ。イソキマイリテ。ツケ申侍リケル。スヘテ
聖人念佛ノツトメオコタラスオハシケル
上ニ。正月二十三日ヨリ二十五日ニイタ
ルマテ。三箇日ノアヒタ。コトニツネヨリ
モ。ツヨク高聲ノ念佛ヲ申タマヒケル事。
或ハ一時。或ハ半時ハカリナトシタマヒ
ケルアヒタ。人ミナオトロキサワキ侍ル。カ
ヤウニテ二三度ニナリケリ。マタオナシ
キ二十四日ノ酉ノ時ヨリ。二十五日巳時マ
テ。聖人高聲ノ念佛ヲヒマナク申タマヒ
ケレハ。弟子トモ番番ニカワリテ。一時ニ
五六人ハカリ。コヱヲタスケ申ケリ。ステ
ニ午時ニイタリテ。念佛シタマヒケルコ
ヱ。スコシヒキクナリニケリ。サリナカ
ラ。時時マタ高聲ノ念佛マシワリテ。キコ
エ待リケリ。コレヲキキテ。房ノニワノマヘ
ニ。アツマリキタリタル結縁ノトモカラ。
カスヲシラス。聖人ヒコロツタヘモチタ
マヒタリケル。慈覺大師ノ九條ノ御袈裟
ヲカケテ。マクラヲキタニシ。オモテヲ西
ニシテ。フシナカラ佛號ヲトナヘテ。ネ
フルカコトクシテ。正月二十五日午時ノ
ナカラハカリニ。往生シタマヒケリ。ソノ
ノチ。ヨロツノ人人キオイアツマリテ。オ
カミ申コトカキリナシ
一。聖人ノ御事。アマタ人人。夢ニミタテマツ
リケル事
中宮ノ大進兼高ト申ス人。ユメニミタテマ
ツルヤウ。或人モテノホカニオホキナル
サウシヲミルヲ。イカナルフミソト。タチ
ヨリテミレハ。ヨロツノ人ノ臨終ヲシル
セル文ナリ。聖人ノ事ヤアルトミルニ。オ
クニ入リテ。光明遍照十方世界念佛衆生
攝取不捨トカキテ。コノ聖人ハコノ文ヲ
誦シテ往生スヘキナリト。シルセリトミ
テ。ユメサメヌ。コノ事。聖人モ御弟子トモ
モ。シラスシテスクストコロニ。コノ聖人
サマサマノ不思議ヲ現シタマフトキ。ヤ
マヒニシツミテ。ヨロツ前後モシラスト
イヱトモ。聖人コノ文ヲ三遍誦シタマヒ
ケリ。カノ人ノムカシノユメニオモヒア
ワスルニ。コレ不思議トイフヘシ。カノ人
フミヲモチテ。カノユメノ事ヲツケ申タ
リケルヲ。御弟子トモ。ノチニヒラキミ侍リ
ケリ。件ノ文コトナカキユヘニ。コレニハ
カキイレス
一。四條京極ニスミ侍リケル。薄師字太郎マサ
イヱト申スモノ。コトシノ正月十五日ノ
夜。ユメニミルヤウ。東山大谷ノ聖人ノ御
房ノ御堂ノ上ヨリ。ムラサキ雲タチノホ
リテ侍リ。アル人ノイフヤウ。アノクモオ
カミタマヘ。コレハ往生ノ人ノクモナリト
イフニ。ヨロツノ人人アツマリテオカム
トオモヒテ。ユメサメヌ。アクル日ソラハ
レテ。ミノトキハカリニ。カノ堂ノ上ニア
タリテ。ソラノ中ニ五色ノクモアリ。ヨロ
ツノ人人。トコロトコロニシテ。コレヲミ
ケリ
一。三條小川ニ。陪從信賢カ後家ノ尼ノモ
トニ。オサナキ女子アリ。マコトニ信心ア
リテ。念佛ヲ申侍リケリ。同二十四日ノ夜。
コトニココロヲスマシテ。高聲ニ念佛シ
ケルニ。乘願房ト申スヒシリ。アカラサマニ
タチヤトリテ。コレヲキキケリ。夜アケテ。
カノ小女。コノ乘願房ニカタリテイハク。
法然聖人ハ。ケウ二十五日ニ。カナラス往
生シタマフヘキナリト申ケレハ。コノ人
申サク。ナニ事ニテカヤウニハ。シリタマ
ヘルソト。タツヌルニ。コノ小女申ヤウ。コ
ヨヒノユメニ。聖人ノ御モトニマイリテ
侍リツレハ。聖人ノオホセラレツルヤウ。ワ
レハアス往生スヘキナリ。モシコヨヒ。ナ
ムチキタラサラマシカハ。ワレヲハミサ
ラマシ。ヨクキタレリト。ノタマヒツルナ
リト申ケリ。シカルニ。ワカミニトリテハ。
イササカイタミオモフ事侍リ。ソノユヘ
ハ。ワレイカニシテカ。往生シ侍ルヘキト。ト
ヒタテマツリシカハ。聖人オシヘタマフ
事アリキ。ワカミニトリテ。タエカタク。カ
ナイカタキ事トモアリキ。ソノユヘハ。マ
ツ出家シテ。ナカク世間ノ事ヲステテ。シ
ツカナルトコロニテ。一向ニ後世ノツト
メヲ。イタスヘキヨシナリト侍リキ。シカル
ニ。ケフノムマノ時ニ。聖人往生シタマフ
ヘキ事。コノユメニステニカナヘリト申
侍リケリ
一。白川ニ准后ノ宮ノ御邊ニ侍リケル。三河
ト申ス女房ノ。ユメニミルヤウ。同二十四
日ノ夜。聖人ノ御モトニマイリテオカミ
ケレハ。四壁ニ錦ノ帳ヲヒケリ。色サマサ
マニアサヤカニシテ。ヒカリアル上ニ。ケ
フリタチミテリ。ヨクヨクコレヲミレハ。
ケフリニハアラス。紫雲トイフナルモノ
ハ。コレヲイフカ。イマタミサルモノヲミ
ツルカナトオモヒテ。不思議ノオモヒヲ
ナストコロニ。聖人往生シタマヘルカト
オホエテ。ユメサメヌ。夜アケテアシタニ。
僧順西トイフモノニ。コノ事トモヲカタ
リテノチ。ケフノムマノ時ニ。聖人往生シ
タマヒヌトキキケリ
一。カマクラノモノニテ。來阿彌陀佛ト申
スアマノ。信心コトニフカクテ。仁和寺ニ
スミケル。同二十四日ノ夜。ユメニミルヤ
ウ。ヨニタウトキヒシリキタレリ。ソノカ
タチ。エサウノ善導ノ御スカタニニタリ
ケリ。ソレヲ善導カトオモフホトニ。ツ
ケテノタマフヤウ。法然聖人ハ。アス往生
シタマフヘシ。ハヤクユキテオカミタテ
マツレト。ノタマフトミテ。ユメサメヌ。カ
ノアマ。ヤカテオキヰテ。アカ月クヰモノ
ナトイトナミテ。ワリコトイフモノモタ
セテ。イソキイソキイテタチテ。聖人ノ御
モトヘマイルトコロニ。下人トモオノオノ
申スヤウ。ケウハサシタル大事侍リ。コレ
ヲウチステテ。イツカタヘアリキタモフ
ソ。ハヤクケウハトマリタマフヘシト。イ
ヒケレトモ。カカルユメヲミツレハ。カノ
聖人ノ往生ヲオカミニマイラムトテ。ヨ
ロツヲフリステテイソクナリ。サラニトト
マルヘカラストイヒテ。仁和寺ヨリホノ
ホノニイテテ。東山大谷ノ房ニマイリテ。
ミタテマツレハ。ケニモソノ日ノムマノ
時ニ。往生シタマヘリ。コノユメハ。聖人イ
マタ往生ノサキニ。キキオヨヘル人人ア
マタ侍リケリ。サラニウタカヒナキコトナ
リ。返返コノ事フシキノ事ナリ。オホヨソ
二十五日ニ。聖人ノ往生ヲオカミタテマ
ツラムトテ。マイリアツマリタル人。サ
カリナル市ノコトク侍リケリ。ソノ中ニ。ア
ル人ノイフヤウ。二十三日ノ夜ノユメニ
ミルヤウ。聖人キタリテ。ワレハ二十五日
ノムマノ時ニ往生スヘキナリト。ノタマ
フトオモヒテ。ユメサメヌ。コノコトノマ
コトヲアキラメムトテ。マイリタルヨシ
申ケリ。コレナラス。アルイハキノフノ夜。
コノツケアリトイフモノモアリ。アツマ
リタル人人ノ中ニ。カヤウノコトトモイ
フ人オホク待リ。クワシクシルシ申侍ラス｣
一。東山一切經ノ谷ニ。大進ト申ス僧ノ弟子
| ニ。歳十六ナル兒ノ | 袈裟 | トイフユメニ。同 |
オリタルオホチアリ。イサコヲチラシテ。
ムシロヲミチノ中ニシケリ。左右ニモノ
ミル人トオホシクテ。オホクアツマレリ。
ユユシキコトノアラムスルソトオホエ
テ。ソレモトモニミ侍ラムトテ。ミチノカ
タワラニ。タチヨリテ侍ルホトニ。天童二人
タマノハタヲサシテ。西ヘユキタマヘリ。
ソノウシロニ。マタ法服キタル僧トモ。千
萬人アツマリユキテ。左ノ手ニ香呂ヲモ
チ。右ノ手ニハケサノハシヲトリテ。オナシ
ク西ヘユクヲ。ユメノ中ニトフヤウ。コレ
ハイカナル人ノオハシマスソトイフニ。
アル人コタヘテイフヤウ。コレハ往生ノ
聖人ノオハシマスナリトイフヲ。マタト
フヤウ。聖人トハタレ人ソトトヘハ。コレ
ハオホタニ聖人ナリトミテ。ユメサメヌ。
コノ兒ソノアカ月。師ノ僧ニカタリ侍リケ
リ。コノ兒聖人ノ事オモシラス。マタ往生
ノヨシオモキキオヨハサリケルニ。ソラ
ニコノツケアリケリ
一。建暦二年二月十三日ノ夜。故惟方ノ別
當入道ノ孫。ユメニミルヤウ。聖人ヲ葬送
シタテマツルヲ。オカミケレハ。聖人清水
ノ塔ノ中ニイレタテマツルトミテ。ノチ
マタ二日ハカリスキテ。ユメニミルヤウ。
トナリノ房ノ人キタリテイフヤウ。聖人
ノ葬送ニマイリアハヌコトノ。ヰコムニ
候ヘトモ。オナシコトナリ。ハカトコロ
ヘマイリタマヘト申ニ。ヨロコヒテ。カノ
ハカトコロヘ。アヒ共シテマイリヌトオ
モフホトニ。八幡宮トオホシキ社ノ。ミト
アクルトコロヲミレハ。御聖體オハシマ
ス。ソノ時ハカトコロヘマイルニ。八幡ノ
御聖體トハ。ナニオカ申スヘキトイフニ。
カノトナリノ人イフヤウ。コノ聖人ノ御
房コソハ。御聖體ヨトイフアヒタ。身ノ
毛イヨタチテ。アセタリテ。ユメサメヌ
一。同正月二十五日辰時ニ。念阿彌陀佛ト
申スアマノ。ユメウツツトモナクテミル
ヤウ。ハルカニウシトラノカタヲミヤレ
ハ。聖人スミソメノコロモヲキテ。ソラニ
ヰタマヘリ。ソノカタハラニ。スコシサカ
リテ。シラサウソクシテ。唐人ノコトクナ
ル人ヰタリ。オホタニニアタリテ。聖人ト
俗人ト。南ニムカヒテヰタマヘルホトニ。
俗ノイフヤウ。コノ聖人ハ通事ニテオハ
スト。イフトオモフホトニ。ユメサメヌ｣
一。同二十三日卯時ニ。念阿彌陀佛。マタユ
メニ。ソラハレテ西ノカタヲミレハ。シロキ
光アリ。アフキノコトクシテ。スヱヒロク。
モトセハクシテ。ヤウヤクオホキニナリ
テ。虚空ニミテリ。光ノ中ニワラタハカリ
ナル紫雲アリ。光アル雲トオナシク。東山
ノ大谷ノカタニアタリテ參シタル。人人
アマタコレヲオカミケリ。イカナル光ソ
トイフニ。アル人ノイフヤウ。法然聖人ノ
往生シタマフヨト申ニヨリテ。オカミタ
テマツレハ。人人ノ中ニ。ヨニカウハシキ
カナト。イフ人モアリトオモフテ。コレヲ
信仰シテオカムトオモヘハ。ユメサメヌ｣
一。聖人往生シタマヘル。大谷ノ坊ノ東
ノ岸ノ上ニ。タイラカナルトコロアリ。ソ
ノ地ヲ。建暦二年十二月ノコロ。カノ地主。
聖人ニマイラセタリケレハ。ソノ地ヲ墓
所トサタメテ。葬送シタテマツリ侍リケリ。
ソノ地ノキタニ。マタ人ノ坊アリ。ソレニ
ヤトリヰタルアマノ。先年ノコロ。ユメニ
ミルヤウ。カノハカトコロノ地ヲ。天童ア
リテ行道シタマフトミ侍リケリ。マタ同房
主。去年十一月十五日ノ夜ノ夢ニミルヤウ。
コノ南ノ地ノハカトコロニ。青蓮華オイ
テ開敷セリ。ソノハナ。カセニフカレテ。ス
コシツツ。コノ房ヘチリカカルトミテ。ユ
メサメヌ。マタオナシ房ニ。女ノ侍リケルモ。
去年ノ十二月ノコロ。ミルヤウ。南ノ地ニ。
イロイロサマサマノ蓮華サキヒラケテア
リト。ミオハリテノチ。コトシノ正月十日。
カノ地ヲ墓所トサタメテ。穴ヲホリマウ
クルトキ。コノ房主ハシメテオトロキテ
イフヤウ。ヒコロノユメトモノ。三度マテ
アリシカ。タタイマオモヒアハスルニ。ア
ヒタルヨトイヒテ。フシキカリケリ
一。建暦元年ノコロ。聖人ツノクニノ勝尾
トイフトコロニ。オハシケル時。祇陀林寺
ノ一和尚ニテ侍リケル。西成坊トイフ僧ノ。
ユメニミルヤウ。祇陀林寺ノ東ノ山ニア
タリテ。金色ノ光ヲサシタリケルヲ。アマ
タ人コレヲミテ。アヤシミトヒタツネケ
レハ。ソハナル人ノイフヤウ。コレコソ法
然聖人ノ往生シタマフヨト。イフトオモ
フホトニ。ユメサメヌ。其後。聖人勝尾ヨリ
大谷ニウツリヰタマフテ。往生シタマヒ
ヌトキキテ。コノ僧。人人ニ。カカリシユメ
ヲコソミタリシカト申ケリ
一。華山院ノ前ノ右大臣ノ家ノ侍ニ。江内ト
イフモノノシタシキ女房。三日カアヒタ。
ウチツツキ三度マテ。ユメニミルヤウ。マ
ツ正月二十三日ノ夜ノユメニ。西山ヨリ
東山ニイタルマテ。五色ノ雲ノ一町ハカ
リニ。ナオクタナヒキテ侍リケリ。大谷ノ聖
人ノ御房マイリテ。オカミタテマツリケ
レハ。スミソメノコロモケサヲキタマヘ
ルカ。袈裟ノオホハ。ムスヒタレテ。如法經
ノケサノオノヤウニテ。請用カトオホエ
テ。聖人イテタチタマフトミテ。ユメサメ
ヌ。マタ同二十四日ノ夜ミルヤウ。昨日ノ
夜五色ノ雲。スコシモチラスシテ。オホイ
カタノヤウニ。オホマワリニマワリテ。東
カシラナルクモ。西カシラニナリテ。トホ
クタナヒケリ。聖人モ。サキノコトクシテ
オハシマストミテ。ユメサメヌ。又同二十
五日ニミルヤウ。件ノ雲。西ヘオモムキテ。
聖人七條ノ袈裟ヲカケテ。臨終ノ作法ノ
ヤウニテ。カノクモニノリテ。トフカコト
クシテ。西ヘユキタマヒヌトミテ。ユメサ
メヌ。ムネサワキテオトロキタルニ。ワカ
クチモコロモモ。アタリマテモ。ヨニカウ
ハシク侍ケル。ヨノツネノ香ニモニス。世
ニメテタクソ侍ケル
一。アル人。二月二日ノ夜ノユメニミルヤ
ウ。聖人往生シタマヒテノチ。七日ニアタ
リケル夜ノユメニ。アル僧キタリテイフ
ヤウ。聖人ノ御房ハ往生ノ傳記ニ入セタ
マヒタルオハ。シルヤイナヤトイヒ侍リケ
レハ。コノ人イフヤウ。タレ人ノイカナル
傳ニ入タマヘルニカト申侍リケレハ。ユヒヲ
モチテ。マヘナルフミヲサシテ。コノフミ
ニ入セタマフナリトミテ。ユメサメヌ。ソ
ノユヒニテサシツル文ヲミレハ。善導ノ
觀經ノ疏ナリケリ。コレハ長樂寺ノ律師
| 隆寛 | 一晝夜ノ念佛申ケル時ノユメナリ｣ |
イリ侍リケルニ。聖人イササカノ事ニヨリ
テ。サヌキヘクタリタマフトキキテ。下向
セムトスルホトニ。コトニフレテ。ハハカ
リノミアリテ。ヤマヒカチニ侍リケレハ。コ
ノ事權現ニイノリ申侍リケルニ。直聖房カ
ユメニミルヤウ。ナムチイツヘカラス。臨
終ノトキステニチカシト侍リケレハ。カノ
僧申スヤウ。聖人ノ事ノ。キワメテオホツ
カナク候ナリ。ハヤク下向シ候テ。子細ヲ
ウケタマハリ候ハヤト。オモヒタマフト
申ケレハ。權現ノシメシタマフヤウ。カ
ノ聖人ハ勢至菩薩ノ化現ナリ。ナムチ不
審スヘカラスト。ミオワリテノチ。イクホ
トヲヘスシテ。カノ僧往生シ侍リケル事。メ
ヲオトロカサストイフ事ナシ。コノアリ
サマ。ヨノ人人ミナシレリ
| 一。天王寺ノ松殿法印ノ御坊 | 靜尊 | 高雄寺ニ |
リトハカリシリテ。イマタ對面ニオヨハ
ス。シカルニ正月二十五日午時ハカリニ。
アル貴所ヨリ阿彌陀經ヲアツラエテ。カ
カセラルル事アリテ。出文机ニテ書寫ノ
アヒタニ。シハラク脇息ニヨリカカリテ
休息スルホトニ。ユメニミルヤウ。世間モ
テノホカニ。諸人ノノシルオトノスルニ。
オトロキテ。エムノハシニタチイテテ。ソ
ラヲミアケタレハ。普通ノノリクルマノ
ワホトナル。八輻輪ノ八方ノサキコトニ。
雜色ノ幡ヲカケタルカ。東ヨリ西ヘトヒ
ユクニ。金色ノ光アリテ。四方ヲテラス
ニ。スヘテ餘ノモノミエスシテ。金色ノ光
ノミ天地ニミチミチテ。日光弊覆セラレタ
リ。コレヲアヤシミテ。人ニコレヲトフト
オホシキニ。カタワラノ人ツケテイハク。
法然聖人往生ノ相ナリトイフ。歸命渴仰
ノオモヒヲナスホトニ。ユメサメヌ。ソノ
ノチ。シラカワノ御メノトノモトヨリ。同
二十七日ニ。御フミヲオクラルルツイテ
ニ。オトトヒ二十五日ノムマノ時ニコソ。
法然聖人往生セラレテ候ヘト。申サレタ
ル時。夢想ステニ府合シテ。イヨイヨ隨喜
ノオモヒヲナシオハリヌト云リ
一。丹後國シラフノ庄ニ。別所ノ一和尚僧
アリケリ。昔天台山ノ學徒。遁世之後。聖人
ニ歸シタテマツリテ。弟子ニナリケルホ
トニ。丹後ヨリノホリテ。京ニ五條ノ坊門
富ノ小路ナル所ニ住シケリ。或日ヒルネシ
タルユメニ。空ニ紫雲ソヒキタル中ニ。尼
一人アリテ。ウチヱミテ云ク。法然聖人御
オシエニヨリテ。極樂ニ往生シ候ヌルヲ。
仁和寺ニ候ツルト告ケル。ソノノチ夢サ
メテ。聖人ノ九條ニオハシマシケルニ。ヤ
カテマイリテ。妄想ニテヤ候ツラム。カ
カルユメヲミテ候ト申ケレハ。聖人ウチ
アムシテ。サル人モアルラムトテ。人ヲ仁
和寺ヘツカハサムトシケルカ。日モクレ
ケレハ。次ノ朝ニ。カノ所ヘツカハシテ。便
宜ニナニ事カ候トタツヌヘキヨシ。使ニオ
ホセラレケルニ。件ノ尼公ハ昨日ノ午時
ニ。往生セラレ候ヌト申タリケルヲ。聖人
マフサレテイハク。カノ尼公ハ。法華經千
部自讀セムト。願ヲオコシテ候カ。七百部
ハカリハヨミテ候カ。ノコリヲイカニシ
テ。ハタシトクヘシトモ。オホヘ候ハヌト
申候シヲ。トシヨリタル御身ニ。メテタク
ヨマセタマヒテ候ヘトモ。ノコリオハ。一
向念佛ニナラセタマヘカシトテ。名號ノ
功徳ヲトキキカセラレケルヨリ。經オハ
オキテ。一向專稱シテ。トシ月ヲヘテ。往生
極樂ノ素懷ヲトケケルニヤトソ。オホセ
アリケルト
康元二年丁巳正月二日
| 愚禿親鸞 | 八十 五歳 | 校了 |
| 末 |
可停止未窺一句文。奉破眞言止觀。謗
餘佛菩薩事
右至立破道者。學生之所經也。非愚人之
境界。加之誹謗正法免除セラレヌ彌陀願ニ。其報
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861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 [行番号:無/有] [返り点:無/有] [CITE]