誰もが信頼して依拠し得る持続可能なデジタル知識基盤の構築・運用は喫緊の課題である。著作権保護期間が終了したパブリックドメイン資料は本来何の制約もなく自由に利用できるコンテンツとしてその重要な一角をなすものであり、大きな役割が期待されている。
デジタル資料の公開を継続しようとする際、利用状況を提示することは有効性が高い場合がある。しかし、利用条件を課すことが必ずしも有効でないパブリックドメイン資料では利用状況の把握は容易ではない。これはどうすべきなのか。そして、デジタル化の元になった文化資料自体を保存し続けるためのコストとの整合性はどう考えるべきなのか。
自由な再利用・再配布を前提とするオープンデータは極めて利便性が高く、オープンサイエンスの基盤としても大きく期待されている。近年のWeb技術の発展はこれをさらに後押ししている。そのような中で、利便性を保ちつつデジタル化パブリックドメイン資料の諸課題を解決するために、技術的・制度的手法はあり得るのか・あり得るとしたらどこまで迫れるのか。
以下の機関の担当者の方々により、デジタルアーカイブにおける利用条件の現状についての 8分のショートプレゼンテーションと、それに加えて、30分間+αの各デジタルアーカイブのデモ展示時間を設けます。 これを機に、ぜひ日本の様々なデジタルアーカイブの現状に触れてみてください。
科研費基盤研究(A)「仏教学デジタル知識基盤の継承と発展」(研究代表者:下田正弘・東京大学教授)では、「人文学がデジタル時代にいかに遂行されうるか」という次世代の人文学にとって重要なテーマについて、人文学諸分野が参照可能なデジタル知識基盤を仏教学から提供し、人文学全体が共同で未来を開く方法論を検討する〈統合デジタル研究環境〉を形成することを目指している。これを実現するためのデジタル資料の扱いに関わる課題として、本研究事業における基盤構築班が中心となって本シンポジウムを開催する。
この数年、文化資料をデジタル公開するにあたり、著作権保護期間満了(著作権切れ)の資料のデジタル画像の利用条件をどのようにすべきかということが課題になってきている。京都大学附属図書館では「…成果物等を当館までご提出ください(その義務を課すものではありません)」、東京大学附属図書館では「クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの「CC BY」相当の条件」、千葉大学附属図書館ではRightsStatements.orgの「No Copyright - Contractual Restrictions」を採用している。
ここでわかるのは、Webに公開された著作権切れの資料が社会に流通して行く場合に、受け取り手の利用を制限し続ける有効な手段はない、という状況下において、公開者側としては、(1)何にどう使ったのか知りたい (2) 利用された事例を収集したいといった要望を持っている、という点である。
このことはデジタル画像公開の持続可能性という観点において重要な課題である。というのも、デジタル画像公開のための予算を確保し続けるためには何らかの説得材料が必要であり、それにあたって大きな役割を果たし得るのがデジタル資料の「利用実績」だからである。とりわけ、二次利用の実績は波及効果も見込める場合もあることから単なるアクセス数とは異なる基準で解釈される余地が大きく、それを情報として提供できることはデジタル画像公開の持続可能性の向上に寄与することが大きく期待される。しかしながら、利用条件を課すことに法的拘束力が実質的には有効でないため、上記のような様々な工夫が行われるに至っている。
一方、こうした独自の取り組みは、ジャパンサーチをはじめとするデジタルアーカイブの有機的なデータ連携を目指す取り組みにおいては、今のところ、必ずしも有効なものであるとは言いがたい。というのも、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス等の共通ライセンス表示を前提として動きつつある世界では、利用条件は機械的に取得されるものであり、そこに記された条件にないものは含まれなくなってしまうからである。その世界では、パブリックドメインとして判定されればそれ以上の条件は読み込まれず、CC BYとして判定されれば著作権切れであるにも関わらず自由な利用を妨げることになってしまう。また、RightsStatements.orgにおける No Copyright - Contractual Restrictionsであればどこか別のところに書かれた利用許諾条件を別途参照しなければ使えないが、それを機械的に取得し判定することは今のところ難しいだろう。
しかし一方で、公開者側が必要とすることは明確である。(a) 公開者・所蔵者名の明記、(b) 成果物の情報提供、(c) 成果物の提出、についての「お願い」である。ここには連絡先・送付先も提示される必要があるだろう。であるなら、これをデジタルアーカイブの有機的なデータ連携の中に組み込んでしまうことはできないのだろうか。多かれ少なかれ手間がかかるとは言え、パブリックドメイン資料の公開の持続可能性を高めるためであれば、支払うに値するコストとは考えられないだろうか。本シンポジウムでは、このことについて関心を持つ人々・関連機関による議論を深めたい。
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科研費基盤研究(A)「仏教学デジタル知識基盤の継承と発展」(代表:下田正弘)基盤構築班
一般財団法人人文情報学研究所
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