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SCUSI 2019参加報告記

村田祐菜(東京大学人文社会系研究科修士課程二年)

 2019年4月1日~5日にイタリア北部の町ストレーザで開催されたSCUSIに参加した。主催はMarjorie Burghart氏、案内役はイゾラ・ベッラのアーキビストLorena Barale氏で日本からの参加者四人を含むチェコ、スロバキア、オーストリア、ハンガリー、イギリスなどから主に中世のラテン語写本を扱う学生が集った。参加者から聞く限りでは今回初めてTEIを知ったという学生も多いようであった。事前にDARIAH(欧州人文学デジタル研究基盤)が公開するオンライン講座(MOOC)で予習の上で臨んだが、同教材は日本語字幕も付されており、TEIでのデジタルテキスト校訂作成の基礎を学ぶ上で優れた教材である。

 クラスは滞在していたホテルの一階で行われ、講師陣によるレクチャーの他、参加者各自が専門とするテキストのエンコーディングを実践した。レクチャーではデジタル校訂テキストの作成及びTEI Critical Apparatus Toolboxによる表示、XpathによるID参照、人名・地名情報の正規化や、ファイル間参照、Gephyによるネットワークのビジュアル化などのエクササイズを行うとともに、講師自身のプロジェクトの紹介があった。その中でも特に印象深いものを挙げるとDot Porter氏(ペンシルバニア大学)によるEVT(Edition Visualization Technology)の紹介で、本文画像、原文テキスト、翻訳テキスト、校訂版テキストを一つのプラットフォームで表示・比較するとともに、テキストが流通していく過程でのページの挿入・削除・合本などで生じる一冊の複雑なページ構造をビジュアル化できるというものであった。これは中世ラテン語資料だけではなく、国文学の資料においても、複数の位相のテキストを結びつけて表示する際に大変有用であると感じた。

 最終日には各自の作業成果の発表があり、筆者は同行した塚越、小川、渡邉諸氏の技術面での協力の下、近代短歌作品の初版テキストに創作ノートのIIIF画像を結びつけるとともに雑誌初出テキストを校訂版として付与し、永崎研宣氏作成のビューワーで表示して発表した。近代文学においてテキスト間の異同は単なるバリエーションではなく、作者の表現意識に基づく推敲という作業による産物であり、草稿-初出-初版-再版の中で変化していくテキストを本という物理的な形態の制約から自由にして、デジタル校訂版として一つに集約して表示できるということは、近代文学テキストの新しいありかたの可能性を開くものであると感じた。

 授業以外の時間も非常に充実しており、イゾラ・ベッラ島にあるボロメオ家の私設文書館の見学、またミラノのアンブロジアーナ図書館(フェデリーコ・ボッローメオ創立の西洋史上三番目の公開図書館)では彼のコレクションであるコーランの最古写本や中世写本などの貴重資料を間近にみることができた。また、多くの時間を食事に費やしたことも印象深い。イタリアの食事の美味しさと量に圧倒されると共に、皆でテーブルを囲んで同じボトルのワインを分けあい、大きなピザを食べたりして多くの時間をすごしたが、特に最終日の夕食は非常になごやかな雰囲気であり、この合宿にイタリアの食事は欠かすことの出来ない大切な要素だったと振り返って思う。