デジタル時代の知識基盤

誰もが信頼して依拠し得る持続可能なデジタル知識基盤の構築・運用は喫緊の課題である。著作権保護期間が終了したパブリックドメイン資料は本来何の制約もなく自由に利用できるコンテンツとしてその重要な一角をなすものであり、大きな役割が期待されている。

デジタル資料公開の持続性

デジタル資料の公開を継続しようとする際、利用状況を提示することは有効性が高い場合がある。しかし、利用条件を課すことが必ずしも有効でないパブリックドメイン資料では利用状況の把握は容易ではない。これはどうすべきなのか。そして、デジタル化の元になった文化資料自体を保存し続けるためのコストとの整合性はどう考えるべきなのか。

オープンデータとしての利便性

自由な再利用・再配布を前提とするオープンデータは極めて利便性が高く、オープンサイエンスの基盤としても大きく期待されている。近年のWeb技術の発展はこれをさらに後押ししている。そのような中で、利便性を保ちつつデジタル化パブリックドメイン資料の諸課題を解決するために、技術的・制度的手法はあり得るのか・あり得るとしたらどこまで迫れるのか。

基調講演・コメンテイター・司会

渡辺 智暁(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授/コモンスフィア理事長)
情報通信政策と情報社会の研究者。ネットワークインフラ、政府保有データ、デジタルモノづくり領域のデータやプロセス等、諸領域のオープン化に関わる政策や手法、その社会背景や評価が主なテーマのひとつ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。Ph.D. (米国インディアナ大学テレコミュニケーションズ学部)。NPO法人コモンスフィア理事長。オープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパン副理事長。
関連論文・著作:「クリエイティブ・コモンズ: オープンソース, パブリック ドメインとの関係からの考察」月刊パテント 2019.09(小林心と共著)、「3Dデータ、3D作品に関する著作権を考える」 Imaging Conference Japan論文集 2016 pp.83-86.
生貝 直人(東洋大学経済学部総合政策学科 准教授)
2005年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2012年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。東京大学大学院情報学環客員准教授、東京芸術大学特別研究員等を兼務。国立情報学研究所特任研究員、東京大学附属図書館・大学院情報学環特任講師、情報通信総合研究所研究員等を経て2018年4月より現職。専門分野は情報政策(情報法・情報経済)、デジタルアーカイブの法政策。
関連論文・著作:「デジタルアーカイブの構築に関わる法制度の概観」(福井健策監修・数藤雅彦責任編集『デジタルアーカイブ・ベーシックス 1 権利処理と法の実務』勉誠出版 所収)、「ナショナルデジタルアーカイブの条件について」(金沢21世紀美術館研究紀要『アール』6号)
亀田 尭宙 (国立歴史民俗博物館 特任助教)
2012年9月に東京大学大学院情報理工学系研究科を単位取得退学後、情報・システム研究機構でLODAC (Linked Open Data for ACademia) プロジェクトなど学術情報の知識流通支援の仕事に携わる。2014年10月より京都大学地域研究統合情報センターおよび改組後の東南アジア地域研究研究所で助教として地域研究に関わるデータベースの作成と公開を行ってきた。2019年10月より国立歴史民俗博物館にてデータインフラストラクチャーの構築とデータの⻑期保全に携わる。
関連論文・著作: 「地域情報学のこれまでとこれから -地域研究統合情報センターの実践事例を通して-」(『情報知識学会誌』25巻4号, 2015)、「東アジア絵葉書データベースのシステム設計」(『情報処理学会研究報告』2019-CH-119)
永崎 研宣(一般財団法人人文情報学研究所 主席研究員)
筑波大学大学院博士課程哲学・思想研究科単取得退学。 博士(関西大学・文化交渉学)。東京外国語大学アジア・アフリカ 言語文化研究所COE研究員、山口県立大学国際文化学部助教授等を経て 一般財団法人人文情報学研究所の設立に参画。この間、 2005年よりSAT大蔵経テキストデータベース研究会の技術担当者を 務めるとともに、各地の大学研究機関で文化資料のデジタル化と応用についての研究・支援活動を行ってきた。
関連論文・著作:『日本の文化をデジタル世界に伝える』樹村房、Contexts of Digital Humanities in Japan, Digital Humanities and Scholarly Research Trends in the Asia-Pacific, IGI Global, 2019.

ショートプレゼンテーション/デモ展示

以下の機関の担当者の方々により、デジタルアーカイブにおける利用条件の現状についての 8分のショートプレゼンテーションと、それに加えて、30分間+αの各デジタルアーカイブのデモ展示時間を設けます。 これを機に、ぜひ日本の様々なデジタルアーカイブの現状に触れてみてください。

  • 北海道大学附属図書館
    高野直樹(北海道大学附属図書館利用支援課課長補佐)
  • 千葉大学附属図書館
    野田英明(千葉大学附属図書館学術コンテンツ課松戸分館係長)
  • 早稲田大学図書館
    藤原秀之(早稲田大学図書館戸山図書館担当課長兼所沢図書館担当課長)
  • 国際仏教学大学院大学日本古写経研究所
    前島信也(国際仏教学大学院大学 日本古写経研究所 研究員)
  • 東京大学附属図書館
    谷口瑞枝(東京大学附属図書館情報サービス課参考調査係長)
  • 東京文化財研究所
    橘川英規・江村知子(東京文化財研究所 文化財情報資料部)
  • 東京国立博物館
    阿児雄之(東京国立博物館 博物館情報課 主任研究員)
  • 国立国会図書館
    熊谷尚子(国立国会図書館電子情報部電子情報流通課情報流通係)
  • 慶應義塾大学メディアセンター
    保坂睦(慶應義塾大学三田メディアセンター課長(スペシャルコレクション担当))
  • 国文学研究資料館
    松原恵(古典籍共同研究事業センター事務室 データベース第一係長)
  • 名古屋大学附属図書館
    林和宏(名古屋大学附属図書館情報管理課専門職員)
  • 京都府立京都学・歴彩館
    岡本隆明(京都府立京都学・歴彩館 資料課)
  • 京都大学附属図書館
    赤澤久弥(京都大学附属図書館 図書館企画課課長補佐)
  • SAT大蔵経テキストデータベース研究会
    永崎研宣(一般財団法人人文情報学研究所主席研究員)

開催趣旨

科研費基盤研究(A)「仏教学デジタル知識基盤の継承と発展」(研究代表者:下田正弘東京大学教授)では、「人文学がデジタル時代にいかに遂行されうるか」という次世代の人文学にとって重要なテーマについて、人文学諸分野が参照可能なデジタル知識基盤を仏教学から提供し、人文学全体が共同で未来を開く方法論を検討する〈統合デジタル研究環境〉を形成することを目指している。これを実現するためのデジタル資料の扱いに関わる課題として、本研究事業における基盤構築班が中心となって本シンポジウムを開催する。

この数年、文化資料をデジタル公開するにあたり、著作権保護期間満了(著作権切れ)の資料のデジタル画像の利用条件をどのようにすべきかということが課題になってきている。京都大学附属図書館では「…成果物等を当館までご提出ください(その義務を課すものではありません)」、東京大学附属図書館では「クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの「CC BY」相当の条件」、千葉大学附属図書館ではRightsStatements.orgの「No Copyright - Contractual Restrictions」を採用している。

ここでわかるのは、Webに公開された著作権切れの資料が社会に流通して行く場合に、受け取り手の利用を制限し続ける有効な手段はない、という状況下において、公開者側としては、(1)何にどう使ったのか知りたい (2) 利用された事例を収集したいといった要望を持っている、という点である。

このことはデジタル画像公開の持続可能性という観点において重要な課題である。というのも、デジタル画像公開のための予算を確保し続けるためには何らかの説得材料が必要であり、それにあたって大きな役割を果たし得るのがデジタル資料の「利用実績」だからである。とりわけ、二次利用の実績は波及効果も見込める場合もあることから単なるアクセス数とは異なる基準で解釈される余地が大きく、それを情報として提供できることはデジタル画像公開の持続可能性の向上に寄与することが大きく期待される。しかしながら、利用条件を課すことに法的拘束力が実質的には有効でないため、上記のような様々な工夫が行われるに至っている。

一方、こうした独自の取り組みは、ジャパンサーチをはじめとするデジタルアーカイブの有機的なデータ連携を目指す取り組みにおいては、今のところ、必ずしも有効なものであるとは言いがたい。というのも、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス等の共通ライセンス表示を前提として動きつつある世界では、利用条件は機械的に取得されるものであり、そこに記された条件にないものは含まれなくなってしまうからである。その世界では、パブリックドメインとして判定されればそれ以上の条件は読み込まれず、CC BYとして判定されれば著作権切れであるにも関わらず自由な利用を妨げることになってしまう。また、RightsStatements.orgにおける No Copyright - Contractual Restrictionsであればどこか別のところに書かれた利用許諾条件を別途参照しなければ使えないが、それを機械的に取得し判定することは今のところ難しいだろう。

しかし一方で、公開者側が必要とすることは明確である。(a) 公開者・所蔵者名の明記、(b) 成果物の情報提供、(c) 成果物の提出、についての「お願い」である。ここには連絡先・送付先も提示される必要があるだろう。であるなら、これをデジタルアーカイブの有機的なデータ連携の中に組み込んでしまうことはできないのだろうか。多かれ少なかれ手間がかかるとは言え、パブリックドメイン資料の公開の持続可能性を高めるためであれば、支払うに値するコストとは考えられないだろうか。本シンポジウムでは、このことについて関心を持つ人々・関連機関による議論を深めたい。

シンポジウムプログラム

  • 13:00 開会挨拶
  • 13:15 基調講演(渡辺 智暁)
  • 14:00 ショートプレゼンテーション
    • ※各組織が8分ずつ、それぞれのデジタル化資料の利用条件について解説
    • 北海道大学附属図書館
    • 千葉大学附属図書館
    • 早稲田大学図書館
    • 国際仏教学大学院大学日本古写経研究所
    • 東京大学附属図書館
  • 14:40 休憩
  • 14:50 ショートプレゼンテーションの続き
    • 東京文化財研究所
    • 東京国立博物館
    • 国立国会図書館
    • 慶應義塾大学メディアセンター
    • 国文学研究資料館
    • 名古屋大学附属図書館
    • 京都大学附属図書館
    • 京都府立京都学・歴彩館
  • 16:05 デモンストレーション展示
  • 16:35 講演(亀田 尭宙)
  • 17:05 全体へのコメント(生貝 直人)
  • 17:35 全体ディスカッション(司会:永崎研宣)
  • 18:00 ディスカッション終了

会場

都市センターホテル
〒102-0093
東京都 千代田区平河町2-4-1
都市センターホテル

主催

科研費基盤研究(A)「仏教学デジタル知識基盤の継承と発展」(代表:下田正弘)基盤構築班

後援

一般財団法人人文情報学研究所

クリエイティブ・コモンズ・ジャパン