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拠点の活動

Paul Hackett 先生(コロンビア大学)講演会

"Digital Humanities for Buddhist Literature and Languages"

ポール・ハケット博士に東京大学本郷キャンパスにお越しいただき、「仏教の文献・言語と人文情報学」という題目でご講演いただいた。博士はチベット仏教の研究者であり、長年、仏教学のデジタル・リソースの開発に携わってきた。今回、ハケット博士にお話しいただいたのは、ご自身が管理運営するコロンビア大学仏教研究センターの人文情報学プロジェクト The Buddhist Canons Research Database (BCRD; http://www.aibs.columbia.edu/databases/New/index.php)についてである。これまでの経緯にはじまり、BCRD リソースを開発する動機、更には末端のユーザー環境に左右される人文情報学プロジェクトを設計する上での基本原則についても説明いただいた。

主に話していただいたのは BCRD の現在の機能性と今後の開発方針についてである。BCRD での取り組みが、①既存のデータの体裁と特質により決定づけられるリソースの構造、②データに期待される用途、③以上の二つを補助する利用可能な技術という側面から説明された。これらの側面については、BCRD の主要な要素である①一次文献の書誌情報とリソースのハイパーリンク、②一次文献の全文検索、③関連する二次文献の書誌情報の三つにおいて、重点的に取り組まれている。

データはタイプに応じて異なる構造化と最適化が求められるので、データによってアプローチは異なり、 データのタイプに応じてデータベースを構築するという基本的コンセプトに照らしてデータは吟味されることになる。ハケット博士は静的な参照データについては、それに見合った構造化とオンライン上での表示という問題について論じた。大規模テクストのコーパスについては、メタデータ全体とその拡張性とを保持しつつ高速検索を行うための最適化という問題について論じた。そして、関連する二次文献の書誌情報については、通常の活字化された参照データを関係データの構造に変形する際の困難さについて様々なアプローチの長短に触れつつ論じた。

最後に、オンライン・データベースが人文情報学研究の表向きの姿を表す一方で、そういったリソースが適切に構成されると強みを発揮し、単独での公表により、又は従来の学術出版を支援することで多目的(紙媒体の参照資料の生成を含む)に適う可能性のあることを説明された。そして、人文情報学研究の多目的の展開を可能にする上での制約について考察し、発表を締めくくった。

(7 月 8 日、東京大学本郷キャンパス法文 1 号館にて)