INBUDS
撰時抄 (No. 2690_ 日蓮述 ) in Vol. 84
![[First]](first.gif)
![[Prev]](prev.gif)
237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 ![[Next]](next.gif)
![[Last]](last.gif)
[行番号:無/有] [返り点:無/有] [CITE]
No.2690
撰時抄
釋子日蓮述
夫佛法ヲ學セン法ハ。必ス先ス時ヲナラ
ウヘシ。過去ノ大通智勝佛ハ。出世シ給テ
十小劫カ間。一經モ説キ給ハス。經云。一坐
十小劫。又云。佛知時未至受請默然坐等
子ハ母胎ニ處シテ八十年。彌勒菩薩ハ兜
率ノ内院ニ籠ラセ給テ。五十六億七千萬
歳ヲマチ給ウヘシ。彼ノ時鳥ハ春ヲヲク
リ。鷄鳥ハ曉ヲマツ。畜生スラナヲカクノ
コトシ。何ニ況ヤ佛法ヲ修行センニ。時ヲ
糺サルヘシヤ。寂滅道場ノ砌ニハ。十方ノ
諸佛示現シ。一切ノ大菩薩集會シ給ニ。梵
帝四天ハ衣ヲヒルカヘシ。龍神八部ハ掌
ヲ合セ。凡夫大根性ノ者ハ。耳ヲソハタテ。
生身得忍ノ諸菩薩。解脱月等請ヲナシ給
シカトモ。世尊ハ二乘作佛久遠實成ヲハ
名字ヲカクシ。即身成佛一念三千ノ肝心。
其義ヲ宣給ハス。此等ハ偏ニコレ機ハ有
シカトモ。時來ラサレハノヘサセ給ハス。
ニハ。閻浮第一ノ不孝ノ人タリシ阿闍世
大王座ニツラナリ。一代第一ノ闡提タル
提婆達多ニハ。天王如來ト名ヲサツケ。五
障ノ龍女ハ。蛇身ヲアラタメスシテ佛ニ
ナル。決定性ノ成佛ハ。燋種ノ花サキ果ナ
リ。久遠實成ハ百歳ノ子ノ。二十五ノ父ト
ウタカフ。一念三千ハ九界即佛界。佛界即
九界ト談ス。サレハ此經ノ一字ハ如意寶
珠ナリ。一句ハ諸佛ノ種子トナル。此等ハ
機ノ熟不熟ハサテヲキヌ。時ノ至レルユヘ
問云。機ニアラサルニ。大法ヲ授ラレハ。愚
人ハ定テ誹謗ヲナシテ。惡道ニ墮ナラハ。
豈説者ノ罪ニアラスヤ。答云。人路ヲツク
ル。路ニ迷者アリ。作者ノ罪トナルヘシヤ。
良醫藥ヲ病人ニアタウ。病人嫌テ服セス
シテ死セハ。良醫ノ失トナルカ。尋云。法
華經ノ第二云。無智人中莫説此經。同第
四云。不可分布妄授與人。同第五云。此法
華經諸佛如來祕密之藏。於諸經中最在其
ハ機ニアラスハ説サレトイウカイカン。
今反詰云。不輕品云。而作是言我深敬汝
等。又云。四衆之中有生瞋恚心不淨者。惡
口罵詈言是無智比丘。又云。衆人或以杖木
經文ハ。惡口罵詈乃至打擲スレトモトト
カレテ候ハ。説人ノ失トナリケルカ。求云。
此ノ兩説ハ水火ナリ。イカンカ心ウヘキ。
答云。天台云。適時而已。章安云。取捨得宜
ヘキニハシハラクトカス。或時ハ謗スト
モ強テ説ヘシ。或時ハ一機ハ信スヘクト
モ。萬機謗ヘクハトクヘカラス。或時ハ萬
機一同ニ謗ストモ。強テ説ヘシ。初成道ノ
時ハ。法慧。功徳林。金剛幢。金剛藏。文殊。普
賢。彌勒。解脱月等ノ大菩薩。梵帝四天等ノ
凡夫大根性ノ者。カスヲシラス。鹿野苑ノ
苑ニハ倶隣等ノ五人。迦葉等ノ二百五十
人。舍利弗等ノ二百五十人。八萬ノ諸天。方
等大會ノ儀式ニハ。慈父ノ淨飯大王ネン
コロニ戀セサセ給シカハ。佛宮ニ入セ給
テ觀佛三昧經ヲトカセ給。悲母ノ御タメ
ニ忉利天ニ九十日カ間籠ラセ給シニハ。
摩耶經ヲトカセ給。慈父悲母ナントニハ。
イカナル祕法カ惜マセ給ヘキ。ナレトモ
法華經ヲハトカセ給ハス。センスルトコ
ロ機ニハヨラス。時イタラサレハ。イカニ
モトカセ給ハヌニヤ。問云。イカナル時ニ
カ小乘權經ヲトキ。イカナル時ニカ法華
經ヲ説ヘキヤ。答云。十信ノ菩薩ヨリ。等
覺ノ大士ニイタルマテ。時ト機トヲハ相
知カタキ事ナリ。何ニ況ヤ我等ハ凡夫ナ
リ。イカテカ時機ヲシルヘキ。求云。スコ
シモ知事アルヘカラサルカ。答云。佛眼ヲ
カンテ時機ヲカンカヘヨ。佛日ヲ用テ國
ヲテラセ。問云。其心如何。答云。大集經ニ大
覺世尊。月藏菩薩ニ對シテ。未來ノ時ヲ定
給エリ。所謂我滅度後。五百歳中解脱堅固。
年ニハ讀誦多聞堅固。次ノ五百年ニハ多
歳二千五百餘年ニ。人人ノ料簡サマサマ
ナリ。漢 土ノ道綽禪師カ云。正像二千四
箇ノ五百歳ニハ。小乘ト大乘トノ白法盛
ナルヘシ。末法ニ入テハ彼等ノ白法皆消
滅シテ。淨土ノ法門念佛ノ白法ヲ修行セ
ン人計。生死ヲハナルヘシ。日本國ノ法然
カ料簡シテ云。今日本國ニ流布スル法華
經。華嚴經。竝大日經。諸小乘經。天台眞言律
等ノ諸宗ハ。大集經ノ記文ノ正像二千年
ノ白法ナリ。末法ニ入テハ彼等ノ白法ハ
皆滅盡スヘシ。設行スル人アリトモ。一人
モ生死ヲハナルヘカラス。十住毘婆沙論
ト。曇鸞法師ノ難行道。道綽ノ未有一人得
者。善導ノ千中無一コレナリ。彼等ノ白法
隱沒ノ次ニハ。淨土三部經。彌陀稱名ノ一
行計。大白法トシテ出現スヘシ。此ヲ行セ
ン人人ハ。イカナル惡人愚人ナリトモ。十
即十生百即百生。唯有淨土一門可通入
路コレナリ。サレハ後世ヲ願ハン人人ハ。
叡山･東寺･園城･七大寺等ノ。日本一州ノ諸
寺諸山ノ御歸依ヲトトメテ。彼寺山ニヨ
セヲケル田畠郡鄕ヲウハイトテ。念佛堂
ニツケハ。決定往生南無阿彌陀佛トスス
メケレハ。我朝一同ニ其ノ義ニナリテ。今
ニ五十餘年ナリ。日蓮此等ノ惡義ヲ難シ
ヤフル事ハコトフリ候ヌ。彼ノ大集經ノ
白法隱沒ノ時ハ。第五ノ五百歳當世ナル
事ハ疑ヒナシ。但シ彼ノ白法隱沒ノ次ニ
ハ。法華經ノ肝心タル南無妙法蓮華經ノ
大白法ノ一閻浮提ノ内ニ八萬ノ國アリ。
其ノ國國ニ八萬ノ王アリ。王王コトニ臣
下竝萬民マテモ。今日本國ニ彌陀稱名ヲ。
四衆ノ口口ニ唱カコトク。廣宣流布セサ
セ給ヘキナリ。問云。其證文如何。答云。法華
經ノ第七云。我滅度後。後五百歳中廣宣流
集經ノ白法隱沒ノ次ノ時ヲトカセ給ニ廣
世法欲滅時等。又第四ノ卷云。而此經者如
來現在猶多怨嫉。況滅度後。又第五ノ卷ニ
云。一切世間多怨難信。又第七卷ニ第五
ノ五百歳。鬪諍堅固ノ時ヲ説テ云。惡魔魔
民諸天龍夜叉鳩槃荼等得其便也。大集經
百歳ノ時。惡鬼ノ身ニ入ル大僧等。國中ニ
充滿セン。其時ニ智人一人出現セン。彼ノ
惡鬼ノ入ル大僧等。時ノ王臣萬民等ヲ語
テ。惡口罵詈杖木瓦礫流罪死罪ニ行ハン
時。釋迦多寶十方ノ諸佛ハ。地涌ノ大菩薩
ラニ仰セツケ。大菩薩ハ梵帝日月四天等
ニ申クタサレ。其時天變地夭盛ナルヘシ。
國主等其ノイサメヲ用スハ。隣國ニヲホ
セツケテ。彼彼ノ國國ノ惡王惡比丘等ヲ。
セメラルルナラハ。前代未聞ノ大鬪諍。一
閻浮提ニ起ルヘシ。其時日月所照ノ四天
下ノ一切衆生。或ハ國ヲヲシミ。或ハ身ヲ
ヲシムユヘニ一切ノ佛菩薩ニイノリヲカ
クトモシルシナクハ。彼ノニクミツル一
ノ小僧ヲ信テ。無量ノ大僧等八萬ノ大王
等。一切ノ萬民皆頭ヲ地ニツケ。掌ヲ合テ
一同ニ南無妙法蓮華經トトナウヘシ。例
セハ神力品ノ十神力ノ時。十方世界ノ一
切衆生一人モナク。娑婆世界ニ向テ。大音
聲ヲハナチテ。南無釋迦牟尼佛。南無釋迦
牟尼佛。南無妙法蓮華經。南無妙法蓮華經
ト。一同ニサケヒシカコトシ。問云。經文
ハ分明ニ候。天台妙樂傳教等ノ未來記ノ
言ハアリヤ。答云。汝カ不審逆ナリ。釋ヲ引
カン時コソ經論ハイカニトハ不審セラレ
タレ。經文ニ分明ナラハ。釋ヲ尋ヌヘカラ
ス。サテ釋文經ニ相違セハ。經ヲステテ釋
ニツクヘキ力如何。彼云。道理至極セリ。シ
カレトモ凡夫ノ習。經ハ遠シ釋ハ近シ。近
釋分明ナラハ。イマスコシ信心ヲマスヘ
シ。今云。汝カ不審ネンコロナレハ。少少釋
ヲイタスヘシ。天台大師云。後五百歳遠沾
妙道。妙樂大師云。末法之初冥利不無。傳教
大師云。正像稍過已。末法太有近。法華一乘
機。今正是其時。何以得知。安樂行品云。末
世法滅時也。又云。語代則像終末初。尋地
唐東羯西。原人則五濁之生鬪諍之時。經云。
釋尊ノ出世ハ。住劫第九ノ減。人壽百歳ノ
時也。百歳ト十歳トノ中間。在世五十年。滅
後二千年ト一萬年トナリ。其中間ニ法華
經ノ流布ノ時二度アルヘシ。所謂在世八
年。滅後ニハ末法ノ始五百年ナリ。而ニ天
台妙樂傳教等ハ。進テハ在世法華ノ時ニ
モモレサセ給ヌ。退テハ滅後末法ノ時ニ
モ生サセ給ハス。中間ナル事ヲナケカセ
給テ。末法ノ始ヲコヒサセ給御筆ナリ。例
セハ阿私陀仙人カ。悉達太子ノ生サセ給
ヲ見テ悲云。現生ニハ九十ニアマレリ。太
子ノ成道ヲ見ヘカラス。後生ニハ無色界
ニ生テ。五十年ノ説法ノ座ニモツラナル
ヘカラス。正像末ニモ生ルヘカラストナ
ケキシカコトシ。道心アラン人人ハ。此ヲ
見キキテ悦ハセ給ヘ。正像二千年ノ大王
ヨリモ。後世ヲヲモハン人人ハ末法ノ今
ノ民ニテコソアルヘケレ。此ヲ信セサラ
ンヤ。彼ノ天台座主ヨリモ。南無妙法蓮華
經ト唱ル癩人トハナルヘシ。梁武帝ノ發
願云。寧ロ提婆達多トナテ。無間地獄ニハ
云。龍樹天親等ノ論師ノ中ニ此義アリヤ。
答云。龍樹天親等ハ。内心ニハ存セサセ給
トイエトモ。言ニハ此義ヲ宣給ハス。求云。
イカナル故ニカ宣給サルヤ。答云。多ノ故
アリ。一ニハ彼時ニハ機ナシ。二ニハ時ナ
シ。三ニハ迹化ナレハ。付囑セラレ給ハス。
求云。願クハ此事ヨクヨクキカントヲモ
ウ。答云。夫佛ノ滅後二月十六日ヨリハ正
法ノ始ナリ。迦葉尊者佛ノ付囑ヲウケテ
二十年。次ニ阿難尊者二十年。次商那和修
二十年。次優婆崛多二十年。次ニ提迦多二
十年。已上一百年カ間ハ。但小乘經ノ法門
ヲノミ弘通シテ。諸大乘經ハ名字モナシ。
何況法華經ヲヒロムヘシヤ。次ニハ彌遮
迦。佛陀難提。佛馱密多。脇比丘。富那奢等
ノ四五人。前五百餘年カ間ハ。大乘經ノ法
門少少出來セシカトモ。トリタテテ弘通
シ給ハス。但小乘經ヲ面トシテヤミヌ。已
上大集經ノ先五百年。解脱堅固ノ時ナリ。
正法ノ後六百年已後一千年カ前。其中間
ニ馬鳴菩薩。毘羅尊者。龍樹菩薩。提婆菩薩。
羅睺尊者。僧佉難提。僧伽耶奢。鳩摩羅馱。闍
夜那。盤陀。摩努羅。鶴勒夜那。師子等ノ十餘
人ノ人人。始ニハ外道ノ家ニ入。次ニハ小
乘經ヲキワメ。後ニハ諸大乘經ヲモテ。諸
小乘經ヲサンサンニ破シ失ヒ給キ。此等
ノ大士等ハ。諸大乘經ヲモンテ諸小乘經
ヲハ破セサセ給シカトモ諸大乘經ト法華
經ノ勝劣ヲハ分明ニカカセ給ハス。設勝
劣ヲスコシカカセ給タルヤウナレトモ本
迹ノ十妙。二乘作佛。久遠實成。已今當ノ
妙。百界千如。一念三千ノ肝要ノ法門ハ分
明ナラス。但或ハ指ヲモンテ月ヲサスカ
コトクシ。或ハ文ニアタリテヒトハシ計
カカセ給テ。化道ノ始終。師弟遠近。得道ノ
有無ハスヘテ一分モミヘス。此等ハ正法
ノ後五百年。大集經ノ禪定堅固ノ時ニア
タレリ。正法一千年ノ後ハ。月氏ニ佛法充
滿セシカトモ。或ハ小ヲモテ大ヲ破シ。或
ハ權經ヲモンテ實經ヲ隱沒シ。佛法サマ
サマニ亂シカハ。得道ノ人ヤウヤクスク
ナク。佛法ニツケテ惡道ニ墮者カスヲシ
ラス。正法一千年ノ後。像法ニ入テ一十五
年ト申セシニ。佛法東ニ流テ漢土ニ入ニ
キ。像法ノ前五百年ノ内。始ノ一百餘年カ
間ハ。漢 土ノ道士ト月氏ノ佛法ト諍論シ
テ。イマタ事サタマラス。設定リタリシカ
トモ。佛法ヲ信スル人ノ心イマタフカカ
ラス。而ニ佛法ノ中ニ大小權實顯密ヲワ
カツナラハ。聖教一同ナラサル故。疑ヲコ
リテカヘリテ外典トトモナウ者モアリヌ
ヘシ。コレラノヲソレアルカノユヘニ。摩
騰竺蘭ハ自ハ知テ而モ大小ヲ分ス。權實
ヲイハスシテヤミヌ。其後魏晋宋齊梁ノ
五代カ間。佛法ノ内ニ大小權實顯密ヲア
ラソヒシ程ニ。イツレコソ道理トモキコ
エスシテ。上一人ヨリ下萬民ニイタルマ
テ。不審スクナカラス。南三北七ト申テ。佛
法十流ニワカレリ。所謂南ニハ三時。四時。
五時。北ニハ五時。半滿。四宗。五宗。六宗。二
宗ノ大乘一音等。各各義ヲ立テ邊執水火
ナリ。シカレトモ大綱ハ一同ナリ。所謂一
代聖教ノ中ニハ。華嚴經第一。涅槃經第二。
法華經第三ナリ。法華經ハ阿含般若淨名
思益等ノ經經ニ對スレハ眞實ナリ。了義
經正見ナリ。シカリトイエトモ涅槃經ニ
漢ヨリ四百餘年ノ末。五百年ニ入テ。陳隋
二代ニ智顗ト申小僧一人アリ。後ニハ天
台智者大師ト號シタテマツル。南北ノ邪
義ヲヤフリテ。一代聖教ノ中ニハ。法華經
レ像法ノ前五百歳。大集經ノ讀誦多聞堅
固ノ時ニアヒアタレリ。像法ノ後五百歳
ハ。唐ノ始太宗皇帝ノ御宇ニ。玄奘三藏月
支ニ入テ十九年カ間。百三十箇國ノ寺塔
ヲ見聞シテ。多ノ論師ニ値タテマツリテ。
八萬聖教十二部經ノ淵底ヲ習キワメシ
ニ。其中ニ二宗アリ。所謂法相宗三論宗ナ
リ。此二宗ノ中ニ。法相大乘ヲ遠ハ彌勒無
著。近ハ戒賢論師ニ傳テ。漢土ニカヘリテ。
太宗皇帝ニサスケサセ給。此宗ノ心ハ佛
教ハ機ニ隨ヘシ。一乘ノ機ノタメニハ。三
乘方便一乘眞實ナリ。所謂法華經等ナリ。
三乘ノ機ノタメニハ。三乘眞實一乘方便。
所謂深密經。勝鬘經等此ナリ。天台智者等
リ。當時名ヲ一天ニヒヒカスノミナラス。
三皇ニモコエ五帝ニモ勝タルヨシ四海ニ
ヒヒキ。漢土ヲ手ニニキルノミナラス。高
昌高麗等ノ一千八百餘國ヲナヒカシ。内
外ヲ極タル王トキコエシ。賢王ノ第一ノ
御歸依ノ僧ナリ。天台宗ノ學者ノ中ニモ
頸ヲサシイタス人一人モナシ。而レハ法
華經ノ實義ステニ一國ニ隱沒シヌ。同キ
太宗ノ太子高宗。高宗ノ繼母則天皇后ノ
御宇ニ。法藏法師ト云者アリ。法相宗ニ天
台宗ノヲソワルルトコロヲ見テ。前ニ天
台ノ御時セメラレシ華嚴經ヲ取出シテ。
一代ノ中ニハ華嚴第一。法華第二。涅槃第
三ト立ケリ。太宗ノ第四代。玄宗皇帝ノ御
宇。開元四年同八年ニ。西天印度ヨリ善無
畏三藏。金剛智三藏。不空三藏。大日經。金
剛頂經。蘇悉地經ヲ持テ渡リ。眞言宗ヲ立。
此ノ宗ノ立義ニ云。教ニ二種アリ。一ニハ
釋迦顯教。所謂華嚴法華等。二ニハ大日密
教。所謂大日經等。法華經ハ顯教ノ第一ナ
リ。此經ハ大日密教ニ對スレハ。極理ハ少
シ同ケレトモ。事相ノ印契ト眞言トハタ
エテミヘス。三密相應セサレハ不了義經
天台法華宗ヲヤフレトモ。天台大師程ノ
智人。法華宗ノ中ニナカリケルカノ間。内
内ハユハレナキ由ハ存シケレトモ。天台
ノコトク公場ニシテ論セラレサリケレ
ハ。上國王大臣。下一切ノ人民ニイタルマ
テ。皆佛法ニ迷テ。衆生ノ得道ミナトトマ
リケリ。此等ハ像法後五百年ノ前二百餘
年カ内ナリ。像法ニ入テ四百餘年ト申ケ
ルニ。百濟國ヨリ一切經竝ニ教主釋尊ノ
木像。僧尼等日本國ニワタル。漢土ノ梁ノ
末陳ノ始ニアヒアタル。日本ニハ神武天
王ヨリハ。第三十代銀明天王ノ御宇ナリ。
＊銀明ノ御子用明ノ太子ニ上宮王子。佛法
ヲ弘通シ給ノミナラス。竝ニ法華經･淨名
經･勝鬘經ヲ鎭護國家ノ法ト定サセ給ヌ。
其後人王第三十七代ニ孝徳天王ノ御宇
ニ。三論宗成實宗ヲ觀勒僧正百濟國ヨリ
ワタス。同御代ニ道昭法師漢土ヨリ法相
宗。倶舍宗ヲワタス。人王第四十四代元正
天王ノ御宇ニ。天竺ヨリ大日經ヲワタシ
テ有シカトモ。而モ弘通セスシテ漢土ヘ
カヘル。此僧ヲハ善無畏三藏トイウ。人王
第四十五代＊ニ聖武天皇ノ御宇ニ。審祥大
徳新羅國ヨリ華嚴宗ヲワタシテ。良辨僧
正ニサツク。良辨僧正ハ聖武天王ニサツ
ケタテマツリテ。東大寺ノ大佛ヲ立サセ
給エリ。同御代ニ大唐ノ鑑眞和尚。天台宗
ト律宗ヲワタス。其中ニ律宗ヲハ弘通シ。
小乘戒場ヲ東大寺ニ建立セシカトモ。法
華宗ノ事ヲハ名字ヲモ申シ出サセ給ハス
シテ入滅シ了。其後人王第五十代。像法八
百年ニ相當テ桓武天王ノ御宇ニ。最澄ト
申小僧出來セリ。後ニハ傳教大師ト號シ
タテマツル。始ニハ三論法相華嚴倶舍成
實律ノ六宗。竝ニ禪宗等ヲ行表僧正等ニ
習學セサセ給シ程ニ。我ト立給ヘル國昌
寺。後ニハ比叡山ト號ス。此ニシテ六宗ノ
本經本論ト。宗宗ノ人師ノ釋トヲ。引合テ
御ラムアリシカハ。彼ノ宗宗ノ人師ノ釋。
所依ノ經論ニ相違セル事多キ上。僻見多
多ニシテ信受セン人。皆惡道ニ墮ヌヘシ
トカンカヘサセ給。其上法華經ノ實義ハ。
宗宗ノ人人我モ得タリ。我モ得タリト。自
讃アリシカトモ其義ナシ。此ヲ申スナラ
ハ喧嘩出來スヘシ。モタシテ申サスハ。佛
誓ニソムキナント。ヲモヒワツラワセ給
シカトモ。終ニ佛ノ誡ヲヲソレテ。桓武皇
帝ニ奏シ給シカハ。帝此ノ事ヲヲトロカ
セ給テ。六宗ノ碩學ニ召合サセ給。彼學者
等始ハ慢幢山ノコトシ。惡心毒蛇ノヤウ
ナリシカトモ。終ニ王前ニシテセメヲト
サレ。六宗七寺一同ニ御弟子トナリヌ。例
セハ漢土南北ノ諸師。陳殿ニシテ天台大
師ニセメヲトサレテ。御弟子トナリシカ
コトシ。此ハコレ圓定圓慧計ナリ。其上天
台大師ノイマタセメ給ハサリシ。小乘ノ
別受戒ヲセメヲトシ。六宗ノ八大徳ニ。梵
網經ノ大乘別受戒ヲサツケ給ノミナラ
ス。法華經ノ圓頓ノ別受戒ヲ叡山ニ建立
セシカハ。延暦圓頓ノ別受戒ハ日本第一
タルノミナラス。佛滅後一千八百餘年カ
間。身毒･尸那･一閻浮提ニ。イマタナカリシ
靈山ノ大戒日本國ニ始ル。サレハ傳教大
師ハ其功ヲ論スレハ。龍樹天親ニモコエ。
天台妙樂ニモ勝テヲハシマス聖人ナリ。
サレハ日本國ノ當世ノ東寺･園城･七大寺。
諸國ノ八宗淨土禪宗律宗等ノ諸僧等。誰
人カ傳教大師ノ圓戒ヲソムクヘキ。カノ
漢土九國ノ諸僧等ハ。圓定圓慧ハ天台ノ
弟子ニニタレトモ。圓頓一同ノ戒場ハ漢
土ニナケレハ。戒ニヲイテハ弟子トナラ
ヌ者モアリケン。コノ日本國ハ傳教大師
ノ御弟子ニアラサル者ハ外道ナリ。惡人
ナリ。而トモ漢土日本ノ天台宗ト眞言ノ勝
劣ハ。大師心中ニハ存知セサセ給ケレト
モ。六宗ト天台宗トノコトク公場ニシテ
勝負ナカリケルユヘニヤ。傳教大師已後
ニハ。東寺七寺園城諸寺日本一州。一同ニ
眞言宗ハ天台宗ニ勝タリト上一人ヨリ下
萬民ニイタルマテ。ヲホシメシヲモヒリ。
シカレハ天台法華宗ハ傳教大師ノ御時計
ニソアリケル。此傳教ノ御時ハ。像法ノ末。
大集經ノ多造塔寺堅固ノ時ナリ。イマタ
於我法中鬪諍言訟白法隱沒ノ時ニハアタ
ラス。今末法ニ入テ二百餘歳。大集經ノ於
我法中鬪諍言訟白法隱沒ノ時ニアタレ
リ。佛語マコトナラハ。定テ一閻浮提ニ鬪
諍起ヘキ時節ナリ。傳聞漢土ハ三百六十
箇國二百六十餘州ハ。ステニ蒙古ニ打ヤ
フラレヌ。華洛ステニヤフラレテ。徽宗欽
宗ノ兩帝。北蕃ニイケトリニセラレテ。韃
靼ニシテ終ニカクレサセ給ヌ。徽宗ノ孫
高宗皇帝ハ。長安ヲセメヲトサレテ。田舍
臨安行在府ニ落サセ給テ。今ニ數年カ間
京ヲ見ス。高麗六百餘國モ。新羅百濟等ノ
諸國等モ。皆大蒙古國ノ皇帝ニセメラレ
ヌ。今ノ日本國ノ壹岐對馬竝ニ九國ノコ
トシ。鬪諍堅固ノ佛語地ニ墮チス。アタカ
モコレ大海ノシヲノ時ヲタカヘサルカコ
トシ。是ヲモンテ案スルニ。大集經ノ白法
隱沒ノ時ニ次テ。法華經ノ大白法ノ日本
國竝ニ一閻浮提ニ廣宣流布セン事モ疑ウ
ヘカラサルカ。彼ノ大集經ハ佛説ノ中ノ
權大乘ソカシ。生死ヲハナルル道ニハ。法
華經ノ結縁ナキ者ノタメニハ未顯眞實ナ
レトモ。六道四生三世ノ事ヲ記シ給ケル
ハ。寸分モタカハサリケルニヤ。何況法華
經ハ釋尊要當説眞實トナノラセ給。多寶
佛ハ眞實ナリト御判ヲソヘ。十方ノ諸佛
ハ廣長舌ヲ梵天ニツケテ誠諦ト指シ示
シ。釋尊ハ重テ無虚妄ノ舌ヲ色究竟ニ付
サセ給テ。後五百歳ニ一切ノ佛法ノ滅セン
時。上行菩薩ニ妙法蓮華經ノ五字ヲモタ
シメテ。謗法一闡提ノ白癩病ノ輩ノ良藥
トセント。梵帝日月四天龍神等ニ仰セツ
ケラレシ金言虚妄ナルヘシヤ。大地ハ反
覆ストモ。高山ハ頽落ストモ。春ノ後ニ夏
ハ來ラストモ。日ハ東ヘカヘルトモ。月ハ
地ニ落ルトモ。此事ハ一定ナルヘシ。此事
一定ナラハ。鬪諍堅固ノ時。日本國ノ王臣
ト竝ニ萬民等カ。佛ノ御使トシテ。南無妙
法蓮華經ヲ流布セントスルヲ。或ハ罵詈
シ或ハ惡口シ或ハ流罪シ。或ハ打擲シ。弟
子眷屬等ヲ。種種ノ難ニアワスル人人。イ
カテカ安隱ニテハ候ヘキ。コレヲハ愚癡
ノ者ハ。呪詛ストヲモヒヌヘシ。法華經ヲ
ヒロムル者ハ。日本ノ一切衆生ノ父母ナ
サレハ日蓮ハ當帝ノ父母。念佛者禪衆眞
言師等カ師範ナリ。又主君ナリ。而ヲ上一
人ヨリ下萬民ニイタルマテ。アタヲナス
ヲハ。日月イカテカ彼等カ頂ヲ照シ給ヘ
キ。地神イカテカ彼等ノ足ヲ戴給ヘキ。提
婆達多佛ヲ打タテマツリシカハ。大地搖
動シテ火炎イテニキ。檀彌羅王師子尊者
ノ頸ヲ切シカハ。右ノ手刀トトモニ落ヌ。
徽宗皇帝ハ法道カ面ニカナヤキヲヤキテ
江南ニナカセシカハ。半年カ内ニヱヒス
ノ手ニカカリ給キ。蒙古ノセメモ亦カク
ノコトクナルヘシ。設ヒ五天ノツワモノヲ
アツメテ。鐵圍山ヲ城トセリトモカナウ
ヘカラス。必日本國ノ一切衆生兵難ニ値
ヘシ。サレハ日蓮カ法華經ノ行者ニテア
ルナキカコレニテ見ルヘシ。教主釋尊記
云。末代惡世ニ法華經ヲ弘通スルモノヲ。
惡口罵詈セン人ハ。我ヲ一劫カ間アタセ
ン者ノ罪ニモ。百千萬億倍スキタルヘシ
トトカセ給ヘリ。而ヲ今ノ日本國ノ國主
萬民等。雅意ニマカセテ父母宿世ノ敵ヨ
リモイタクニクミ。謀反殺害ノ者ヨリモ
ツヨクセメヌルハ。現身ニモ大地ワレテ
入リ。天雷モ身ヲサカサルハ不審ナリ。日
蓮カ法華經ノ行者ニテアラサルカ。モシ
シカラハヲヲキニナケカシ。今生ニハ萬
人ニセメラレテ。片時モヤスカラス。後生
ニハ惡道ニ墮事アサマシトモ申スハカリ
ナシ。又日蓮法華經ノ行者ナラスハ。イカ
ナル者ノ。一乘ノ持者ニテハアルヘキソ。
法然カ法華經ヲナケステヨ。善導カ千中
無一。道綽カ未有一人得者ト申カ。法華
經ノ行者ニテ候ヘキカ。又弘法大師ノ云。
法華經ヲ行スルハ戲論ナリトカカレタル
カ。法華經ノ行者ナルヘキカ。經文ニハ
能持是經能説此經ナントコソトカレテ候
ヘ。ヨクトクト申ハイカナルソト申ニ。於
諸經中最在其上ト申テ。大日經華嚴經涅
槃經般若經等ニ法華經ハスクレテ候ナリ
ト申者ヲコソ。經文ニハ法華經ノ行者ト
ハトカレテ候ヘ。モシ經文ノコトクナラ
ハ。日本國ニ佛法ワタテ七百餘年。傳教大
師ト日蓮トカ外ハ。一人モ法華經ノ行者
ハナキソカシ。イカニイカニトヲモウト
コロニ。頭破作七分。口則閉塞ノナカリケ
ルハ。道理ニテ候ケルナリ。此等ハ淺キ罰
ナリ。但一人二人等ノコトナリ。日蓮ハ閻
浮第一ノ法華經ノ行者ナリ。此ヲソシリ。
此ヲアタム人ヲ結構セン人ハ。閻浮第一
ノ大難ニアウヘシ。コレハ日本國ヲフリ
ユルカス正嘉ノ大地震。一天ヲ罰スル文
永ノ大彗星等ナリ。此等ヲミヨ。佛滅度ノ
後佛法ヲ行スル者ニ。アタヲナストイエト
モ。今ノコトクノ大難ハ一度モナキナリ。
南無妙法蓮華經ト一切衆生ニススメタル
人一人モナシ。此徳ハタレカ一天ニ眼ヲ合
セ。四海ニ肩ヲナラフヘキヤ。疑云。設ヒ正
法ノ時ハ佛在世ニ對スレハ。根機劣ナリ
トモ。像末ニ對スレハ。最上ノ上機ナリ。イ
カテカ正法ノ始ニ。法華經ヲハ用サルヘ
キ。隨テ馬鳴龍樹提婆無著等モ。正法一千
年ノ内ニコソ出現セサセ給ヘ。天親菩薩
ハ千部ノ論師。法華論ヲ造テ諸經第一ノ
義ヲ存ス。眞諦三藏ノ相傳云。月支ニ法華
經ヲ弘通セル家五十餘家。天親ハ其一也。
已上正法ナリ。像法ニ入テハ天台大師。像
法ノ半ニ漢土ニ出現シテ。玄ト文ト止ト
ノ三十卷ヲ造テ。法華經ノ淵底ヲ極タリ。
像法ノ末ニ傳教大師日本ニ出現シテ。天
台大師ノ圓慧圓定ノ二法ヲ。我朝ニ弘通
セシムルノミナラス。圓頓ノ大戒場ヲ叡
山ニ建立シテ。日本一州皆同ク圓戒ノ地
ニナシテ。上一人ヨリ下萬民マテ延暦寺
ヲ師範ト仰カセ給ハ。豈ニ像法ノ時法華
經ノ廣宣流布ニアラスヤ。答云。如來ノ教
法ハ必機ニ隨トイウ事ハ。世間ノ學者ノ
存知ナリ。シカレトモ佛教ハシカラス。上
根上智ノ人ノタメニ。必大法ヲ説クナラ
ハ。初成道ノ時ナンソ法華經ヲトカセ給
ハサル。正法ノ先五百餘年ニ大乘經ヲ弘
通スヘシ。有縁ノ人ニ大法ヲ説セ給ナラ
ハ。淨飯大王摩耶夫人ニ觀佛三昧經摩耶
經ヲトクヘカラス。無縁ノ惡人謗法ノ者
ニ祕法ヲアタエスハ。覺徳比丘ハ無量ノ
破戒ノ者ニ涅槃經ヲサツクヘカラス。不
輕菩薩ハ誹謗ノ四衆ニ向テ。イカニ法華
經ヲハ弘通セサセ給シソ。サレハ機ニ隨
テ法ヲ説ト申ハ大ナル僻見ナリ。問云。龍
樹世親等ハ。法華經ノ實義ヲハ宣給ハス
ヤ。答云。宣給ハス。問云。何ナル教ヲカノ
ヘ給シ。答云。華嚴方等般若大日經等ノ。權
大乘顯密ノ諸經ヲノヘサセ給テ。法華經
ノ法門ヲハ宣サセ給ハス。問云。何ニヲモ
ンテコレヲシルヤ。答云。龍樹菩薩ノ所造
ノ論三十萬偈。而トモ盡テ漢土日本ニワ
タラサレハ。其心シリカタシトイエトモ。
漢土ニワタレル十住毘婆娑論。中論。大論
等ヲモンテ。天竺ノ論ヲモ比知シテ此ヲ
知ルナリ。疑云。天竺ニ殘ル論ノ中ニ。ワタ
レル論ヨリモ。勝タル論ヤアルラン。答云。
龍樹菩薩ノ事ハ。私ニ申ヘカラス。佛記シ
給ヘリ。我滅後ニ龍樹菩薩ト申人。南天竺
ニ出ヘシ。彼人ノ所詮ハ中論トイフ論ニ
有ヘシト佛記シ給フ。隨テ龍樹菩薩ノ門流
天竺ニ七十家アリ。七十人トモニ大論師
ナリ。彼ノ七十家ノ人人ハ皆中論ヲ本ト
ス。中論四卷二十七品肝心ハ。因縁所生法
ノ四句ノ偈ナリ。此四句ノ偈ハ華嚴般若
等ノ四教三諦ノ法門ナリ。イマタ法華開
會ノ三諦ヲハ宣給ハス。疑云。汝カコトク
料簡セル人アリヤ。答云。天台云。莫以中
論相比。又云。天親龍樹内鑒冷然外適時
唐ノ末ニ不空三藏一卷ノ論ヲワタス。其
名ヲ菩提心論トナツク。龍猛菩薩ノ造ナ
アリ。龍猛ノ言ナラヌ事處處ニ多シ。故ニ
目録ニモ或ハ龍猛或ハ不空ト兩方也。イ
マタ事定ラス。其上此論文ハ一代ヲ括レ
ル論ニモアラス。荒量ナル事此多シ。先唯
眞言法中ノ肝心ノ文アヤマリナリ。其故
ハ文證現證アル法華經ノ即身成佛ヲハナ
キニナシテ。文證モ現證モアトカタモナ
キ。眞言經ニ即身成佛ヲ立テ候。又唯トイ
ウ唯ノ一字ハ第一ノアヤマリナリ。事ノ
テイヲ見ルニ。不空三藏ノ私ニツクリテ
候ヲ。時ノ人ニヲモクセサセンカタメニ。
事ヲ龍猛ニヨセタルカ。其上不空三藏ハ
誤ル事カスヲホシ。所謂法華經ノ觀智ノ
儀軌ニ。壽量品ヲ阿彌陀佛トカケル眼ノ
前ノ大僻見。陀羅尼品ヲ神力品ノ次ニヲ
ケル。屬累品ヲ經末ニ下ル。此等ハイウニ
カヒナシ。サルカトミレハ。天台ノ大乘戒
ヲ盜テ。代宗皇帝ニ宣旨ヲ申。五臺山ノ五
寺ニ立タリ。而モ又眞言ノ教相ニハ。天台
宗ヲスヘシトイエリ。カタカタ誑惑ノ事
トモナリ。他人ノ譯ナラハ用ル事モアリ
ナン。此人ノ譯セル經論ハ信セラレス。總
シテ月支ヨリ漢土ニ經論ヲワタス人。舊
譯新譯ニ一百八十六人ナリ。羅什三藏一
人ヲ除テハ。イツレノ人人モ誤サルハナ
シ。其中ニ不空三藏ハ。殊ニ誤多キ上。誑惑
ノ心顯ナリ。疑云。何ニヲモンテ知ソヤ。羅
什三藏ヨリ外ノ人人ハ。アヤマリナリト
ハ。汝カ禪宗念佛眞言等ノ七宗ヲ破ルノ
ミナラス。漢土日本ニワタル一切ノ譯者
ヲ用サルカイカン。答云。此事ハ余カ第一
ノ祕事ナリ。委細ニハ向テ問ヘシ。但スコ
シ申ヘシ。羅什三藏ノ云。我漢土ノ一切經
ヲ見ルニ。皆梵語ノコトクナラス。イカテ
カ此事ヲ顯スヘキ。但シ一ノ大願アリ。身
ヲ不淨ニナシテ妻ヲ帶スヘシ。舌計清淨
ニナシテ。佛法ニ妄語セシ。我死ハ必ヤク
ヘシ。燒カン時舌燒ルナラハ。我カ經ヲス
テヨト。常ニ高座ニシテトカセ給シナリ。
上一人ヨリ下萬民ニイタルマテ願云。願
クハ羅什三藏ヨリ後ニ死セント。終ニ死
給後燒タテマツリシカハ。不淨ノ身ハ皆
灰トナリヌ。御舌計火中ニ青蓮華生テ其
上ニアリ。五色ノ光明ヲ放テ。夜ハ晝ノコ
トク。晝ハ日輪ノ御光ヲウハイ給キ。サテ
コソ一切ノ譯人ノ經經ハ輕クナリテ。羅
什三藏ノ譯給ル經經。殊ニ法華經ハ漢土
ニヤスヤストヒロマリ給シカ。疑云。羅什
已前ハシカルヘシ。已後ノ善無畏不空等
如何。答云。已後ナリトモ。譯者ノ舌ノ燒ヲ
ハ誤アリケリトシルヘシ。サレハ日本國
ニ法相宗ノハヤリタリシヲ。傳教大師責
サセ給シニハ。羅什三藏ハ舌燒ケス。玄奘
慈恩ハ舌燒ヌトセメサセ給シカハ。桓武
天王道理トヲホシテ。天台法華宗ヘハウ
ツラセ給シナリ。涅槃經ノ第三第九等ヲ。
ミマイラスレハ。我佛法ハ月支ヨリ他國
ヘワタラン之時。多ノ謬誤出來シテ。衆生
ノ得道ウスカルヘシトトカレテ候。サレ
ハ妙樂大師ハ。竝進退在人何關聖旨トコ
ソ。アソハサレテ候ヘ。今ノ人人イカニ經
ノママニ。後世ヲネカウトモ。アヤマレル
經經ノママニネカワハ。得道モアルヘカ
ラス。シカレハトテモ。佛ノ御トカニハア
ラシト。カカレテ候。佛教ヲ習法ニハ。大
小權實顯密ハサテヲク。コレコソ第一ノ大
事ニテハ候ラメ。疑云。正法一千年ノ論師
ノ内心ニハ法華經ノ實義ノ。顯密ノ諸經
ニ超過シテアルヨシハ。シロシメシナカ
ラ。外ニハ宣説セスシテ。但權大乘計ヲ宣
サセ給コトハ。シカルヘシトワ。ヲホヘネ
トモ。其義ハスコシキコエ候ヌ。像法一千
年ノ半ニ天台智者大師出現シテ。題目ノ
妙法蓮華經ノ五字ヲ。玄義十卷一千枚ニ
カキツクシ。文句十卷ニハ始メ如是我聞
ヨリ。終作禮而去ニイタルマテ。一字一句
ニ因縁約教本迹觀心ノ四ノ釋ヲナラヘ
テ。又一千枚ニ盡シ給。已上玄義文句ノ二
十卷ニハ。一切經ノ心ヲ江河トシテ。法華
經ヲ大海ニタトエ。十方界ノ佛法ノ露一
渧モ漏サス。妙法蓮華經ノ大海ニ入サセ
給エヌ。其上天竺ノ大論ノ諸義。一點モ
モラサス。漢土南北ノ十師ノ義。破ヘキヲ
ハコレヲハシ。取ヘキヲハ此ヲ用。其上止
觀十卷ヲ注シテ。一代ノ觀門ヲ一念ニス
ヘ。十界ノ依正ヲ三千ニツツメタリ。此書
ノ文體ハ遠ハ月支一千年之間ノ論師ニモ
コエ。近ハ尸那五百年ノ人師ノ釋ニモ勝
レタリ。故ニ三論宗ノ吉藏大師。南北一百
餘人ノ先達ト。長者ラヲススメテ。天台大
師ノ講經ヲ聞ントスル状云。千年之興。五
百之實。復在於今日。乃至南岳叡聖。天台明
哲。昔三業住持。今二尊紹繼。豈止灑甘露
於震旦。亦當震法鼓於天竺。生知妙悟。魏
晋以來。典籍風謠。實無連類。乃至共禪衆一
律師天台大師讃歎云。照了法華若高輝之
臨幽谷。説摩訶衍似長風之遊大虚。假令
文字之師千群萬衆。數尋彼妙辨。無能窮者
宗ノ法藏大師天台ヲ讃云。如思禪師智者
等。神異感通。迹參登位。靈山聽法。憶在於
師弟共ニ眞言宗ヲステテ天台大師ニ歸伏
スル物語云。高僧傳云。與不空三藏親遊
天竺彼有僧問曰。大唐有天台迹教。最堪
簡邪正曉偏圓可能譯之將至此土耶等
シナリ。妙樂大師此物語ヲ聞云。豈非中國
失法求之四惟。而此方少有識者。如魯
コトクナル。大論アルナラハ。南天ノ僧イ
カテカ漢土ノ天台ノ釋ヲネカウヘキ。コ
レアニ像法ノ中ニ。法華經ノ實義顯テ。南
閻浮提ニ廣宣流布スルニアラスヤ。答云。
正法一千年像法ノ前四百年。已上佛滅後
一千四百餘年ニ。イマタ論師ノ弘通シ給
ハサル一代超過ノ圓定圓慧ヲ。漢土ニ弘
通シ給ノミナラス。其聲月氏マテモキコ
エヌ。法華經ノ廣宣流布ニハニタレトモ
イマタ圓頓ノ戒壇ヲ立ラレス。小乘ノ威
儀ヲモンテ。圓慧定ニ切ツケルハ。スコシ
便ナキニニタリ。例セハ日輪ノ蝕カコト
シ。月輪ノカケタルニニタリ。何ニイワウ
ヤ。天台大師ノ御時ハ。大集經ノ讀誦多聞
堅固ノ時ニアヒアタテ。イマタ廣宣流布
ノ時ニアラス。問云。傳教大師ハ日本國ノ
士也。桓武ノ御宇ニ出世シテ＊銀明ヨリ二
百餘年カ間ノ邪義ヲナンシヤフリ。天台
大師ノ圓慧圓定ヲ撰シ給ノミナラス。鑑
眞和尚ノ弘通セシ日本小乘ノ三處ノ戒壇
ヲナンシヤフリ。叡山ニ圓頓ノ大乘別受
戒ヲ建立セリ。此ノ大事ハ佛滅後一千八
百年カ間ノ。身毒尸那扶桑乃至一閻浮提
第一ノ奇事ナリ。内證ハ龍樹天台等ニハ
或ハ劣ニモヤ。或ハ同クモヤアルラン。佛
法ノ人ヲスヘテ一法トナセル事ハ。龍樹
天親ニモコエ。南岳天台ニモスクレテ見
エサセ給ナリ。總シテハ如來御入滅後一
千八百年カ間。此二人コソ法華經ノ行者
ニテハヲハスレ。故秀句云。若接須彌擲
置他方無數佛土亦未爲難。乃至若佛滅後
經云。淺易深難釋迦所判。去淺就深丈夫
之心也。天台大師信順釋迦助法華宗敷
揚震旦。叡山一家相承天台助法華宗弘
歳時ヨリ。如來在世五十年。滅後一八百餘
年カ中間ニ。高十六萬八千由旬六百六十
二萬里ノ金山ヲ。有人五尺ノ小身ノ手ヲ
モンテ。方一寸二寸等ノ瓦礫ヲニキリテ。
一丁二丁マテナクルカコトク。雀鳥ノトフ
ヨリモハヤク鐵圍山ノ外ヘナクル者ハア
リトモ。法華經ヲ佛ノトカセ給シヤウニ
説カン人ハ末法ニハマレナルヘシ。天台
大師。傳教大師コソ佛説ニ相似シテトカ
セ給タル人ニテヲハスレトナリ。天竺ノ
論師ハイマタ法華經ヘユキツキ給ハス。
漢土ノ天台已前ノ人師ハ或ハスキ或ハタ
ラス。慈恩･法藏･善無畏等ハ東ヲ西トイヰ。
天ヲ地ト申セル人人ナリ。此等ハ傳教大
師ノ自讃ニハアラス。去延暦二十一年正
月十九日高雄山ニ桓武皇帝行幸ナリテ。
六宗七大寺ノ碩徳善議･勝猷･奉基･寵忍･賢
玉･安福･勤操･修圓･慈誥･玄耀･歳光･道證･光
證･觀敏等ノ十有餘人。最澄法師ト召シ合
セラレテ宗論アリシニ。或一言ニ舌ヲ卷
テ二言三言ニ及ハス。皆一同ニ頭ヲカタ
フケ手ヲアサウ。三論ノ二藏･三時･三轉法
輪。法相ノ三時･五性。華嚴宗ノ四教五教･根
本枝末･六相十玄。皆大綱ヲヤフラル。例セ
ハ大屋ノ棟梁ノヲレタルカコトシ。十大
徳ノ慢幢モ倒ニキ。爾時天子大ニ驚カセ
給テ。同二十九日ニ弘世･國道ノ兩吏ヲ勅
使トシテ。重テ七寺六宗ニ仰セ下レシカ
ハ。各各歸伏ノ状ヲ載テ云。竊見天台玄
疏者。總括釋迦一代教。悉顯其趣無所不
通。獨逾諸宗。殊示一道。其中所説甚深妙
理。七箇大寺六宗學生。昔所未聞曾所未
見。三論法相久年之諍。渙焉氷釋昭然既明。
猶披雲霧而見三光矣。自聖徳弘化以
降。于今二百餘年之間。所講經論其數多
矣。彼此爭理其疑未解。而此最妙圓宗猶
未闡揚。蓋以此間群生未應圓味歟。伏惟
聖朝久受如來之付。深結純圓之機。一妙義
理始乃興顯。六宗學者初悟至極。可謂此
界含靈。而今而後。悉載妙圓之船。早得濟
於彼岸。乃至善議等牽逢休運乃閲奇詞。
嘉祥等ハ一百餘人ヲアツメテ天台大師ヲ
聖人ト定タリ。今日本ノ七寺二百餘人ハ
傳教大師ヲ聖人トカウシタテマツル。佛
滅後二千餘人ニ及テ兩國ニ聖人二人出
現セリ。其上天台大師ノ未弘ノ圓頓大戒
ヲ叡山ニ建立シ給ウ。此豈ニ像法ノ末ニ
法華經廣宣流布スルニアラスヤ。答云。迦
葉阿難等ノ弘通セサル大法ヲ馬鳴･龍樹･
提婆･天親等ノ弘通セル事。前ノ難ニ顯レ
タリ。又龍樹天親等ノ流布シ殘シ給ヘル
大法ヲ天台大師ノ弘通シ給事又難ニアラ
ワレヌ。又天台智者大師ノ弘通シ給ハサ
ル圓頓ノ大戒傳教大師ノ建立セサセ給事
又顯然也。但シ詮ト不審ナル事ハ佛ハ説
キ盡シ給トモ。佛滅後ニ迦葉･阿難･馬鳴･龍
樹･無著･天親･乃至天台･傳教ノイマタ弘通
シマシマサヌ最大ノ深密ノ正法。經文ノ
面ニ現前ナリ。此深法今末法ノ始五五百
歳ニ一閻浮提ニ廣宣流布スヘキヤノ事不
審無極ナリ。イカナル祕法ソ。先名ヲキ
キ次ニ義ヲキカントヲモウ。此事モシ實
事ナラハ釋尊ノ二度世ニ出現シ給カ。淨
行菩薩ノ重涌出セルカ。イソキイソキ慈
悲ヲタレラレヨ。彼ノ玄奘三藏ハ六生ヲ
經テ月氏ニ入テ十九年。法華一乘ハ方便
教。小乘阿含經ハ眞實教。不空三藏ハ身毒
ニ返テ壽量品ヲ阿彌陀佛トカカレタリ。
此等ハ東ヲ西トイウ。日ヲ月トアヤマテ
リ。身ヲ苦メテナニカセン。心ニ染テヨウ
ナシ。幸ニ我等末法ニ生テ一歩ヲアユマ
スシテ三祇ヲコエ。頭ヲ虎ニカワスシテ
無見頂相ヲエン。答云。此ノ法門ヲ申サン
事ハ經文ニ候ヘハヤスカルヘシ。但此法門
ニハ先三ノ大事アリ。大海ハ廣ケレトモ
死骸ヲトトメス。大地ハ厚ケレトモ不孝
ノ者ヲハノセス。佛法ニハ五逆ヲタスケ
不孝ヲハスクウ。但誹謗一闡提ノ者ノ持
戒ニシテ第一ナルヲハユルサレス。此ノ
三ノワサハヒト者所謂念佛宗ト禪宗ト眞
言宗トナリ。一ニハ念佛宗ハ日本國ニ充
滿シテ四衆ノ口アソヒトス。二ニ禪宗ハ
三衣一鉢ノ大慢ノ比丘ノ四海ニ充滿シテ
一天ノ明導トヲモヘリ。三ニ眞言宗ハ彼
等ノ二宗ニハ又ニルヘクモナシ。叡山･東
寺･七寺･園城。或ハ官主。或ハ御室。或ハ長
吏。或ハ撿校ナリ。カノ内侍所ノ神鏡燼灰
トナンシカトモ。大日如來ノ寶印ヲ佛鏡
トタノミ。寶劍西海ニ入シカトモ五大尊
ヲモンテ國敵ヲ切ト思ヘリ。此等ノ堅固信
心ハ設劫石ハヒスラクトモ。カタフクヘシ
トハミヘス。大地ハ反覆ストモ疑心ヲコ
リカタシ。彼ノ天台大師ノ南北ヲセメ給
シ時モ此宗イマタワタラス。此傳教大師
ノ六宗ヲシエタケ給シ時モモレヌ。カタ
カタノ強敵ヲマヌカレテ。カヘテ大法ヲ
カスメ失ウ。其上傳教大師ノ御弟子慈覺
大師。此宗ヲトリタテテ叡山ノ天台宗ヲ
カスメヲトシテ一向眞言宗ニナシシカ
ハ。此ノ人ニハ誰ノ人カ敵ヲナスヘキ。カ
カル僻見ノタヨリヲエテ弘法大師ノ邪義
ヲモトカムル人モナシ。安然和尚スコシ
弘法ヲ難セントセシカトモ。只華嚴宗ノ
トコロハカリトカムルニニテ。カヘテ法
華經ヲハ大日經ニ對シテ沈メハテヌ。タ
タ世間ノタテ入ノ者ノコトシ
問云。此三宗ノ謬誤如何。答云。淨土宗ハ齊
ノ世ニ曇鸞法師ト申者アリ。本ハ三論宗
ノ人。龍樹菩薩ノ十住毘婆娑論ヲ見テ難
行道易行道ヲ立タリ。道綽禪師トイウ者
アリ。唐ノ世ノ者。本ハ涅槃經ヲカウシケ
ルカ。曇鸞法師カ淨土宗ニウツル筆ヲ見
テ。涅槃經ヲステテ淨土ニウツテ聖道淨
土ノ二門ヲ立タリ。又道綽カ弟子善導ト
イウ者アリ。雜行正行二行ヲ立ツ。日本國
ニ末法ニ入テ二百餘年。後鳥羽院ノ御宇
ニ。法然トイウモノアリ。一切ノ道俗ヲス
スメテ云。佛法ハ時機ヲ本トス。法華經。大
日經。天台。眞言等ノ八宗九宗一代ノ大小
顯密權實等ノ經宗等ハ上根上智ノ正像二
千年ノ機ノタメナリ。末法ニ入テハイカ
ニ功ヲナシテ行スルトモ其益アルヘカラ
ス。其上彌陀念佛ニマシヘテ行スルナラ
ハ念佛モ往生スヘカラス。此レワタクシ
ニ申ニハアラス。龍樹菩薩曇鸞法師ハ難
行道トナツケ。道綽ハ未有一人得者トキ
ラヒ。善導ハ千中無一トナツケタリ。此等
ハ他宗ナレハ御不審モアルヘシ。惠心先
徳ニスキサセ給ヘル天台眞言ノ智者ハ末
代ニヲハスヘキカ。カレ往生要集ニハカカ
レタリ。顯密ノ教法ハ予カ死生ヲハナル
ヘキ法ニハアラス。又三論ノ永觀カ十因
等ヲミヨ。サレハ法華眞言等ヲステテ一
向ニ念佛セハ。十即十生百即百生トスス
メケレハ。叡山東寺園城七寺等始ハ諍論
スルヤウナレトモ。往生要集ノ序ノ詞道
理カトミヘケレハ顯眞座主落サセ給テ法
然カ弟子トナル。其上設法然カ弟子トナ
ラヌ人人モ。彌陀念佛ハ他佛ニニルヘク
モナク。口スサミトシ。心ヨセニヲモヒケ
レハ。日本國皆一同ニ法然房ノ弟子ト見
ヘケリ。此五十年カ間一天四海一人モナ
ク法然カ弟子トナル。法然カ弟子トナリ
ヌレハ日本國一人モナク謗法ノ者トナリ
ヌ。譬ヘハ千人ノ子カ一同ニ一人ノ親ヲ
殺害セハ千人共ニ五逆ノ者ナリ。一人阿
鼻ニ墮ナハ餘人墮サルヘシヤ。結句ハ法
然流罪ヲアタミテ惡靈トナツテ。我竝ニ
弟子等ヲトカセシ國主山寺ノ僧等カ身ニ
入テ或ハ謀反ヲヲコシ。或ハ惡事ヲナシ
テ皆關東ニホロホサレヌ。ワツカニノコ
レル叡山東寺等ノ諸僧ハ。俗男俗女ニア
ナツラルルコト猿猴ノ人ニワラワレ俘囚
カ童子ニ蔑如セラルルカコトシ。禪宗ハ
又此便ヲ得テ持齋等トナンテ人ノ眼ヲ迷
ハカシ。タントケナル氣色ナレハ。イカニ
ヒカホウモンヲイヰクルヘトモ失トモヲ
ホヘス。禪宗ト申宗ハ。教外別傳ト申テ。釋
尊ノ一切經ノ外ニ迦葉尊者ニヒソカニサ
サヤカセ給エリ。サレハ禪宗ヲシラスシ
テ一切經ヲ習ウモノハ。犬ノ雷ヲカムカ
故ニ日本國ノ中ニ不孝ニシテ父母ニステ
ラレ。無禮ナル故ニ主君ニカンタウセラ
レ。アルイハ若ナル法師等ノ學文ニモノ
ウキ。遊女ノモノクルワシキ本性ニ叶ル
邪法ナルユヘニ。皆一同ニ持齋ニナリテ。
國ノ百姓ヲクラウ蝗虫トナレリ。シカレ
ハ天ハ天眼ヲイカラカシ。地神ハ身ヲフ
ルウ。眞言宗ト申ハ上ノ二ノワサハヒニ
ハニルヘクモナキ大僻見ナリ。アラアラ
此ヲ申ヘシ。所謂大唐ノ玄宗皇帝ノ御宇
ニ。善無畏三藏･金剛智三藏･不空三藏。大日
經金剛頂經蘇悉地經ヲ月支ヨリワタス。
此三經ノ説相分明ナリ。其ノ極理ヲ尋レ
ハ會二破二ノ一乘。其ノ相ヲ論スレハ印
ト眞言ト計ナリ。尚華嚴般若ノ三一相對
ノ一乘ニモ及ハス。天台宗ノ爾前ノ別圓
程モナシ。但藏通二教ヲ面トス。而ルヲ善
無畏三藏ヲモワク。此ノ經文ヲアラワニ
イヰ出ス程ナラハ。華嚴法相ニモヲコツ
カレ天台宗ニモワラワレナン。大事ト
シテ月支ヨリハ持來ヌ。サテモタセハ本
意ニアラストヤヲモヒケン。天台宗ノ中
ニ一行禪師トイフ僻人一人アリ。コレヲ
カタラヒテ漢土ノ法門ヲカタラセケリ。
一行阿闍梨ウチヌカレテ。三論法相華嚴
等ヲアラアラカタルノミナラス。天台宗
ノ立ラレケルヤウヲ申ケレハ。善無畏ヲ
モハク。天台宗ハ天竺ニシテ聞シニモ。ナ
ヲウチスクレテ。カサムヘキヤウモナカ
リケレハ。善無畏一行ヲウチヌヒテ云和
僧ハ漢土ニハコサカシキ者ニテアリケ
リ。天台宗ハ神妙ノ宗ナリ。今眞言宗ノ天
台宗ニカサムトコロハ印ト眞言ト計ナリ
トイヰケレハ。一行サモヤトヲモヒケレ
ハ。善無畏三藏一行ニカタテ云。天台大師
ノ法華經ニ疏ヲツクラセ給ヘルコトク。
大日經ノ疏ヲ造テ眞言ヲ弘通セントヲモ
ウ。汝カキナンヤトイヰケレハ。一行カ云。
ヤスウ候。但シイカヤウニカキ候ヘキソ。
天台宗ハニクキ宗ナリ。諸宗ハ我モ我モ
トアラソエヲナセトモ。一切ニ叶サル事
一アリ。所謂法華經ノ序分ニ無量義經ト
申經ヲモンテ。前四十餘年ノ經經ヲハ其
門ヲ打フサキ候ヌ。法華經ノ法師品神力
品ヲモンテ後ノ經經ヲハ又フセカセヌ。
肩ヲナラフ經經ヲハ今説ノ文ヲモンテセ
メ候。大日經ヲハ三説ノ中ニハイツクニ
カヲキ候ヘキト問ヒケレハ。爾時ニ善無
畏三藏大ニ巧ンテ云。大日經ニ住心品ト
イウ品アリ。無量義經ノ四十餘年ノ經經
ヲ打ハラウカコトシ。大日經ノ入漫陀羅
已下ノ諸品ハ。漢土ニテハ法華經大日經
トテ二本ナレトモ。天竺ニテハ一經ノコ
トシ。釋迦佛ハ舍利弗彌勒ニ向テ大日經
ヲ法華經トナツケテ。印ト眞言トヲステ
テ但理計ヲトケルヲ。羅什三藏此ヲワタ
ス。天台大師此ヲ見ル。大日如來ハ法華經
ヲ大日經トナツケテ金剛薩埵ニ向テトカ
セ給。此ヲ大日經トナツク。我レマノアタ
リ天竺ニシテコレヲ見ル。サレハ汝カカ
クヘキヤウハ。大日經ト法華經トヲハ水
ト乳トノヤウニ一味トナスヘシ。モシシ
カラハ。大日經ハ已今當ノ三説ヲハ皆法
華經ノコトクウチヲトスヘシ。サテ印ト
眞言トハ心法ノ一念三千ニ莊嚴スルナラ
ハ三密相應ノ祕法ナルヘシ。三密相應ス
ル程ナラハ天台宗ハ意密ナリ。眞言ハ甲
ナル將軍ノ甲鎧ヲ帶シテ弓箭ヲ横タヘ。
太刀ヲ腰ニハケルカコトシ。天台宗ハ意
密計ナレハ甲ナル將軍ノ赤裸ナルカコト
クナラントイヰケレハ。一行阿闍梨ハ此
ノヤウニカキケリ。漢土三百六十箇國ニ
ハ此事ヲ知ル人ナカリケルカノアヒタ。
始ニハ勝劣ヲ諍論シケレトモ。善無畏等
ハ人カラハ重シ。天台宗ノ人人ハ輕カリ
ケリ。又天台大師ホトノ智アル者モナカ
リケレハ。但日日ニ眞言宗ニナリテサテ
ヤミニケリ。年ヒサシクナレハイヨイヨ
眞言ノ誑惑ノ根フカクカクレテ候ケリ。
日本國ノ傳教大師漢土ニワタリテ天台宗
ヲワタシ給ツヒテニ眞言宗ヲナラヘワタ
ス。天台宗ヲ日本ノ皇帝ニサツケ。眞言宗
ヲ六宗ノ大徳ニナラワセ給。但シ六宗ト
天台宗ノ勝劣ハ入唐已前ニ定サセ給。入
唐已後ニハ圓頓ノ戒場ヲ立テウ立シノ論
計リナリケルカノアヒタ。敵多クシテ
ハ戒場ノ一事成シカタシトヤヲホシメシ
ケン。又末法ニセメサセントヤヲホシメ
シケン。皇帝ノ御前ニシテモ論セサセ給
ハス。弟子等ニモハカハカシクカタラセ
給ハス。但シ依憑集ト申一卷ノ祕書アリ。
七宗ノ人人ノ天台ニ落タルヤウヲカカレ
ツル文ナリ。カノ文ノ序ニ眞言宗ノ誑惑
一筆ミヘテ候。弘法大師ハ同シキ延暦年
中ニ御入唐青龍寺ノ慧果ニ値給テ眞言宗
ヲナラワセ給ヘリ。御歸朝ノ後。一代ノ勝
劣ヲ判シ給ケルニ。第一眞言。第二華嚴。第
三法華トカカレテ候。此大師ハ世間ノ人
人モンテノホカニ重スル人ナリ。但シ佛法
ノ事ハ申ニヲソレアレトモ。モンテノホ
カニアラキ事トモハンヘリ。此事ヲアラ
アラカンカヘタルニ。漢土ニワタラセ給
テハ但眞言ノ事相ノ印眞言計習ツタエ
テ。其義理ヲハクハシクモサハクラセ給
ハサリケルホトニ。日本ニワタリテ後大
ニ世間ヲ見レハ。天台宗モンテノホカニ
カサミタリケレハ。我カ重スル眞言宗ヒ
ロメカタカリケルカノユヘニ。本日本國
ニシテ習タリシ華嚴宗ヲトリイタシテ法
華經ニマサレタルヨシヲ申ケリ。ソレモ
常ノ華嚴宗ニ申ヤウニ申ナラハ。人信ス
マシトヤヲホシメシケン。スコシイロヲ
カエテ此ハ大日經。龍猛菩薩ノ菩提心論。
善無畏等ノ實義ナリト。大妄語ヲヒキソ
ヘタリケレトモ。天台宗ノ人人イタウト
カメ申ス事ナシ。問云。弘法大師ノ十住心
論。祕藏寶鑰。二教論ニ云。如此乘乘自乘
得名。望後作戲論。又云。無明邊域非明分
位。又云。第四熟蘇味。又云。震旦人師等諍
云。予此ノ釋ニヲトロヒテ。一切經竝大
日ノ三部經等ヲヒラキミルニ。華嚴經ト
大日經トニ對スレハ法華經戲論。六波羅
蜜經ニ對スレハ盜人。守護經ニ對スレハ
無明ノ邊域ト申經文ハ一字一句モ候ワ
ス。此事ハイトハカナキ事ナレトモ。此ノ
三四百餘年ニ日本國ノソコハクノ智者ト
モノ用サセ給ヘハ定テユヘアルカトヲモ
ヒヌヘシ。シハラクイトヤスキヒカ事ア
ケテ餘事ノハカナキ事ヲシラスヘシ。法
華經ヲ醍醐味ト稱スルコトハ陳隋ノ代ナ
リ。六波羅蜜經ハ唐ノ半ニ般若三藏此ヲ
ワタス。六波羅蜜經ノ醍醐ハ陳隋ノ世ニ
ハワタリテアラハコソ天台大師ハ眞言ノ
醍醐ヲハ盜マセ給ワメ。傍例アリ。日本ノ
得一カ云。天台大師ハ深密經ノ三時經ヲ
ヤフル。三寸ノ舌ヲモンテ五尺ノ身ヲタ
ツヘシトノノシリシヲ。傳教大師此ヲタ
タシテ云。深密經ハ唐ノ始玄奘三藏コレ
ヲワタス。天台ハ陳隋ノ人。智者御入滅ノ
後數箇年アンテ解深密經ワタレリ。死シ
テ已後ニワタレル經ヲハイカテカ破給ヘ
キトセメサセ給テ候シカハ。得一ハツマ
ルノミナラス舌八ニサケテ死候ヌ。コレ
ハ彼ニハニルヘクモナキ惡口ナリ。華嚴
ノ法藏。三論ノ嘉祥。法相ノ玄奘。天台等乃
至南北ノ諸師。後漢ヨリ已下ノ三藏人師
ヲ皆ヲサエテ盜人トカカレテ候ナリ。其
上又法華經ヲ醍醐ト稱スルコトハ天台等
ノ私ノ言ニハアラス。佛涅槃經ニ法華經
ヲ醍醐トトカセ給。天親菩薩ハ法華經涅
槃經ヲ醍醐トカカレテ候。龍樹菩薩ハ法
華經ヲ妙藥トナツケサセ給。サレハ法華
經等ヲ醍醐ト申人盜人ナラハ。釋迦多寶
十方諸佛。龍樹天親等ハ盜人ニテヲハス
ヘキカ。弘法ノ門人等。乃至日本ノ東寺ノ
眞言師。如何自眼ノ黒白ハツタナクシテ
辦ヘストモ。他ノ鏡ヲモンテ自禍ヲシレ。
此ノ外法華經ヲ戲論ノ法トカカルルコ
ト。大日經金剛頂經等ニタシカナル經文
ヲイタサレヨ。設彼彼ノ經經ニ法華經ヲ
戲論トトカレタリトモ。譯者ノ誤ル事モ
アルソカシ。ヨクヨク思慮ノアルヘカリ
ケルカ。孔子ハ九思一言。周公旦ハ沐ニハ
三ニキリ。食ニハ三ハカレケリ。外書ノハ
カナキ世間ノ淺事ヲ習人スラ智人ハカウ
候ソカシ。イカニカカルアサマシキ事ハ
アリケルヤラン。カカル僻見ノ末ヘナレ
ハ。彼ノ傳法院ノ本願トカウスル聖覺房
カ舍利講ノ式云。尊高者也不二摩訶衍之
佛。驢牛三身不能扶車。祕奧者也兩部漫
ノ四法ト申ハ法相三論華嚴法華ノ四人。
驢牛ノ三身ト申ハ法華華嚴般若深密經ノ
教主ノ四佛。此等ノ佛僧ハ眞言師ニ對ス
レハ＊聖覺弘法ノ牛飼履物取者ニモタラ
ヌ程ノ事ナリトカイテ候。彼ノ月氏ノ大
慢婆羅門ハ生知ノ博學。顯密二道胸ニウ
カヘ。内外ノ典籍掌ニニキル。サレハ王臣
頭ヲカタフケ萬人師範ト仰ク。アマリノ慢
心ニ世間ニ尊崇スル者ハ大自在天。婆籔
天。那羅延天。大覺世尊。此四聖ナリ。我カ
座ノ四足ニセント座ノ足ニツクリテ坐シ
テ法門ヲ申ケリ。當時ノ眞言師カ釋迦佛
等ノ一切ノ佛ヲカキアツメテ潅頂スル
時。敷マンタラトスルカコトシ。禪宗ノ法
師等カ云。此宗ハ佛ノ頂ヲフム大法ナリ
トイフカコトシ。而ヲ賢愛論師ト申セシ
小僧アリ。彼ヲタタスヘキヨシ申セシカ
トモ。王臣萬民コレヲモチヰス。結句ハ大
慢カ弟子等檀那等ニ申ツケテ無量ノ妄語
ヲカマヘテ惡口打擲セシカトモ。スコシ
モ命モヲシマスノノシリシカハ。帝王賢
愛ヲニクミテツメサセントシ給シホト
ニ。カヘリテ大慢カセメラレタリシカハ。
大王天ニ仰地ニ伏シテナケヒテノ給ハ
ク。朕ハマノアタリ此事ヲキヒテ邪見ヲ
ハラシヌ。先王ハイカニ此者ニタホラサレ
テ阿鼻地獄ニヲハスラント。賢愛論師ノ
御足ニトリツキテ悲涙セサセ給シカハ。
賢愛ノ御計トシテ大慢ヲ驢ニノセテ五竺
ニ面ヲサラシ給ケレハ。イヨイヨ惡心盛
ニナリテ現身ニ無間地獄ニ墮ヌ。今ノ世
ノ眞言ト禪宗等トハ此ニカワレリヤ。漢
土ノ三階禪師云。教主釋尊ノ法華經ハ第
一第二階ノ正像ノ法門ナリ。末代ノタメ
ニハ我カツクレル普經ナリ。法華經ヲ今
ノ世ニ行セン者ハ十方ノ大阿鼻獄ニ墮ヘ
シ。末代ノ根機ニアタラサルユヘナリト
申テ。六時禮懺。四時ノ坐禪。生身佛ノコト
クナリシカハ。人多ク尊テ弟子萬餘人ア
リシカトモ。ワツカノ小女ノ法華經ヲヨ
ミシニセメラレテ當座ニハ音ヲ失。後ニ
ハ大蛇ニナリテ。ソコハクノ檀那弟子竝
ニ小女處女等ヲノミ食シナリ。今ノ善導
法然等カ千中無一ノ惡義モコレニテ候ナ
リ。此等ノ三大事ハステニ久クナリ候ヘ
ハ。イヤシムヘキニハアラネトモ。申サハ
信スル人モヤアリナン。コレヨリモ百千
萬億倍信シカタキ最大ノ惡事ハンヘリ。
慈覺大師ハ傳教大師ノ第三ノ御弟子ナ
リ。シカレトモ上一人ヨリ下萬民ニイタ
ルマテ。傳教大師ニハ勝テヲハシマス人
ナリトヲモエリ。此人眞言宗ト法華宗ノ
實義ヲ極サセ給テ候カ。眞言ハ法華經ニ
ハ勝タリトカカセ給ヘリ。而ヲ叡山三千
人ノ大衆。日本一州ノ學者等。一同ノ歸伏
ノ義ナリ。弘法ノ門人等ハ大師ノ法華經
ヲ華嚴經ニ劣トカカセ給ヘルハ。我カカ
タナカラモ少シ強キヤウナレトモ。慈覺
大師ノ釋ヲモンテヲモウニ。眞言宗ノ法
華經ニ勝タルコトハ一定ナリ。日本國ニ
シテ眞言宗ヲ法華經ニ勝ルルト立ルヲハ。
叡山コソ強カタキナリヌヘカリツルニ。
慈覺ヲモンテ三千人ノ口ヲフサキナハ眞
言宗ハヲモウコトシ。サレハ東寺第一ノ
カタウト慈覺大師ニハスクヘカラス。例
セハ淨土宗禪宗ハ餘國ニテハヒロマルト
モ。日本國ニシテハ延暦寺ノユルサレナカ
ランニハ。無邊劫ハフトモ叶マシカリシ
ヲ。安然和尚ト申叡山第一ノ古徳。教時諍
論ト申文ニ九宗ノ勝劣ヲ立ラレタルニ。
第一眞言宗。第二禪宗。第三天台法華宗。第
宗ハ日本國ニ充滿シテステニ亡國トナラ
ントハスルナリ。法然カ念佛宗ノハヤリ
テ一國ヲ失ハントスル因縁ハ惠心ノ往生
要集ノ序ヨリハシマレリ。師子ノ身ノ中
ノ蟲ノ師子ヲ食ト佛ノ記給ハマコトナル
カナヤ。傳教大師ハ日本國ニシテ十五年
カ間天台眞言等ヲ自見セサセ給。生知ノ
妙悟ニテ師ナクシテサトラセ給シカト
モ。世間ノ不審ヲハラサンカタメニ。漢土
ニ亙テ天台眞言ノ二宗ヲ傳給シ時。漢土
ノ人人ハヤウヤウノ義アリシカトモ。我
心ニハ法華ハ眞言ニスクレタリトヲホシ
メシシユヘニ。眞言宗ノ宗ノ名字ヲハ削ラ
セ給テ天台宗ノ止觀眞言等トカカセ給。十
二年ノ年分得度者二人ヲヲカセ給。重テ止
觀院ニ法華經金光明經仁王經ノ三部ヲ鎭
護國家ノ三部ト定テ宣旨ヲ申下。永代日本
國ノ第一ノ重寶。神璽。寶劍。内侍所トアカ
メサセ給キ。叡山第一ノ座主義眞和尚。第
二ノ座主圓澄大師マテハ此義相違ナシ。第
三ノ慈覺大師御入唐。唐土ニワタリテ十年
カ間顯密二道ノ勝劣ヲ八箇ノ大徳ニナラ
ヒツタウ。又天台宗ノ人人廣脩維蠲等ニナ
ラワセ給シカトモ。心ノ内ニヲホシケル
ハ。眞言宗ハ天台宗ニハ勝タリケリ。我師
傳教大師ハイマタ此事ヲハクハシク習セ
給サリケリ。漢土ニ久モワタラセ給サリ
ケル故ニ。此ノ法門ハアラウチニミヲハ
シケルヤトヲホシテ日本國ニ歸朝シ。叡
山東塔止觀院ノ西ニ總持院ト申大講堂ヲ
立。御本尊ハ金剛界ノ大日如來。此御前ニ
シテ大日經ノ善無畏ノ疏ヲ本トシテ。金
剛頂經ノ疏七卷。蘇悉地經ノ疏七卷。已上
十四卷ヲツクル。此疏肝心ノ釋云。教有二
種。一顯示教。謂三乘教。世俗勝義未圓融
故。二祕密教。謂一乘教。世俗勝義一體融故。
祕密教中亦有二種。一理祕密教。諸華嚴般
若維摩法華涅槃等。但説世俗勝義不二未
説眞言密印事故。二事理倶密教。謂大日
經金剛頂經蘇悉地經等。亦説世俗勝義不
華經ト眞言ノ三部トノ勝劣ヲ定サセ給
ニ。眞言ノ三部經ト法華經トハ所詮ノ理
ハ同ク一念三千ノ法門ナリ。シカレトモ
密印ト眞言等ノ事法ハ法華經ニハカケテ
ヲハセス。法華經ハ理祕密。眞言ノ三部經
ハ事理倶密ナレハ天地雲泥ナリトカカレ
タリ。シカモ此ノ筆ハ私ノ釋ニハアラス。
善無畏三藏ノ大日經ノ疏ノ心ナリトヲホ
セトモ。ナヲナヲ二宗ノ勝劣不審ニヤア
リケン。ハタ又他人ノ疑ヲサンセントヤ
疏成功已畢。中心獨謂。此疏通佛意否乎。
若不通佛意者不流傳於世矣。仍安置佛
像前。七日七夜翹企深誠。勤修祇請。至五
日五更夢。當于正午仰見日輪。而以弓
射之。其箭當日輪。日輪即轉動。夢覺之後
覺大師ハ本朝ニシテハ傳教弘法ノ兩家ヲ
習キワメ。異朝ニシテハ八大徳竝ニ南天
ノ寶月三藏等ニ十年カ間最大事ノ祕法ヲ
キワメサセ給ル上。二經ノ疏ヲツクリ了。
重テ本尊ニ祈請ヲナスニ。智慧ノ矢ステ
ニ中道ノ日輪ニアタリテウチヲトロカセ
給。歡喜ノアマリニ。仁明天王ニ宣旨ヲ申
ソヘサセ給。天台ノ座主ヲ眞言ノ官主ト
ナシ。眞言ノ鎭護國家ノ三部トテ。今ニ四
百餘年カ間碩學ハ稻麻ノコトシ。竭仰ハ
竹葦ニ同シ。サレハ桓武傳教等ノ日本國
建立寺塔ハ一宇モナク眞言ノ寺トナリ
ヌ。公家モ武家モ一同ニ眞言師ヲ召テ師
匠トアヲキ。官ヲナシ。寺ヲアツケタフ。佛
事ノ木畫ノ開眼供養ハ八宗一同ニ大日佛
眼ノ印眞言ナリ。疑云。法華經ヲ眞言ニ勝
ト申人ハ。此釋ヲハイカカセン。用ヘキカ
又スツヘキカ。答佛ケノ未來ヲ定云。依法
不依人。龍樹菩薩云。依修多羅白論。不
依修多羅黒論。天台云。復與修多羅合者
録而用之。無文無義不可信受。傳教大師
論釋ノコトキンハ夢ヲ本ニハスヘカラ
ス。タタツイサシテ法華經ト大日經トノ
勝劣ヲ分明ニ説タラン經論ノ文コソタイ
セチニ候ハメ。但印眞言ナクハ木畫ノ像
ノ開眼ノ事。此又ヲコノ事ナリ。眞言ノナ
カリシ已前ニハ木畫ノ開眼ハナカリシ
カ。天竺漢土日本ニハ眞言宗已前ノ木畫
ノ像ハ或ハ行。或ハ説法シ。或ハ御物語ア
リ。印眞言ヲモテ佛ヲ供養セシヨリコノ
カタ利生モカタカタ失タルナリ。此ハ常
ノ論談ノ義ナリ。此一事ニヲヒテハ但シ
日蓮ハ分明ノ證據ヲ餘所ニ引ヘカラス。
慈覺大師ノ御釋ヲ仰テ信テ候ナリ。問云。
何ニト信セラルルヤ。答云。此夢ノ根源ハ
眞言ハ法華經ニ勝ト造定テノ御ユメナ
リ。此夢吉夢ナラハ慈覺大師ノ合セサセ
給カコトク眞言勝ルヘシ。但シ日輪ヲ射
ルトユメニミタルハ吉夢ナリトイウヘキ
カ。内典五千七千餘卷。外典三千餘卷ノ中
ニ日ヲ射ルトユメニ見テ吉夢ナル證據ヲ
ウケ給ルヘシ。少少此ヨリ出シ申サン。阿
闍世王ハ天ヨリ月落ルトユメニミテ耆婆
大臣ニ合セサセ給シカハ。大臣合セテ云。
佛ノ御入滅ナリ。須拔多羅。天ヨリ日落ト
ユメニミル。我トアワセテ云。佛ノ御入滅
ナリ。脩羅ハ帝釋ト合戰ノ時。マツ日月ヲ
イタテマツル。夏ノ桀。殷ノ紂ト申セシ惡
王ハ。常ニ日ヲイテ身ヲホロホシ國ヲヤ
フル。摩耶夫人ハ日ヲハラムトユメニミ
テ悉達太子ヲウマセ給。カルカユヘニ佛
ノワラワナヲハ日種トイウ。日本國ト申
ハ天照太神ノ日天ニテマシマスユヘナ
リ。サレハ此ノユメハ天照太神。傳教大師。
釋迦佛。法華經ヲイタテマツレル矢ニテ
コソ二部ノ疏ハ候ナレ。日蓮ハ愚癡ノ者
ナレハ經論モシラス。但此ノ夢ヲモンテ
法華經ニ眞言スクレタリト申人ハ。今生
ニハ國ヲホロホシ家ヲ失ヒ。後生ニハアヒ
地獄ニ入ヘシトハシリテ候。今現證アル
ヘシ。日本國ト蒙古トノ合戰ニ。一切ノ眞
言師ノ調伏ヲ行ヒ候ヘハ。日本カチテ候
ナラハ眞言ハイミシカリケリトオモヒ候
ナン。但シ承久ノ合戰ニソコハクノ眞言
師ノイノリ候シカ。調伏セラレ給シ權ノ
大夫殿ハカタセ給。後鳥羽院ハ隱岐ノ國
ヘ。御子天子ハ佐渡ノ島島ヘ調伏シヤリ
マイラセ候ヌ。結句ハ野干ノナキノ己カ
身ニヲウナルヤウニ。還著於本人ノ經文
ニスコシモタカワス。叡山ノ三千人カマ
クラニセメラレテ一同ニシタカイハテ
ヌ。シカルニ又カマクラ日本ヲ失トイノ
ルカト申ナリ。コレヲヨクヨクシル人ハ
一閻浮提一人ノ智人ナルヘシ。ヨクヨク
シルヘキカ。今ハカマクラノ世サカンナ
ルユヘニ。東寺天台園城七寺ノ眞言師等
ト竝ニ自立ヲワスレタル法華經ノ謗法ノ
人人關東ニヲチクタリテ。頭ヲカタフケ
ヒサヲカカメ。ヤウヤウニ武士ノ心ヲト
リテ。諸寺諸山ノ別當トナリ。長吏トナリ
テ。王位ヲ失シ惡法ヲトリエタシテ國土
安隱トイノレハ。將軍家竝所從ノ侍已下
ハ國土ノ安＊隱ナルヘキ事ナンメリトウ
チヲモヒテ有ルホトニ。法華經ヲ失大禍
ノ僧トモヲ用ラルレハ國定ホロヒナン。
亡國ノカナシサ。亡身ノナケカハシサニ。
身命ヲステテ此事ヲアラワスヘシ。國主
世ヲ持ヘキナラハ。アヤシトヲモヒテタ
ツヌヘキトコロニ。タタサンケンノコト
ハノミ用テ。ヤウヤウノアタヲナス。而ル
ニ法華經守護ノ梵天帝釋日月四天地神等
ハ古ノ謗法ヲハ不思議トハヲホセトモ。
此ヲシレル人ナケレハ。一子ノ惡事ノコ
トクウチユルシテ。イツワリヲロカナル
時モアリ。又スコシツミシラスル時モア
リ。今ハ謗法ヲ用タルタニ不思議ナルニ。
マレマレ諌曉スル人ヲカヘリテアタヲナ
ス。一日二日。一月二月。一年二年ナラス數
年ニ及フ。彼ノ不輕菩薩ノ杖木ノ難ニ値
シニモスクレ。覺徳比丘ノ殺害ニ及シニ
モコエタリ。而ル間梵釋二王。日月。四天。衆
星。地神等ヤウヤウニイカリ。度度イサ
メラルレトモ。イヨイヨアタヲナスユヘ
ニ。天ノ御計トシテ隣國ノ聖人ニヲホセ
ツケラレテ此ヲイマシメ。大鬼神ヲ國ニ
入レテ。人ノ心ヲタホラカシ。自界反逆セ
シム。吉凶ニツケテ瑞大ナレハ難多カル
ヘキコトワリニテ。佛滅後二千二百三十
餘年カ間。イマタイテサル大長星。イマタ
フラサル大地シン出來セリ。漢土日本ニ
智慧スクレ才能イミシキ聖人ハ度度アリ
シカトモ。イマタ日蓮ホト法華經ノカタ
ウトシテ國土ニ強敵多クマウケタル者ナ
キナリ。マツ眼前ノ事ヲモンテ日蓮ハ閻
浮第一ノ者トシルヘシ。佛法日本ニワタ
テ七百餘年。一切經ハ五千七千。宗ハ八宗
十宗。智人ハ稻麻ノコトシ。弘通ハ竹葦ニ
ニタリ。シカレトモ佛ニハ阿彌陀佛。諸佛
ノ名號ニハ彌陀ノ名號ホトヒロマリテヲ
ハスルハ候ハス。此名號ヲ弘通スル人ハ
惠心ハ往生要集ヲツクル。日本國三分カ
一ハ一同ノ彌陀念佛者。永觀ハ十因ト往
生講ノ式ヲツクル。扶桑三分カ二分ハ一
同ノ念佛者。法然センチヤクヲツクル本
朝一同ノ念佛者。而カレハ今ノ彌陀ノ名
號ヲ唱ル人人ハ一人カ弟子ニハアラス。
此念佛ト申ハ雙觀經。觀經。阿彌陀經ノ題
名ナリ。權大乘經ノ題目ノ廣宣流布スル
ハ實大乘經ノ題目ノ流布センスル序ニア
ラスヤ。心アラン人ハ此ヲスヒシヌヘシ。
權經流布セハ實經流布スヘシ。權經ノ題
目流布セハ實經ノ題目モ又流布スヘシ。
欽明ヨリ當帝ニイタルマテ七百餘年。イ
マタキカス。イマタ見ス。南無妙法蓮華經
ト唱ヘヨト他人ヲススメ。我ト唱タル智
人ナシ。日出ヌレハ星カクル。賢王來レハ
愚王ホロフ。實經流布セハ權經ノトトマ
リ。智人南無妙法蓮華經ト唱エハ愚人ノ
此ニ隨ハンコト影ト身ト聲ト響トノコト
クナラン。日蓮ハ日本第一ノ法華經ノ行
者ナル事アエテ疑ヒナシ。コレヲモンテ
スイセヨ。漢土月支ニモ一閻浮提ノ内ニ
モ肩ヲナラフル者ハ有ヘカラス。問云。正
嘉ノ大地シン。永文ノ大彗星ハイカナル
事ニヨンテ出來セルヤ。答云。天台云。智人
云。上行菩薩ノ大地ヨリ出現シ給タリシ
ヲハ。彌勒菩薩･文殊師利菩薩･觀世音菩薩･
藥王菩薩等ノ四十一品ノ無明ヲ斷セシ人
人モ。元品ノ無明ヲ斷セサレハ愚人トイ
ワレテ。壽量品ノ南無妙法蓮華經ノ末法ニ
流布センスルユヘニ。此ノ菩薩召出サレ
タルトハシラサリシトイウ事ナリ。問云。
日本･漢土･月支ノ中ニ此事ヲ知ル人アル
ヘシヤ。答云。見思ヲ斷盡シ。四十一品ノ無
明ヲ盡セル大菩薩タニモ此事ヲシラセ給
ハス。イカニイワウヤ。一毫ノ惑ヲモ斷セ
ヌ者トモノ此事ヲ知ヘキカ。問云。智人ナ
クハイカテカ此ヲ對治スヘキ。例セハ病
ノ所起ヲ知ラヌ人ノ。病人ヲ治スレハ人
必ス死ス。此災ノ根源ヲ知ラヌ人人カイ
ノリヲナサハ國マサニ亡ヒン事疑ナキ
カ。アラアサマシヤアラアサマシヤ。答云。
蛇ハ七日カ内ノ大雨ヲシリ。烏ハ年中ノ
吉凶ヲシル。此則大龍ノ所從。又久學ノユ
ヘカ。日蓮ハ凡夫ナリ。此事ヲシルヘカラ
ストイエトモ。汝等ニホホコレヲサトサ
ン。彼ノ周ノ平王ノ時。禿ニシテ裸ナル者
出現セシヲ。辛有トイヰシ者ウラナンテ
云。百年カ内ニ世ホロヒン。同キ幽王ノ時
山川クツレ大地フルヒキ。白陽ト云者勘
テイハク。十二年ノ内ニ大王事ニ値セ給
ヘシ。今ノ大地震。大長星等ハ國主日蓮ヲ
ニクミテ。亡國ノ法タル禪宗ト念佛者ト
眞言師ヲカタウトセラルレハ。天イカラ
セ給テイタサセ給トコロノ災難ナリ。問
云。ナニヲモンテカ此ヲ信セン。答云。最勝
王經云。由愛敬惡人治罰善人故。星宿及
ンハ。此國ニ惡人ノアルヲ王臣此ヲ歸
依ストイフ事疑ナシ。又此國ニ智人アリ。
國主此ヲニクミテアタストイウ事モ又疑
ナシ。又云。三十三天衆咸生忿怒心。變怪流
星墮。二日倶時出。他方怨賊來國人遭喪亂
他國ヨリ此ヲセム。三十三天ノ御イカリ
有コト又疑ナキカ。仁王經云。諸惡比丘多
求名利。於國王太子王子前。自説破佛法
又云。日月失度。時節反逆。或赤日出。或黒
日出。二三四五日出。或日蝕無光。或日輪一
等國ニ充滿シテ。國王太子王子等ヲタホ
ラカシテ破佛法破國ノ因縁ヲトカハ。其
ノ國ノ王等此人ニタホラカサレテヲホス
ヤウ。此ノ法コソ持佛法ノ因縁。持國ノ因
縁トヲモヒ。此言ヲヲサメテヲコナウナ
ラハ。日月ニ變アリ。大風ト大雨ト大火等
出來シ。次ニハ内賊ト申テ親類ヨリ大兵
亂ヲコリ。我カカタウトシヌヘキ者ヲハ
皆打失テ後ニハ他國ニセメラレテ或ハ自
殺シ。或ハイケトリニセラレ。或ハ降人ト
ナルヘシ。是偏ニ佛法ヲホロホシ國ヲホロ
ホス故ナリ。守護經云。彼釋迦牟尼如來。所
有教法一切天魔外道惡人五通神仙皆不破
壞乃至少分。而此名相諸惡沙門皆悉毀滅
令無有餘。如須彌山假使盡於三千界中
草木爲薪。長時焚燒一毫無損。若劫火起火
經云。佛告阿難。譬如師子命終若空若地。
若水若陸。所有衆生不敢食師子身肉。唯師
子自生諸虫自食師子之肉。阿難我之佛法
非餘能壞。是我法中諸惡比丘破我三大阿
心ハ過去ノ迦葉佛。釋迦如來ノ末法ノ事
ヲ訖哩枳王ニカタラセ給。釋迦如來ノ佛
法ヲハイカナルモノカウシナウヘキ。大
族王ノ五天ノ堂舍ヲ燒拂。十六大國ノ僧
尼ヲ殺セシ。漢土ノ武宗皇帝ノ九國ノ寺
塔四千六百餘所ヲ消滅セシメ。僧尼二十
六萬五百人ヲ還俗セシ等ノコトクナル
惡人等ハ。釋迦ノ佛法ヲハ失ヘカラス。三
衣ヲ身ニマトヒ。一鉢ヲ頚ニカケ。八萬法
藏ヲ胸ニウカヘ。十二部經ヲ口ニスウセ
ン僧侶カ彼ノ佛法ヲ失ウヘシ。譬ヘハ須
彌山ハ金ノ山ナリ。三千大千世界ノ草木
ヲモンテ四天六欲ニ充滿シテツミコメ
テ。一年二年百千萬億年カ間ヤクトモ一分
モ損スヘカラス。而ルヲ劫火ヲコラン時。
須彌ノ根ヨリ豆計ノ火イテテ。須彌山ヲ
ヤクノミナラス三千大千世界ヲヤキ失フ
ヘシ。若シ佛記ノコトクナラハ。十宗八宗
内典ノ僧等カ佛教ノ須彌山ヲハ燒キ拂ウ
ヘキニヤ。小乘倶舍成實律僧等カ大乘ヲ
ソネム胸ノ瞋恚ハ炎ナリ。眞言ノ善無畏
等。禪宗ノ三階等。淨士宗ノ善導等ハ佛教
ノ師子ノ肉ヨリ出來セル蝗蟲ノ比丘ナ
リ。傳教大師ハ三論法相華嚴等ノ日本ノ
碩徳等ヲ六蟲トカカセ給ヘリ。日蓮ハ眞
言禪宗淨土等ノ元祖ヲ三蟲トナツク。又
天台宗ノ慈覺･安然･惠心等ハ法華經傳教
大師ノ師子ノ身ノ中ノ三蟲ナリ。此等ノ
大謗法ノ根源ヲタタス日蓮ニアタヲナセ
ハ。天神モヲシミ地祇モイカラセ給テ炎
夭モ大ニ起ルナリ。サレハ心ウヘシ。一閻
浮提第一ノ大事ヲ申ユヘニ最第一ノ瑞相
此ニヲコレリ。アワレナルカナヤ。ナケカ
シキカナヤ。日本國ノ人皆無間大城ニ墮
チム事ヨ。悦シキカナヤ樂カナヤ。不肖ノ
身トシテ今度心田ニ佛種ヲウエタル。イ
マニシモミヨ。大蒙古國數萬艘ノ兵船ヲ
ウカヘテ。日本ヲセメハ。上一人ヨリ下モ
萬民ニイタルマテ。一切ノ佛寺一切ノ神
寺ヲハナケステテ。各各聲ヲツルヘテ南
無妙法蓮華經南無妙法蓮華經ト唱。掌ヲ
合テタスケ給ヘ日蓮ノ御房日蓮ノ御房ト
サケヒ候ハンスルニヤ。例セハ月支ノ大
族王ハ幼日王ニ掌ヲアワセ。日本ノ宗盛
ハカチワラヲウヤマウ。大慢ノモノハ敵
ニ隨トイウコノコトワリナリ。彼ノ輕毀
大慢ノ比丘等ハ始ニハ杖木ヲトトノヘテ
不輕菩薩ヲ打シカトモ。後ニハ掌ヲアワセ
テ失ヲクユ。提婆達多ハ釋尊ノ御身ニ血
ヲイタシシカトモ。臨終ノ時ニハ南無ト
唱タリキ。佛トタニ申タリシカハ地獄ニ
ハ墮ヘカラサリシヲ。業フカクシテ但南
無トノミトナヘテ佛トハイワス。今日本
國ノ高僧等モ南無日蓮聖人トトナエント
ストモ。南無計ニテヤアランスラン。フヒ
ンフヒン。外典云。未萌ヲシルヲ聖人トイ
ウ。内典云。三世ヲ知ヲ聖人トイウ。余ニ
三度ノカウミヤウアリ。一ニハ去シ文應
寺殿ニ奏シタテマツリシ時。宿谷ノ入道
ニ向云。禪宗ト念佛宗トヲ失給ヘシト申
サセ給ヘ。此事ヲ御用ナキナラハ。此一門
ヨリ事ヲコリテ他國ニセメラレサセ給ヘ
シ。二ニハ去シ文永八年九月十二日申時
ニ平左衞門尉ニ向テ云。日蓮ハ日本國ノ
棟梁也。予ヲ失ハ日本國ノ柱橦ヲ倒スナ
リ。只今ニ自界反逆難トテトシウチシテ。
他國侵逼難トテ此ノ國ノ人人他國ニ打殺
ルノミナラス。多クイケトリニセラルヘ
シ。建長寺･壽福寺･極樂寺･大佛･長樂寺等
ノ一切ノ念佛者。禪僧等カ寺塔ヲハヤキ
ハラエテ。彼等カ頚ヲユヒノハマニテ切
ラスハ日本國必ホロフヘシト申候了。第
テ云。王地ニ生タレハ身ヲハ隨ヘラレタ
テマツルヤウナリトモ。心ヲハ隨ヘラレ
タテマツルヘカラス。念佛ノ無間獄。禪ノ
天魔ノ所爲ナル事ハ疑ナシ。殊ニ眞言宗
カ此國土ノ大ナルワサハヒニテハ候ナ
リ。大蒙古ヲ調伏セン事。眞言師ニハ仰付
ラルヘカラス。若大事ヲ眞言師調伏スル
ナラハ。イヨイヨイソイテ此國ホロフヘシ
ト申セシカハ。頼綱問云。イツコロカヨセ
候ヘキ。予言。經文ニハイツトハミヘ候ハ
ネトモ。天ノ御氣色イカリスクナカラス。
キウニ見ヘテ候。ヨモ今年ハスコシ候ハ
シト語タリキ。此ノ三ノ大事ハ日蓮カ申
タルニハアラス。只偏ニ釋迦如來ノ御神
我身ニ入カワセ給ケルニヤ。我身ナカラ
モ悦ヒ身ニアマル。法華經ノ一念三千ト
申大事ノ法門ハコレナリ。經ニ云。所謂諸
法如是相ト申ハ何事ソ。十如是ノ始ノ相
如是カ第一ノ大事ニテ候ヘハ。佛ハ世ニ
イテサセ給。智人起ヲシル蛇ミツカラ蛇
ヲシルトハコレナリ。衆流アツマリテ大
海トナル。微塵ツモリテ須彌山トナレリ。
日蓮カ法華經ヲ信シ始シハ日本國ニハ一
渧一微塵ノコトシ。法華經ヲ二人三人十
人。百千萬億人唱エ傳ウルホトナラハ。妙
覺ノ須彌山トモナリ。大涅槃ノ大海トモ
ナルヘシ。佛ニナル道ハ此ヨリホカニ又
モトムル事ナカレ。問云。第二ノ文永九年
九月十二日ノ御勘氣ノ時ハ。イカニトシ
テ我ヲソンセハ自他ノイクサヲコルヘシ
刹利國王作諸非法惱亂世尊聲聞弟子。若
以毀罵刀杖打斫。及奪衣鉢種種資具。若他
給施作留難者。我等令彼自然卒卒起他
方怨敵及自界國土亦令兵起病疫飢饉。非
時風雨。鬪諍言訟譏謗。又令其王不久復
イエトモ。此ノ經文ハ。身ニアタリ。時ニ
ノソンテ。殊ニ尊クヲホウルユヘニコレ
ヲセンシイタス。此ノ經文ニ我等トハ梵
王ト帝釋ト第六天ノ魔王ト日月ト四天等
ノ三界ノ一切ノ天龍等ナリ。此等ノ上主。
佛前ニ詣シテ誓テ云。佛滅後正法像法末代
ノ中ニ。正法ヲ行セン者ヲ邪法ノ比丘等
カ國主ニウンタヘハ。王ニ近キモノ。王ニ
心ヨセナル者。我カタントシトヲモウ者
ノイウコトナレハ。理不盡ニ是非ヲ糾サ
ス。彼ノ智人ヲサンサンニハチニヲヨハ
セナントセハ。其故トモナク其國ニニワ
カニ大兵亂出現シ。後ニハ他國ニセメラ
ルヘシ。其國主モウセ其國モホロヒナン
ストトカレテ候。イタヒトカユキトハコ
レナリ。予カ身ニハ今生ニハサセル失ナ
シ。但國ヲタスケンカタメ生國ノ恩ヲホ
ウセント申セシヲ。御用ナカランコソ本意
ニアラサルニ。アマサヘ召シ出テ法華經
ノ第五ノ卷ヲ懷中セルヲトリイタシテサ
ンサントサイナミ。結句ハコウチヲワタ
シナントセシカハ。申タリシナリ。日月天
ニ處シ給ナカラ。日蓮カ大難ニアウヲ今
度カワラセ給ハスハ。一ニハ日蓮カ法華
經ノ行者ナラサルカ。忽ニ邪見ヲアラタ
ムヘシ。若日蓮法華經ノ行者ナラハ忽ニ
國ニシルシヲ見セ給ヘ。若シカラスハ今
ノ日月等ハ釋迦多寶十方ノ佛ヲタフラカ
シ奉大妄語ノ人ナリ。提婆カ虚誑罪。倶伽
利カ大妄語ニモ百千萬億倍スキサセ給ル
大妄語ノ天ナリト聲ヲアケテ申セシカ
ハ。忽ニ出來セル自界反逆難ナリ。サレハ
國土イタクミタレハ。我身ハイウニカヒ
ナキ凡夫ナレトモ。御經ヲ持チマイセ候
分齊ハ。當世ニハ日本第一ノ大人ナリト
申ナリ。問云。慢煩惱ハ七慢九慢八慢アリ。
汝カ大慢ハ佛教ニ明トコロノ大慢ニモ百
千萬億倍スクレタリ。彼ノ徳光論師ハ彌
勒菩薩ヲ禮セス。大慢婆羅門ハ四聖ヲ座
トセリ。大天ハ凡夫ニシテ阿羅漢トナノ
ル。無垢論師カ五天第一トイヰシ。此等ハ
皆阿鼻ニ墮ヌ。無間ノ罪人ナリ。汝イカテ
カ一閻浮提第一ノ智人トナノル。地獄ニ
墮サルヘシヤ。ヲソロシヲソロシ。答云。汝
ハ七慢九慢八慢等ヲハシレリヤ。大覺世
尊ハ三界第一トナノラセ給。一切ノ外道カ
云。只今天ニ罰セラルヘシ。大地ワレテ入
ナン。日本國ノ七寺三百餘人カ云。最澄法
トイエトモ天モ罰セス。カヘテ左右ヲ守
護シ。地モワレス金剛ノコトシ。傳教大師
ハ叡山ヲ立テテ一切衆生ノ眼目トナル。
結句七大寺ハ落テ弟子トナリ。諸國ハ檀
那トナル。サレハ現ニ勝タルヲ勝タリト
イフ事ハ慢ニニテ大功徳トナリケルカ。
傳教大師云。天台法華宗勝諸宗者據所
云。衆山之中須彌山爲第一。此法華經亦復
已説ノ華嚴般若大日經等。今説ノ無量義
經。當説ノ涅槃經ノ五千七千。月支。龍宮。四
王天。忉利天。日月中ノ一切經。盡十方界ノ
諸經ハ土山。黒山。小鐵圍山。大鐵圍山ノコ
トシ。日本國ニワタラセ給ヘル法華經ハ
須彌山ノコトシ。又云。有能受持是經典
者亦復如是。於一切衆生中亦爲第一等
ヲ持テル普賢菩薩。解脱月菩薩等。龍樹菩
薩。馬鳴菩薩。法藏大師。清涼國師。則天皇
后。審祥大徳。良辦僧正。聖武天皇。深密般若
經ヲ持テル勝義生菩薩。須菩提尊者。嘉祥
大師。玄奘三藏。太宗。高宗。觀勒。道昭。孝徳
天皇。眞言宗大日經ヲ持テル金剛薩埵。龍
猛菩薩。龍智菩薩。印生王。善無畏三藏。金剛
智三藏。不空三藏。玄宗。代宗。慧果。弘法大
師。慈覺大師。涅槃經ヲ持チシ迦葉童子菩
薩。五十二類曇無懺三藏。光宅寺ノ法雲。
南三北七ノ十師等ヨリモ。末代惡世ノ凡
夫ノ一戒モ持タス一闡提ノコトクニ人ニ
ハ思ハレタレトモ。經文ノコトク已今當
ニスクレテ法華經ヨリ外ハ佛ニナル道ナ
シト強盛ニ信シテ。而モ一分ノ解ナカラ
ン人人ハ。彼等ノ大聖ニハ百千億倍ノマ
サリナリト申經文ナリ。彼ノ人人ハ或ハ
彼ノ經經ニ且ク人ヲ入テ法華經ヘウツサ
ンカタメナル人モアリ。或ハ彼ノ經ニ著
ヲナシテ法華經ヘ入ラヌ人モアリ。或ハ
彼ノ經經ニ留逗ノミナラス。彼經經ヲ深
ク執スルユヘニ。法華經ヲ彼ノ經ニ劣ル
トイフ人モアリ。サレハ今法華經ノ行者
ハ心ウヘシ。譬如一切川流江河諸水之中
海爲第一。持法華經者亦復如是。又如衆
星之中月天子最爲第一。持法華經者亦復
如是等ト御心エアルヘシ。當世日本國ノ
智人等ハ衆星ノコトシ。日蓮ハ滿月ノコ
トシ。問云。古ヘカクノコトクイエル人ア
リヤ。答云。傳教大師ノ云。當知他宗所依經
未最爲第一。其能持經者亦未第一。天台
法華宗所持經最爲第一故。能持法華者亦
驥麟ノ尾ニツケルタニノ一日ニ千里ヲ飛
トイヰ。輪王ニ隨ヘル劣夫ノ須臾ニ四天
下ヲメクルトイウヲハ難スヘシヤ疑ヘシ
ヤ。豈自歎哉ノ釋ハ肝ニメヒスルカ。若爾
者法華經ヲ經ノコトクニ持ツ人ハ。梵王
ニモスクレ帝釋ニモコエタリ。修羅ヲ隨
ヘハ須彌山ヲモニナヒヌヘシ。龍神ヲツ
カワハ大海ヲモクミホシヌヘシ。傳教大
師云。讃者積福於安明。謗者開罪於無間
賎憎嫉而懷結恨。乃至其人命終入阿鼻獄
寶佛ノ證明タカスハ。十方ノ諸佛ノ舌相
一定ナラハ。今日本國ノ一切衆生無間地
獄ニ墮チン事疑ヘシヤ。法華經ノ八卷云。
若於後世受持讀誦是經典者乃至所願
不虚。亦於現世得其福報。又云。若有供
此ノ二ノ文ノ中ニ亦於現世得其福報ノ八
字。當於今世得現果報ノ八字。已上十六字
ノ文ムナシクシテ。日蓮今生ニ大果報ナク
ハ。如來ノ金言ハ提婆カ虚言ニ同ク。多寶
ノ證明ハ倶伽利カ妄語ニ異ナラシ。謗法
ノ一切衆生モ阿鼻地獄ニ墮ヘカラス。三
世ノ諸佛モマシマササルカ。サレハ我弟
子等心ミニ法華經ノコトク身命モヲシマ
ス修行シテ。此度佛法ノ實否ヲ心ミヨ。南
無妙法蓮華經南無妙法蓮華經。抑此法華
經ノ文ニ我不愛身命但惜無上道。涅槃
經云。譬如王使善能談論巧於方便。奉命
他國寧喪身命。終不匿王所説言教。智者
亦爾。於凡夫中不惜身命。要必宣説大乘
カヤウナル事アルユヘニ身命ヲスツルマ
テニテアルヤラン。委細ニウケ給候ハン。
答云。予カ初心ノ時ノ存念ハ。傳教･弘法･慈
覺･智證等ノ勅宣ヲ給テ。漢土ニワタリシ
事ノ我不愛身命ニアタレル歟。玄奘三藏
ノ漢土ヨリ月氏ニ入シニ六生カ間身命ヲ
ホロホシシ此等歟。雪山童子ノ半偈ノタ
メニ身ヲナケ。藥王菩薩ノ七萬二千歳カ
間臂ヲヤキシ事歟ナントヲモヒシホト
ニ。經文ノコトキンハ此等ニハアラス。經
文ニ我不愛身命ト申ハ上ニ三類ノ敵人ヲ
アケテ彼等カノリセメ刀杖ニ及テ身命
ヲウハウトモミヘタリ。又涅槃經ノ文ニ
寧喪身命等トトカレテ候ハ。次下ノ經文
ニ云。有一闡提作羅漢像住於空處誹謗
方等經典。諸凡夫人見已皆謂眞阿羅漢。是
敵人ヲ説云。或有阿蘭若納衣在空閑乃至
此等ノ經文ハ正法ノ強敵ト申ハ。惡王惡
臣ヨリモ。外道魔王ヨリモ。破戒ノ僧侶ヨ
リモ。持戒有智ノ大僧ノ中ニ大謗法ノ人
人アルヘシ。サレハ妙樂大師カヒテ云。第
ノ第五ノ卷云。此法華經諸佛如來祕密之
在其上ノ四字アリ。サレハ此經文ノコト
キンハ法華經ヲ一切經ノ頂ニアリト申カ
法華經ノ行者ニテハアルヘキカ。而ヲ又
國ニ尊重セラルル人人アマタアリテ。法
華經ニマサリテヲハスル經經マシマスト
申人人ニセメアヒ候ハン時。カノ人ハ王
臣等御歸依アリ。法華經ノ行者ハ貧道ナ
ルユヘニ。國コソンテコレヲイヤシミ候
ハン時。不輕菩薩ノコトク賢愛論師カコ
トク申ツヲラハ身命ニ及ヘシ。此カ第一
ノ大事ナルヘシトミヘテ候。此事ハ今ノ
日蓮カ身ニアタレリ。予カ分齊トシテ弘
法大師･慈覺大師･善無畏三藏･金剛智三藏･
不空三藏ナントヲ法華經ノ強敵ナリ。經
文マコトナラハ無間地獄ハ疑ナシナント
申ハ。裸形ニシテ大火ニ入ルハヤスシ。須
彌山ヲ手ニトテナケンハヤスシ。大石ヲ
負テ大海ヲワタランハヤスシ。日本國ニ
靈山淨土教主釋尊。寶淨世界ノ多寶佛。十
方分身諸佛。地涌千界ノ菩薩等。梵釋日月
四天等。冥ニ加シ顯ニ助給ハスハ。一時一
日モ安＊隱ナルヘシヤ
撰時抄
釋子日蓮述
夫佛法ヲ學セン法ハ。必ス先ス時ヲナラ
ウヘシ。過去ノ大通智勝佛ハ。出世シ給テ
十小劫カ間。一經モ説キ給ハス。經云。一坐
十小劫。又云。佛知時未至受請默然坐等
| 云云 |
| 經ヲ説キ給ハス。經云。説時未至故ト | 云云 |
率ノ内院ニ籠ラセ給テ。五十六億七千萬
歳ヲマチ給ウヘシ。彼ノ時鳥ハ春ヲヲク
リ。鷄鳥ハ曉ヲマツ。畜生スラナヲカクノ
コトシ。何ニ況ヤ佛法ヲ修行センニ。時ヲ
糺サルヘシヤ。寂滅道場ノ砌ニハ。十方ノ
諸佛示現シ。一切ノ大菩薩集會シ給ニ。梵
帝四天ハ衣ヲヒルカヘシ。龍神八部ハ掌
ヲ合セ。凡夫大根性ノ者ハ。耳ヲソハタテ。
生身得忍ノ諸菩薩。解脱月等請ヲナシ給
シカトモ。世尊ハ二乘作佛久遠實成ヲハ
名字ヲカクシ。即身成佛一念三千ノ肝心。
其義ヲ宣給ハス。此等ハ偏ニコレ機ハ有
シカトモ。時來ラサレハノヘサセ給ハス。
| 經ニ云。説時未至故等 | 云云 |
大王座ニツラナリ。一代第一ノ闡提タル
提婆達多ニハ。天王如來ト名ヲサツケ。五
障ノ龍女ハ。蛇身ヲアラタメスシテ佛ニ
ナル。決定性ノ成佛ハ。燋種ノ花サキ果ナ
リ。久遠實成ハ百歳ノ子ノ。二十五ノ父ト
ウタカフ。一念三千ハ九界即佛界。佛界即
九界ト談ス。サレハ此經ノ一字ハ如意寶
珠ナリ。一句ハ諸佛ノ種子トナル。此等ハ
機ノ熟不熟ハサテヲキヌ。時ノ至レルユヘ
| ナリ。經云。今正是其時。決定説大乘等 | 云云 |
人ハ定テ誹謗ヲナシテ。惡道ニ墮ナラハ。
豈説者ノ罪ニアラスヤ。答云。人路ヲツク
ル。路ニ迷者アリ。作者ノ罪トナルヘシヤ。
良醫藥ヲ病人ニアタウ。病人嫌テ服セス
シテ死セハ。良醫ノ失トナルカ。尋云。法
華經ノ第二云。無智人中莫説此經。同第
四云。不可分布妄授與人。同第五云。此法
華經諸佛如來祕密之藏。於諸經中最在其
| 上。長夜守護不妄宣説等 | 云云 |
今反詰云。不輕品云。而作是言我深敬汝
等。又云。四衆之中有生瞋恚心不淨者。惡
口罵詈言是無智比丘。又云。衆人或以杖木
| 瓦石而打擲之等 | 云云 |
| 智人惡口罵詈等及加刀杖者 | 云云 |
カレテ候ハ。説人ノ失トナリケルカ。求云。
此ノ兩説ハ水火ナリ。イカンカ心ウヘキ。
答云。天台云。適時而已。章安云。取捨得宜
| 不可一向等 | 云云 |
モ強テ説ヘシ。或時ハ一機ハ信スヘクト
モ。萬機謗ヘクハトクヘカラス。或時ハ萬
機一同ニ謗ストモ。強テ説ヘシ。初成道ノ
時ハ。法慧。功徳林。金剛幢。金剛藏。文殊。普
賢。彌勒。解脱月等ノ大菩薩。梵帝四天等ノ
凡夫大根性ノ者。カスヲシラス。鹿野苑ノ
苑ニハ倶隣等ノ五人。迦葉等ノ二百五十
人。舍利弗等ノ二百五十人。八萬ノ諸天。方
等大會ノ儀式ニハ。慈父ノ淨飯大王ネン
コロニ戀セサセ給シカハ。佛宮ニ入セ給
テ觀佛三昧經ヲトカセ給。悲母ノ御タメ
ニ忉利天ニ九十日カ間籠ラセ給シニハ。
摩耶經ヲトカセ給。慈父悲母ナントニハ。
イカナル祕法カ惜マセ給ヘキ。ナレトモ
法華經ヲハトカセ給ハス。センスルトコ
ロ機ニハヨラス。時イタラサレハ。イカニ
モトカセ給ハヌニヤ。問云。イカナル時ニ
カ小乘權經ヲトキ。イカナル時ニカ法華
經ヲ説ヘキヤ。答云。十信ノ菩薩ヨリ。等
覺ノ大士ニイタルマテ。時ト機トヲハ相
知カタキ事ナリ。何ニ況ヤ我等ハ凡夫ナ
リ。イカテカ時機ヲシルヘキ。求云。スコ
シモ知事アルヘカラサルカ。答云。佛眼ヲ
カンテ時機ヲカンカヘヨ。佛日ヲ用テ國
ヲテラセ。問云。其心如何。答云。大集經ニ大
覺世尊。月藏菩薩ニ對シテ。未來ノ時ヲ定
給エリ。所謂我滅度後。五百歳中解脱堅固。
| 次ノ五百年ニハ禪定堅固 | 已上一 千年 | 次ノ五百 |
| 造塔寺堅固 | 已上二 千年 | 次ノ五百年ニハ於我法 |
| 中鬪諍言訟白法隱沒等 | 云云 |
ナリ。漢 土ノ道綽禪師カ云。正像二千四
箇ノ五百歳ニハ。小乘ト大乘トノ白法盛
ナルヘシ。末法ニ入テハ彼等ノ白法皆消
滅シテ。淨土ノ法門念佛ノ白法ヲ修行セ
ン人計。生死ヲハナルヘシ。日本國ノ法然
カ料簡シテ云。今日本國ニ流布スル法華
經。華嚴經。竝大日經。諸小乘經。天台眞言律
等ノ諸宗ハ。大集經ノ記文ノ正像二千年
ノ白法ナリ。末法ニ入テハ彼等ノ白法ハ
皆滅盡スヘシ。設行スル人アリトモ。一人
モ生死ヲハナルヘカラス。十住毘婆沙論
ト。曇鸞法師ノ難行道。道綽ノ未有一人得
者。善導ノ千中無一コレナリ。彼等ノ白法
隱沒ノ次ニハ。淨土三部經。彌陀稱名ノ一
行計。大白法トシテ出現スヘシ。此ヲ行セ
ン人人ハ。イカナル惡人愚人ナリトモ。十
即十生百即百生。唯有淨土一門可通入
路コレナリ。サレハ後世ヲ願ハン人人ハ。
叡山･東寺･園城･七大寺等ノ。日本一州ノ諸
寺諸山ノ御歸依ヲトトメテ。彼寺山ニヨ
セヲケル田畠郡鄕ヲウハイトテ。念佛堂
ニツケハ。決定往生南無阿彌陀佛トスス
メケレハ。我朝一同ニ其ノ義ニナリテ。今
ニ五十餘年ナリ。日蓮此等ノ惡義ヲ難シ
ヤフル事ハコトフリ候ヌ。彼ノ大集經ノ
白法隱沒ノ時ハ。第五ノ五百歳當世ナル
事ハ疑ヒナシ。但シ彼ノ白法隱沒ノ次ニ
ハ。法華經ノ肝心タル南無妙法蓮華經ノ
大白法ノ一閻浮提ノ内ニ八萬ノ國アリ。
其ノ國國ニ八萬ノ王アリ。王王コトニ臣
下竝萬民マテモ。今日本國ニ彌陀稱名ヲ。
四衆ノ口口ニ唱カコトク。廣宣流布セサ
セ給ヘキナリ。問云。其證文如何。答云。法華
經ノ第七云。我滅度後。後五百歳中廣宣流
| 布於閻浮提無令斷絶等 | 云云 |
| 宣流布ト | 云云 |
| 能持是經者等 | 云云 |
來現在猶多怨嫉。況滅度後。又第五ノ卷ニ
云。一切世間多怨難信。又第七卷ニ第五
ノ五百歳。鬪諍堅固ノ時ヲ説テ云。惡魔魔
民諸天龍夜叉鳩槃荼等得其便也。大集經
| 云於我法中鬪諍言訟等 | 云云 |
| 云。惡世中比丘。又云。或有阿蘭若等 | 云云 |
| 云。惡鬼入其身等 | 云云 |
充滿セン。其時ニ智人一人出現セン。彼ノ
惡鬼ノ入ル大僧等。時ノ王臣萬民等ヲ語
テ。惡口罵詈杖木瓦礫流罪死罪ニ行ハン
時。釋迦多寶十方ノ諸佛ハ。地涌ノ大菩薩
ラニ仰セツケ。大菩薩ハ梵帝日月四天等
ニ申クタサレ。其時天變地夭盛ナルヘシ。
國主等其ノイサメヲ用スハ。隣國ニヲホ
セツケテ。彼彼ノ國國ノ惡王惡比丘等ヲ。
セメラルルナラハ。前代未聞ノ大鬪諍。一
閻浮提ニ起ルヘシ。其時日月所照ノ四天
下ノ一切衆生。或ハ國ヲヲシミ。或ハ身ヲ
ヲシムユヘニ一切ノ佛菩薩ニイノリヲカ
クトモシルシナクハ。彼ノニクミツル一
ノ小僧ヲ信テ。無量ノ大僧等八萬ノ大王
等。一切ノ萬民皆頭ヲ地ニツケ。掌ヲ合テ
一同ニ南無妙法蓮華經トトナウヘシ。例
セハ神力品ノ十神力ノ時。十方世界ノ一
切衆生一人モナク。娑婆世界ニ向テ。大音
聲ヲハナチテ。南無釋迦牟尼佛。南無釋迦
牟尼佛。南無妙法蓮華經。南無妙法蓮華經
ト。一同ニサケヒシカコトシ。問云。經文
ハ分明ニ候。天台妙樂傳教等ノ未來記ノ
言ハアリヤ。答云。汝カ不審逆ナリ。釋ヲ引
カン時コソ經論ハイカニトハ不審セラレ
タレ。經文ニ分明ナラハ。釋ヲ尋ヌヘカラ
ス。サテ釋文經ニ相違セハ。經ヲステテ釋
ニツクヘキ力如何。彼云。道理至極セリ。シ
カレトモ凡夫ノ習。經ハ遠シ釋ハ近シ。近
釋分明ナラハ。イマスコシ信心ヲマスヘ
シ。今云。汝カ不審ネンコロナレハ。少少釋
ヲイタスヘシ。天台大師云。後五百歳遠沾
妙道。妙樂大師云。末法之初冥利不無。傳教
大師云。正像稍過已。末法太有近。法華一乘
機。今正是其時。何以得知。安樂行品云。末
世法滅時也。又云。語代則像終末初。尋地
唐東羯西。原人則五濁之生鬪諍之時。經云。
| 猶多怨嫉況滅度後。此言良有以也 | 云云 |
時也。百歳ト十歳トノ中間。在世五十年。滅
後二千年ト一萬年トナリ。其中間ニ法華
經ノ流布ノ時二度アルヘシ。所謂在世八
年。滅後ニハ末法ノ始五百年ナリ。而ニ天
台妙樂傳教等ハ。進テハ在世法華ノ時ニ
モモレサセ給ヌ。退テハ滅後末法ノ時ニ
モ生サセ給ハス。中間ナル事ヲナケカセ
給テ。末法ノ始ヲコヒサセ給御筆ナリ。例
セハ阿私陀仙人カ。悉達太子ノ生サセ給
ヲ見テ悲云。現生ニハ九十ニアマレリ。太
子ノ成道ヲ見ヘカラス。後生ニハ無色界
ニ生テ。五十年ノ説法ノ座ニモツラナル
ヘカラス。正像末ニモ生ルヘカラストナ
ケキシカコトシ。道心アラン人人ハ。此ヲ
見キキテ悦ハセ給ヘ。正像二千年ノ大王
ヨリモ。後世ヲヲモハン人人ハ末法ノ今
ノ民ニテコソアルヘケレ。此ヲ信セサラ
ンヤ。彼ノ天台座主ヨリモ。南無妙法蓮華
經ト唱ル癩人トハナルヘシ。梁武帝ノ發
願云。寧ロ提婆達多トナテ。無間地獄ニハ
| 沈ムトモ。欝頭羅弗トハナラシト | 云云 |
答云。龍樹天親等ハ。内心ニハ存セサセ給
トイエトモ。言ニハ此義ヲ宣給ハス。求云。
イカナル故ニカ宣給サルヤ。答云。多ノ故
アリ。一ニハ彼時ニハ機ナシ。二ニハ時ナ
シ。三ニハ迹化ナレハ。付囑セラレ給ハス。
求云。願クハ此事ヨクヨクキカントヲモ
ウ。答云。夫佛ノ滅後二月十六日ヨリハ正
法ノ始ナリ。迦葉尊者佛ノ付囑ヲウケテ
二十年。次ニ阿難尊者二十年。次商那和修
二十年。次優婆崛多二十年。次ニ提迦多二
十年。已上一百年カ間ハ。但小乘經ノ法門
ヲノミ弘通シテ。諸大乘經ハ名字モナシ。
何況法華經ヲヒロムヘシヤ。次ニハ彌遮
迦。佛陀難提。佛馱密多。脇比丘。富那奢等
ノ四五人。前五百餘年カ間ハ。大乘經ノ法
門少少出來セシカトモ。トリタテテ弘通
シ給ハス。但小乘經ヲ面トシテヤミヌ。已
上大集經ノ先五百年。解脱堅固ノ時ナリ。
正法ノ後六百年已後一千年カ前。其中間
ニ馬鳴菩薩。毘羅尊者。龍樹菩薩。提婆菩薩。
羅睺尊者。僧佉難提。僧伽耶奢。鳩摩羅馱。闍
夜那。盤陀。摩努羅。鶴勒夜那。師子等ノ十餘
人ノ人人。始ニハ外道ノ家ニ入。次ニハ小
乘經ヲキワメ。後ニハ諸大乘經ヲモテ。諸
小乘經ヲサンサンニ破シ失ヒ給キ。此等
ノ大士等ハ。諸大乘經ヲモンテ諸小乘經
ヲハ破セサセ給シカトモ諸大乘經ト法華
經ノ勝劣ヲハ分明ニカカセ給ハス。設勝
劣ヲスコシカカセ給タルヤウナレトモ本
迹ノ十妙。二乘作佛。久遠實成。已今當ノ
妙。百界千如。一念三千ノ肝要ノ法門ハ分
明ナラス。但或ハ指ヲモンテ月ヲサスカ
コトクシ。或ハ文ニアタリテヒトハシ計
カカセ給テ。化道ノ始終。師弟遠近。得道ノ
有無ハスヘテ一分モミヘス。此等ハ正法
ノ後五百年。大集經ノ禪定堅固ノ時ニア
タレリ。正法一千年ノ後ハ。月氏ニ佛法充
滿セシカトモ。或ハ小ヲモテ大ヲ破シ。或
ハ權經ヲモンテ實經ヲ隱沒シ。佛法サマ
サマニ亂シカハ。得道ノ人ヤウヤクスク
ナク。佛法ニツケテ惡道ニ墮者カスヲシ
ラス。正法一千年ノ後。像法ニ入テ一十五
年ト申セシニ。佛法東ニ流テ漢土ニ入ニ
キ。像法ノ前五百年ノ内。始ノ一百餘年カ
間ハ。漢 土ノ道士ト月氏ノ佛法ト諍論シ
テ。イマタ事サタマラス。設定リタリシカ
トモ。佛法ヲ信スル人ノ心イマタフカカ
ラス。而ニ佛法ノ中ニ大小權實顯密ヲワ
カツナラハ。聖教一同ナラサル故。疑ヲコ
リテカヘリテ外典トトモナウ者モアリヌ
ヘシ。コレラノヲソレアルカノユヘニ。摩
騰竺蘭ハ自ハ知テ而モ大小ヲ分ス。權實
ヲイハスシテヤミヌ。其後魏晋宋齊梁ノ
五代カ間。佛法ノ内ニ大小權實顯密ヲア
ラソヒシ程ニ。イツレコソ道理トモキコ
エスシテ。上一人ヨリ下萬民ニイタルマ
テ。不審スクナカラス。南三北七ト申テ。佛
法十流ニワカレリ。所謂南ニハ三時。四時。
五時。北ニハ五時。半滿。四宗。五宗。六宗。二
宗ノ大乘一音等。各各義ヲ立テ邊執水火
ナリ。シカレトモ大綱ハ一同ナリ。所謂一
代聖教ノ中ニハ。華嚴經第一。涅槃經第二。
法華經第三ナリ。法華經ハ阿含般若淨名
思益等ノ經經ニ對スレハ眞實ナリ。了義
經正見ナリ。シカリトイエトモ涅槃經ニ
| 對スレハ。無常教不了義經邪見ノ經等 | 云云 |
二代ニ智顗ト申小僧一人アリ。後ニハ天
台智者大師ト號シタテマツル。南北ノ邪
義ヲヤフリテ。一代聖教ノ中ニハ。法華經
| 第一。涅槃經第二。華嚴經第三ナリ等 | 云云 |
固ノ時ニアヒアタレリ。像法ノ後五百歳
ハ。唐ノ始太宗皇帝ノ御宇ニ。玄奘三藏月
支ニ入テ十九年カ間。百三十箇國ノ寺塔
ヲ見聞シテ。多ノ論師ニ値タテマツリテ。
八萬聖教十二部經ノ淵底ヲ習キワメシ
ニ。其中ニ二宗アリ。所謂法相宗三論宗ナ
リ。此二宗ノ中ニ。法相大乘ヲ遠ハ彌勒無
著。近ハ戒賢論師ニ傳テ。漢土ニカヘリテ。
太宗皇帝ニサスケサセ給。此宗ノ心ハ佛
教ハ機ニ隨ヘシ。一乘ノ機ノタメニハ。三
乘方便一乘眞實ナリ。所謂法華經等ナリ。
三乘ノ機ノタメニハ。三乘眞實一乘方便。
所謂深密經。勝鬘經等此ナリ。天台智者等
| ハ此ノ旨ヲ辨ス等 | 云云 |
三皇ニモコエ五帝ニモ勝タルヨシ四海ニ
ヒヒキ。漢土ヲ手ニニキルノミナラス。高
昌高麗等ノ一千八百餘國ヲナヒカシ。内
外ヲ極タル王トキコエシ。賢王ノ第一ノ
御歸依ノ僧ナリ。天台宗ノ學者ノ中ニモ
頸ヲサシイタス人一人モナシ。而レハ法
華經ノ實義ステニ一國ニ隱沒シヌ。同キ
太宗ノ太子高宗。高宗ノ繼母則天皇后ノ
御宇ニ。法藏法師ト云者アリ。法相宗ニ天
台宗ノヲソワルルトコロヲ見テ。前ニ天
台ノ御時セメラレシ華嚴經ヲ取出シテ。
一代ノ中ニハ華嚴第一。法華第二。涅槃第
三ト立ケリ。太宗ノ第四代。玄宗皇帝ノ御
宇。開元四年同八年ニ。西天印度ヨリ善無
畏三藏。金剛智三藏。不空三藏。大日經。金
剛頂經。蘇悉地經ヲ持テ渡リ。眞言宗ヲ立。
此ノ宗ノ立義ニ云。教ニ二種アリ。一ニハ
釋迦顯教。所謂華嚴法華等。二ニハ大日密
教。所謂大日經等。法華經ハ顯教ノ第一ナ
リ。此經ハ大日密教ニ對スレハ。極理ハ少
シ同ケレトモ。事相ノ印契ト眞言トハタ
エテミヘス。三密相應セサレハ不了義經
| 等 | 云云 |
智人。法華宗ノ中ニナカリケルカノ間。内
内ハユハレナキ由ハ存シケレトモ。天台
ノコトク公場ニシテ論セラレサリケレ
ハ。上國王大臣。下一切ノ人民ニイタルマ
テ。皆佛法ニ迷テ。衆生ノ得道ミナトトマ
リケリ。此等ハ像法後五百年ノ前二百餘
年カ内ナリ。像法ニ入テ四百餘年ト申ケ
ルニ。百濟國ヨリ一切經竝ニ教主釋尊ノ
木像。僧尼等日本國ニワタル。漢土ノ梁ノ
末陳ノ始ニアヒアタル。日本ニハ神武天
王ヨリハ。第三十代銀明天王ノ御宇ナリ。
＊銀明ノ御子用明ノ太子ニ上宮王子。佛法
ヲ弘通シ給ノミナラス。竝ニ法華經･淨名
經･勝鬘經ヲ鎭護國家ノ法ト定サセ給ヌ。
其後人王第三十七代ニ孝徳天王ノ御宇
ニ。三論宗成實宗ヲ觀勒僧正百濟國ヨリ
ワタス。同御代ニ道昭法師漢土ヨリ法相
宗。倶舍宗ヲワタス。人王第四十四代元正
天王ノ御宇ニ。天竺ヨリ大日經ヲワタシ
テ有シカトモ。而モ弘通セスシテ漢土ヘ
カヘル。此僧ヲハ善無畏三藏トイウ。人王
第四十五代＊ニ聖武天皇ノ御宇ニ。審祥大
徳新羅國ヨリ華嚴宗ヲワタシテ。良辨僧
正ニサツク。良辨僧正ハ聖武天王ニサツ
ケタテマツリテ。東大寺ノ大佛ヲ立サセ
給エリ。同御代ニ大唐ノ鑑眞和尚。天台宗
ト律宗ヲワタス。其中ニ律宗ヲハ弘通シ。
小乘戒場ヲ東大寺ニ建立セシカトモ。法
華宗ノ事ヲハ名字ヲモ申シ出サセ給ハス
シテ入滅シ了。其後人王第五十代。像法八
百年ニ相當テ桓武天王ノ御宇ニ。最澄ト
申小僧出來セリ。後ニハ傳教大師ト號シ
タテマツル。始ニハ三論法相華嚴倶舍成
實律ノ六宗。竝ニ禪宗等ヲ行表僧正等ニ
習學セサセ給シ程ニ。我ト立給ヘル國昌
寺。後ニハ比叡山ト號ス。此ニシテ六宗ノ
本經本論ト。宗宗ノ人師ノ釋トヲ。引合テ
御ラムアリシカハ。彼ノ宗宗ノ人師ノ釋。
所依ノ經論ニ相違セル事多キ上。僻見多
多ニシテ信受セン人。皆惡道ニ墮ヌヘシ
トカンカヘサセ給。其上法華經ノ實義ハ。
宗宗ノ人人我モ得タリ。我モ得タリト。自
讃アリシカトモ其義ナシ。此ヲ申スナラ
ハ喧嘩出來スヘシ。モタシテ申サスハ。佛
誓ニソムキナント。ヲモヒワツラワセ給
シカトモ。終ニ佛ノ誡ヲヲソレテ。桓武皇
帝ニ奏シ給シカハ。帝此ノ事ヲヲトロカ
セ給テ。六宗ノ碩學ニ召合サセ給。彼學者
等始ハ慢幢山ノコトシ。惡心毒蛇ノヤウ
ナリシカトモ。終ニ王前ニシテセメヲト
サレ。六宗七寺一同ニ御弟子トナリヌ。例
セハ漢土南北ノ諸師。陳殿ニシテ天台大
師ニセメヲトサレテ。御弟子トナリシカ
コトシ。此ハコレ圓定圓慧計ナリ。其上天
台大師ノイマタセメ給ハサリシ。小乘ノ
別受戒ヲセメヲトシ。六宗ノ八大徳ニ。梵
網經ノ大乘別受戒ヲサツケ給ノミナラ
ス。法華經ノ圓頓ノ別受戒ヲ叡山ニ建立
セシカハ。延暦圓頓ノ別受戒ハ日本第一
タルノミナラス。佛滅後一千八百餘年カ
間。身毒･尸那･一閻浮提ニ。イマタナカリシ
靈山ノ大戒日本國ニ始ル。サレハ傳教大
師ハ其功ヲ論スレハ。龍樹天親ニモコエ。
天台妙樂ニモ勝テヲハシマス聖人ナリ。
サレハ日本國ノ當世ノ東寺･園城･七大寺。
諸國ノ八宗淨土禪宗律宗等ノ諸僧等。誰
人カ傳教大師ノ圓戒ヲソムクヘキ。カノ
漢土九國ノ諸僧等ハ。圓定圓慧ハ天台ノ
弟子ニニタレトモ。圓頓一同ノ戒場ハ漢
土ニナケレハ。戒ニヲイテハ弟子トナラ
ヌ者モアリケン。コノ日本國ハ傳教大師
ノ御弟子ニアラサル者ハ外道ナリ。惡人
ナリ。而トモ漢土日本ノ天台宗ト眞言ノ勝
劣ハ。大師心中ニハ存知セサセ給ケレト
モ。六宗ト天台宗トノコトク公場ニシテ
勝負ナカリケルユヘニヤ。傳教大師已後
ニハ。東寺七寺園城諸寺日本一州。一同ニ
眞言宗ハ天台宗ニ勝タリト上一人ヨリ下
萬民ニイタルマテ。ヲホシメシヲモヒリ。
シカレハ天台法華宗ハ傳教大師ノ御時計
ニソアリケル。此傳教ノ御時ハ。像法ノ末。
大集經ノ多造塔寺堅固ノ時ナリ。イマタ
於我法中鬪諍言訟白法隱沒ノ時ニハアタ
ラス。今末法ニ入テ二百餘歳。大集經ノ於
我法中鬪諍言訟白法隱沒ノ時ニアタレ
リ。佛語マコトナラハ。定テ一閻浮提ニ鬪
諍起ヘキ時節ナリ。傳聞漢土ハ三百六十
箇國二百六十餘州ハ。ステニ蒙古ニ打ヤ
フラレヌ。華洛ステニヤフラレテ。徽宗欽
宗ノ兩帝。北蕃ニイケトリニセラレテ。韃
靼ニシテ終ニカクレサセ給ヌ。徽宗ノ孫
高宗皇帝ハ。長安ヲセメヲトサレテ。田舍
臨安行在府ニ落サセ給テ。今ニ數年カ間
京ヲ見ス。高麗六百餘國モ。新羅百濟等ノ
諸國等モ。皆大蒙古國ノ皇帝ニセメラレ
ヌ。今ノ日本國ノ壹岐對馬竝ニ九國ノコ
トシ。鬪諍堅固ノ佛語地ニ墮チス。アタカ
モコレ大海ノシヲノ時ヲタカヘサルカコ
トシ。是ヲモンテ案スルニ。大集經ノ白法
隱沒ノ時ニ次テ。法華經ノ大白法ノ日本
國竝ニ一閻浮提ニ廣宣流布セン事モ疑ウ
ヘカラサルカ。彼ノ大集經ハ佛説ノ中ノ
權大乘ソカシ。生死ヲハナルル道ニハ。法
華經ノ結縁ナキ者ノタメニハ未顯眞實ナ
レトモ。六道四生三世ノ事ヲ記シ給ケル
ハ。寸分モタカハサリケルニヤ。何況法華
經ハ釋尊要當説眞實トナノラセ給。多寶
佛ハ眞實ナリト御判ヲソヘ。十方ノ諸佛
ハ廣長舌ヲ梵天ニツケテ誠諦ト指シ示
シ。釋尊ハ重テ無虚妄ノ舌ヲ色究竟ニ付
サセ給テ。後五百歳ニ一切ノ佛法ノ滅セン
時。上行菩薩ニ妙法蓮華經ノ五字ヲモタ
シメテ。謗法一闡提ノ白癩病ノ輩ノ良藥
トセント。梵帝日月四天龍神等ニ仰セツ
ケラレシ金言虚妄ナルヘシヤ。大地ハ反
覆ストモ。高山ハ頽落ストモ。春ノ後ニ夏
ハ來ラストモ。日ハ東ヘカヘルトモ。月ハ
地ニ落ルトモ。此事ハ一定ナルヘシ。此事
一定ナラハ。鬪諍堅固ノ時。日本國ノ王臣
ト竝ニ萬民等カ。佛ノ御使トシテ。南無妙
法蓮華經ヲ流布セントスルヲ。或ハ罵詈
シ或ハ惡口シ或ハ流罪シ。或ハ打擲シ。弟
子眷屬等ヲ。種種ノ難ニアワスル人人。イ
カテカ安隱ニテハ候ヘキ。コレヲハ愚癡
ノ者ハ。呪詛ストヲモヒヌヘシ。法華經ヲ
ヒロムル者ハ。日本ノ一切衆生ノ父母ナ
| リ。章安大師云。爲彼除惡即是彼親等 | 云云 |
言師等カ師範ナリ。又主君ナリ。而ヲ上一
人ヨリ下萬民ニイタルマテ。アタヲナス
ヲハ。日月イカテカ彼等カ頂ヲ照シ給ヘ
キ。地神イカテカ彼等ノ足ヲ戴給ヘキ。提
婆達多佛ヲ打タテマツリシカハ。大地搖
動シテ火炎イテニキ。檀彌羅王師子尊者
ノ頸ヲ切シカハ。右ノ手刀トトモニ落ヌ。
徽宗皇帝ハ法道カ面ニカナヤキヲヤキテ
江南ニナカセシカハ。半年カ内ニヱヒス
ノ手ニカカリ給キ。蒙古ノセメモ亦カク
ノコトクナルヘシ。設ヒ五天ノツワモノヲ
アツメテ。鐵圍山ヲ城トセリトモカナウ
ヘカラス。必日本國ノ一切衆生兵難ニ値
ヘシ。サレハ日蓮カ法華經ノ行者ニテア
ルナキカコレニテ見ルヘシ。教主釋尊記
云。末代惡世ニ法華經ヲ弘通スルモノヲ。
惡口罵詈セン人ハ。我ヲ一劫カ間アタセ
ン者ノ罪ニモ。百千萬億倍スキタルヘシ
トトカセ給ヘリ。而ヲ今ノ日本國ノ國主
萬民等。雅意ニマカセテ父母宿世ノ敵ヨ
リモイタクニクミ。謀反殺害ノ者ヨリモ
ツヨクセメヌルハ。現身ニモ大地ワレテ
入リ。天雷モ身ヲサカサルハ不審ナリ。日
蓮カ法華經ノ行者ニテアラサルカ。モシ
シカラハヲヲキニナケカシ。今生ニハ萬
人ニセメラレテ。片時モヤスカラス。後生
ニハ惡道ニ墮事アサマシトモ申スハカリ
ナシ。又日蓮法華經ノ行者ナラスハ。イカ
ナル者ノ。一乘ノ持者ニテハアルヘキソ。
法然カ法華經ヲナケステヨ。善導カ千中
無一。道綽カ未有一人得者ト申カ。法華
經ノ行者ニテ候ヘキカ。又弘法大師ノ云。
法華經ヲ行スルハ戲論ナリトカカレタル
カ。法華經ノ行者ナルヘキカ。經文ニハ
能持是經能説此經ナントコソトカレテ候
ヘ。ヨクトクト申ハイカナルソト申ニ。於
諸經中最在其上ト申テ。大日經華嚴經涅
槃經般若經等ニ法華經ハスクレテ候ナリ
ト申者ヲコソ。經文ニハ法華經ノ行者ト
ハトカレテ候ヘ。モシ經文ノコトクナラ
ハ。日本國ニ佛法ワタテ七百餘年。傳教大
師ト日蓮トカ外ハ。一人モ法華經ノ行者
ハナキソカシ。イカニイカニトヲモウト
コロニ。頭破作七分。口則閉塞ノナカリケ
ルハ。道理ニテ候ケルナリ。此等ハ淺キ罰
ナリ。但一人二人等ノコトナリ。日蓮ハ閻
浮第一ノ法華經ノ行者ナリ。此ヲソシリ。
此ヲアタム人ヲ結構セン人ハ。閻浮第一
ノ大難ニアウヘシ。コレハ日本國ヲフリ
ユルカス正嘉ノ大地震。一天ヲ罰スル文
永ノ大彗星等ナリ。此等ヲミヨ。佛滅度ノ
後佛法ヲ行スル者ニ。アタヲナストイエト
モ。今ノコトクノ大難ハ一度モナキナリ。
南無妙法蓮華經ト一切衆生ニススメタル
人一人モナシ。此徳ハタレカ一天ニ眼ヲ合
セ。四海ニ肩ヲナラフヘキヤ。疑云。設ヒ正
法ノ時ハ佛在世ニ對スレハ。根機劣ナリ
トモ。像末ニ對スレハ。最上ノ上機ナリ。イ
カテカ正法ノ始ニ。法華經ヲハ用サルヘ
キ。隨テ馬鳴龍樹提婆無著等モ。正法一千
年ノ内ニコソ出現セサセ給ヘ。天親菩薩
ハ千部ノ論師。法華論ヲ造テ諸經第一ノ
義ヲ存ス。眞諦三藏ノ相傳云。月支ニ法華
經ヲ弘通セル家五十餘家。天親ハ其一也。
已上正法ナリ。像法ニ入テハ天台大師。像
法ノ半ニ漢土ニ出現シテ。玄ト文ト止ト
ノ三十卷ヲ造テ。法華經ノ淵底ヲ極タリ。
像法ノ末ニ傳教大師日本ニ出現シテ。天
台大師ノ圓慧圓定ノ二法ヲ。我朝ニ弘通
セシムルノミナラス。圓頓ノ大戒場ヲ叡
山ニ建立シテ。日本一州皆同ク圓戒ノ地
ニナシテ。上一人ヨリ下萬民マテ延暦寺
ヲ師範ト仰カセ給ハ。豈ニ像法ノ時法華
經ノ廣宣流布ニアラスヤ。答云。如來ノ教
法ハ必機ニ隨トイウ事ハ。世間ノ學者ノ
存知ナリ。シカレトモ佛教ハシカラス。上
根上智ノ人ノタメニ。必大法ヲ説クナラ
ハ。初成道ノ時ナンソ法華經ヲトカセ給
ハサル。正法ノ先五百餘年ニ大乘經ヲ弘
通スヘシ。有縁ノ人ニ大法ヲ説セ給ナラ
ハ。淨飯大王摩耶夫人ニ觀佛三昧經摩耶
經ヲトクヘカラス。無縁ノ惡人謗法ノ者
ニ祕法ヲアタエスハ。覺徳比丘ハ無量ノ
破戒ノ者ニ涅槃經ヲサツクヘカラス。不
輕菩薩ハ誹謗ノ四衆ニ向テ。イカニ法華
經ヲハ弘通セサセ給シソ。サレハ機ニ隨
テ法ヲ説ト申ハ大ナル僻見ナリ。問云。龍
樹世親等ハ。法華經ノ實義ヲハ宣給ハス
ヤ。答云。宣給ハス。問云。何ナル教ヲカノ
ヘ給シ。答云。華嚴方等般若大日經等ノ。權
大乘顯密ノ諸經ヲノヘサセ給テ。法華經
ノ法門ヲハ宣サセ給ハス。問云。何ニヲモ
ンテコレヲシルヤ。答云。龍樹菩薩ノ所造
ノ論三十萬偈。而トモ盡テ漢土日本ニワ
タラサレハ。其心シリカタシトイエトモ。
漢土ニワタレル十住毘婆娑論。中論。大論
等ヲモンテ。天竺ノ論ヲモ比知シテ此ヲ
知ルナリ。疑云。天竺ニ殘ル論ノ中ニ。ワタ
レル論ヨリモ。勝タル論ヤアルラン。答云。
龍樹菩薩ノ事ハ。私ニ申ヘカラス。佛記シ
給ヘリ。我滅後ニ龍樹菩薩ト申人。南天竺
ニ出ヘシ。彼人ノ所詮ハ中論トイフ論ニ
有ヘシト佛記シ給フ。隨テ龍樹菩薩ノ門流
天竺ニ七十家アリ。七十人トモニ大論師
ナリ。彼ノ七十家ノ人人ハ皆中論ヲ本ト
ス。中論四卷二十七品肝心ハ。因縁所生法
ノ四句ノ偈ナリ。此四句ノ偈ハ華嚴般若
等ノ四教三諦ノ法門ナリ。イマタ法華開
會ノ三諦ヲハ宣給ハス。疑云。汝カコトク
料簡セル人アリヤ。答云。天台云。莫以中
論相比。又云。天親龍樹内鑒冷然外適時
| 宜等 | 云云 |
| 云云 | 云云 |
名ヲ菩提心論トナツク。龍猛菩薩ノ造ナ
| リ | 云云 |
| 第一肝心ノ論ト | 云云 |
目録ニモ或ハ龍猛或ハ不空ト兩方也。イ
マタ事定ラス。其上此論文ハ一代ヲ括レ
ル論ニモアラス。荒量ナル事此多シ。先唯
眞言法中ノ肝心ノ文アヤマリナリ。其故
ハ文證現證アル法華經ノ即身成佛ヲハナ
キニナシテ。文證モ現證モアトカタモナ
キ。眞言經ニ即身成佛ヲ立テ候。又唯トイ
ウ唯ノ一字ハ第一ノアヤマリナリ。事ノ
テイヲ見ルニ。不空三藏ノ私ニツクリテ
候ヲ。時ノ人ニヲモクセサセンカタメニ。
事ヲ龍猛ニヨセタルカ。其上不空三藏ハ
誤ル事カスヲホシ。所謂法華經ノ觀智ノ
儀軌ニ。壽量品ヲ阿彌陀佛トカケル眼ノ
前ノ大僻見。陀羅尼品ヲ神力品ノ次ニヲ
ケル。屬累品ヲ經末ニ下ル。此等ハイウニ
カヒナシ。サルカトミレハ。天台ノ大乘戒
ヲ盜テ。代宗皇帝ニ宣旨ヲ申。五臺山ノ五
寺ニ立タリ。而モ又眞言ノ教相ニハ。天台
宗ヲスヘシトイエリ。カタカタ誑惑ノ事
トモナリ。他人ノ譯ナラハ用ル事モアリ
ナン。此人ノ譯セル經論ハ信セラレス。總
シテ月支ヨリ漢土ニ經論ヲワタス人。舊
譯新譯ニ一百八十六人ナリ。羅什三藏一
人ヲ除テハ。イツレノ人人モ誤サルハナ
シ。其中ニ不空三藏ハ。殊ニ誤多キ上。誑惑
ノ心顯ナリ。疑云。何ニヲモンテ知ソヤ。羅
什三藏ヨリ外ノ人人ハ。アヤマリナリト
ハ。汝カ禪宗念佛眞言等ノ七宗ヲ破ルノ
ミナラス。漢土日本ニワタル一切ノ譯者
ヲ用サルカイカン。答云。此事ハ余カ第一
ノ祕事ナリ。委細ニハ向テ問ヘシ。但スコ
シ申ヘシ。羅什三藏ノ云。我漢土ノ一切經
ヲ見ルニ。皆梵語ノコトクナラス。イカテ
カ此事ヲ顯スヘキ。但シ一ノ大願アリ。身
ヲ不淨ニナシテ妻ヲ帶スヘシ。舌計清淨
ニナシテ。佛法ニ妄語セシ。我死ハ必ヤク
ヘシ。燒カン時舌燒ルナラハ。我カ經ヲス
テヨト。常ニ高座ニシテトカセ給シナリ。
上一人ヨリ下萬民ニイタルマテ願云。願
クハ羅什三藏ヨリ後ニ死セント。終ニ死
給後燒タテマツリシカハ。不淨ノ身ハ皆
灰トナリヌ。御舌計火中ニ青蓮華生テ其
上ニアリ。五色ノ光明ヲ放テ。夜ハ晝ノコ
トク。晝ハ日輪ノ御光ヲウハイ給キ。サテ
コソ一切ノ譯人ノ經經ハ輕クナリテ。羅
什三藏ノ譯給ル經經。殊ニ法華經ハ漢土
ニヤスヤストヒロマリ給シカ。疑云。羅什
已前ハシカルヘシ。已後ノ善無畏不空等
如何。答云。已後ナリトモ。譯者ノ舌ノ燒ヲ
ハ誤アリケリトシルヘシ。サレハ日本國
ニ法相宗ノハヤリタリシヲ。傳教大師責
サセ給シニハ。羅什三藏ハ舌燒ケス。玄奘
慈恩ハ舌燒ヌトセメサセ給シカハ。桓武
天王道理トヲホシテ。天台法華宗ヘハウ
ツラセ給シナリ。涅槃經ノ第三第九等ヲ。
ミマイラスレハ。我佛法ハ月支ヨリ他國
ヘワタラン之時。多ノ謬誤出來シテ。衆生
ノ得道ウスカルヘシトトカレテ候。サレ
ハ妙樂大師ハ。竝進退在人何關聖旨トコ
ソ。アソハサレテ候ヘ。今ノ人人イカニ經
ノママニ。後世ヲネカウトモ。アヤマレル
經經ノママニネカワハ。得道モアルヘカ
ラス。シカレハトテモ。佛ノ御トカニハア
ラシト。カカレテ候。佛教ヲ習法ニハ。大
小權實顯密ハサテヲク。コレコソ第一ノ大
事ニテハ候ラメ。疑云。正法一千年ノ論師
ノ内心ニハ法華經ノ實義ノ。顯密ノ諸經
ニ超過シテアルヨシハ。シロシメシナカ
ラ。外ニハ宣説セスシテ。但權大乘計ヲ宣
サセ給コトハ。シカルヘシトワ。ヲホヘネ
トモ。其義ハスコシキコエ候ヌ。像法一千
年ノ半ニ天台智者大師出現シテ。題目ノ
妙法蓮華經ノ五字ヲ。玄義十卷一千枚ニ
カキツクシ。文句十卷ニハ始メ如是我聞
ヨリ。終作禮而去ニイタルマテ。一字一句
ニ因縁約教本迹觀心ノ四ノ釋ヲナラヘ
テ。又一千枚ニ盡シ給。已上玄義文句ノ二
十卷ニハ。一切經ノ心ヲ江河トシテ。法華
經ヲ大海ニタトエ。十方界ノ佛法ノ露一
渧モ漏サス。妙法蓮華經ノ大海ニ入サセ
給エヌ。其上天竺ノ大論ノ諸義。一點モ
モラサス。漢土南北ノ十師ノ義。破ヘキヲ
ハコレヲハシ。取ヘキヲハ此ヲ用。其上止
觀十卷ヲ注シテ。一代ノ觀門ヲ一念ニス
ヘ。十界ノ依正ヲ三千ニツツメタリ。此書
ノ文體ハ遠ハ月支一千年之間ノ論師ニモ
コエ。近ハ尸那五百年ノ人師ノ釋ニモ勝
レタリ。故ニ三論宗ノ吉藏大師。南北一百
餘人ノ先達ト。長者ラヲススメテ。天台大
師ノ講經ヲ聞ントスル状云。千年之興。五
百之實。復在於今日。乃至南岳叡聖。天台明
哲。昔三業住持。今二尊紹繼。豈止灑甘露
於震旦。亦當震法鼓於天竺。生知妙悟。魏
晋以來。典籍風謠。實無連類。乃至共禪衆一
| 百餘僧。奉請智者大師等 | 云云 |
臨幽谷。説摩訶衍似長風之遊大虚。假令
文字之師千群萬衆。數尋彼妙辨。無能窮者
| 也。乃至義同指月。乃至宗歸一極 | 云云 |
等。神異感通。迹參登位。靈山聽法。憶在於
| 今等 | 云云 |
スル物語云。高僧傳云。與不空三藏親遊
天竺彼有僧問曰。大唐有天台迹教。最堪
簡邪正曉偏圓可能譯之將至此土耶等
| 云云 |
失法求之四惟。而此方少有識者。如魯
| 人耳等 | 云云 |
カテカ漢土ノ天台ノ釋ヲネカウヘキ。コ
レアニ像法ノ中ニ。法華經ノ實義顯テ。南
閻浮提ニ廣宣流布スルニアラスヤ。答云。
正法一千年像法ノ前四百年。已上佛滅後
一千四百餘年ニ。イマタ論師ノ弘通シ給
ハサル一代超過ノ圓定圓慧ヲ。漢土ニ弘
通シ給ノミナラス。其聲月氏マテモキコ
エヌ。法華經ノ廣宣流布ニハニタレトモ
イマタ圓頓ノ戒壇ヲ立ラレス。小乘ノ威
儀ヲモンテ。圓慧定ニ切ツケルハ。スコシ
便ナキニニタリ。例セハ日輪ノ蝕カコト
シ。月輪ノカケタルニニタリ。何ニイワウ
ヤ。天台大師ノ御時ハ。大集經ノ讀誦多聞
堅固ノ時ニアヒアタテ。イマタ廣宣流布
ノ時ニアラス。問云。傳教大師ハ日本國ノ
士也。桓武ノ御宇ニ出世シテ＊銀明ヨリ二
百餘年カ間ノ邪義ヲナンシヤフリ。天台
大師ノ圓慧圓定ヲ撰シ給ノミナラス。鑑
眞和尚ノ弘通セシ日本小乘ノ三處ノ戒壇
ヲナンシヤフリ。叡山ニ圓頓ノ大乘別受
戒ヲ建立セリ。此ノ大事ハ佛滅後一千八
百年カ間ノ。身毒尸那扶桑乃至一閻浮提
第一ノ奇事ナリ。内證ハ龍樹天台等ニハ
或ハ劣ニモヤ。或ハ同クモヤアルラン。佛
法ノ人ヲスヘテ一法トナセル事ハ。龍樹
天親ニモコエ。南岳天台ニモスクレテ見
エサセ給ナリ。總シテハ如來御入滅後一
千八百年カ間。此二人コソ法華經ノ行者
ニテハヲハスレ。故秀句云。若接須彌擲
置他方無數佛土亦未爲難。乃至若佛滅後
| 於惡世中能説此經。是則爲難等 | 云云 |
之心也。天台大師信順釋迦助法華宗敷
揚震旦。叡山一家相承天台助法華宗弘
| 通日本 | 云云 |
年カ中間ニ。高十六萬八千由旬六百六十
二萬里ノ金山ヲ。有人五尺ノ小身ノ手ヲ
モンテ。方一寸二寸等ノ瓦礫ヲニキリテ。
一丁二丁マテナクルカコトク。雀鳥ノトフ
ヨリモハヤク鐵圍山ノ外ヘナクル者ハア
リトモ。法華經ヲ佛ノトカセ給シヤウニ
説カン人ハ末法ニハマレナルヘシ。天台
大師。傳教大師コソ佛説ニ相似シテトカ
セ給タル人ニテヲハスレトナリ。天竺ノ
論師ハイマタ法華經ヘユキツキ給ハス。
漢土ノ天台已前ノ人師ハ或ハスキ或ハタ
ラス。慈恩･法藏･善無畏等ハ東ヲ西トイヰ。
天ヲ地ト申セル人人ナリ。此等ハ傳教大
師ノ自讃ニハアラス。去延暦二十一年正
月十九日高雄山ニ桓武皇帝行幸ナリテ。
六宗七大寺ノ碩徳善議･勝猷･奉基･寵忍･賢
玉･安福･勤操･修圓･慈誥･玄耀･歳光･道證･光
證･觀敏等ノ十有餘人。最澄法師ト召シ合
セラレテ宗論アリシニ。或一言ニ舌ヲ卷
テ二言三言ニ及ハス。皆一同ニ頭ヲカタ
フケ手ヲアサウ。三論ノ二藏･三時･三轉法
輪。法相ノ三時･五性。華嚴宗ノ四教五教･根
本枝末･六相十玄。皆大綱ヲヤフラル。例セ
ハ大屋ノ棟梁ノヲレタルカコトシ。十大
徳ノ慢幢モ倒ニキ。爾時天子大ニ驚カセ
給テ。同二十九日ニ弘世･國道ノ兩吏ヲ勅
使トシテ。重テ七寺六宗ニ仰セ下レシカ
ハ。各各歸伏ノ状ヲ載テ云。竊見天台玄
疏者。總括釋迦一代教。悉顯其趣無所不
通。獨逾諸宗。殊示一道。其中所説甚深妙
理。七箇大寺六宗學生。昔所未聞曾所未
見。三論法相久年之諍。渙焉氷釋昭然既明。
猶披雲霧而見三光矣。自聖徳弘化以
降。于今二百餘年之間。所講經論其數多
矣。彼此爭理其疑未解。而此最妙圓宗猶
未闡揚。蓋以此間群生未應圓味歟。伏惟
聖朝久受如來之付。深結純圓之機。一妙義
理始乃興顯。六宗學者初悟至極。可謂此
界含靈。而今而後。悉載妙圓之船。早得濟
於彼岸。乃至善議等牽逢休運乃閲奇詞。
| 自非深期。何託聖世哉等 | 云云 |
聖人ト定タリ。今日本ノ七寺二百餘人ハ
傳教大師ヲ聖人トカウシタテマツル。佛
滅後二千餘人ニ及テ兩國ニ聖人二人出
現セリ。其上天台大師ノ未弘ノ圓頓大戒
ヲ叡山ニ建立シ給ウ。此豈ニ像法ノ末ニ
法華經廣宣流布スルニアラスヤ。答云。迦
葉阿難等ノ弘通セサル大法ヲ馬鳴･龍樹･
提婆･天親等ノ弘通セル事。前ノ難ニ顯レ
タリ。又龍樹天親等ノ流布シ殘シ給ヘル
大法ヲ天台大師ノ弘通シ給事又難ニアラ
ワレヌ。又天台智者大師ノ弘通シ給ハサ
ル圓頓ノ大戒傳教大師ノ建立セサセ給事
又顯然也。但シ詮ト不審ナル事ハ佛ハ説
キ盡シ給トモ。佛滅後ニ迦葉･阿難･馬鳴･龍
樹･無著･天親･乃至天台･傳教ノイマタ弘通
シマシマサヌ最大ノ深密ノ正法。經文ノ
面ニ現前ナリ。此深法今末法ノ始五五百
歳ニ一閻浮提ニ廣宣流布スヘキヤノ事不
審無極ナリ。イカナル祕法ソ。先名ヲキ
キ次ニ義ヲキカントヲモウ。此事モシ實
事ナラハ釋尊ノ二度世ニ出現シ給カ。淨
行菩薩ノ重涌出セルカ。イソキイソキ慈
悲ヲタレラレヨ。彼ノ玄奘三藏ハ六生ヲ
經テ月氏ニ入テ十九年。法華一乘ハ方便
教。小乘阿含經ハ眞實教。不空三藏ハ身毒
ニ返テ壽量品ヲ阿彌陀佛トカカレタリ。
此等ハ東ヲ西トイウ。日ヲ月トアヤマテ
リ。身ヲ苦メテナニカセン。心ニ染テヨウ
ナシ。幸ニ我等末法ニ生テ一歩ヲアユマ
スシテ三祇ヲコエ。頭ヲ虎ニカワスシテ
無見頂相ヲエン。答云。此ノ法門ヲ申サン
事ハ經文ニ候ヘハヤスカルヘシ。但此法門
ニハ先三ノ大事アリ。大海ハ廣ケレトモ
死骸ヲトトメス。大地ハ厚ケレトモ不孝
ノ者ヲハノセス。佛法ニハ五逆ヲタスケ
不孝ヲハスクウ。但誹謗一闡提ノ者ノ持
戒ニシテ第一ナルヲハユルサレス。此ノ
三ノワサハヒト者所謂念佛宗ト禪宗ト眞
言宗トナリ。一ニハ念佛宗ハ日本國ニ充
滿シテ四衆ノ口アソヒトス。二ニ禪宗ハ
三衣一鉢ノ大慢ノ比丘ノ四海ニ充滿シテ
一天ノ明導トヲモヘリ。三ニ眞言宗ハ彼
等ノ二宗ニハ又ニルヘクモナシ。叡山･東
寺･七寺･園城。或ハ官主。或ハ御室。或ハ長
吏。或ハ撿校ナリ。カノ内侍所ノ神鏡燼灰
トナンシカトモ。大日如來ノ寶印ヲ佛鏡
トタノミ。寶劍西海ニ入シカトモ五大尊
ヲモンテ國敵ヲ切ト思ヘリ。此等ノ堅固信
心ハ設劫石ハヒスラクトモ。カタフクヘシ
トハミヘス。大地ハ反覆ストモ疑心ヲコ
リカタシ。彼ノ天台大師ノ南北ヲセメ給
シ時モ此宗イマタワタラス。此傳教大師
ノ六宗ヲシエタケ給シ時モモレヌ。カタ
カタノ強敵ヲマヌカレテ。カヘテ大法ヲ
カスメ失ウ。其上傳教大師ノ御弟子慈覺
大師。此宗ヲトリタテテ叡山ノ天台宗ヲ
カスメヲトシテ一向眞言宗ニナシシカ
ハ。此ノ人ニハ誰ノ人カ敵ヲナスヘキ。カ
カル僻見ノタヨリヲエテ弘法大師ノ邪義
ヲモトカムル人モナシ。安然和尚スコシ
弘法ヲ難セントセシカトモ。只華嚴宗ノ
トコロハカリトカムルニニテ。カヘテ法
華經ヲハ大日經ニ對シテ沈メハテヌ。タ
タ世間ノタテ入ノ者ノコトシ
問云。此三宗ノ謬誤如何。答云。淨土宗ハ齊
ノ世ニ曇鸞法師ト申者アリ。本ハ三論宗
ノ人。龍樹菩薩ノ十住毘婆娑論ヲ見テ難
行道易行道ヲ立タリ。道綽禪師トイウ者
アリ。唐ノ世ノ者。本ハ涅槃經ヲカウシケ
ルカ。曇鸞法師カ淨土宗ニウツル筆ヲ見
テ。涅槃經ヲステテ淨土ニウツテ聖道淨
土ノ二門ヲ立タリ。又道綽カ弟子善導ト
イウ者アリ。雜行正行二行ヲ立ツ。日本國
ニ末法ニ入テ二百餘年。後鳥羽院ノ御宇
ニ。法然トイウモノアリ。一切ノ道俗ヲス
スメテ云。佛法ハ時機ヲ本トス。法華經。大
日經。天台。眞言等ノ八宗九宗一代ノ大小
顯密權實等ノ經宗等ハ上根上智ノ正像二
千年ノ機ノタメナリ。末法ニ入テハイカ
ニ功ヲナシテ行スルトモ其益アルヘカラ
ス。其上彌陀念佛ニマシヘテ行スルナラ
ハ念佛モ往生スヘカラス。此レワタクシ
ニ申ニハアラス。龍樹菩薩曇鸞法師ハ難
行道トナツケ。道綽ハ未有一人得者トキ
ラヒ。善導ハ千中無一トナツケタリ。此等
ハ他宗ナレハ御不審モアルヘシ。惠心先
徳ニスキサセ給ヘル天台眞言ノ智者ハ末
代ニヲハスヘキカ。カレ往生要集ニハカカ
レタリ。顯密ノ教法ハ予カ死生ヲハナル
ヘキ法ニハアラス。又三論ノ永觀カ十因
等ヲミヨ。サレハ法華眞言等ヲステテ一
向ニ念佛セハ。十即十生百即百生トスス
メケレハ。叡山東寺園城七寺等始ハ諍論
スルヤウナレトモ。往生要集ノ序ノ詞道
理カトミヘケレハ顯眞座主落サセ給テ法
然カ弟子トナル。其上設法然カ弟子トナ
ラヌ人人モ。彌陀念佛ハ他佛ニニルヘク
モナク。口スサミトシ。心ヨセニヲモヒケ
レハ。日本國皆一同ニ法然房ノ弟子ト見
ヘケリ。此五十年カ間一天四海一人モナ
ク法然カ弟子トナル。法然カ弟子トナリ
ヌレハ日本國一人モナク謗法ノ者トナリ
ヌ。譬ヘハ千人ノ子カ一同ニ一人ノ親ヲ
殺害セハ千人共ニ五逆ノ者ナリ。一人阿
鼻ニ墮ナハ餘人墮サルヘシヤ。結句ハ法
然流罪ヲアタミテ惡靈トナツテ。我竝ニ
弟子等ヲトカセシ國主山寺ノ僧等カ身ニ
入テ或ハ謀反ヲヲコシ。或ハ惡事ヲナシ
テ皆關東ニホロホサレヌ。ワツカニノコ
レル叡山東寺等ノ諸僧ハ。俗男俗女ニア
ナツラルルコト猿猴ノ人ニワラワレ俘囚
カ童子ニ蔑如セラルルカコトシ。禪宗ハ
又此便ヲ得テ持齋等トナンテ人ノ眼ヲ迷
ハカシ。タントケナル氣色ナレハ。イカニ
ヒカホウモンヲイヰクルヘトモ失トモヲ
ホヘス。禪宗ト申宗ハ。教外別傳ト申テ。釋
尊ノ一切經ノ外ニ迦葉尊者ニヒソカニサ
サヤカセ給エリ。サレハ禪宗ヲシラスシ
テ一切經ヲ習ウモノハ。犬ノ雷ヲカムカ
| コトシ。猿ノ月ノ影ヲトルニニタリ | 云云 |
ラレ。無禮ナル故ニ主君ニカンタウセラ
レ。アルイハ若ナル法師等ノ學文ニモノ
ウキ。遊女ノモノクルワシキ本性ニ叶ル
邪法ナルユヘニ。皆一同ニ持齋ニナリテ。
國ノ百姓ヲクラウ蝗虫トナレリ。シカレ
ハ天ハ天眼ヲイカラカシ。地神ハ身ヲフ
ルウ。眞言宗ト申ハ上ノ二ノワサハヒニ
ハニルヘクモナキ大僻見ナリ。アラアラ
此ヲ申ヘシ。所謂大唐ノ玄宗皇帝ノ御宇
ニ。善無畏三藏･金剛智三藏･不空三藏。大日
經金剛頂經蘇悉地經ヲ月支ヨリワタス。
此三經ノ説相分明ナリ。其ノ極理ヲ尋レ
ハ會二破二ノ一乘。其ノ相ヲ論スレハ印
ト眞言ト計ナリ。尚華嚴般若ノ三一相對
ノ一乘ニモ及ハス。天台宗ノ爾前ノ別圓
程モナシ。但藏通二教ヲ面トス。而ルヲ善
無畏三藏ヲモワク。此ノ經文ヲアラワニ
イヰ出ス程ナラハ。華嚴法相ニモヲコツ
カレ天台宗ニモワラワレナン。大事ト
シテ月支ヨリハ持來ヌ。サテモタセハ本
意ニアラストヤヲモヒケン。天台宗ノ中
ニ一行禪師トイフ僻人一人アリ。コレヲ
カタラヒテ漢土ノ法門ヲカタラセケリ。
一行阿闍梨ウチヌカレテ。三論法相華嚴
等ヲアラアラカタルノミナラス。天台宗
ノ立ラレケルヤウヲ申ケレハ。善無畏ヲ
モハク。天台宗ハ天竺ニシテ聞シニモ。ナ
ヲウチスクレテ。カサムヘキヤウモナカ
リケレハ。善無畏一行ヲウチヌヒテ云和
僧ハ漢土ニハコサカシキ者ニテアリケ
リ。天台宗ハ神妙ノ宗ナリ。今眞言宗ノ天
台宗ニカサムトコロハ印ト眞言ト計ナリ
トイヰケレハ。一行サモヤトヲモヒケレ
ハ。善無畏三藏一行ニカタテ云。天台大師
ノ法華經ニ疏ヲツクラセ給ヘルコトク。
大日經ノ疏ヲ造テ眞言ヲ弘通セントヲモ
ウ。汝カキナンヤトイヰケレハ。一行カ云。
ヤスウ候。但シイカヤウニカキ候ヘキソ。
天台宗ハニクキ宗ナリ。諸宗ハ我モ我モ
トアラソエヲナセトモ。一切ニ叶サル事
一アリ。所謂法華經ノ序分ニ無量義經ト
申經ヲモンテ。前四十餘年ノ經經ヲハ其
門ヲ打フサキ候ヌ。法華經ノ法師品神力
品ヲモンテ後ノ經經ヲハ又フセカセヌ。
肩ヲナラフ經經ヲハ今説ノ文ヲモンテセ
メ候。大日經ヲハ三説ノ中ニハイツクニ
カヲキ候ヘキト問ヒケレハ。爾時ニ善無
畏三藏大ニ巧ンテ云。大日經ニ住心品ト
イウ品アリ。無量義經ノ四十餘年ノ經經
ヲ打ハラウカコトシ。大日經ノ入漫陀羅
已下ノ諸品ハ。漢土ニテハ法華經大日經
トテ二本ナレトモ。天竺ニテハ一經ノコ
トシ。釋迦佛ハ舍利弗彌勒ニ向テ大日經
ヲ法華經トナツケテ。印ト眞言トヲステ
テ但理計ヲトケルヲ。羅什三藏此ヲワタ
ス。天台大師此ヲ見ル。大日如來ハ法華經
ヲ大日經トナツケテ金剛薩埵ニ向テトカ
セ給。此ヲ大日經トナツク。我レマノアタ
リ天竺ニシテコレヲ見ル。サレハ汝カカ
クヘキヤウハ。大日經ト法華經トヲハ水
ト乳トノヤウニ一味トナスヘシ。モシシ
カラハ。大日經ハ已今當ノ三説ヲハ皆法
華經ノコトクウチヲトスヘシ。サテ印ト
眞言トハ心法ノ一念三千ニ莊嚴スルナラ
ハ三密相應ノ祕法ナルヘシ。三密相應ス
ル程ナラハ天台宗ハ意密ナリ。眞言ハ甲
ナル將軍ノ甲鎧ヲ帶シテ弓箭ヲ横タヘ。
太刀ヲ腰ニハケルカコトシ。天台宗ハ意
密計ナレハ甲ナル將軍ノ赤裸ナルカコト
クナラントイヰケレハ。一行阿闍梨ハ此
ノヤウニカキケリ。漢土三百六十箇國ニ
ハ此事ヲ知ル人ナカリケルカノアヒタ。
始ニハ勝劣ヲ諍論シケレトモ。善無畏等
ハ人カラハ重シ。天台宗ノ人人ハ輕カリ
ケリ。又天台大師ホトノ智アル者モナカ
リケレハ。但日日ニ眞言宗ニナリテサテ
ヤミニケリ。年ヒサシクナレハイヨイヨ
眞言ノ誑惑ノ根フカクカクレテ候ケリ。
日本國ノ傳教大師漢土ニワタリテ天台宗
ヲワタシ給ツヒテニ眞言宗ヲナラヘワタ
ス。天台宗ヲ日本ノ皇帝ニサツケ。眞言宗
ヲ六宗ノ大徳ニナラワセ給。但シ六宗ト
天台宗ノ勝劣ハ入唐已前ニ定サセ給。入
唐已後ニハ圓頓ノ戒場ヲ立テウ立シノ論
計リナリケルカノアヒタ。敵多クシテ
ハ戒場ノ一事成シカタシトヤヲホシメシ
ケン。又末法ニセメサセントヤヲホシメ
シケン。皇帝ノ御前ニシテモ論セサセ給
ハス。弟子等ニモハカハカシクカタラセ
給ハス。但シ依憑集ト申一卷ノ祕書アリ。
七宗ノ人人ノ天台ニ落タルヤウヲカカレ
ツル文ナリ。カノ文ノ序ニ眞言宗ノ誑惑
一筆ミヘテ候。弘法大師ハ同シキ延暦年
中ニ御入唐青龍寺ノ慧果ニ値給テ眞言宗
ヲナラワセ給ヘリ。御歸朝ノ後。一代ノ勝
劣ヲ判シ給ケルニ。第一眞言。第二華嚴。第
三法華トカカレテ候。此大師ハ世間ノ人
人モンテノホカニ重スル人ナリ。但シ佛法
ノ事ハ申ニヲソレアレトモ。モンテノホ
カニアラキ事トモハンヘリ。此事ヲアラ
アラカンカヘタルニ。漢土ニワタラセ給
テハ但眞言ノ事相ノ印眞言計習ツタエ
テ。其義理ヲハクハシクモサハクラセ給
ハサリケルホトニ。日本ニワタリテ後大
ニ世間ヲ見レハ。天台宗モンテノホカニ
カサミタリケレハ。我カ重スル眞言宗ヒ
ロメカタカリケルカノユヘニ。本日本國
ニシテ習タリシ華嚴宗ヲトリイタシテ法
華經ニマサレタルヨシヲ申ケリ。ソレモ
常ノ華嚴宗ニ申ヤウニ申ナラハ。人信ス
マシトヤヲホシメシケン。スコシイロヲ
カエテ此ハ大日經。龍猛菩薩ノ菩提心論。
善無畏等ノ實義ナリト。大妄語ヲヒキソ
ヘタリケレトモ。天台宗ノ人人イタウト
カメ申ス事ナシ。問云。弘法大師ノ十住心
論。祕藏寶鑰。二教論ニ云。如此乘乘自乘
得名。望後作戲論。又云。無明邊域非明分
位。又云。第四熟蘇味。又云。震旦人師等諍
| 盜醍醐各名自宗等 | 云云 |
日ノ三部經等ヲヒラキミルニ。華嚴經ト
大日經トニ對スレハ法華經戲論。六波羅
蜜經ニ對スレハ盜人。守護經ニ對スレハ
無明ノ邊域ト申經文ハ一字一句モ候ワ
ス。此事ハイトハカナキ事ナレトモ。此ノ
三四百餘年ニ日本國ノソコハクノ智者ト
モノ用サセ給ヘハ定テユヘアルカトヲモ
ヒヌヘシ。シハラクイトヤスキヒカ事ア
ケテ餘事ノハカナキ事ヲシラスヘシ。法
華經ヲ醍醐味ト稱スルコトハ陳隋ノ代ナ
リ。六波羅蜜經ハ唐ノ半ニ般若三藏此ヲ
ワタス。六波羅蜜經ノ醍醐ハ陳隋ノ世ニ
ハワタリテアラハコソ天台大師ハ眞言ノ
醍醐ヲハ盜マセ給ワメ。傍例アリ。日本ノ
得一カ云。天台大師ハ深密經ノ三時經ヲ
ヤフル。三寸ノ舌ヲモンテ五尺ノ身ヲタ
ツヘシトノノシリシヲ。傳教大師此ヲタ
タシテ云。深密經ハ唐ノ始玄奘三藏コレ
ヲワタス。天台ハ陳隋ノ人。智者御入滅ノ
後數箇年アンテ解深密經ワタレリ。死シ
テ已後ニワタレル經ヲハイカテカ破給ヘ
キトセメサセ給テ候シカハ。得一ハツマ
ルノミナラス舌八ニサケテ死候ヌ。コレ
ハ彼ニハニルヘクモナキ惡口ナリ。華嚴
ノ法藏。三論ノ嘉祥。法相ノ玄奘。天台等乃
至南北ノ諸師。後漢ヨリ已下ノ三藏人師
ヲ皆ヲサエテ盜人トカカレテ候ナリ。其
上又法華經ヲ醍醐ト稱スルコトハ天台等
ノ私ノ言ニハアラス。佛涅槃經ニ法華經
ヲ醍醐トトカセ給。天親菩薩ハ法華經涅
槃經ヲ醍醐トカカレテ候。龍樹菩薩ハ法
華經ヲ妙藥トナツケサセ給。サレハ法華
經等ヲ醍醐ト申人盜人ナラハ。釋迦多寶
十方諸佛。龍樹天親等ハ盜人ニテヲハス
ヘキカ。弘法ノ門人等。乃至日本ノ東寺ノ
眞言師。如何自眼ノ黒白ハツタナクシテ
辦ヘストモ。他ノ鏡ヲモンテ自禍ヲシレ。
此ノ外法華經ヲ戲論ノ法トカカルルコ
ト。大日經金剛頂經等ニタシカナル經文
ヲイタサレヨ。設彼彼ノ經經ニ法華經ヲ
戲論トトカレタリトモ。譯者ノ誤ル事モ
アルソカシ。ヨクヨク思慮ノアルヘカリ
ケルカ。孔子ハ九思一言。周公旦ハ沐ニハ
三ニキリ。食ニハ三ハカレケリ。外書ノハ
カナキ世間ノ淺事ヲ習人スラ智人ハカウ
候ソカシ。イカニカカルアサマシキ事ハ
アリケルヤラン。カカル僻見ノ末ヘナレ
ハ。彼ノ傳法院ノ本願トカウスル聖覺房
カ舍利講ノ式云。尊高者也不二摩訶衍之
佛。驢牛三身不能扶車。祕奧者也兩部漫
| 陀羅之教。顯乘四法不堪採履ト | 云云 |
驢牛ノ三身ト申ハ法華華嚴般若深密經ノ
教主ノ四佛。此等ノ佛僧ハ眞言師ニ對ス
レハ＊聖覺弘法ノ牛飼履物取者ニモタラ
ヌ程ノ事ナリトカイテ候。彼ノ月氏ノ大
慢婆羅門ハ生知ノ博學。顯密二道胸ニウ
カヘ。内外ノ典籍掌ニニキル。サレハ王臣
頭ヲカタフケ萬人師範ト仰ク。アマリノ慢
心ニ世間ニ尊崇スル者ハ大自在天。婆籔
天。那羅延天。大覺世尊。此四聖ナリ。我カ
座ノ四足ニセント座ノ足ニツクリテ坐シ
テ法門ヲ申ケリ。當時ノ眞言師カ釋迦佛
等ノ一切ノ佛ヲカキアツメテ潅頂スル
時。敷マンタラトスルカコトシ。禪宗ノ法
師等カ云。此宗ハ佛ノ頂ヲフム大法ナリ
トイフカコトシ。而ヲ賢愛論師ト申セシ
小僧アリ。彼ヲタタスヘキヨシ申セシカ
トモ。王臣萬民コレヲモチヰス。結句ハ大
慢カ弟子等檀那等ニ申ツケテ無量ノ妄語
ヲカマヘテ惡口打擲セシカトモ。スコシ
モ命モヲシマスノノシリシカハ。帝王賢
愛ヲニクミテツメサセントシ給シホト
ニ。カヘリテ大慢カセメラレタリシカハ。
大王天ニ仰地ニ伏シテナケヒテノ給ハ
ク。朕ハマノアタリ此事ヲキヒテ邪見ヲ
ハラシヌ。先王ハイカニ此者ニタホラサレ
テ阿鼻地獄ニヲハスラント。賢愛論師ノ
御足ニトリツキテ悲涙セサセ給シカハ。
賢愛ノ御計トシテ大慢ヲ驢ニノセテ五竺
ニ面ヲサラシ給ケレハ。イヨイヨ惡心盛
ニナリテ現身ニ無間地獄ニ墮ヌ。今ノ世
ノ眞言ト禪宗等トハ此ニカワレリヤ。漢
土ノ三階禪師云。教主釋尊ノ法華經ハ第
一第二階ノ正像ノ法門ナリ。末代ノタメ
ニハ我カツクレル普經ナリ。法華經ヲ今
ノ世ニ行セン者ハ十方ノ大阿鼻獄ニ墮ヘ
シ。末代ノ根機ニアタラサルユヘナリト
申テ。六時禮懺。四時ノ坐禪。生身佛ノコト
クナリシカハ。人多ク尊テ弟子萬餘人ア
リシカトモ。ワツカノ小女ノ法華經ヲヨ
ミシニセメラレテ當座ニハ音ヲ失。後ニ
ハ大蛇ニナリテ。ソコハクノ檀那弟子竝
ニ小女處女等ヲノミ食シナリ。今ノ善導
法然等カ千中無一ノ惡義モコレニテ候ナ
リ。此等ノ三大事ハステニ久クナリ候ヘ
ハ。イヤシムヘキニハアラネトモ。申サハ
信スル人モヤアリナン。コレヨリモ百千
萬億倍信シカタキ最大ノ惡事ハンヘリ。
慈覺大師ハ傳教大師ノ第三ノ御弟子ナ
リ。シカレトモ上一人ヨリ下萬民ニイタ
ルマテ。傳教大師ニハ勝テヲハシマス人
ナリトヲモエリ。此人眞言宗ト法華宗ノ
實義ヲ極サセ給テ候カ。眞言ハ法華經ニ
ハ勝タリトカカセ給ヘリ。而ヲ叡山三千
人ノ大衆。日本一州ノ學者等。一同ノ歸伏
ノ義ナリ。弘法ノ門人等ハ大師ノ法華經
ヲ華嚴經ニ劣トカカセ給ヘルハ。我カカ
タナカラモ少シ強キヤウナレトモ。慈覺
大師ノ釋ヲモンテヲモウニ。眞言宗ノ法
華經ニ勝タルコトハ一定ナリ。日本國ニ
シテ眞言宗ヲ法華經ニ勝ルルト立ルヲハ。
叡山コソ強カタキナリヌヘカリツルニ。
慈覺ヲモンテ三千人ノ口ヲフサキナハ眞
言宗ハヲモウコトシ。サレハ東寺第一ノ
カタウト慈覺大師ニハスクヘカラス。例
セハ淨土宗禪宗ハ餘國ニテハヒロマルト
モ。日本國ニシテハ延暦寺ノユルサレナカ
ランニハ。無邊劫ハフトモ叶マシカリシ
ヲ。安然和尚ト申叡山第一ノ古徳。教時諍
論ト申文ニ九宗ノ勝劣ヲ立ラレタルニ。
第一眞言宗。第二禪宗。第三天台法華宗。第
| 四華嚴宗等 | 云云 |
ントハスルナリ。法然カ念佛宗ノハヤリ
テ一國ヲ失ハントスル因縁ハ惠心ノ往生
要集ノ序ヨリハシマレリ。師子ノ身ノ中
ノ蟲ノ師子ヲ食ト佛ノ記給ハマコトナル
カナヤ。傳教大師ハ日本國ニシテ十五年
カ間天台眞言等ヲ自見セサセ給。生知ノ
妙悟ニテ師ナクシテサトラセ給シカト
モ。世間ノ不審ヲハラサンカタメニ。漢土
ニ亙テ天台眞言ノ二宗ヲ傳給シ時。漢土
ノ人人ハヤウヤウノ義アリシカトモ。我
心ニハ法華ハ眞言ニスクレタリトヲホシ
メシシユヘニ。眞言宗ノ宗ノ名字ヲハ削ラ
セ給テ天台宗ノ止觀眞言等トカカセ給。十
二年ノ年分得度者二人ヲヲカセ給。重テ止
觀院ニ法華經金光明經仁王經ノ三部ヲ鎭
護國家ノ三部ト定テ宣旨ヲ申下。永代日本
國ノ第一ノ重寶。神璽。寶劍。内侍所トアカ
メサセ給キ。叡山第一ノ座主義眞和尚。第
二ノ座主圓澄大師マテハ此義相違ナシ。第
三ノ慈覺大師御入唐。唐土ニワタリテ十年
カ間顯密二道ノ勝劣ヲ八箇ノ大徳ニナラ
ヒツタウ。又天台宗ノ人人廣脩維蠲等ニナ
ラワセ給シカトモ。心ノ内ニヲホシケル
ハ。眞言宗ハ天台宗ニハ勝タリケリ。我師
傳教大師ハイマタ此事ヲハクハシク習セ
給サリケリ。漢土ニ久モワタラセ給サリ
ケル故ニ。此ノ法門ハアラウチニミヲハ
シケルヤトヲホシテ日本國ニ歸朝シ。叡
山東塔止觀院ノ西ニ總持院ト申大講堂ヲ
立。御本尊ハ金剛界ノ大日如來。此御前ニ
シテ大日經ノ善無畏ノ疏ヲ本トシテ。金
剛頂經ノ疏七卷。蘇悉地經ノ疏七卷。已上
十四卷ヲツクル。此疏肝心ノ釋云。教有二
種。一顯示教。謂三乘教。世俗勝義未圓融
故。二祕密教。謂一乘教。世俗勝義一體融故。
祕密教中亦有二種。一理祕密教。諸華嚴般
若維摩法華涅槃等。但説世俗勝義不二未
説眞言密印事故。二事理倶密教。謂大日
經金剛頂經蘇悉地經等。亦説世俗勝義不
| 二亦説眞言密印事故等 | 云云 |
ニ。眞言ノ三部經ト法華經トハ所詮ノ理
ハ同ク一念三千ノ法門ナリ。シカレトモ
密印ト眞言等ノ事法ハ法華經ニハカケテ
ヲハセス。法華經ハ理祕密。眞言ノ三部經
ハ事理倶密ナレハ天地雲泥ナリトカカレ
タリ。シカモ此ノ筆ハ私ノ釋ニハアラス。
善無畏三藏ノ大日經ノ疏ノ心ナリトヲホ
セトモ。ナヲナヲ二宗ノ勝劣不審ニヤア
リケン。ハタ又他人ノ疑ヲサンセントヤ
| ヲホシケン。大師 | 慈覺也 | ノ傳云。大師造二經 |
若不通佛意者不流傳於世矣。仍安置佛
像前。七日七夜翹企深誠。勤修祇請。至五
日五更夢。當于正午仰見日輪。而以弓
射之。其箭當日輪。日輪即轉動。夢覺之後
| 深悟通達於佛意。可傳於後世等 | 云云 |
習キワメ。異朝ニシテハ八大徳竝ニ南天
ノ寶月三藏等ニ十年カ間最大事ノ祕法ヲ
キワメサセ給ル上。二經ノ疏ヲツクリ了。
重テ本尊ニ祈請ヲナスニ。智慧ノ矢ステ
ニ中道ノ日輪ニアタリテウチヲトロカセ
給。歡喜ノアマリニ。仁明天王ニ宣旨ヲ申
ソヘサセ給。天台ノ座主ヲ眞言ノ官主ト
ナシ。眞言ノ鎭護國家ノ三部トテ。今ニ四
百餘年カ間碩學ハ稻麻ノコトシ。竭仰ハ
竹葦ニ同シ。サレハ桓武傳教等ノ日本國
建立寺塔ハ一宇モナク眞言ノ寺トナリ
ヌ。公家モ武家モ一同ニ眞言師ヲ召テ師
匠トアヲキ。官ヲナシ。寺ヲアツケタフ。佛
事ノ木畫ノ開眼供養ハ八宗一同ニ大日佛
眼ノ印眞言ナリ。疑云。法華經ヲ眞言ニ勝
ト申人ハ。此釋ヲハイカカセン。用ヘキカ
又スツヘキカ。答佛ケノ未來ヲ定云。依法
不依人。龍樹菩薩云。依修多羅白論。不
依修多羅黒論。天台云。復與修多羅合者
録而用之。無文無義不可信受。傳教大師
| 云。依憑佛説莫信口傳等 | 云云 |
ス。タタツイサシテ法華經ト大日經トノ
勝劣ヲ分明ニ説タラン經論ノ文コソタイ
セチニ候ハメ。但印眞言ナクハ木畫ノ像
ノ開眼ノ事。此又ヲコノ事ナリ。眞言ノナ
カリシ已前ニハ木畫ノ開眼ハナカリシ
カ。天竺漢土日本ニハ眞言宗已前ノ木畫
ノ像ハ或ハ行。或ハ説法シ。或ハ御物語ア
リ。印眞言ヲモテ佛ヲ供養セシヨリコノ
カタ利生モカタカタ失タルナリ。此ハ常
ノ論談ノ義ナリ。此一事ニヲヒテハ但シ
日蓮ハ分明ノ證據ヲ餘所ニ引ヘカラス。
慈覺大師ノ御釋ヲ仰テ信テ候ナリ。問云。
何ニト信セラルルヤ。答云。此夢ノ根源ハ
眞言ハ法華經ニ勝ト造定テノ御ユメナ
リ。此夢吉夢ナラハ慈覺大師ノ合セサセ
給カコトク眞言勝ルヘシ。但シ日輪ヲ射
ルトユメニミタルハ吉夢ナリトイウヘキ
カ。内典五千七千餘卷。外典三千餘卷ノ中
ニ日ヲ射ルトユメニ見テ吉夢ナル證據ヲ
ウケ給ルヘシ。少少此ヨリ出シ申サン。阿
闍世王ハ天ヨリ月落ルトユメニミテ耆婆
大臣ニ合セサセ給シカハ。大臣合セテ云。
佛ノ御入滅ナリ。須拔多羅。天ヨリ日落ト
ユメニミル。我トアワセテ云。佛ノ御入滅
ナリ。脩羅ハ帝釋ト合戰ノ時。マツ日月ヲ
イタテマツル。夏ノ桀。殷ノ紂ト申セシ惡
王ハ。常ニ日ヲイテ身ヲホロホシ國ヲヤ
フル。摩耶夫人ハ日ヲハラムトユメニミ
テ悉達太子ヲウマセ給。カルカユヘニ佛
ノワラワナヲハ日種トイウ。日本國ト申
ハ天照太神ノ日天ニテマシマスユヘナ
リ。サレハ此ノユメハ天照太神。傳教大師。
釋迦佛。法華經ヲイタテマツレル矢ニテ
コソ二部ノ疏ハ候ナレ。日蓮ハ愚癡ノ者
ナレハ經論モシラス。但此ノ夢ヲモンテ
法華經ニ眞言スクレタリト申人ハ。今生
ニハ國ヲホロホシ家ヲ失ヒ。後生ニハアヒ
地獄ニ入ヘシトハシリテ候。今現證アル
ヘシ。日本國ト蒙古トノ合戰ニ。一切ノ眞
言師ノ調伏ヲ行ヒ候ヘハ。日本カチテ候
ナラハ眞言ハイミシカリケリトオモヒ候
ナン。但シ承久ノ合戰ニソコハクノ眞言
師ノイノリ候シカ。調伏セラレ給シ權ノ
大夫殿ハカタセ給。後鳥羽院ハ隱岐ノ國
ヘ。御子天子ハ佐渡ノ島島ヘ調伏シヤリ
マイラセ候ヌ。結句ハ野干ノナキノ己カ
身ニヲウナルヤウニ。還著於本人ノ經文
ニスコシモタカワス。叡山ノ三千人カマ
クラニセメラレテ一同ニシタカイハテ
ヌ。シカルニ又カマクラ日本ヲ失トイノ
ルカト申ナリ。コレヲヨクヨクシル人ハ
一閻浮提一人ノ智人ナルヘシ。ヨクヨク
シルヘキカ。今ハカマクラノ世サカンナ
ルユヘニ。東寺天台園城七寺ノ眞言師等
ト竝ニ自立ヲワスレタル法華經ノ謗法ノ
人人關東ニヲチクタリテ。頭ヲカタフケ
ヒサヲカカメ。ヤウヤウニ武士ノ心ヲト
リテ。諸寺諸山ノ別當トナリ。長吏トナリ
テ。王位ヲ失シ惡法ヲトリエタシテ國土
安隱トイノレハ。將軍家竝所從ノ侍已下
ハ國土ノ安＊隱ナルヘキ事ナンメリトウ
チヲモヒテ有ルホトニ。法華經ヲ失大禍
ノ僧トモヲ用ラルレハ國定ホロヒナン。
亡國ノカナシサ。亡身ノナケカハシサニ。
身命ヲステテ此事ヲアラワスヘシ。國主
世ヲ持ヘキナラハ。アヤシトヲモヒテタ
ツヌヘキトコロニ。タタサンケンノコト
ハノミ用テ。ヤウヤウノアタヲナス。而ル
ニ法華經守護ノ梵天帝釋日月四天地神等
ハ古ノ謗法ヲハ不思議トハヲホセトモ。
此ヲシレル人ナケレハ。一子ノ惡事ノコ
トクウチユルシテ。イツワリヲロカナル
時モアリ。又スコシツミシラスル時モア
リ。今ハ謗法ヲ用タルタニ不思議ナルニ。
マレマレ諌曉スル人ヲカヘリテアタヲナ
ス。一日二日。一月二月。一年二年ナラス數
年ニ及フ。彼ノ不輕菩薩ノ杖木ノ難ニ値
シニモスクレ。覺徳比丘ノ殺害ニ及シニ
モコエタリ。而ル間梵釋二王。日月。四天。衆
星。地神等ヤウヤウニイカリ。度度イサ
メラルレトモ。イヨイヨアタヲナスユヘ
ニ。天ノ御計トシテ隣國ノ聖人ニヲホセ
ツケラレテ此ヲイマシメ。大鬼神ヲ國ニ
入レテ。人ノ心ヲタホラカシ。自界反逆セ
シム。吉凶ニツケテ瑞大ナレハ難多カル
ヘキコトワリニテ。佛滅後二千二百三十
餘年カ間。イマタイテサル大長星。イマタ
フラサル大地シン出來セリ。漢土日本ニ
智慧スクレ才能イミシキ聖人ハ度度アリ
シカトモ。イマタ日蓮ホト法華經ノカタ
ウトシテ國土ニ強敵多クマウケタル者ナ
キナリ。マツ眼前ノ事ヲモンテ日蓮ハ閻
浮第一ノ者トシルヘシ。佛法日本ニワタ
テ七百餘年。一切經ハ五千七千。宗ハ八宗
十宗。智人ハ稻麻ノコトシ。弘通ハ竹葦ニ
ニタリ。シカレトモ佛ニハ阿彌陀佛。諸佛
ノ名號ニハ彌陀ノ名號ホトヒロマリテヲ
ハスルハ候ハス。此名號ヲ弘通スル人ハ
惠心ハ往生要集ヲツクル。日本國三分カ
一ハ一同ノ彌陀念佛者。永觀ハ十因ト往
生講ノ式ヲツクル。扶桑三分カ二分ハ一
同ノ念佛者。法然センチヤクヲツクル本
朝一同ノ念佛者。而カレハ今ノ彌陀ノ名
號ヲ唱ル人人ハ一人カ弟子ニハアラス。
此念佛ト申ハ雙觀經。觀經。阿彌陀經ノ題
名ナリ。權大乘經ノ題目ノ廣宣流布スル
ハ實大乘經ノ題目ノ流布センスル序ニア
ラスヤ。心アラン人ハ此ヲスヒシヌヘシ。
權經流布セハ實經流布スヘシ。權經ノ題
目流布セハ實經ノ題目モ又流布スヘシ。
欽明ヨリ當帝ニイタルマテ七百餘年。イ
マタキカス。イマタ見ス。南無妙法蓮華經
ト唱ヘヨト他人ヲススメ。我ト唱タル智
人ナシ。日出ヌレハ星カクル。賢王來レハ
愚王ホロフ。實經流布セハ權經ノトトマ
リ。智人南無妙法蓮華經ト唱エハ愚人ノ
此ニ隨ハンコト影ト身ト聲ト響トノコト
クナラン。日蓮ハ日本第一ノ法華經ノ行
者ナル事アエテ疑ヒナシ。コレヲモンテ
スイセヨ。漢土月支ニモ一閻浮提ノ内ニ
モ肩ヲナラフル者ハ有ヘカラス。問云。正
嘉ノ大地シン。永文ノ大彗星ハイカナル
事ニヨンテ出來セルヤ。答云。天台云。智人
| 知起。蛇自識蛇等 | 云云 |
ヲハ。彌勒菩薩･文殊師利菩薩･觀世音菩薩･
藥王菩薩等ノ四十一品ノ無明ヲ斷セシ人
人モ。元品ノ無明ヲ斷セサレハ愚人トイ
ワレテ。壽量品ノ南無妙法蓮華經ノ末法ニ
流布センスルユヘニ。此ノ菩薩召出サレ
タルトハシラサリシトイウ事ナリ。問云。
日本･漢土･月支ノ中ニ此事ヲ知ル人アル
ヘシヤ。答云。見思ヲ斷盡シ。四十一品ノ無
明ヲ盡セル大菩薩タニモ此事ヲシラセ給
ハス。イカニイワウヤ。一毫ノ惑ヲモ斷セ
ヌ者トモノ此事ヲ知ヘキカ。問云。智人ナ
クハイカテカ此ヲ對治スヘキ。例セハ病
ノ所起ヲ知ラヌ人ノ。病人ヲ治スレハ人
必ス死ス。此災ノ根源ヲ知ラヌ人人カイ
ノリヲナサハ國マサニ亡ヒン事疑ナキ
カ。アラアサマシヤアラアサマシヤ。答云。
蛇ハ七日カ内ノ大雨ヲシリ。烏ハ年中ノ
吉凶ヲシル。此則大龍ノ所從。又久學ノユ
ヘカ。日蓮ハ凡夫ナリ。此事ヲシルヘカラ
ストイエトモ。汝等ニホホコレヲサトサ
ン。彼ノ周ノ平王ノ時。禿ニシテ裸ナル者
出現セシヲ。辛有トイヰシ者ウラナンテ
云。百年カ内ニ世ホロヒン。同キ幽王ノ時
山川クツレ大地フルヒキ。白陽ト云者勘
テイハク。十二年ノ内ニ大王事ニ値セ給
ヘシ。今ノ大地震。大長星等ハ國主日蓮ヲ
ニクミテ。亡國ノ法タル禪宗ト念佛者ト
眞言師ヲカタウトセラルレハ。天イカラ
セ給テイタサセ給トコロノ災難ナリ。問
云。ナニヲモンテカ此ヲ信セン。答云。最勝
王經云。由愛敬惡人治罰善人故。星宿及
| 風雨皆不以時行等 | 云云 |
依ストイフ事疑ナシ。又此國ニ智人アリ。
國主此ヲニクミテアタストイウ事モ又疑
ナシ。又云。三十三天衆咸生忿怒心。變怪流
星墮。二日倶時出。他方怨賊來國人遭喪亂
| 等 | 云云 |
有コト又疑ナキカ。仁王經云。諸惡比丘多
求名利。於國王太子王子前。自説破佛法
| 因縁破國因縁。其王不別信聽此語等 | 云云 |
日出。二三四五日出。或日蝕無光。或日輪一
| 重二重四五重輪現等 | 云云 |
ラカシテ破佛法破國ノ因縁ヲトカハ。其
ノ國ノ王等此人ニタホラカサレテヲホス
ヤウ。此ノ法コソ持佛法ノ因縁。持國ノ因
縁トヲモヒ。此言ヲヲサメテヲコナウナ
ラハ。日月ニ變アリ。大風ト大雨ト大火等
出來シ。次ニハ内賊ト申テ親類ヨリ大兵
亂ヲコリ。我カカタウトシヌヘキ者ヲハ
皆打失テ後ニハ他國ニセメラレテ或ハ自
殺シ。或ハイケトリニセラレ。或ハ降人ト
ナルヘシ。是偏ニ佛法ヲホロホシ國ヲホロ
ホス故ナリ。守護經云。彼釋迦牟尼如來。所
有教法一切天魔外道惡人五通神仙皆不破
壞乃至少分。而此名相諸惡沙門皆悉毀滅
令無有餘。如須彌山假使盡於三千界中
草木爲薪。長時焚燒一毫無損。若劫火起火
| 從内生須臾燒滅無餘灰燼等 | 云云 |
若水若陸。所有衆生不敢食師子身肉。唯師
子自生諸虫自食師子之肉。阿難我之佛法
非餘能壞。是我法中諸惡比丘破我三大阿
| 僧祇劫積行勤苦所集佛法等 | 云云 |
ヲ訖哩枳王ニカタラセ給。釋迦如來ノ佛
法ヲハイカナルモノカウシナウヘキ。大
族王ノ五天ノ堂舍ヲ燒拂。十六大國ノ僧
尼ヲ殺セシ。漢土ノ武宗皇帝ノ九國ノ寺
塔四千六百餘所ヲ消滅セシメ。僧尼二十
六萬五百人ヲ還俗セシ等ノコトクナル
惡人等ハ。釋迦ノ佛法ヲハ失ヘカラス。三
衣ヲ身ニマトヒ。一鉢ヲ頚ニカケ。八萬法
藏ヲ胸ニウカヘ。十二部經ヲ口ニスウセ
ン僧侶カ彼ノ佛法ヲ失ウヘシ。譬ヘハ須
彌山ハ金ノ山ナリ。三千大千世界ノ草木
ヲモンテ四天六欲ニ充滿シテツミコメ
テ。一年二年百千萬億年カ間ヤクトモ一分
モ損スヘカラス。而ルヲ劫火ヲコラン時。
須彌ノ根ヨリ豆計ノ火イテテ。須彌山ヲ
ヤクノミナラス三千大千世界ヲヤキ失フ
ヘシ。若シ佛記ノコトクナラハ。十宗八宗
内典ノ僧等カ佛教ノ須彌山ヲハ燒キ拂ウ
ヘキニヤ。小乘倶舍成實律僧等カ大乘ヲ
ソネム胸ノ瞋恚ハ炎ナリ。眞言ノ善無畏
等。禪宗ノ三階等。淨士宗ノ善導等ハ佛教
ノ師子ノ肉ヨリ出來セル蝗蟲ノ比丘ナ
リ。傳教大師ハ三論法相華嚴等ノ日本ノ
碩徳等ヲ六蟲トカカセ給ヘリ。日蓮ハ眞
言禪宗淨土等ノ元祖ヲ三蟲トナツク。又
天台宗ノ慈覺･安然･惠心等ハ法華經傳教
大師ノ師子ノ身ノ中ノ三蟲ナリ。此等ノ
大謗法ノ根源ヲタタス日蓮ニアタヲナセ
ハ。天神モヲシミ地祇モイカラセ給テ炎
夭モ大ニ起ルナリ。サレハ心ウヘシ。一閻
浮提第一ノ大事ヲ申ユヘニ最第一ノ瑞相
此ニヲコレリ。アワレナルカナヤ。ナケカ
シキカナヤ。日本國ノ人皆無間大城ニ墮
チム事ヨ。悦シキカナヤ樂カナヤ。不肖ノ
身トシテ今度心田ニ佛種ヲウエタル。イ
マニシモミヨ。大蒙古國數萬艘ノ兵船ヲ
ウカヘテ。日本ヲセメハ。上一人ヨリ下モ
萬民ニイタルマテ。一切ノ佛寺一切ノ神
寺ヲハナケステテ。各各聲ヲツルヘテ南
無妙法蓮華經南無妙法蓮華經ト唱。掌ヲ
合テタスケ給ヘ日蓮ノ御房日蓮ノ御房ト
サケヒ候ハンスルニヤ。例セハ月支ノ大
族王ハ幼日王ニ掌ヲアワセ。日本ノ宗盛
ハカチワラヲウヤマウ。大慢ノモノハ敵
ニ隨トイウコノコトワリナリ。彼ノ輕毀
大慢ノ比丘等ハ始ニハ杖木ヲトトノヘテ
不輕菩薩ヲ打シカトモ。後ニハ掌ヲアワセ
テ失ヲクユ。提婆達多ハ釋尊ノ御身ニ血
ヲイタシシカトモ。臨終ノ時ニハ南無ト
唱タリキ。佛トタニ申タリシカハ地獄ニ
ハ墮ヘカラサリシヲ。業フカクシテ但南
無トノミトナヘテ佛トハイワス。今日本
國ノ高僧等モ南無日蓮聖人トトナエント
ストモ。南無計ニテヤアランスラン。フヒ
ンフヒン。外典云。未萌ヲシルヲ聖人トイ
ウ。内典云。三世ヲ知ヲ聖人トイウ。余ニ
三度ノカウミヤウアリ。一ニハ去シ文應
| 元年 | 太歳 庚申 | 七月十六日ニ立正安國論ヲ最明 |
ニ向云。禪宗ト念佛宗トヲ失給ヘシト申
サセ給ヘ。此事ヲ御用ナキナラハ。此一門
ヨリ事ヲコリテ他國ニセメラレサセ給ヘ
シ。二ニハ去シ文永八年九月十二日申時
ニ平左衞門尉ニ向テ云。日蓮ハ日本國ノ
棟梁也。予ヲ失ハ日本國ノ柱橦ヲ倒スナ
リ。只今ニ自界反逆難トテトシウチシテ。
他國侵逼難トテ此ノ國ノ人人他國ニ打殺
ルノミナラス。多クイケトリニセラルヘ
シ。建長寺･壽福寺･極樂寺･大佛･長樂寺等
ノ一切ノ念佛者。禪僧等カ寺塔ヲハヤキ
ハラエテ。彼等カ頚ヲユヒノハマニテ切
ラスハ日本國必ホロフヘシト申候了。第
| 三ニハ去年 | 文永 十一年 | 四月八日左衞門尉ニ語 |
テマツルヤウナリトモ。心ヲハ隨ヘラレ
タテマツルヘカラス。念佛ノ無間獄。禪ノ
天魔ノ所爲ナル事ハ疑ナシ。殊ニ眞言宗
カ此國土ノ大ナルワサハヒニテハ候ナ
リ。大蒙古ヲ調伏セン事。眞言師ニハ仰付
ラルヘカラス。若大事ヲ眞言師調伏スル
ナラハ。イヨイヨイソイテ此國ホロフヘシ
ト申セシカハ。頼綱問云。イツコロカヨセ
候ヘキ。予言。經文ニハイツトハミヘ候ハ
ネトモ。天ノ御氣色イカリスクナカラス。
キウニ見ヘテ候。ヨモ今年ハスコシ候ハ
シト語タリキ。此ノ三ノ大事ハ日蓮カ申
タルニハアラス。只偏ニ釋迦如來ノ御神
我身ニ入カワセ給ケルニヤ。我身ナカラ
モ悦ヒ身ニアマル。法華經ノ一念三千ト
申大事ノ法門ハコレナリ。經ニ云。所謂諸
法如是相ト申ハ何事ソ。十如是ノ始ノ相
如是カ第一ノ大事ニテ候ヘハ。佛ハ世ニ
イテサセ給。智人起ヲシル蛇ミツカラ蛇
ヲシルトハコレナリ。衆流アツマリテ大
海トナル。微塵ツモリテ須彌山トナレリ。
日蓮カ法華經ヲ信シ始シハ日本國ニハ一
渧一微塵ノコトシ。法華經ヲ二人三人十
人。百千萬億人唱エ傳ウルホトナラハ。妙
覺ノ須彌山トモナリ。大涅槃ノ大海トモ
ナルヘシ。佛ニナル道ハ此ヨリホカニ又
モトムル事ナカレ。問云。第二ノ文永九年
九月十二日ノ御勘氣ノ時ハ。イカニトシ
テ我ヲソンセハ自他ノイクサヲコルヘシ
| トハシリ給ヤ。答。大集經 | 五十 | 云。若復有諸 |
以毀罵刀杖打斫。及奪衣鉢種種資具。若他
給施作留難者。我等令彼自然卒卒起他
方怨敵及自界國土亦令兵起病疫飢饉。非
時風雨。鬪諍言訟譏謗。又令其王不久復
| 當亡失己國等 | 云云 |
ノソンテ。殊ニ尊クヲホウルユヘニコレ
ヲセンシイタス。此ノ經文ニ我等トハ梵
王ト帝釋ト第六天ノ魔王ト日月ト四天等
ノ三界ノ一切ノ天龍等ナリ。此等ノ上主。
佛前ニ詣シテ誓テ云。佛滅後正法像法末代
ノ中ニ。正法ヲ行セン者ヲ邪法ノ比丘等
カ國主ニウンタヘハ。王ニ近キモノ。王ニ
心ヨセナル者。我カタントシトヲモウ者
ノイウコトナレハ。理不盡ニ是非ヲ糾サ
ス。彼ノ智人ヲサンサンニハチニヲヨハ
セナントセハ。其故トモナク其國ニニワ
カニ大兵亂出現シ。後ニハ他國ニセメラ
ルヘシ。其國主モウセ其國モホロヒナン
ストトカレテ候。イタヒトカユキトハコ
レナリ。予カ身ニハ今生ニハサセル失ナ
シ。但國ヲタスケンカタメ生國ノ恩ヲホ
ウセント申セシヲ。御用ナカランコソ本意
ニアラサルニ。アマサヘ召シ出テ法華經
ノ第五ノ卷ヲ懷中セルヲトリイタシテサ
ンサントサイナミ。結句ハコウチヲワタ
シナントセシカハ。申タリシナリ。日月天
ニ處シ給ナカラ。日蓮カ大難ニアウヲ今
度カワラセ給ハスハ。一ニハ日蓮カ法華
經ノ行者ナラサルカ。忽ニ邪見ヲアラタ
ムヘシ。若日蓮法華經ノ行者ナラハ忽ニ
國ニシルシヲ見セ給ヘ。若シカラスハ今
ノ日月等ハ釋迦多寶十方ノ佛ヲタフラカ
シ奉大妄語ノ人ナリ。提婆カ虚誑罪。倶伽
利カ大妄語ニモ百千萬億倍スキサセ給ル
大妄語ノ天ナリト聲ヲアケテ申セシカ
ハ。忽ニ出來セル自界反逆難ナリ。サレハ
國土イタクミタレハ。我身ハイウニカヒ
ナキ凡夫ナレトモ。御經ヲ持チマイセ候
分齊ハ。當世ニハ日本第一ノ大人ナリト
申ナリ。問云。慢煩惱ハ七慢九慢八慢アリ。
汝カ大慢ハ佛教ニ明トコロノ大慢ニモ百
千萬億倍スクレタリ。彼ノ徳光論師ハ彌
勒菩薩ヲ禮セス。大慢婆羅門ハ四聖ヲ座
トセリ。大天ハ凡夫ニシテ阿羅漢トナノ
ル。無垢論師カ五天第一トイヰシ。此等ハ
皆阿鼻ニ墮ヌ。無間ノ罪人ナリ。汝イカテ
カ一閻浮提第一ノ智人トナノル。地獄ニ
墮サルヘシヤ。ヲソロシヲソロシ。答云。汝
ハ七慢九慢八慢等ヲハシレリヤ。大覺世
尊ハ三界第一トナノラセ給。一切ノ外道カ
云。只今天ニ罰セラルヘシ。大地ワレテ入
ナン。日本國ノ七寺三百餘人カ云。最澄法
| 師ハ大天カ蘇生カ鐵腹カ再誕カ等 | 云云 |
護シ。地モワレス金剛ノコトシ。傳教大師
ハ叡山ヲ立テテ一切衆生ノ眼目トナル。
結句七大寺ハ落テ弟子トナリ。諸國ハ檀
那トナル。サレハ現ニ勝タルヲ勝タリト
イフ事ハ慢ニニテ大功徳トナリケルカ。
傳教大師云。天台法華宗勝諸宗者據所
| 宗經故不自讃毀他等 | 云云 |
| 如是。於諸經中最爲其上等 | 云云 |
經。當説ノ涅槃經ノ五千七千。月支。龍宮。四
王天。忉利天。日月中ノ一切經。盡十方界ノ
諸經ハ土山。黒山。小鐵圍山。大鐵圍山ノコ
トシ。日本國ニワタラセ給ヘル法華經ハ
須彌山ノコトシ。又云。有能受持是經典
者亦復如是。於一切衆生中亦爲第一等
| 云云 |
薩。馬鳴菩薩。法藏大師。清涼國師。則天皇
后。審祥大徳。良辦僧正。聖武天皇。深密般若
經ヲ持テル勝義生菩薩。須菩提尊者。嘉祥
大師。玄奘三藏。太宗。高宗。觀勒。道昭。孝徳
天皇。眞言宗大日經ヲ持テル金剛薩埵。龍
猛菩薩。龍智菩薩。印生王。善無畏三藏。金剛
智三藏。不空三藏。玄宗。代宗。慧果。弘法大
師。慈覺大師。涅槃經ヲ持チシ迦葉童子菩
薩。五十二類曇無懺三藏。光宅寺ノ法雲。
南三北七ノ十師等ヨリモ。末代惡世ノ凡
夫ノ一戒モ持タス一闡提ノコトクニ人ニ
ハ思ハレタレトモ。經文ノコトク已今當
ニスクレテ法華經ヨリ外ハ佛ニナル道ナ
シト強盛ニ信シテ。而モ一分ノ解ナカラ
ン人人ハ。彼等ノ大聖ニハ百千億倍ノマ
サリナリト申經文ナリ。彼ノ人人ハ或ハ
彼ノ經經ニ且ク人ヲ入テ法華經ヘウツサ
ンカタメナル人モアリ。或ハ彼ノ經ニ著
ヲナシテ法華經ヘ入ラヌ人モアリ。或ハ
彼ノ經經ニ留逗ノミナラス。彼經經ヲ深
ク執スルユヘニ。法華經ヲ彼ノ經ニ劣ル
トイフ人モアリ。サレハ今法華經ノ行者
ハ心ウヘシ。譬如一切川流江河諸水之中
海爲第一。持法華經者亦復如是。又如衆
星之中月天子最爲第一。持法華經者亦復
如是等ト御心エアルヘシ。當世日本國ノ
智人等ハ衆星ノコトシ。日蓮ハ滿月ノコ
トシ。問云。古ヘカクノコトクイエル人ア
リヤ。答云。傳教大師ノ云。當知他宗所依經
未最爲第一。其能持經者亦未第一。天台
法華宗所持經最爲第一故。能持法華者亦
| 衆生中第一。已據佛説。豈自歎哉等 | 云云 |
トイヰ。輪王ニ隨ヘル劣夫ノ須臾ニ四天
下ヲメクルトイウヲハ難スヘシヤ疑ヘシ
ヤ。豈自歎哉ノ釋ハ肝ニメヒスルカ。若爾
者法華經ヲ經ノコトクニ持ツ人ハ。梵王
ニモスクレ帝釋ニモコエタリ。修羅ヲ隨
ヘハ須彌山ヲモニナヒヌヘシ。龍神ヲツ
カワハ大海ヲモクミホシヌヘシ。傳教大
師云。讃者積福於安明。謗者開罪於無間
| 等 | 云云 |
| 等 | 云云 |
一定ナラハ。今日本國ノ一切衆生無間地
獄ニ墮チン事疑ヘシヤ。法華經ノ八卷云。
若於後世受持讀誦是經典者乃至所願
不虚。亦於現世得其福報。又云。若有供
| 養讃歎之者。當於今世得現果報等 | 云云 |
字。當於今世得現果報ノ八字。已上十六字
ノ文ムナシクシテ。日蓮今生ニ大果報ナク
ハ。如來ノ金言ハ提婆カ虚言ニ同ク。多寶
ノ證明ハ倶伽利カ妄語ニ異ナラシ。謗法
ノ一切衆生モ阿鼻地獄ニ墮ヘカラス。三
世ノ諸佛モマシマササルカ。サレハ我弟
子等心ミニ法華經ノコトク身命モヲシマ
ス修行シテ。此度佛法ノ實否ヲ心ミヨ。南
無妙法蓮華經南無妙法蓮華經。抑此法華
經ノ文ニ我不愛身命但惜無上道。涅槃
經云。譬如王使善能談論巧於方便。奉命
他國寧喪身命。終不匿王所説言教。智者
亦爾。於凡夫中不惜身命。要必宣説大乘
| 方等如來祕藏一切衆生皆有佛性等 | 云云 |
テニテアルヤラン。委細ニウケ給候ハン。
答云。予カ初心ノ時ノ存念ハ。傳教･弘法･慈
覺･智證等ノ勅宣ヲ給テ。漢土ニワタリシ
事ノ我不愛身命ニアタレル歟。玄奘三藏
ノ漢土ヨリ月氏ニ入シニ六生カ間身命ヲ
ホロホシシ此等歟。雪山童子ノ半偈ノタ
メニ身ヲナケ。藥王菩薩ノ七萬二千歳カ
間臂ヲヤキシ事歟ナントヲモヒシホト
ニ。經文ノコトキンハ此等ニハアラス。經
文ニ我不愛身命ト申ハ上ニ三類ノ敵人ヲ
アケテ彼等カノリセメ刀杖ニ及テ身命
ヲウハウトモミヘタリ。又涅槃經ノ文ニ
寧喪身命等トトカレテ候ハ。次下ノ經文
ニ云。有一闡提作羅漢像住於空處誹謗
方等經典。諸凡夫人見已皆謂眞阿羅漢。是
| 大菩薩等 | 云云 |
| 爲世所恭敬如六通羅漢等 | 云云 |
| 經云。有似羅漢一闡提而行惡業等 | 云云 |
臣ヨリモ。外道魔王ヨリモ。破戒ノ僧侶ヨ
リモ。持戒有智ノ大僧ノ中ニ大謗法ノ人
人アルヘシ。サレハ妙樂大師カヒテ云。第
| 三最甚以後後者轉難識故等 | 云云 |
| 藏。於諸經中最在其上等 | 云云 |
キンハ法華經ヲ一切經ノ頂ニアリト申カ
法華經ノ行者ニテハアルヘキカ。而ヲ又
國ニ尊重セラルル人人アマタアリテ。法
華經ニマサリテヲハスル經經マシマスト
申人人ニセメアヒ候ハン時。カノ人ハ王
臣等御歸依アリ。法華經ノ行者ハ貧道ナ
ルユヘニ。國コソンテコレヲイヤシミ候
ハン時。不輕菩薩ノコトク賢愛論師カコ
トク申ツヲラハ身命ニ及ヘシ。此カ第一
ノ大事ナルヘシトミヘテ候。此事ハ今ノ
日蓮カ身ニアタレリ。予カ分齊トシテ弘
法大師･慈覺大師･善無畏三藏･金剛智三藏･
不空三藏ナントヲ法華經ノ強敵ナリ。經
文マコトナラハ無間地獄ハ疑ナシナント
申ハ。裸形ニシテ大火ニ入ルハヤスシ。須
彌山ヲ手ニトテナケンハヤスシ。大石ヲ
負テ大海ヲワタランハヤスシ。日本國ニ
| シテ此法門ヲ立テンハ大事ナルヘシ | 云云 |
方分身諸佛。地涌千界ノ菩薩等。梵釋日月
四天等。冥ニ加シ顯ニ助給ハスハ。一時一
日モ安＊隱ナルヘシヤ
Footnote:
Footnote:
Footnote:
Footnote:
Footnote:
Footnote:
Footnote:
Footnote:
Footnote:
Footnote:
237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 [行番号:無/有] [返り点:無/有] [CITE]